<<< 片 思 い >>>







「おはよう。浅川君」
午前9時、彼がいつものように、出社する。
ブランドもののス−ツに身を包み、上品なコロンを漂わせる。
「社長、おはようございます」
20代後半で社長職に就いた彼は、私と、そう年齢は変わらない。
彼の秘書になって一年がすぎる。
彼の右腕として、かかせないと自分でも自負する。
どんな要求にも応え、喜んで手足となった。

「社長、コ−ヒ−が入りました」
報告書と一緒にコ−ヒ−を持っていく。
「ふぁっ、ありがとう」
眠そうなあくび一つを浮かべ、コ−ヒ−を口にする。
「また、夜遊びですか?」
少しの嫌味をこめて口にする。
社長の夜遊びは有名だった。
全く、この人は自分が社長という事がわかっているんだろうか。
そんな調子では社長の失脚を待っている重役たちにいつ足を掬われるか・・・。
秘書として、気が気ではない。
「昨夜の彼女が中々寝かせてくれなくてね」
恥ずかしげもなくさらりとそんな事を口にする。
「社長、いつまでもそんな調子ですと、足元を掬われます!」
目鏡を抑えながら、厳しい表情を浮べる。
「そうなったら、そうなったでいいさ」
人を包み込むような笑顔を浮かべ、まるで人事のように口にする。
屈託のないその笑顔にドキっとしてしまう。
「社長に就任してからもう1年以上が経つんですから、少しは自覚を持って下さい。
先代の社長が草葉の陰で泣いています」
心の動揺を読まれないように、少し早口に言う。
「ははははは。まるで、オフクロみたいな言い草だな」
おかしそうに笑みを浮かべる。
”オフクロ”という言葉に何だか、グサリと刺さる。
「まぁ、肝に銘じておくよ」
彼はいつだって、こんな調子。
軽くて、社長としての自覚が少し足りなくて・・・。
でも、仕事はできる。
彼が就任してから確実に会社は利益を伸ばした。
だから、重役たちも彼を失脚させる事ができなかった。
「そうして下さい」
「まぁ、一人の相手に絞れれば、いいんだが・・・中々、そういう女性に会えなくてね」
「それでいろいろと物色なさってる訳ですか?」
彼の恋人はいったい何人いるのだろう。
噂に聞くだけで、両手の指以上はいるという。
「あぁ。出会いは多い方がいいだろ。何なら浅川君も俺とデ−トするか?」
冗談交じりに言った、彼の言葉に大きく胸が脈を打つ。
「な、何を言ってるんですか!冗談はやめて下さい!」
思わず頬が赤らむ。
「ははははは。社内一堅物の君とデ−トするのも面白そうだと思うがな」
そう言い、私の目鏡を取る。
「それに、美人だ」
キスされそうな距離でじっと私を見つめる。
何も考えられないぐらいに頭の芯が熱くなる。
「か、からかわないで下さい!」
彼から目鏡を取り返し、離れる。
「からかっているつもりはないがな」
「失礼します」
彼から逃げるように社長室を出て一呼吸をつく。
偶にあるこういう会話にどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
どこまで、本気なのかわからない彼の言葉に動揺してしまう。
そして、自分の気持ちも良くわからなかった・・・。


「ねぇ、美羽(みう)氷室社長ってどんなカンジなの?」
久しぶりに違う部署の友人と飲みに行く。
モデル並みのルックスの彼は女子社員たちの憧れの的だった。
「えっ、どんなって、遊び人で、軽くて、人をからかうのが好きで・・・」
酒を口にしながら、彼の事を思い浮べる。
「あら、随分、社長と親しそうね」
もう一人の友人が面白そうに言う。
「そうだよね。美羽は毎日社長と一緒だもんなぁぁ・・・いいなぁぁ」
「いいって・・・社長とは何もないわよ!誰があんな軽いヤツ!!」
頭に血が上る。
「はははは。誰も美羽と社長が何かあるだなんて、思わないわよ。何たって、美羽は男が嫌いだもんね」
男嫌い・・・。
いつの間にかそんなレッテルが貼られていた。
別にそんな訳じゃないのに・・・ただ、付き合おうとは思えないだけなのに・・・。
「えぇ、美羽ってレズ?」
驚いたようにもう一人の友人が言う。
「違うわよ!私だって、男の人を好きになる・・・事だって」
口にしてて何だか恥ずかしくなる。
「ふふふ。美羽って純情よね。そういう所大好き」
抱きすくめられる。
「ちょっと、彩」
「美羽を男なんかに渡さないわ」
すっかりお酒が回った彩が強く、私を抱きしめる。
「おっ!出た、禁断の愛」
面白がるように悠里が言う。
「もうっ」

Trrrr・・・。Trrrrr・・・。

携帯が鳴り出す。
「はい。浅川です」
「氷室だ。悪いが残業を頼みたい」
少し困ったような彼の声。
「えっ、あっ、はい」
時計は8時を回っていた。
つい、気のいい返事をしてしまう。
「ありがとう。今から俺が言う場所に行ってくれ」
彼の指示を聞くと、携帯を切る。

「仕事?」
彩と悠里が同時に口開く。
「うん。ごめんね。何だか急用みたいなの」
「すっかり、社長に頼りきられてるわね」
「えっ」
彩の何気ない言葉にドキっとする。
「また、今度飲もうね」




「お待ちしておりました。さあ、どうぞこちらへ」
彼の指示通りの某一流ホテルの部屋に行くと、そう言われ、通される。
「こちらに着替えて下さい」
黒のイブニングドレスを渡される。
「えっ」
何がなんだかわからない。
「さぁ、お時間があまりないので」
考える余裕もなく、ドレスに着替えさせられ、メイクをされる。
そして、鏡の前にいる女はいつもの私とは別人のようだった。



「やぁ、よく来てくれたね」
連れて来られたパ−ティ−会場に行くと、黒のタキシ−ドを着こなした彼がいた。
何だか、胸がざわめく。
「すまないね。急に、同伴する女性が都合が悪くなってしまって・・・それで、君が浮かんだんだ」
すまなそうに彼が口にする。
「はぁ、そうですか」
さっき口にした酒が今頃になって回りだす。
「何ですか?人をじっと見つめて」
彼の視線が何だか気になる。
「・・・いや、綺麗だと思って・・・」
「えっ」
その言葉に思わず顔が赤くなりそうになる。
「さあ、行こう」
そう言い、彼は私の手をしっかりと握った。

温かい手。
何もかも包み込んでくれるような大きな手。

ずっと、この手を握っていたいと思ってしまう。
そんな事を思うのは迷惑ですか?

彼の横顔を見つめる。
端正な顔立ちに見惚れそうになる。
彼を想う人は一体、どれくらいいるのだろう。
私なんて、きっと、彼の視界には入っていないのに・・・。
つい、夢を見てしまう。

彼と一緒に手を繋いで歩いていく夢を・・・・。



「今日はお疲れ様。助かったよ」
パ−ティ−会場から抜け、彼が言う。
「お役に立てて良かったです。では、これで」
「待って」
彼から離れて歩き出そうとした時に腕を掴まれる。
呼吸が止まりそうになる。
何だか、今日はこんな事ばかり・・・。
「送っていくよ」
いつもだったら、丁重に断るはずなのに、今日はそんな気にはなれなかった。
今夜だけはもう少し夢を見ていたかった・・・。



「・・・う・・・ん」
目を開けるとそこは見慣れない部屋だった。
誰かの温もりを感じる。
ハっとし、横を向くと、気持ち良さそうに眠っている彼がいた。
それも一糸身につけない姿で・・・。
それは自分もそうだった。
突然の事にパニックになる。
とらかく、ここから抜け出さなければ・・・。
そう思い、側にあったバスロ−ブを羽織ってベットを出る。

彼のマンションに行きたいような事を言ったような気がする。
それから、お酒を飲んで・・・。
後は何も思い出せない。
胃が何だかムカムカしてきた。
どうやら二日酔いらしい。
最悪・・・。
記憶がなくなるまで飲むなんて・・・。
それも、彼と一緒にいる時に・・・。



彼の寝ているうちに部屋を出て、着替えて会社に行く。
休んでしまいたかったけど、逃げるような気がしてできなかった。
今日は社長と顔を合わせるのが怖い・・・。
一体、どんな顔で彼に会えば・・・。

「どうした?顔色が悪いぞ」
突然、背後から声をかけられる。
「えっ・・・あっ、氷室・・・社長・・・」
不意をつかれた彼の登場にこれ以上ない程体が熱くなる。
「あれだけ飲んだんだ。二日酔いか?」
いつもと変わらぬ調子で口にする。
「あの・・いえ。昨夜は失礼致しました」
深く頭を下げ、彼の顔を見ないようにする。
「うん?いや、俺の方こそ・・・調子に乗って飲ませて悪かった。昨夜は楽しかったよ」
そう言うと彼は私の前を通り過ぎて社長室に入っていった。
一気に力が抜ける。
はぁぁ・・・私はどうしてしまったのだろう?
社長の顔一つまともに見られないなんて・・・。




「恋だな」
社内のカフェテリアにいると、ぼそっと誰かが口にする。
「へっ!」
その言葉に心が大きく揺れる。
「彩・・・」
見上げると、彼女がいた。
「昨日、氷室社長と何かあったわけ?」
その言葉にさらに心が揺れる。
「・・な、何、言ってるのよ・・・何もないわよ」
冷や汗をかきながら答える。
「なるほど、社長と寝た訳ね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彩の言葉に何て言ったらいいのかわからなくなる。
「嘘!!本当に?」
私の反応に、今度は彩が驚く。
「・・・そんな、事ないわよ・・・」
やっと出た一言が嘘だと言っているように聞こえた。
「そうか。ついにあんたの恋が実ったのか」
一人納得したように彩が言う。
「えっ?実る?」
「社長を好きなんでしょ?社長の事を話すあなたを見ていればわかるわ」

社長を・・・好き・・・。
その言葉に急に脈が速くなる。

「な、何言ってるのよ・・・・あんな軽いヤツ・・・。好きな訳ないじゃない」
渇いた笑いを浮かべながら、必死で取り繕う。
「無理しちゃって、顔に書いてあるわよ。”好き”って」
言われて、思わず顔を抑える。
「認めなさいよ。惚れてるって」
「社長になんか惚れてないってば!!!」
つい大声をあげてしまう。
「あんな軽いヤツ、大嫌いよ!見た目だけのヤツに誰が惚れるものですか!」
恥ずかしくて、認めたくなくて、心にない事をつい、口にしてしまう。
「・・・あっ・・・美羽・・・」
私の言葉に彩が青くなり、私の後ろを指で示す。
「何よ!」
振り向くとそこには彼がいた。
嘘・・・。こんな事って・・・。
「見た目だけで悪かったな」
やや引きつった表情で彼が言う。
「あ、あの社長・・・その・・・」
彼を目の前にして言葉が出てこなくなる。
「面白い話を聞かせてくれてありがとう」
そう言うと、彼は冷ややかな視線を送りながら、私の前を去った。
「いいタイミングで現れるわね」
人事のように彩が呟く。




「3時から会議が入っています。その後はヒュ−ネ−チャ−の新井氏とお約束が入っています」
いつものように彼の一日の予定を口にする。
だけど、彼の顔を見る事ができず、書類ばかり見てしまう。
「それから、先程城木様からお電話が入りました。何でも社長にどうしてもお会いしたいそうです」
城木と言えば社長がついこの間まで付き合っていた女優だった。
週刊誌や何やらに載って噂された事ある。
彼女の名前に一瞬彼が辛そうな表情を浮べたように見えた。
「・・・そうか」
窓の外を見つめながら、彼が一言だけ呟く。
「私はこれで失礼します」
そう言い、社長室から出て行こうとする。
「俺はそんなに軽い男か?」
不意にそんな言葉が耳に入る。
「えっ」
驚き、振り返ると丁度彼と視線が合う。
「俺だって一人の女性だけを愛する事ができる」
いつもと違う瞳で見つめられ、凍りついたように体が動かない。
「ずっと、好きだった女性がいる」
彼は一歩私に近づき、苦しそうな表情を浮べる。
「でも、伝えられなくて・・・。だから、ずっと想っているだけで・・・」
切なそうに細めた瞳に胸が熱くなる。

コンコン・・・。

彼が私に触れようと手を伸ばした瞬間、扉が開く。
「社長!大変です!」
血相を変えて社長派の重役が飛び込んでくる。
「どうした?」
すぐに表情を仕事に戻す。
「わが社の株が何者かの手によって買占められています」
「何?」
「もう、40%以上占有されています」
その言葉に彼の表情が真っ青になる。
「すぐに株を買い戻すんだ!!」

その日から彼にとって会社に辛い日々が始まった・・・。
彼は連日のように社長室に泊まりこみ、のっとりの危機に対して策を講じていた。
幸いにも彼の対応が早かった為、株の占有率は40%以上はいかなかった。
だが、油断できない危機である事は変わらない。


「君はもう帰りなさい」
夜11時を回り、彼が言う。
「俺につきあって君まで仕事する事はないんだ」
私が持ってきたコ−ヒ−を口にしながら彼が言う。
その表情はさすがに疲れきっているようだった。
「社長こそ、もうお帰りになって下さい。少しは眠らないと体を壊します」
「何だ、心配してくれるのか?」
コ−ヒ−カップをデスクの上に置き、以外そうに私を見つめる。
「私は社長の秘書ですから、社長の事を第1に考えるのが仕事です」
「・・・仕事か・・・」
何だか悲しそうな瞳で見つめられる。
「俺と初めて会った時の事、覚えているか?」
何かを思い出したように彼が優しい表情になる。
「えっ・・・社長と初めて会った時?」
そう言われ、記憶を辿ってみる。

先代の社長の時から秘書の一人だった私。
新しく就任した彼に第一秘書を命じられ、嬉しかった。

『氷室啓一だ。君は有能な秘書だと聞いている。宜しく頼む』
そう言い、差し出された手を握った瞬間、胸が高鳴った。
彼の期待を裏切らない為にも頑張ろうと誓った瞬間だった。


「君は俺が社長になった時に初めて会ったと思ってるだろ?」
私の考えを読むように彼が口にする。
「えっ・・・だって、それ以外には・・・」
以外な言葉に必死で思い出そうとする。
「君、遅れて入社式に来ただろ」
「えっ!どうしてそれを・・・」
入社式の日、会社に来たら見知らぬ子供に泣きつかれて、遅刻ギリギリで来ていた私には時間がなくて・・・。
でも、ほっとけなくてその子の両親を探してもらって・・・。
『ありがとう』
その子の保護者が現れて、確かそう言われて・・・。

「あっ!!」
その時の人物の顔と社長の顔が重なる。
「・・・思い出したようだな・・・」
嬉しそうに彼が笑う。
あの時の彼はス−ツを着ていなくて、まだ学生か何かとうカンジだった。
印象的な優しい笑顔に何だかドキドキしたのを覚えている。
「あの子は・・・社長の子供だったんですか?」
「そうだと言ったら」
子供がいた事になんだか心に冷たい風が吹き抜ける。
「・・・元気ですか?優太君」
心の動揺を読み取られないように笑顔を浮かべる。
「さあな。元気だといいんだが」
「えっ」
「あの子は俺の子じゃない。オヤジの子だ。愛人との間の・・・」
「えっっ!!」
彼の言葉に大きく声を上げる。
「そんなに驚かなくてもいいだろう」
彼が苦笑を浮かべる。
「だって、今社長の子だっておっしゃったから・・・」
「見たかったんだ。君がどんな表情をするか」
淋しそうに私を見つめ、呟く。
「はぁぁ、やっぱり、俺の片思いか・・・」
「えっ?」
彼の言葉に思わず見つめる。
「・・・この間、君と過ごした夜。俺は君とは寝ていないから安心しろ」
「へっ?」
「君はすっかり酔っててね。まぁ、俺もだが・・・。で、お互い途中で眠ってしまったみたいだ」
途中で・・・。という事は直前までは・・・社長の腕の中で・・・。
急に全身が熱くなる。
「さてと、雑談はここで終わり、君は帰りなさい」
時計を見つめ、現実に戻ったように彼が言う。
「・・・浅川君、ありがとう」
社長室を出ようとした私に彼が声をかける。
「えっ」
何の事かと思い、彼を見る。
「何でもない。ただ、君に礼が言いたかったんだ」
不思議そうな私の表情を読み取ると、そう言い、彼は優しく微笑んだ。



自分の部屋に帰り、何たが、呆然とする。
今夜交わした社長との言葉を一つ、一つ考えてみる。

”君とは寝ていない”
その言葉にホッとしたような・・・淋しいような・・・。

はぁぁ・・・自分の心がわからない・・・。
彼に仕えて一年。
彼と距離が縮まるにつれて胸が苦しくなる。
時々向けられる優しい表情によくわからない気持ちになる。
彼へ対する気持ちが何と言うものなのか、私にはわからない。

いや、気づきたくないのかも・・・。
わかっていて、わからないフリ・・・。
昔からそうだ。
ほんとうの事は見ないようにしてきた。
傷つくのが怖いから・・・。
辛い恋は一度でたくさんだから・・・。



「社長が辞任されたわ」
次の日、会社に行くと第一に私の耳に飛び込んできた。
「どうして!!」
つい、言葉を荒げてしまう。
「今回の事で責任をとったのよ。株を買い占めてのっとろうとしていたのは社長の最も信頼する部下だったらしいわ。
その部下がライバル社に買われていた事に気づかなかったみたい」
「社長は今どこに?」
いてもたってもいられなくなる。
「さぁ、ご自宅かしら」
その言葉を聞くと、すぐに会社を飛び出す。
そういえば昨日の彼の様子は変だった・・・。
彼はまさか部下に裏切られていた事を知っていて・・・それであんなに悲しそうだったのだろうか。
思い当たる事が次々と心に浮かぶ。
そんな・・・どうして気づかなかったの・・・。

「氷室さんなら部屋を引き払いましたよ」
彼のマンションに行くと管理人からそんな言葉を聞かされる。
「えっ!引き払ったって・・・どこに?」
「さぁ、何でも自分のやりたいた事をしに行くとかって・・言っていましたが・・・」
自分のやりたい事・・・。
彼のやりたい事って・・・。

『君は今の仕事が天職だと思うかい?』
いつだったか、そんな事を聞かれた事があった。
『えっ、さぁ、そんな事考えた事ありませんから・・・。社長は天職だと思ってないんですか?』
『どうかな。わからん。だが、もし、今の仕事に就いてなかったら、俺は絵描きになっていただろうな』
『絵描き?』
『あぁ。日本を出て世界中を回って、絵を描きながら生きていけたら・・・なんて、な』
少し照れたように口にした彼が印象的だった。

「まさか・・・」
このまま、もう二度と彼に会えない気がする。
涙が溢れてるくる。
胸が痛い・・・。
こんなに苦しいなんて・・・。

あぁ、やっぱり私は彼を愛していたんだ・・・。

いなくなって初めて気づく・・・。
自分の心の内にあった熱い想いを・・・。
今になってどんなに愛していたか思い知らされる。



彼が去ってから一年が経つ。
私は秘書課から他の課への転属を希望した。
秘書をやるのは彼で最後・・・。
他の誰かの秘書になどなる気がなかった。

「あれ?美羽じゃない?」
一緒に昼食をとっていた悠里がテレビを見つめたまま呟く。
「えっ、何が?」
悠里の視線を追うようにテレビを見つめると、油絵で描かれた女性の肖像画があった。
「あっ、本当だ・・・。美羽に似てる」
彩が口にする。
まさか・・・。
心の中が忘れかけていた想いで溢れる。
「これ、どこの美術館にあるの?」
熱い想いに鼓動が動き出す。
「えぇ−と、青山にある近代美術館って言っていたけど」
悠里の言葉を聞くと、席を立つ。
「美羽?」
「急用思い出したわ」
そう告げると熱い想いに駆られ、美術館に向かった。



”片思い”と書かれたその絵の前に立つ。
鼓動が大きくなる。
「あの、この絵を描いた人は?」
美術館の職員に夢中で問い詰める。
「えっ・・あぁ。その絵の作者は・・・」

「氷室啓一・・・今、注目度NO.1の若手画家。”片思い”と題された絵で世間の注目を集める」
どこからか声がする。
まさかと思いながら、ゆっくりと、振り向き、その姿を確認する。
最後に会った時よりも少し髪が伸びていた彼がいた。
「・・・やぁ、久しぶり」
優しい瞳で私を見つめる。
その表情を目にした途端、引き寄せられるように足が彼に向かって動き出す。
「・・・会いたかった・・・あなたに会いたかった・・・」
彼の胸に飛び込み、偽りのない言葉を口にする。
「・・・浅川・・・くん・・・」
少し、驚いたように彼が私の名を口にする。
「・・・俺も会いたかった・・・」
しっかりと抱きしめ彼が言う。
そして、互いの瞳と瞳は重なり・・・想いが重なる。
「社長が好きです。ずっと、ずっと好きでした」
一年前に口にできなかった言葉をやっと告げる。
「・・・美羽・・・俺も、君が好きだ」
言葉と同時に唇が重なった。
長い、長いキスを交わし合う。
いつまでも・・・。
いつまでも・・・。





                      THE END







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