−朝−




     「うぅぅん。眠い・・・、麗、今、何時?」

      まだ目の開かない意識の中でいつものように言葉を口にする。

      「七時だよ」

      クスリとした笑いと一緒に聞こえてきた言葉。
      低く通った男の人の声に驚く。

      「えっ」

      目を開けると、隣に彼がいた。
      とても優しそうな瞳で。
      何度夢見たのだろう彼と一緒にいる事を・・・。
      まだ、夢の中にいるような気分になる。

      「ちびちゃん、お目覚めかい?」

      いつものからかうような言い回しで彼が言う。

      「・・・速水・・さん・・・どうして・・・」

      見慣れない部屋の広いベットの上で頭の中が真っ白になる。
      掛け布団から出ている彼の上半身はいつもの見慣れたス−ツから開放された裸体だった。
      逞しい胸にドキリとする。

      「・・どうして?忘れたのかい?」

      私の言葉に可笑しそうに笑う。
      その笑みと言葉にいつもと違う甘さが漂う。
      いつの間にか腰に巻かれていた彼の腕がギュッと私を抱き寄せる。
      絡められた足の感触や、密着する肌と肌に自分も全裸だという事に気づく。

      「・・・きゃっ!」

      驚き、小さな声を漏らす。
      
      「ちびちゃん、思い出してくれたのかな?」
      
      クスクスと楽しそうに笑いながら、耳元に彼の声が直接かかる。
      まさか、こんな近い距離に彼と一緒にいるなんて信じられない。
      ずっと手の届かない人だと思っていた。
      いつも、喧嘩ばかりしていた二人なのに・・・。
      まるで、恋人を見つめるような彼の柔らかい表情にドキッとする。
      昨夜何があったかを思い出し、真っ赤になり、布団を頭まで被る。
      私の反応に彼の笑い声がより一層大きくなる。
      いつもの人を馬鹿にしたような笑い方なのに、今日は違う感じがする。

      「まだ眠るつもりかい?お寝坊さん」

      頭の上で彼の声がする。

      「・・・だって・・・」

      何と言ったらいいかわからず、頭に被った布団から出る事ができない。

      「・・・何か恥ずかしい・・・」

      素直な言葉を口にする。

      「・・・どうして?」

      優しい声で彼が尋ねる。

      「どうしって・・・、だって、昨夜、私は・・その、速水さんと・・・」

      そこまで口にして、昨夜の彼を思い出す。
      私が知る中で一番優しく、激しい彼がいた。
      何度も”愛している”と囁き、私を強く抱きしめた。

      あの速水さんから、そんな言葉が聞けるなんて・・・。
      あの速水さんが私の体中に・・あんな事をするなんて・・・。
      昨夜のまるで別人のような速水さんに鼓動が早くなる。

      湯気が出そうな程顔が熱い。

      「その先はちびちゃん?」

      軽く笑みを含ませ、彼が囁く。

      「・・・その先って・・・だから・・・その・・・、あぁ!速水さんからかってるでしょ!!」

      彼の意図に気づき、ガバッと布団から顔をあげ、彼を見る。
      その瞬間、彼がまた笑い出す。
      とても可笑しそうな笑顔に胸が大きく脈うつ。

      「もう、いじめっ子!!大嫌い!!」

      恥ずかしさを誤魔化すように、いつものように叫んでみるが、彼は笑いをやめようとはしない。
      
      「今、君にそんな事言われても、全然胸が痛まない」

      笑いを収め、布団から出てきた私を逃がさないように彼の逞しい胸板に引き寄せる。

      「・・・以前は君にそう言われると死んでしまいそうな程、悲しかったけど」

      一瞬、寂しそうな瞳を浮かべる。

      「えっ」

      以外な言葉に驚く。

      「君は知らないだろうけど、俺はかなり前から君に惚れていたんだ」

      少し照れたような表情を彼が浮かべる。

      「ずっと、君が好きだった。女優として、女性として惹かれていたんだよ。マヤ」

      私の瞳をじっと見つめながら告げる。
      彼の言葉に胸の中が切なくなる。

      「・・・速水さん・・・」

      胸がいっばいで、言葉が出て来ない。

      「・・・愛してる・・・」

      そう告げ、愛しさを伝えるように彼の唇が私の唇を奪う。
      とても優しいキスに涙が出そうな程、彼への想いで心がいっばいになった。

      「もう離さないからな。君は俺のものだ。そして、俺は君だけのものだ」

      唇を離し、額と額をくっつけて彼が口にする。

      何だか本当に全てが信じられなかった。
      
      やっぱり、私はまだ夢の中にいるのかもしれない。
      これは甘くてとても幸せな夢・・・。

      ねぇ、そうでしょう?

      問うように見つめると彼は優しく微笑んだ。

      「夢なんかじゃないよ。マヤ」

      そう言い、彼は再び私の唇を塞いだ。






                          The End






     【後書き】
     試験勉強からの現実逃避に書いてしまいました(爆)何のひねりもなく、甘いだけですみませんm(_ _)m
     初めて結ばれた後の二人が何か浮かんで書いてみました。
     製作時間一時間弱の短いFICです。

     はぁぁ。早く試験終わらないかなぁぁ。

     ここまでお付き合い頂きありがとうございました。

     2002.2.5.
     Cat

 

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