First Kiss



「えっ、キスシ−ン!!」
それはまだマヤが高校生の頃の事だった。
渡された台本には”キス”の文字が・・・。
さすがの、マヤもうろたえ、頬を真っ赤にする。

「・・・マヤ?何ジタバタしているんだ?」
麗が不思議そうに彼女を見つめる。
「・・・この間、舞台のオ−ディション受けたって言ったでしょ?それで、何とか受かって、役を貰ったんだけど・・・これ」
そう言い、台本を麗に差し出す。
「うん?何、何・・・ ”さつき、そっと、祐一に近づき、唇を合わせる”って、これキスシ−ンじゃない!」
「・・・そうなの・・・。どうしよう・・・今、更、降りる訳にもいかないし・・・」
「あんた、ちゃんとどういう内容の芝居か確認したの?」
「・・・もちろん。でも、突然、台本書き直すって言われて、今日、渡されたのがコレ・・・なの」
「・・・なるほどね。突然、キスシ−ンが出来たって訳か・・・でも、舞台だし、本当にする訳じゃないだろう?ちょっと、頬にズラしてキスするとか」
「・・私もそうだと思ったんだけど・・・、演出家の先生がそれじゃあ観客には伝わらないって・・・で、本当に唇を合わせるって・・・」
今にも泣きそうな声で言う。
「・・・相手の俳優は?」
「近藤一樹さん」
「おっ!ハンサムじゃない!よかったわね」
「よかったって・・・そんな。初めて共演する人だし・・・私より10コ以上年上だし・・・」
益々マヤが泣き顔になる。
「・・・大丈夫よ。年上だから、きっと、上手くリ−ドしてくれるわ。それに、マヤ、これはあなたがするんじゃなくて、さつきっていう役が
キスをするんでしょ?きっと、月影先生がいたら、こう言うわよ」
「・・・でも・・・」
「でも、何?」
「・・・いくら演技だとは言え・・・これだけは・・・抵抗がある!」
「・・・マヤ、まさか、キスの経験ないの?」
役に対しては冷静になるマヤの戸惑いぶりに、麗は何となく頭の中に過ぎった疑問を口にする。
「・・・・・うん」
真っ赤になりながら、恥ずかしそうに俯く。
予想通りの結果に、麗は大きくため息をついた。
「・・・なるほどね。ファ−ストキスが役でってのも・・・抵抗があるわね」
「・・・麗、どうしよう?」
「そんなの簡単よ。マヤが好きな人か、キスの上手な人にしてもらえばいいんじゃない」
あっけらかんと麗が口にする。
「えっ・・・好きな人って・・・そんな・・・」
「いないなら、上手な人にしてもらうのね。そうすれば、抵抗なくなるよ。じゃあ。私、これからパイトだから」
そう言い、益々困惑するマヤを置いて、麗はアパ−トを出た。




「・・・キスの上手な人って・・・どこにそんな人が・・・」
「やぁ、これはちびちゃん」
マヤがぶつぶつと呟いていると聞き覚えのあるセリフが彼女の耳の中に入る。
「・・・大都芸能の・・・」冷血仕事虫!
後半を何とか飲み込み、真澄の方を嫌々そうに見る。
「その続きが聞きたいな。ちびちゃん」
クスリと笑みを浮べる。
「どうして、こんな所にいるんですか?」
マヤが今来ているのは今度の舞台の製作発表パ−ティ−だった。
「どうしてって・・・大都がスポンサ−だって、知らなかったのか?」
真澄の言葉を聞き、マヤの顔色が蒼くなり出す。
「はははははは。本当に素直な反応だな。君を見ていてあきないよ」
可笑しそうに真澄が笑い出す。
「・・・ほっといて下さい」
「主演ではないとしても、主要な役の君がまた壁の花になっているのか?
偶には中央に出ていって自分をアピ−ルしたらどうだ?今の君にとって自分を売り込む事は必要だぞ」
優しい瞳でマヤを見つめる。
一瞬、視線が合い、ドキッとする。
「・・・こう見えて内気なんです」
マヤの言葉に予想通りにまた真澄が笑い出す。
「社長、あちらに四菱グル−プの会長がお見えになっています・・・」
水城が真澄を呼びに来る。
「・・じゃあな、ちびちゃん、また。ちゃんと自分を売り込むんだぞ」
マヤの頭を軽く撫で、真澄は水城と一緒にパ−ティ−の輪の中に入っていった。

・・・コトン。
床に何かが落ちた音がする。
何となく目をやると、一本の万年筆が落ちていた。
「・・・M.H・・・速水さんのだ」
高価そうなペンには小さくイニシャルが刻んであった。
彼に届けようと、探すが、もう、真澄はマヤの視界から遠くにいっていた。
「・・・どうしよう・・・コレ」
所在なげに万年筆を持ちながら呟く。




「・・・真澄さん、偶にはいいじゃない。私につきあってくれたって」
色っぽいドレスに身を包み、輝く程の魅力を放つ女が彼に語りかける。
彼女は仕事関係で世話になる事の多い大企業の社長の娘だった。
日頃女優や何かから誘惑される事の多い真澄だが、彼女に関しては冷たくあしらう訳にもいかなかった。
「お願い・・・ここは人は多いわ、二人きりになれる場所にいきましょうよ」
耳元で艶やかにささやく。
普通の男なら、彼女の魅力に魂を抜かれているだろうが、真澄は冷静だった。
「・・わかりました。お嬢様には叶いませんな」
ため息一つつき、これも仕事だと言い聞かせ、彼女と一緒に会場を出る。




「・・・はぁぁ・・・全然面白くない。帰ろうかな」
マヤは一人会場から抜け、廊下に出て、ポツンと壁に寄りかかっていた。

「一体、どこまで行くつもりですか」
ぼんやりとしているマヤの耳に人の声が入る。
「・・・ここなら、もう、誰もいませんよ」
その声が真澄のものだとわかると、マヤは万年筆手に彼に声をかけようと近づく。
と、次の瞬間、信じられないものを目にする。

「・・・んっ」
そこにあるのは女の唇を塞ぐ、艶やかな表情と、吐息に混じる大人の二人だった。
ズシリとマヤの胸に何かが響く。

・・・カラン。
手にしていた万年筆が床に落ち、乾いた音を立てる。

「・・・ちびちゃん?」
その音に気づき、女から唇を放すと、驚いたように彼女の方を向く。
「・・・あの、すみません。これ・・・お渡ししようと思って・・・」
足元に落ちた万年筆を拾い、真澄に差し出す。
「えっ・・・あぁ」
僅かに震える彼女の手から万年筆を受け取る。
「・・・あの、じゃあ、これで」
そう言い、彼女は走り出した。
思わず、後を追いかけそうになったが、目の前の女性が彼をストップさせた。
「あなたが、表情変える所見たの初めてだわ。そんなにあの子は大切なの?」
彼女の問いにドキっとする。
「・・彼女は大切な女優ですから・・・」
伏せ目がちにそう言うと、真澄は女の前から歩き出した。




やだ、やだ・・・何で、こんなに胸が痛いの・・・。

外に出て、壁に寄りかかり、呼吸を整える。
脳裏にはくっきりと、速水と見知らぬ女性のキスシ−ンが焼きついていた。
全身の鼓動が大きく脈打つ・・・。

真澄の普段見た事のない表情に訳のわからない気持ちになる。
「・・・どうしちゃったの・・・私。何でこんなに・・・」
心を落ち着かせるように空を見上げると三日月が浮かんでいた。
涙で霞んで見える。
「・・・どうして、泣いているの・・・」
答えの出ない気持ちにマヤの小さな胸は大きな戸惑いを感じる。

「ここにいたのか。急に走り出して行ってしまうから、礼も言えなかったじゃないか」
「えっ」
隣を向くと、壁に寄りかかり、煙草を咥えている真澄がいた。
「どうした?何を泣いている?」
優しく真澄が彼女を見つめる。
「・・・泣いてなんて・・・いません」
涙を拭いさり、真澄を見る。
「相変わらず素直じゃないな」
クスリとそんな様子のマヤを笑う。
「誰かさんのせいで、性格曲がりきりましたから」
「・・・うん?何だ?誰かさんのせいって」
「・・それは、キスが上手で、ふてぶてしくて・・・冷血漢で・・・」
真澄から視線を逸らし、独り言のように、ぶつぶつと言う。
「うん?聞こえんぞ?」
「・・・いいえ。何でもないんです。失礼します」
マヤはそう言い、歩き出そうとした。
「待った。まだ俺は君に聞きたい事がある」
細い彼女の手を掴む。
「・・・何です?」
掴まれた場所が熱くて、真正面に彼を見られなかった。
「君、何かに悩んでいるだろう?」
鋭い真澄の言葉に心臓が大きく脈うつ。
「話したまえ。少しはスキッリするぞ」
瞳を細め、優しい瞳で彼女を包む。
「・・・あの、じゃあ、一つだけ、聞かせて頂けませんか?」
「何だ?」
「・・・キスする時って・・・どんなカンジなんですか?」
「へっ!」
マヤから出た以外な言葉に真澄は咥えていた煙草を落とした。
「あの、変な意味にとらないで下さいよ。今度の舞台で私、キスする事になって、
それで、キスなんてした事ないから、どんなんだろうって思って」
真澄の沈黙に慌てて、言葉をかき集める。
そんなマヤに真澄が笑い出す。
「・・・もう、いいです!また人を馬鹿にして」
真澄の態度に膨れっ面を浮かべ、マヤは真澄に掴まれたままの腕を解いて、行こうとした。
次の瞬間、再び腕を掴まれ、ギュッと真澄に引き寄せられる。

そして、そっと触れ合うように真澄の唇がマヤの唇を塞ぐ。
柔らかい唇の感触と、微かな煙草の香がした。

「・・・こんなカンジだ」
唇を放すと真澄がおどけたように言う。
マヤは突然の出来事に何が何だかわからなくなり、頭の中は真っ白だった。
「じゃあな、ちびちゃん、俺はそろそろ行くぞ。舞台頑張れよ」
ぼ−としたままのマヤにそう言うと、真澄はその場から離れた。
マヤの熱はその日冷める事はなかった。




「あら?何かいい事がありましたの?」
水城が真澄に言う。
「えっ・・・何がだい?」
「社長、何だか嬉しそう・・・ですわよ」
「・・・まぁ、ちょっとな。偶にはこんな退屈なパ−ティ−に出るのもいいかな。なんて思っただけだ」
「・・・社長、口紅がついてますわよ」
クスリと笑う。
「えっ・・・」
そう言われ真澄は口元に触れた。
その瞬間、マヤとのキスを思い出す。

ずっと、瞳を開きっぱなしでいた彼女。
唇を放しても、その表情は変わらなくて・・・。
思わず、笑みが毀れそうになる。


「・・・よっぽど、キスの相手がよろしかったみたいですね」
緩んだ真澄の表情を見つめ、水城が言う。
「・・・くだらない事言ってないで、水城君、行くぞ」
ゴホンと一つ堰をし、真澄はいつもの表情でそう言うと、歩き出した。

マヤ、大人になれ・・・。
俺は君が大人になるまで待つ・・・。そして、その時は・・・。

月を見上げ、真澄は今夜の事を巡らせた。




「えっ!キスシ−ンなくなったんですか?」
次の日稽古場に行くと、演出家が新しい台本を彼女に渡した。
「あぁ。やっぱり、最初の設定でいく事にしたよ」
張り詰めていた思いがぐっと抜け、身体中の力が抜ける。
「・・・なんだ・・・だったら、キスしてもらわなくても・・・」
小さく呟き、ハッとする。
「まぁ、いいか。ちょっと得した気がする」
満面の笑みを浮かべ、呟く。
演出家はくるくると変わる彼女の表情に?を浮べていた。







                          THE END



【後書き】
ははははははは。何書いているんでしょう(笑)
偶にはこんな二人もいいかな・・・なんて(笑)

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました♪

2001.10.22.
Cat

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