三ヶ月の恋人−後編−

注意:このお話には一部性的な描写が含まれます。そのようなものを好まない方、また年齢に達していない方は、すぐにウィンドウを閉じて下さい。
一切の責任は負えません。


強く抱きしめられた腕に、胸に、彼の温もりを感じた。
「・・・君の我侭なら、どんな事でも聞いてみたい・・・」
掠れた声で彼が囁く。
「・・・速水さん・・・」
見た事のない、熱い瞳で見つめられる。
頭の中が真っ白になる。
胸の中が恋しさでいっぱいになる。

「・・・お願いだ、言ってくれ・・・」
自分でも何をしようとしているのかわからなかった。
ただ、このまま彼女と離れる事ができなかった。
もう離せない・・・。
離れられる訳がない・・・。

「・・・本当に、いいの?」
大きな瞳が躊躇いがちに彼を見つめる。
「・・・あぁ。君が望む事なら、何でも・・・」
そう言った瞬間、彼女の唇が遠慮がちに重なる。
そっと、静かに触れるだけのキス・・・。
鼓動が大きく脈うつ。
「・・・速水さんが、好き・・・」
唇を離すと、照れたように彼を見つめ、小さな彼女の腕が彼を抱きしめた。
「・・・俺もだ・・・。君を愛している・・・」
愛しさを込め、今度は彼の方から唇を奪う。
長く、深く・・・。
「・・・うんっ」
初めての大人のキスに彼女の口から甘い吐息が漏れる。
それでも、彼は自分が抑えられず、更に、深いキスをする。
彼女の体からぐったりと力が抜け、立っているのもやっとだった。
そして、彼女は彼の腕の中で意識を失った。

「・・・マヤ?」
ぐったりとした彼女を抱きしめ、驚いたように見つめる。
何だか、彼女の体が熱っぽい気がした。
そっと、額に触れると信じられない程の熱さが伝わってくる。
真澄を待って、冬の海に長くいたのだ。その上、海の中に入るなんて無謀な事をしたのだ。
これぐらいの熱あってもおかしくない。

「・・・この、バカ娘・・・」

彼女を抱き上げ、急いで、寝室に向かう。




「こんな時間にすみませんでした」
マヤの診察の為に駆けつけてきた医者に言う。
「いや、速水の坊ちゃんの頼みならね。このぐらいどって事ないですよ」
医師は真澄の小さい頃からの主治医だった。
よく、風邪を引くと、嫌がる彼に注射をしたものだった。
「少し、熱は高いが、解熱剤を打ったので、すぐ下がるだろう。まぁ、2,3日大人しくさせておけば、大丈夫だよ」
真澄を安心させるように言う。
「彼女は君の恋人かね?」
医師の言葉に驚いたように見る。
彼女と一緒にいて、そう言われたのは初めてだった。
「えぇ・・・まぁ。でも、どうして?」
歯切れ悪く答える。
「君の目だよ。とても愛しいものを見つめるような・・・そんな瞳をしている。余程、このお嬢さんに惚れているんだな」
医師の言葉に思わず、頬が赤くなる。
「はははは。昔から、そういう所は素直だな」




重たい意識の中で、マヤは人の温もりを感じていた。
とても優しく包み込んでくれる腕に、安心感を覚える。
薄く瞳を開けると、真澄の顔が見えた。

・・・幸せな夢だな・・・。
このまま一生、覚めなければいいのに・・・。

そんな事を思いながら、またマヤは瞳を閉じた。


「あぁ、水城君か、悪いが、後、二日程、俺もマヤも仕事を休む」
頭の上の方で、真澄の声がした。
”水城”の名前に急に現実に引き戻されたように目が覚める。

「じゃあ、後は頼む」
マヤが目を開けた瞬間、真澄は丁度電話を切ったようだった。
「・・・速水さん?」
マヤの言葉に彼女の方を振り向く。
「・・・起こしてしまったか?」
携帯をベットサイドのテ−ブルに置き、彼女を見つめる。
「・・・あの、私・・・」
不安そうに真澄を見つめる。
真澄はベットの端に座り、自分の額と彼女の額を合わせた。
思わぬ至近距離にドキッとする。
「う・・ん。まだ、少し熱いかな・・・」
額をつけたまま口にする。
「・・・熱いって・・私・・・」
頬を赤らめながら、真澄を見る。
「突然、倒れたから驚いたよ」
クスリと笑い、額を離す。
「君は昨日から丸一日眠ったままなんだよ。風邪が原因でね。そうだ。お腹すいてないか?」
真澄に言われて、お腹に手をあててみる。

キュウゥゥゥゥ・・・。

その瞬間、可愛い音がした。
自分の意思とは関係なくなったお腹にマヤはこれ以上ない程、真っ赤になった。
「よし!今何か作ってくるから、大人しく寝ているんだぞ」
チュッ!と音を立て、マヤの頬にキスをすると、真澄は寝室を出た。
何だか積極的な真澄にまだ夢の中にいる気がした。


真澄は彼女が愛しく、可愛くて、何でもしてやりたくなった。
マヤが立てた可愛いお腹の音と、真っ赤になった彼女を思い出しながら、冷蔵庫の中を見つめる。
「・・・粥でも作るかな・・・」
浮き立つような気持ちで、材料を取り出し、手早く調理しだした。



「美味しい!!!」
真澄が作った中華粥に声をあげる。
しっかりと出汁がとれ、野菜たっぷりの粥に幸せそうな顔を浮かべる。
「香港に行った時に、この粥に出会ったんだ。向こうの粥は日本のと違って、いろいろな味が楽しめるからね」
得意げに真澄が話す。
熱で弱っていたマヤの体にその粥は丁度良かった。
真澄は美味しそうに食べる彼女を嬉しそうに見つめた。
「ごちそうさまでした」
綺麗に食べ終え、真澄に器を渡す。
「この分なら、もう熱はなさそうだな」
軽く笑い、彼女を見る。
「でも、ちゃんと、薬は飲むんだぞ」
そう言い、風邪薬をマヤに渡す。
マヤは少し、苦手そうに薬を見つめる。
「何だ?飲まないのか?」
じっと、薬を見つめたままの彼女に言う。
「いや・・・。はははは。薬って何か苦手で・・・」
苦笑を浮かべる彼女にクスリと笑う。
「仕方ないな・・・」
そう呟くと、マヤの手から薬を取り、水と一緒に自分の口に入れる。
「えっ」
真澄の行動を不思議そうに見つめる。
次の瞬間、抱き寄せられ、唇を塞がれる。
「・・・うんっ!」
真澄の口から冷たい水と薬が移される。
「どうだ?飲めたか?」
唇を離し、ぼ−っとしている彼女を見る。
「・・・は、はい・・・」
マヤの答えに満足そうに微笑む。
「よし、じゃあ、後は大人しく寝るんだぞ」
マヤの頭を撫で、小さい子に言い聞かせるように言う。

「・・・あの・・・」
真澄が食器を持って、出て行こうとすると、寂しそうにマヤが言う。
「うん?何だ?まさか、絵本でも読んでもらいたいのか?」
茶化すように真澄が口にする。
「違います!そうじゃなくて・・・その・・・側にいて欲しいなぁぁ・・・なんて」
甘えたように真澄を見る。
その視線が真澄の胸をキュンとさせた。
「いえ、その、忙しいならいいんです。別に・・・」
真澄の沈黙に甘えすぎたかな、と思い直す。
「・・・側にいるだけでいいのか?」
真澄の言葉に”えっ”と呟く。
「君が望むなら、俺は何でもするって言っただろう」
ベットサイドのテ−ブルに食器を置き、マヤと同じベットの中に入る。
何が始まるのか?と、真澄の様子を見ていると、あっという間に逞しい腕に包まれ、
「添い寝付きもあるぞ」
と耳元で悪戯っぽく囁かれた。
真澄の言葉と温もりにカァ−と全身が熱くなる。
「・・・そんなに側にいると、風邪うつりますよ」
真澄の方を向き、照れたように言う。
「君からの風邪なら、欲しいぐらいだね」
クスクスと笑い、呟く。
そんな彼に愛しさが募る。
このまま、ずっと、抱きしめられていたいという気持ちに胸が膨れる。
「・・・あの、じゃあ、もう一つ、我侭、聞いてくれますか?」
躊躇いがちに彼を見つめる。
「君の我侭なら、何でも聞くって言っただろ?」
優しい瞳で彼女を見つめる。

「・・・抱いて下さい・・・」

消えそうなか細い声で告げる。
その言葉に一瞬、真澄の表情が固まる。
「えっ・・・」
彼女から出たとは思えない言葉に目を見張る。
「・・・はははは。抱いているじゃないか。こんなにしっかりと」
誤魔化すように言う。
「・・・そうじゃなくて・・・その、もう一つの別の意味で言ったんです」
真澄の瞳を見つめ、頬を真っ赤にする。
「・・・マヤ、君はどういう意味か、本当にわかっているのか?」
彼女の瞳をじっと見つめ、心を探る。
「・・・わかっています。私の体に速水さんを刻んで欲しいんです。あなたと愛し合った印が欲しいんです」
薄く涙を浮かべ、想いが本物だと言う事を告げる。
「・・・後悔はしないか?そういう事は好きな人とするものだぞ・・・まして、君は初めてだろ?」
気遣うように、口にする。
「・・・速水さんだから、言うんです。相手があなただから、言うんです・・・」
迷いのない真剣な瞳で彼を見つめる。
「しかし・・・君には、まだ早い・・・」
崩れそうな理性を必死に抑える。
「・・・わかっています。でも、今がいいんです。あなたが私の恋人でいてくれる・・・今がいいんです・・・。
例え、速水さんにとって私との事が本物の恋愛ではなくても・・・、あなたがくれる抱擁や、キスは私には本物なんです。だから・・・抱いて下さい」
マヤの中にある切ない思いを知ると、真澄は彼女を強く抱きしめた。
「・・・本当にいいんだな?」
「・・・はい」
マヤの言葉を合図に、真澄は彼女の唇を貪った。
手はぶかぶかのパジャマを脱がせ、優しく愛撫をしていく。
抑えていた衝動を開放するように、彼女の体中を彷徨う。
唇から、首筋、胸、お腹へとキスを降り注ぐ。
ズボンを足首まで脱がせ、下着の上から愛撫を繰り返す。
「・・・うんっ」
マヤの口から甘い吐息が漏れ出す。
真澄がくれる目まぐるしい快楽に緊張しきっていた体は溶けはじめ、下半身から蜜を漏らす。
ショ−ツの上からもわかるヌルリとしたものに、彼は微笑んだ。
「・・・君が感じているのがわかる・・・」
耳元で囁かれた真澄の言葉に体が熱くなる。
「・・・愛してる・・・」
そう告げ、真澄は彼女の胸の頂きを口に含んだ。
「・・・んっ!」
鋭い感覚に反応するように彼女の体がビクリとする。
ザラリとした舌の感覚と、鋭い歯の感覚が彼女を淫らにしていく。
体を震わせ、真澄の背中に手を泳がせる。
「・・・いい顔だ・・・そそられる・・・」
唇を離し、潤んだ瞳を見つめる。
「・・・見ないで、恥ずかしい・・・」
乱れた自分が急に恥ずかしくなる。
「・・・かわいい・・・」
そう告げると、一気に彼女のショ−ツを脱がし、指を入れる。
湿ったものとともに、暖かい入り口が彼の指を包む。
「・・・はっ、うんっっ」
大きく腰を震わせ、声を上げる。
反応を楽しむように彼女の蕾の周りを幾度もなぞる。
マヤは自分が自分ではなくなるような気がした。
体中が熱くなり、物凄い速さで鼓動が打ちだしていた。
「・・・やっ 、やめて! 」
絶えられず声をあげる。
指を入れたまま、彼女の反応にどうしたのかと、顔を覗き込む。
「・・・どうした?痛いのか?」
心配そうに見つめる。
「・・・ううん。そうじゃなくて・・・何か、私、おかしくなる。何も考えられなくて・・・凄く、変な気持ちになる・・・」
マヤの言葉に体が熱くなる。
「・・・そうか。それじゃあ、もっと、おかしくさせる・・・」
意地悪く言い、唇を下半身に寄せる。
「うんっっ、あっっ!」
今までで一番鋭い快楽が下半身を襲う。
真澄はマヤの反応に容赦なく、蕾を唇に含み、蜜と一緒に舐めあげていく。
悶えるように彼女の腰が震え出す。
必死に閉じようとする足を無理やり、広げさせ、さらに愛撫を続ける。
「・・あっ・・・、は、やみ・・・さんっ・・・あぁっ・・・!」
快楽に軋んだ声で名前を呼ばれ、胸が熱くなる。
もっと、もっと、彼女からそんな声が聞いてみたく指と唇で愛撫を繰り返す。
「・・・もうっ・・・駄目っ・・・あぁっ・・・」
切羽詰った声が彼女から漏れ出す。
その声に真澄は唇を離し、ようやく、彼女の下半身を開放した。
「・・・入れるぞ・・・」
何時の間にか全裸になった真澄が肌と肌を密着させるように彼女を抱きしめ、彼女の中に真澄自身を埋めていく。
初めての痛みと、甘い痺れが体中を支配しだす。
「・・・あぁぁっっ!うんっっっ!」
真澄の背中に爪を立て、今までで一番大きな声をあげる。
真澄の愛撫が十分だったためか、蜜に包まれ、するりと彼女の一番奥に身を沈めた。
一つになった場所から、それぞれ互いの鼓動を感じる。
「・・・一つになったの?」
余裕のない表情で真澄を見つめる。
「・・・あぁ。俺は今、君の中にいる」
そう言い、腰を動かす。
「あっっ」
真澄が動いたのが伝わり、甘いため息が漏れる。
真澄は段々と腰を動かす速度を上げ、限界まで自分を刻んだ。
ベットが激しく軋み、華奢な体が揺れる。

そして、彼女の中で彼が大きくなり、奥深くへと、熱い蜜を注ぎ込んだ。
次の瞬間、彼女の体が大きく、反れ、彼のものを体の奥深い場所へと飲み込んだ。
バタリと真澄が彼女の柔らかい胸の上に倒れ、ギュッと抱きしめる。
乱れた呼吸を聞きながら、甘い余韻に二人は浸っていた。

「・・・愛してる・・・」
涙を浮かべ、マヤが口にする。
その言葉がギュッと真澄の胸を掴んだ。
「・・・あぁ、俺もだ・・・」
彼女の隣に移り、長くて黒い髪を愛しそうに撫でる。
真澄の存在にマヤは穏やかな笑みを浮かべ、眠るように瞳を閉じた。



「・・・速水さん・・・」
幸せな夢から目覚めるように瞳を開けると、彼の寝顔が視界に入った。
あまりにも無防備な表情にドキッとする。
「・・・あなたの事、忘れません・・・。例え、映画の為でも、あなたの恋人でいられて、幸せでした」
真澄の頬にキスをすると、強い決意を胸にマヤはベットから起き上がった。
「・・・さよなら、速水さん・・・」



「・・・マヤ?」
真澄が目を覚ますと、もうそこには彼女の存在はなかった。
嫌な予感が胸を包む。
バスロ−ブを羽織り、別荘中を見て回る。
彼女の代わりにあったのは一枚のメモだけだった。

”速水さんへ

私の我侭を聞いてくれてありがとうございました。
もう、思い残す事はありません。
あなたと一緒にいたこの二ヶ月半・・・とても、幸せでした。
でも、もう、魔法は解ける時間。
解ける前に私は元の私に戻ります。
大丈夫。映画の方なら演じられないなんて事はありません。
あなたからいっぱい、愛情を注いで貰ったから・・・。
例え、本物の愛ではなくても、愛してもらえたから、私は立ち止まる事はありません。
あなたの気持ちに応えられるように、精一杯演じます。

さよなら恋人の速水さん

                          マヤ”


「・・・マヤ・・・」
そのメモから痛い程の彼女の思いが伝わってきた。
この恋にタイムリミットがあったという事を実感させられる。
「・・・君の方が大人だな・・・」
胸に残る熱い想いに真澄は宙を見つめた。





「カット!OK!!」

ラストシ−ンを演じるマヤに声がかかる。
同時に割れる程の拍手が鳴り響き、彼女を包んだ。
真澄に抱かれてから二週間が経っていた。
彼女は彼との想いを役を通してカメラに焼き付けた。
彼女の演技には本物の感情があった。
セリフの一つ、一つからは愛しさ、恋しさ、切なさが伝わる。
最後のシ−ンもこれ以上ない程の演技だった。

「よかったわよ。マヤちゃん」
スタッフから貰った花束を抱えたマヤを水城が笑顔で出迎える。
「・・・うん。ありがとう・・・」
そう言った彼女からは落ち着いた女性の香りを感じ取る事ができた。
最近の彼女は時々、こんな表情をする。
それがあまりにも大人びているから、水城は時折、言葉を失ってしまう。
「・・・社長には伝えないの?撮影が終わったって」
水城の言葉にビクッとする。
「・・・そうですね。速水さんには言わないと・・・。私がこうして、演じられたのもあの人のおかげだから・・・
でも、今はまだ会えない・・・。会う訳にはいかない・・・」
辛そうに瞳を細める。

マヤは会えなかった・・・。
今、会えば、また気持ちが勝手に走り出してしまう。
身を切られるような想いで、真澄と別れたのに・・・、会えば、離れられなくなってしまう。
真澄を困らせる事になってしまう・・・。

だから、会えなかった・・・。

「水城さんから、伝えてくれますか・・・ありがとうって・・・」





あるパ−ティ−に出た時、真澄は一月ぶりに、彼女を見た。
淡い水色のドレスを着て、パ−ティ−客と談笑をしている。
遠くから、真澄は愛しむようにその様子を見つめていた。

「・・・まだお好きなんでしょ?」
真澄の心を見透かすように声がする。
「・・・水城君・・・」
驚いたように彼女を見つめる。
「本当にいいんですか?このまま、マヤさんを手放して・・・」
「・・・何の事かね」
とぼけるように口にし、運ばれてきたシャンパンを口にする。
「ご自分の胸に聞いてみたらどうですか?一見、明るく見えますが、マヤさんは社長と別れてから、毎日泣いているんですよ。
その意味はあなたが一番良くご存知だと思いますが・・・」
きつく真澄を一睨みする。
水城の言葉に真澄の仮面が外れそうになる。
「・・・俺には関係ない・・・。互いに割り切った事だ・・・」





「君なら、喜んで出迎えるよ。うちに来れば、演じたい仕事をさせてみせる」
マヤを口説き落とそうと、さる芸能関係者が彼女に言う。
「・・・いいえ。その、大都で満足していますから・・・」
困ったように口にする。
「またまた。知ってるんだよ。あの速水社長とは女優以上の関係だって、いいのかな、この事、週刊誌にバラして」
「なっ!」
思わぬ言葉にマヤの表情が凍りつく。
「・・・なるほど、やっぱり、図星だったのか・・・」
明らかに顔色が変わったマヤをここぞとばかり攻める。
「まぁ、君次第だよ、君がうちの事務所に来てくれるなら、この事は秘密にしておくさ」

「勝手にうちの看板女優を引き抜くのはやめて貰おうか」
返事に困っている彼女を見るに見かねて、真澄が現れる。
「それとも、この大都の速水真澄を敵に回す覚悟があるのかね?」
鋭く、マヤに言い寄る男を睨む。
この業界、大都を敵にしてはやっていけない。
「いいのか。俺は特ダネを持っているんだぜ、そこの女優と、あんたが他人以上の関係だってな」
その言葉に真澄は突然、笑い出した。
「はははははは。そんな話、誰が信じる?この俺が大切な商品に手を出すと思うのか?」
強気な真澄に男は怯んだ。
「君は知らないのかね?俺は彼女に憎まれている相手だ。何て言ったって彼女が所属していた劇団を潰したんだからね。
まぁ、そうなれれば、このじゃじゃ馬も少しは俺の言う事を聞いてくれて、仕事が楽になるがな」
完全に男の負けだった。
男は力なく、その場から離れるしかなかった。

「・・・気をつけるんだな・・・隙を見せるとああいう連中は骨までしゃぶりつくぞ」
冷静な表情でマヤを見る。
「・・・どうせ、じゃじゃ馬です!どうせ、私なんて、あなたとなんか釣り合いません!」
マヤは真澄に恋人だった時間を否定されたようで、胸が痛かった。
いつも以上に刺々しく、彼を見つめる。
「どうせ、私なんて・・・一生、あなたの恋人になんて、なれません!」
そう言った、彼女の瞳から一筋の涙が流れる。
「・・・マヤ?」
これ以上、真澄の前にいるのが、耐え切れなくなり、彼女は走り出した。
その瞬間、真澄の中で何かが崩れた。

「・・・待ちなさい!」
廊下に出た所で、腕を掴まれる。
「・・・離して下さい!私の事なら、もうほっといて!」
腕をふり解こうとしても、強い力で握られ、解けない。
「・・・速水さん、痛いです!離して・・・」
マヤの言葉には全く耳を傾けず、強く、腕をひっぱり、華奢な彼女を腕の中に閉じ込める。
「・・・離したくない・・・」
熱っぽい声で告げる。
「・・・そんな顔をした君をほっとける訳ない!」
涙に濡れる彼女を見つめる。
「・・・やめて下さい!私、あなたを困らせてしまう。あなたから、離れられなくなる」
苦しそうな表情を向ける。
「だったら、離れなくていい・・・。無理に俺から離れるな・・・」
真澄の言葉に瞳を見開いて、彼を見つめる。
「・・・愛してるんだ・・・。今度は本気だ・・・。映画の為なんかじゃない・・・。俺には君が必要なんだ」
真っ直ぐに彼女を見つめる瞳がそこにはあった。
「・・・そんな、信じられない・・・。だって、あなたは私より、年上で、大人で・・・」
彼の瞳を見つめたまま口にする。
「・・・だから、どうした?そんなの関係ない!俺は君を愛しているんだ」
強引に唇を重ねる。
息ができぬ程のキスに気が遠くなる。
「・・・俺は本気だ・・・」
唇を離し、射抜くように見つめる。
「・・・いいんですか?私なんて、まだまだ、子供で・・、じゃじゃ馬で・・・あなたをきっと、困らせる・・・」
「知ってる。でも、そんな君が愛しいんだ。言っただろ。君の我侭なら、何でも聞けるって・・・」
真澄の言葉にマヤの中にあった想いが開放される。
「・・・じゃあ、私を離さないで!いつも私の側にいて下さい!もう、あなたと離れるのは嫌・・・」
「・・・あぁ。二度と離すものか・・・」
泣き崩れる彼女をしっかりと抱きとめ真澄は再び彼女の唇を塞いだ。










                                           THE END


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【後書き】
今年最後のガラかめficいかがでしたか?何かマンネリのような気も・・・(苦笑)
私、真澄様の”バカ娘”ってセリフ好きなんですよねぇぇ(コミック文庫 21巻、梅の谷 参照)
まだ、一度しか出てきていないセリフですが・・・もう!何か、その言葉にマヤへの愛情が篭っているような気がして、顔がにやけてしまいます(笑)

今年は残念ながら、これでお話は最後になりますが、また、来年も宜しくお願いします♪♪
ここまで、お付き合い下さった方、本当にありがとうございました♪
また、皆様とお会いできる日を願って・・・。

Cat
2001.12.7.

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