白い防護服に身を包み、ピンク色の杖を持った一人の女性を大勢の武装局員が取り囲む。

 相手はたった一人にもかかわらず、彼女を取り囲んでいる局員の数は十人以上。しかも完全装備で。

 端から見ればまさしく圧倒的に取り囲んでいる彼らの方が優勢なのだが、何故か取り囲んでいる方の彼らの顔には緊張の色が隠せない。

 そして取り囲まれている女性の方はただ、少しぼんやりとした顔で自分を取り囲んでいる人々を眺めている。

「流石の貴女でもこれだけの数の武装局員を相手にしては不利だと理解して頂きましたか?」

 そう言いながら武装局員達を掻き分けて一人の女性が進み出てきた。

 彼女の顔には自信と、そして余裕が溢れている。

 しかし、彼女は気付いていない。今、そんな表情を浮かべているのは彼女だけだと言うことに。共にピンク色の杖を持っている女性を取り囲んでいる武装局員の誰もが緊張し、中には怯えにも似た表情を浮かべていると言うことに彼女だけが気付いていない。

「……貴女は?」

「時空管理局執務官メアリー=スー。貴女を逮捕しに来ました」

 メアリー=スーと名乗った女性はそう言うと自らの杖――ストレージデバイス――を目の前にいる女性に突きつけた。

「……新人さんのようだね。これが初めての任務なのかな?」

 デバイスを突きつけられている女性が口元に微笑みを浮かべながら尋ねる。

「その質問に答える意味がありません。ですが”YES”と答えておきましょう」

「それで……私の罪状は何になるのかな?」

「管理局が管轄している研究施設への攻撃及び破壊行為、管理局への第一級反逆罪」

 メアリー=スーが静かに彼女の罪状を告げる。

 それを聞いて女性は小さくため息をついた。そして手に持っていた杖を待機状態に戻す。同時に彼女の着ていた防護服も消え、ごく普通のありふれたスーツ姿へと変わった。

 待機状態の杖は彼女の手の中に収まる程の赤い宝石状のペンダント。それを彼女は躊躇することなくメアリー=スーの方へと差し出す。自らに戦う意思がないと言うことを示すように。

 ペンダントを受け取ったメアリーは、それでも油断なく目の前にいる女性を睨み続けている。まるで親の敵でも見るかのように、少しもその視線は揺るがない。

「貴女のお噂は色々と聞いていました。それだけに残念です」

「こんな事になって?」

「はい。それでは貴女の身柄を拘束させてもらいます。よろしいですね? 元機動6課所属、戦技教導官、高町なのは」

「ええ」

 メアリーの言葉に女性――高町なのはは小さく頷いた。


魔法少女リリカルなのはStrakerS―高町なのはの反逆―


 物語は機動6課の隊舎、部隊長である八神はやての机の上に置かれた一通の封書から始まる。

 様々な通信手段が発達しているこのミッドチルダにおいてあえて封書という形を選んだのは、他の誰にも見られたくなかったからなのか。

 その真偽を彼女は封書の主に問い質すことは出来なかった。

 封書の主は彼女の部下にして親友である高町なのは。

 内容は機動6課及び時空管理局を辞めると言うこと。

 そしてその封書がおかれた日より、高町なのはの姿は忽然と消える。

 もう一人の親友であるフェイト=T=ハラオウンや自身が可愛がって育てていた部下のスバル=ナカジマやティアナ=ランスターにすら何も言わずに。



 高町なのはの失踪から数日後、とある次元世界における時空管理局の研究施設が何者かの襲撃を受けた。襲撃者はたった一人だったにもかかわらず、圧倒的な砲撃魔法で施設を再起不能なまでに叩き壊し、だが人的被害は一切出さずに襲撃者は現れた時と同じようにその姿を消す。

 襲撃事件はそれだけで終わらなかった。

 他の次元世界や、時にはミッドチルダにある研究施設も同じ襲撃者の攻撃を受け、壊滅。人的被害は一切ないものの研究データなどは全て灰となってしまう。

 

 行方不明のなのはを探してとある次元世界にやって来ていたフェイトは偶然にもその襲撃事件と遭遇、研究施設を破壊し、その研究の記録を全て灰にした襲撃者を追いかけることになる。

 逃げようとする襲撃者を後一歩のところまで追いつけるフェイト。だが、その襲撃者が放った魔法の、魔力光の色を見て彼女は愕然としてしまう。

 それは彼女の大親友である高町なのはと同じ桜色。

 襲撃者の正体を確かめようとするフェイトだが、一歩及ばす襲撃者はまた逃げおおせるのであった。



 同じ頃、時空管理局の方でも襲撃された研究施設にいた研究員達の証言から襲撃者が砲撃魔法や射撃魔法を主に使用していたこと、その魔力光が桜色であったことなどを聞き出し、襲撃者の正体の割り出しを急いでいた。

 そして彼らの捜査線上に浮かび上がる高町なのはの名。

 襲撃事件の少し前に姿を忽然と消していることや彼女が得意としていた魔法が射撃や砲撃系であったこと、それに彼女の魔力光が桜色であったことなどから一気に彼女に対する容疑が濃くなる。



 ミッドチルダに戻ったフェイトが自分の見たことをはやてに伝え、この襲撃事件を機動6課で調査しようと相談していたところに一人の執務官が現れる。

 クロノ=ハラオウン。

 フェイトの義兄であり、はやてやなのはとも因縁浅からぬ人物。

 彼が伝えたのは機動6課の活動の無期限停止。

 次々と起こる研究施設への襲撃事件の犯人がなのはである可能性が高く、彼女が所属している機動6課も何か絡んでいるのではないかと上層部が目をつけた結果であった。

 この通達に怒りを露わにするはやて達だが、クロノはまるで取り合わない。

 それどころか異議の申し立てをすれば管理局への反逆行為だとまで言う始末。

 流石の彼女たちもどうすることも出来ず、事態の推移を見守る他なくなってしまった。



 事態が動いたのはそれから一週間後。

 ミッドチルダ首都に突然現れた高町なのはが新人の管理官メアリー=スーに逮捕されたことから始まる。

 時空管理局に対する反逆者、重罪人として法廷に立たされる彼女。

 だが、法廷へと護送される彼女が何者かに襲撃される。



 何故高町なのはは時空管理局の研究施設を襲撃したのか?

 果たして襲撃者は本当に高町なのはなのか?

 そして彼女を襲撃した者は一体何者で、何故彼女を狙ったのか?

 全てが謎のまま、容疑者・高町なのはの姿は爆発の中に消える。 

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