〜おまじない〜
(思いが…私の思いが……届いたんだ……)
カ〜っと血が上ってくる感じ。
顔が、頭が熱くなってくる。
「石川?」
心配そうにのぞき込む保田さんの顔が近づいてくる。
「…あんた……何で泣いてんのよ?」
小さく首を振る。
嬉しくて、ビックリして……私自身にもわからなくて。
「ちょっと…わたし、泣き虫は……」
「キライ…ですか?」
言葉の先回り。
なぜだかわからないけど、直感が告げていたから。
“今がチャンスだよ”って。
いつも以上に瞳を大きくして、真っ赤な顔の保田さん。
「保田さん…私みたいな泣き虫は…キライ…ですか?」
フッと私から目をそらす。
「あんたのこと……キライ…じゃないよ」
「保田さん……」
視界が完全にぼやけて……。
きっと今、私の顔は涙でぐじゃぐじゃになってる。
ふわっと顔の上に被さるような感じがして、それから…
…右の瞼に柔らかな感触が当たった。それから左側も。
「最近は泣かなくなったと思ってたのに」
「…保田さん……」
慌てて目を開けると、保田さんの優しい眼差しが降っ
てきた。
「泣き虫な石川もキライじゃないけど…わたしは…笑っ
てる石川の方がスキだなあ」
保田さんの笑顔を呆然と見ながら、手をあげて自分の
瞼にそっと触る。
「涙が止まるおまじない」
イタズラな笑み。
保田さんのおまじない…恋の呪文も兼ねてるみたいで
す……。
(続)
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