No Smoking











「・・・真澄さん」
ある日マヤがおもぐろに口を開いた。
それは寝室で真澄が煙草を吸いながら、経済誌か、何かを読んでいた時だった。
「・・・何だ?」
パラパラと雑誌のペ−ジをめくりながら、口にする。
「結婚して半年が経つけど・・・私、そろそろ限界なの」
緊張感の欠片もない真澄の声とは正反対にマヤの声はただ事ではないようだった。
「えっ」
思わず、咥えていた煙草を落としそうになる。
「・・・私、あなたの事好きだけど、好きだけど、でも、ソレは好きじゃないの」
そう言い真澄が手にしているものを指す。
「・・・ソレ?それって・・・コレか?」
ベットの上に落としそうになった煙草を掲げる。
「そうよ。煙草よ」
マヤにそう言われ、何だか落胆する。
「吸う人は気づかないけど、吸わない人には結構匂いとか気になるものなのよ。真澄さんたら、あちこちで
煙草吸うからこのマンションだって、煙草の匂いだらけ、もう、我慢の限界よ」
マヤの表情がいつになく厳しい。
こんなんにハッキリマヤに言われたのは、彼女に大嫌いと言われ続けた時以来だ。
「・・・わかったよ。家では今後吸わない」
これも愛するマヤの為と思い、煙草を灰皿に押しつぶす。
「これでいいだろ?」
やや不機嫌そうに彼女を見つめる。
彼女はまだ満足していないようだ。
「・・・真澄さん、私の事好き?」
問うように彼を見つめる。
「ははは。何を突然」
日頃そんな事を口にしないので、妙に照れくさい。
「もちろん、君の事は好きだ」
ベットから起き上がると、彼女の腕を掴み抱き寄せる。
「・・・こんなに君を愛している」
真澄の甘い抱擁にマヤは頬が赤くなりそうだった。
彼女を見つめる瞳が愛しいと何度も囁いている。
思わず、この後のセリフを胸の中にしまってしまいそうになるが、ここからが一番肝心なのだ。
理性を総動員して口を開く。

「・・・じゃあ、私の為に禁煙してくれる?」
この一言に真澄は一瞬、体中が凍りつくのを感じた。

何だって?この俺に禁煙しろだと?

まじまじと腕の中の彼女を見つめる。
上目づかいで、彼を見つめる彼女はこの上なく愛らしく可愛い。
「やっぱり、無理?」
何も言わぬ彼を不安そうに見る。
そんな表情をされて嫌だ。無理だ。何て言える訳がない。
「ははははは。何言っているんだ。この俺に無理な事なんてある訳がないじゃないか。
もちろん、君の為と言うなら、煙草はやめるよ」
いささか引きつった笑みを浮かべる。
「ありがとう。大好きよ」
マヤはぎゅっと真澄の背中に腕を回し、広い胸板に顔を埋めた。

・・・かわいい。

そんな彼女に胸が時めいてしまう彼であった。
結婚して半年経っても彼の中の恋心は何一つ変わらない。
普通はそろそろ落ち着いてくる時期だろうが・・・彼は違った。
「そんな事言われると我慢ができなくなる」
腕の中の彼女を抱き上げて、ベットに寝かせる。
「あぁ、えっ、真澄さん、明日は朝早いんじゃ・・・」
少し驚いたように彼を見るが、もう彼の腕から彼女は逃げる事はできなかった。
朝まで彼に愛され、翌日仕事場に現れたマヤの目が赤かった事は言うまでもないだろう。




「・・・はぁぁぁ・・・」
今日、何度となくつく速水のため息を水城は耳にしていた。
こんなに重症なのはいつ以来だったのか。
彼がマヤと結婚してからはそんな表情は見た事がなかった。
「・・・社長、何か?」
水城の声にエッ?と彼女を見る。
「・・・いや、別に何もないんだが・・・」
そう口にし、思わず上着の中に手を入れ、煙草を探すが、禁煙を始めた彼が持っている訳はなかった。
煙草は全てマヤの前で処分をしたのだ。
「お煙草でございますか?」
速水の仕草に気づき、水城は社長室の戸棚を開け、彼の為に買い置きをされていた煙草を一箱差し出した。
ボスに必要なアイテムを常に揃えておく事は秘書として当然の務めである。
速水の場合それは煙草とブル−マウンテンのコ−ヒ−だった。
「どうかなさいましたか?」
煙草を凝視したままの彼に問う。
「・・いや・・その・・・」
彼は口篭り、差し出された煙草を見つめていた。
寝起きの一服、朝食の後の一服を堪えていた彼には煙草は喉から手が出る程欲しい。
しかし、ここで吸ってしまったら、マヤとの約束を破ってしまう。
約束は何があっても守る男。それが速水真澄である。
彼は自分の信念に基づいて、煙草を退けた。
「・・・実は禁煙を始めたんだ。悪いが買い置き分の煙草、全てこの部屋から移動しといてくれるか?」
水城は真澄の言葉に我が耳を疑った。
煙草と彼は切っても切れない関係。一日足りとも彼が煙草を吸わない日はなかった。
「・・・かしこまりました。ただちに移動させます」
驚きを表情に出さず、速水を見る。
「うん。頼む」
「そういえば、そろそろ会議のお時間ですが」
水城はふと時計を目にした。
「・・・そうか。今日は第三会議室だったな」
そう口にし、デスクから立ち上がると、上着を羽織る。
真澄はまだ知らなかった。
会議が彼にとってどれだけ危険なものか・・・。




「で、今回の映画はですね・・・」
会議が始まり、およそ30分。
会議室は煙草の煙だらけになる。
灰皿の上に積み重ねられる吸殻。
今まで彼はごく当然にその空気の中にいたが、今日程気になる事はない。
思わず、彼も煙草に手を伸ばしたくなる。
誰かが吸っているのを見ると、欲しくして仕方がない。

「・・・社長?」
誰かに声をかけられ、ハッとする。
「あぁ。判断は任せる。やりたいようにやってくれ」
それだけ言い残し、もう耐えられないという思いで、真澄は会議室を出た。
突然の社長の退室に皆、一瞬、呆然とする。
真澄はとにかく、あの煙草独特の匂いから逃げたかった。
会議室を出て、空気を吸い込む。
オフィス特有の香りがしたが、煙草の香りよりも何倍もましに思えた。

「・・・社長、大丈夫ですか?」
水城は心配そうに彼を見た。
「・・・あぁ。何とか・・・」
「社長、コレを」
水城は彼の手を取るとそっと、掌に小さな包みを乗せた。
「これは?」
イチゴの絵の描かれた包みを見つめる。
「キャンディですわ。煙草をお止めになると、口が寂しくなるでしょう」
水城の気遣いに真澄はハッとした。
「これで、今日一日はきっと、乗り越えられますわ」
そう言い残し、彼女は彼の前から去って行った。
さすが有能な秘書水城。
彼が何を求めているかはわかっているようだ。
真澄は早速彼女にもらった飴を一つ口の中に入れた。
甘いイチゴの味が広がる。
彼女の言うように、これで何とか、今日一日は過ごせそうだ。




真澄が禁煙を始めてから一週間。
マンションの中は驚く程、煙草の匂いが消えていた。
以前はいくらマヤが消臭スプレ−をまいても何の効果もなかったのに、今は十分に威力を発揮しているようだ。
「・・・真澄さん、かなり我慢しているのかな」
彼の帰りを待ちながら、呟く。
最近は全く彼から煙草の香りはしなくなった。
何だか、それが少し寂しい気もする。
彼に抱きしめられた時に香るコロンと煙草の混じった香りが彼女は好きだった。
そして、部屋に染み付いた煙草の香りはこうして一人でいる時、寂しさを紛らわせてくれた。
しかし、ここでそんな事を思ってはいけない。
何としても彼に煙草をやめてもらわなければ。
妻なら夫の健康を第一に考えるのが当然である。
それにマヤには密かにある計画があったのだ。
その計画遂行の為、今は心を鬼にしなければならない。
「・・・はぁぁ。真澄さん、遅いなぁぁ」
カウチに横になり、時計を見る。
もう、午前1時近くを回ろうとしていた。




「・・・何?禁煙しているだと?」
速水は今、パ−ティ−で偶然出会った昔の友人とバ−にいた。
「あぁ。まあな」
そう言い、ブランデ−を口にする。
友人の名は綾瀬と言った。
「以外だな。速水に煙草がやめられるとは思えないが」
彼は高校時代から速水の事を知っていた。
あの頃から速水にとって煙草は必要なアイテムである。
最初は義父への反抗などから煙草を吸い始めたが、気づけばニコチン中毒者となっていた。
「・・・妻にやめてくれって言われたからな」
速水の言葉にそういえば、彼には溺愛の妻がいる事を思い出した。
「なるほどねぇぇ。愛する妻の為ならという訳か。そういえば、奥さん、あの紅天女を演じる女優だったな」
雑誌か何かで数回マヤの顔は見た事はあった。
中々どうして、かわいい女性だと思えた。
綾瀬の言葉に顔が少し赤くなる。
「随分かわいい奥さんだよな」
クスリと笑みを浮かべ、彼を見る。
冷静沈着な彼が少し照れているように見えた。
「・・・彼女は俺のだからな」
独占欲むき出しの言葉に思わず笑みが浮かびそうになる。
「・・・変わったな速水・・・」
昔の彼を思い出し呟く。
今日、パ−ティ−会場で出会った彼はどこか変わったような気がした。
そして、今それは確信できる。
「・・・えっ?そうか?」
綾瀬の言葉に意外そうに眉を上げる。
「俺の知っている頃のおまえは、何だか全てを冷めたように見ていて、人を寄せ付けず、笑顔さえ見せなかったが
今はとても幸せそうに笑う男になった」
綾瀬の言葉に昔の自分を思い出す。
そう言えば、確かにマヤと出会ってからよく笑うようになった。
彼女といると心の底から楽しいと思えるようになった。
「・・・俺も結婚したくなったなぁ」
ポツリと呟き、綾瀬は煙草に手を出した。
「おい、普通吸うかぁぁ。禁煙中の男の前で」
恨めしそうに綾瀬を一睨みする。
「贅沢言うな。おまえにはかわいい奥さんがいるんだから」
綾瀬らしい言い方に苦笑を浮かべる。
「そうだな」
真澄は素直に綾瀬の言葉を受け止めた。





「こんな所で寝てたら、風邪ひくぞ」
優しい真澄の声が聞えた。
「・・・真澄さん?」
薄く瞳をあげると、彼女の顔を覗き込んでいる瞳と視線が合う。
「遅くなる時は待ってなくていいっていたのに」
カウチに横になっている彼女を抱え上げる。
その瞬間、彼のス−ツから微かに煙草の香りがした。
しかもそれは彼愛用の銘柄の匂いだ。
一瞬、体が硬直する。
「・・・真澄さん・・・煙草吸った?」
「えっ?」
彼女の言葉に何の事だ?と言わんばかりの表情で彼女を見る。
「・・・吸ったのね・・・」
確信したように彼を見る。
「吸ってない!」
思い込みの激しいマヤにそんな言葉は通用しなかった。
彼女の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
「俺はこの一週間、一本たりとも煙草は吸っていないぞ。疑うなら水城くんに聞いたっていい」
このままでは不味いと思い何とか弁解をしてみる。
「・・・じゃあ、どうしてあなたのス−ツから煙草の香りがするの?それにこの香りはあなた愛用の煙草の匂いよ」
そう言われて、真澄は綾瀬が吸っていた煙草を思い出した。
彼も偶然にも速水と同じ銘柄だった。
しかも、その銘柄は日本では手に入りにくく、海外から取り寄せているものだったので、彼と同じ煙草を吸っている人とは
滅多に出くわさない。
マヤが吸ったと疑うのも無理がない。
「今まで友人と一緒だったんだ。彼が偶然にも俺と同じ銘柄の煙草を吸っていたんだよ」
本当の事を言っているのにそれが酷くとってつけたような嘘のように思える。
「・・・もういい!」
彼の腕から逃げるように、離れるとマヤは背を向けた。
「・・・真澄さんの事信じていたのに、もう知らない!!」
マヤには彼の言葉が全て嘘のようにしか聞えない。
いつもの彼だったら、もう少し心広く大人な対応ができたはずだったが、
禁煙によるストレスとアルコ−ルが周っていたため、マヤの態度に寛容になれなかった。
「あぁ。そうか!!そんなに俺の事が信じられないか!!!君が信じないというなら勝手にしたまえ!!!」
彼と付き合ってから、初めて怒鳴られた気がする。
今まで些細な喧嘩はあったが、ここまで彼が激しく怒ったのは初めてだった。
「俺こそもう知らん!!!」
まさに売り言葉に買い言葉。
真澄はそう怒鳴り散らすと、帰ってきたばかりの部屋から出て行った。

「・・・真澄さん・・・」
マヤは呆然としている事しかできなかった。





翌朝、真澄は酷い頭痛とともに、目が覚めた。
ベットから起き上がり、見慣れない部屋を見渡し、そういえば、昨夜はマヤと喧嘩をして、シティ−ホテルに泊まった事を思い出す。
今になってみれば、随分と大人気なかったと思う。
何も怒鳴る事はなかったのではないか?
誠意を込めて説明すれば、マヤだってきっと誤解を解いてくれたはずだ。

なのに・・・、つい、頭に血が上り、感情的に大声をあげていた。

「・・・何をしているんだ。俺は・・・」
罪悪感に襲われる。
もう、今日は仕事なんてする気にはなれなかった。




「・・・真澄さん・・・」
マヤは舞台稽古の間も彼の事が頭から離れなかった。
あんなに怒った彼を見たのは初めてだった。
彼をそこまで怒らせて、誤解をしていた事に気づく。
どうして、あの時、真澄の事が信じられなかったのか・・・。
彼は必死に彼女の為に煙草をやめてくれていたというのに・・・。
自分が取り返しのつかない事をしてしまった事に気づく。

「北島!どうした!!」
ボケッとしている彼女に黒沼の声が響く。
ハッとし、マヤは黒沼の方を見た。
「すみません。今日はこれで帰らせてもらいます!」
黒沼に一言も言葉を挟ませず、そう言うと、マヤは稽古場を後にした。




「・・・水城さん!真澄さんは?」
焦燥感漂う表情でマヤがたずねる。
マヤの表情に水城は何かあった事を察知した。
「・・・今日は、社長はお休みを取るって連絡があって・・・」
水城の言葉にマヤは力が抜けた。
ここに来れば、必ず真澄と会えると思っていたのに。
彼が会いたくないと言ってもいつまでも待っているつもりだった。
居場所がわからないのではどうしようもない。
もしかしたら、もう二度と彼はマヤの元に帰っては来ないかもしれない。
急にそう思えた。
「マヤちゃん、どうしたの?真っ青よ」
水城の言葉に今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
「水城さん、どうしよう!私、真澄さんに酷い事を・・・」





「・・・本当に俺は何をやっているんだろう・・・」
公園のベンチに座り、ため息をつく。
まさかこんな事で会社を休んでしまった自分が信じられなかった。
「・・・マヤは今頃どうしているだろうか・・・」
彼女に昨夜の事を謝りたくて、稽古場に行ってみたが、彼女は突然帰ったと言われた。
やはり、相当昨夜の事が応えているのだろうか・・・。
今日の彼女は稽古に全く集中していなかったと黒沼が言っていた。
後、一週間もすれば、紅天女の地方公演が始まる。
そうなれば、一月は彼女と会えない。
真澄も、真澄で今週のスケジュ−ルは朝から晩までぎっしりと詰まっていた。
マヤとゆっくり話し合う時間なんてないかもしれない。
なのに、今日は休んでしまった。
きっと、明日からはその皺寄せが来るだろう・・・。
ただでさえ多忙を極めるというのに・・・。
自分のしている事が全て無駄な事のように思える。
今日、彼女に会えなければ喧嘩したまま彼女を送り出す事になってしまう。

「・・・それだけは嫌だ・・・」
真澄は何かを決心したようにベンチから立ち上がった。





「・・・なるほどね。確かに社長は昨夜パ−ティ−会場を出た後、再会したご友人と飲みに行ったようよ」
マヤの話を一通り聞き終わると、水城は口開いた。
「そういえば、私もパ−ティ−でそのご友人と一緒だったけど、社長と同じ銘柄の煙草を吸っていた気がしたわ」
水城の言葉にやはり自分が誤解をしていた事にマヤは気づく。
「・・・この一週間、社長はあなたとの約束を守って一本も煙草は口にされていないわ」
水城の言葉にジワリと涙が浮かび出す。
「・・・私、真澄さんに何て事を言ってしまったんだろう・・・」
ポタポタと涙の雫が膝の上に置かれていた手の甲に落ちる。
「ねぇ、マヤさん、聞かせてもらっていいかしら。突然禁煙して欲しいと言った訳を」
水城は気遣うように優しく彼女を見た。
昔からマヤは水城には不思議な安心感を持っていた。
水城はと言うと一時マヤのマネ−ジャ−もしていた事もあって、彼女にはつい感情移入をしてしまう。
これ以上踏み込むべきではないとわかっていても、彼女の為、そして、真澄の為何かがしたくなってしまうのだ。
「・・・真澄さんって、昔からよく煙草を吸うでしょ。だから、健康の事が心配になっていて。一緒に暮らしてみて、真澄さんがどんなに忙しくて、睡眠を取っていないか知ったの。
このままじゃ体を壊しちゃうわ。だから、せめて煙草だけでもやめてもらえればと思って・・・それに・・・」
そこまで口にし、マヤは仄かに頬を赤くした。
「それに?」
マヤは水城の耳元にそっと、口をあて、小さくその先を言葉にした。
その瞬間、水城の瞳が見開かれる。
「まぁ。なるほど」
恥ずかしそうに俯いているマヤに慈しむような視線を向ける。
「そういう事なら、禁煙させなきゃね。私も社長の禁煙に協力するわ」






「・・・真澄さん・・・」

その声に真澄は目を開けた。
驚いたようなマヤの顔がある。
「・・・君が帰って来るの待っていたよ」
真澄はマヤの行きそうな場所をあれこれ探して、結局最後はマンションに辿りついたのだ。
「今、夢を見ていたんだ・・・。君はまだ、高校生で、俺に大嫌いって言っていた」
苦笑を浮かべる。
「俺はいつの間にか、君に甘えていたのかもしれないな。君が俺を好きなのは当然だと思っていた。
だから、昨夜みたいに君に怒鳴って、挙句に俺は部屋を出て行ってしまった。勝手だな。本当に・・・」
カウチから立ち上がり、目の前に立つマヤの頬に触れる。
「今日、君を探し回って、もう二度と君に会えない事もあるんだって気づいた」
彼女の背中に両腕を回す。
「良かった。君がこの部屋に帰ってきてくれて・・・。本当に良かった・・・」
不安をかき消すように強く抱きしめる。
「・・・真澄さん・・・」
マヤの声に涙が混じる。
「ごめんなさい。私の方こそ、あなたに甘えていた。私、勝手に誤解して、あなたに酷い事を言ってしまった」
しっかりと真澄の背中に腕を回す。
「・・・あなたの事どうして信じられなかったのか、自分でもわからないの。今日私もあなたを探して、水城さんに会ったの。
そして、聞いたわ。あなたがどんなに頑張って禁煙をしてくれていたか・・・」
彼を見上げる。
「・・・本当にごめんなさい。ごめんなさい・・・」
マヤの瞳から大粒の涙が幾筋も流れる。
「・・・マヤ・・・俺こそ、ごめん」
彼女の額にそっとキスを落とす。
愛しむように、優しく触れた彼の唇に胸がいっぱいになる。
「・・・私、あなたを好きになって良かった・・・」

それから、数日後、マヤは地方公演へと旅立った。



「あら?真澄様ご存知ではないんですの?」
そんなある日、水城が意外そうに口を開く。
「・・・一体何がだ?」
彼女の淹れてくれたコ−ヒ−を口にする。
「マヤさんが社長に禁煙してもらった本当の理由です」
水城の言葉に考えるようにコ−ヒ−カップを見つめる。
「・・・煙草が嫌いだからじゃないのか・・・」
真澄の言葉に水城は小さくため息をついた。
「・・・違うのか?」
水城を見つめる。
「・・・マヤさんはあなたの健康を気遣っているんでよ。それに・・・」
そこまで口にして、真っ赤になったマヤの顔を思い出した。
「真澄様、結婚して半年。そろそろ家族がもう一人欲しくなる頃じゃありません?」
「・・・えっ?」
水城の言葉に真澄は手にしていたカップを落としそうになる。
「さて、私はそろそろ失礼させて頂きますわ」
一人困惑している真澄を置いて、水城は社長室を出た。

”私、赤ちゃんが欲しいの”

マヤが恥ずかしそうに言った一言が浮かぶ。
「真澄様、ご馳走様ですわ」
社長室の扉を見つめ、そう呟くと、水城は慌しい業務の中に戻っていった。




THE END

【後書き】
すみません。連載物を書くつもりが・・・気づいたら、違うものに・・・(苦笑)
何だか、急に真澄様の禁煙スト−リ−が書きたくなって・・・。
でも、真澄様ほどのスモ−カ−なら禁煙するのは大変なんでしょうねぇぇぇ。
そんな真澄様のご苦労を書きたかったけど・・・はぁぁ。無理でした(笑)
そして、最後は水城女史にしめて頂きました(笑)
次回は子作りスト−リ−にでも挑戦してみようかな・・・と思う今日この頃ですが・・・、何分お子様なもので(笑)無理そうです(笑)

さて、次こそは・・・アレを書かないと・・・。


ここまでお付き合い頂きありがとうございました♪


2002.3.30.
Cat


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