ドアを開けると、あの子は穏やかな表情で立っていた。
 これまでここに来た時は、いつも泣きそうな暗い表情だったあの子が。

「…いらっしゃい」
「お久しぶりです」
 弱々なわたしに比べて、その子には自信すら感じる。
 それも当たり前のことかもしれない。
 今やモーニング娘。の一員として、自分の夢を現実にしたのだから。

「…何かと順調みたいね」
 羨ましげにならないようにするのに骨が折れた。
「えぇ…今、上手くいってるんです。すごい優しい子で……」
「……そうなの」
 表面上は平気な顔でそう答えたけど、本当は金槌で脳天を打たれたみたいに衝撃を
受けていた。
 今、付き合ってる子、いたんだ……。



 でも、それは本当は分かってたことだった。
 だって、この子がわたしに会いに来るのは好きな人に振られた時に限られてて、今
日はわたしの方が呼び出したんだから。最後にこの子に会ってから半年以上経ってい
る。
 大体、わたしとこの子の関係って変だ。
 一番最初は三年ほど前、ネット上での知り合いだった。
 それが証拠に、今でもお互いの本名を知らない。いや、この子の方は石川梨華だっ
てのは知ってるけど、それはテレビで見て知ったわけで……。
 今でも本名で呼ぶことはない。
 わたしの方は、ハンドルの「」で呼ばれることが多い。
 もちろん、当時はこの子も中学生で…でも「普通の」とは言えなかったけど……。



 ある日、いつものようにネットしてると、メールが届いた。
「会って話せませんか?」
 大学生だったわたしは気軽な気持ちでOKして、翌日、初めて会った。
 そして…初めてこの子と肌を合わせた。

 どんな経緯でそうなったのか…覚えているのは、この子が恋人に手ひどく振られたっ
て話で泣かれちゃったってこと。
 それでどうしたら良いか分からなくなって……いや、違うな。
 今思うと、この子の方から誘われたんだね。
 とにかくそれ以来、この子が誰かに振られるたびに、会って肌を合わせた。

 考えてみれば不思議で仕方がない。
 その時その時で、わたしにはちゃんと彼氏がいたんだし、この子とは一晩抱き合っ
たら、次に会うのはいつか分からない。
 そんな関係って、どう言えば良いの?
 ……もっとも、女子高時代は、何人かの女の子と関係をもっていたけど。寮のルー
ムメイトとか。
 でも、それは女子高という閉じた空間での、手っ取り早い恋愛ゲームだったんだろう。
 相手の子達もわたしも、今では男性相手の恋愛を楽しんでるし、中にはもう結婚し
た子もいるし……。



 とにかく、今回だけはこれまでと違っていた。
 呼び出したのもわたしの方。初めてのことだった。
 この子に恋人がいるって聞いて動揺してる。
 それは…わたしが破局に打ちのめされていたから。
 くだらないことを期待していたから。
 その後のわたしは抜け殻で、何のために呼び出したのか、その理由自体が失われて
いた。

「…さん?」
 あの子も、そういった雰囲気を察したみたいだった。
 いつもはわたしがしてあげていたように、寄り添うように座って、わたしの髪にそっ
と掌を当てた。
 その後はろくな会話もすることなく、空白の時間が過ぎていく。



 今日別れたら、もう二度と会うことはないな。
 そのことだけは確かなものとして、二人の間に厳然と存在していた。

 抱きたい。
 最後にこの子を抱きたかった。
 無性に抱きたかった。
 だから、抱きしめた。
 最初こそ抵抗らしいものを見せたけど、諦めたように素直になって、二人でベッド
を沈ませた。

「…抱くよ?」
 ボソッと呟く。
 何も言わず、コクッて肯づくあの子に襲いかかるように口付ける。



 二人にとって最後の夜。
 わたしという存在を刻み付けるように、あの子に唇を這わせていく。
 少し薄めの唇から、頬、顎、本当に白い喉を通って胸元へ。
 丸く大きな二つの膨らみ。
 はっきり言って、胸の小さなわたしにはコンプレックスの固まり。
 乱暴に揉みしだくように愛撫する。

 眉を八の字にして、苦しそうに仰け反るあの子。
 でも、わたしは騙されない。
 しっかり感じてることを。
 徐々に固さを増して立ち上がってくる乳首が、何より雄弁だから。



 耳から首筋、この子が一番感じるところに執拗に唇を這わせる。
「いやっ!…いゃぁ……」
 ビクッビクッて大きく跳ねる腰を、嫌がるのを押さえつける。
「ん!…ふぅ…ぁん……」
 そっと手を伸ばして、下の方でも立ち上がってきてる花芯に指を絡める。
「ふぁ…ぁ…あぁ〜っ!」
 呆気なく果てたところに、畳みかけるように攻め続けて……わたしという存在を、
嫌と言うほど刻みつけていった。



 刻印の儀式は過ぎ去って、朝日が射し込むのは早かった。
 拗ねた子どものように、ゴロゴロと何時までもベッドに転がっているわたしを残し
て、テキパキと着替えたあの子は立ち去る。
 最後に、
「ねぇ…今…幸せ?」
って聞いたのは、自分を納得させるため。
「はい! とっても」
 即答。
 余程、良い子を見つけたらしい。

 笑顔で見送って、あの子のいなくなった部屋でポツリと呟く。
「逃がした魚は…大きすぎるよ……」
                                   (終)

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