「これは、これは、ちびちゃん」
真澄が偶然、街を歩いていると、マヤに会った。
マヤはしまったというような表情を浮かべた。
「・・・大都芸能の・・・」
鬼社長という言葉を飲み込み、苦虫を噛んだような表情を浮べる。
「ハハハハ、君は素直だな」
マヤの表情に思わず、笑みを零す。
「・・・あなたと違って、素直で純粋なんです!!だいたい、チビちゃんて
呼ぶのやめてくれません ?私には北島マヤって名前があるんです!!」
じっと、真澄を睨みあげる。
真澄はまた可笑しそうに笑いあげる。
また速水にバカにされ、膨れっ面を浮べる。
「ちびちゃんはちびちゃんさ。しかし、君、相変わらず成長しないなぁ」
マヤの身長を見ながら言う。
「うっ・・・人が気にしている事を」
「ハハハ。何だ、チビちゃん気にしてたのか?まぁ、成長期なんだから、そのうち伸びるさ」
気休め程度に口にする。
「・・・速水さん、そんな事少しも心の中で思ってないでしょ」
「察しがいいな」
真澄の言葉にムッとしたような表情を浮べる。
「私、速水さんなんかに構ってる暇ないんです!失礼します」
そう言い、マヤが歩き出そうとした瞬間、雨が降ってきた。
「濡れるぞ」
そう言い、真澄は彼女の手をひいて、店先の屋根の部分に入る。
思わず握られた手にドキっとする。
「は、放して下さい!」
忌々しげに真澄から手を振り払う。
雨はザ−っと強くなっていた。
マヤとしては今すぐにでも、真澄の側から離れたかったが、突然の集中豪雨の為、動けずにいた。
「・・・ついてないな」
雨を見上げながら真澄が呟く。
「私と一緒でって事ですか?」
「いや、君と一緒にいるのは楽しいからいいが、これから行く所があってね。
迎えの車を待っていたんだが、どうも渋滞に巻き込まれたらしくてな」
真澄から出た”楽しい”という言葉に胸がときめく
「・・・忙しいんですね。速水さん」
「・・・忙しいか・・・」
自分の生活を振り返るように呟く。
「そうだな。こんなふうに立ち止まるって事は俺の生活になかったな」
真澄がいつもとは違う淋しそうな表情を一瞬浮べたから、マヤは何だか、落ち着かなかった。
「 偶には、立ち止まるのもいいかもな」
優しく笑い、マヤを見つめる。
マヤの頬が僅かに赤くなる。
「チビちゃん、せっかくだから、何か観ないか?」
雨宿りに入った場所が映画館だった事に気づくと、真澄は楽しそうに言った。
「・・・えっ」
そう言われ、マヤは上映中の映画に目を輝かせる。
「あっ、観たいかも!」
しかし、一緒に観る相手は日頃からマヤをからかっている真澄だった事に気づくと、すぐに表情を返る。
「いえ、結構です」
「ハハハハ。君は本当にわかりやすい」
マヤが表情を変えた理由がわかるように笑い出す。
「今観れるのは・・・これか・・・。よし、チビちゃん入るぞ」
と言い、真澄はマヤの手を引っ張りながらチケットを買うと、無理矢理映画館に入る。
「えっ、ちょっと」
抵抗するようにジタバタするが真澄の手はふりほどけない。
「静かにしたまえ。映画が始まるぞ」
あっとい間に席に座り、真澄が言う。
マヤはそう言われ、スクリ−ンを見つめた。
いつしか、マヤは映画を食い入りように見始めた。
真澄はそんな表情の彼女を盗み見して、静かに手を解いた。

そして、映画も終盤にさしかかり、主人公が危険な目にあう瞬間、マヤは思わず
隣にいる真澄の手を握った。
映画に集中していた真澄は思わず、ドキリとする。
マヤは自分が真澄の手を握っている事なんて気づかず、映画を見ている。
力強く握られた手からは彼女の体温が伝わってきて、熱かった。
胸の中が切なくなる。

この感情は・・・一体?

沸き起こる気持ちに真澄は戸惑っていた。

「面白かったですね」
映画に感動してマヤが口にする。
「・・・そうだな。ところで、そろそろ手を放してくれないか」
真澄に言われ、ぎゅっと握り締めていた事に気づく。
「あっ、すみません」
頬を赤くし手を放す。
真澄は席を立つとスタスタと劇場の外に向かって歩いた。
もう、雨は上がり、青空が顔を出していた。
「社長、こちらにいらしたんですか」
迎えの運転手が真澄を見つけ、声をかける。
「あぁ。じゃあな、チビちゃん」
隣にいるマヤに声をかけると真澄は車に向かって歩いた。
マヤはそんな真澄の後ろ姿を見つめていた。



「どうなさったんですか?ぼんやりとして」
いつの間にか、社長室に来ていた水城が口にする。
「えっ」
水城の存在に気づき、ハッとする。
「・・・いや、何でもない。ただ、考え事をしていただけだ」
真澄はそう言うと、水城が持ってきた書類をチェックし始めた。

バカバカしい・・・この俺がこんな気持ちになるなんて・・・。
しかも、相手は俺を忌み嫌っているマヤだぞ・・・。

どうかしてる・・・。
きっと、疲れていたるんだ、俺は・・・。



速水さんの手、温かったな・・・。
大きくて、綺麗な長い指で・・・。
マヤはアパ−トに帰りぼんやりと、そんな事を考えていた。

嫌だ!私ったら、あの速水真澄にそんな事思うなんて・・・。

「マヤ、どうしたんだ?」
一人、取り乱しているマヤを心配そうに麗が聞く。
「えっ、別に・・・何でもない」
麗の声に驚いたように答える。



「大変だ!劇場がキャンセルになった」
これからやる公演の為稽古をしていると、マヤの耳にそんな言葉が入ってきた。
劇団員は皆動揺する。
「・・・どうして、そんな・・・」
そう呟き、ある男の顔が浮かぶ。
「・・・アイツだ!こんな事をするのはアイツしかいない!!」
そう思うと、いてもたってもいられなくなって、マヤは稽古場を飛び出していた。

「速水社長はいますか!」
凄い剣幕で怒鳴った声がフロア中に響く。
「社長とお約束ですか?」
受付の秘書が聞く。
「いいえ。約束なんてないけど、とにかく、今すぐ会わせて下さい!」
「社長は只今会議の最中です。それに今日は予定が詰まっていまして、お会いになる時間はありませんが」
会議と聞いて、会議室に向かってマヤは歩き出した。
「お待ち下さい」
秘書が止めるのも無視して歩き出す。
「誰か、その子をとめて!」

「一体、何の騒ぎだ」
会議室から丁度真澄が出てくる。
「速水さん、お話があります!!」
マヤの姿に一瞬、真澄の胸に何かがよぎる。
「なるほど、チビちゃん君の仕業か」
鋭い瞳でマヤを見つめる。
「いいだろ。社長室で待っていてくれ。君この子を案内して」
マヤと、側にいた秘書に言うと、真澄は再び会議室に入っていった。

「で、今日は何かね?」
会議を終えた真澄が社長室に入り、マヤに言う。
「公演をするはずだった劇場が突然、キャンセルになりました」
真澄を睨みながら言う。
「で、それが何かね?」
白々しく答える真澄にマヤの怒りの度合いを上げた。
「しらばっくれないで、下さい!!こんな事をするのあなたしかいないわ!!」
体中から声を上げ、真澄に憎しみの視線を向ける。
真澄はその視線に心が微かに痛むのを感じた。
「・・・俺が君の公演を邪魔にして、何の得がある?悪いが検討違いだ」
冷たい表情を作り、マヤを見る。
「・・・嘘!あなたしかいないわ!」
尚も強く、真澄に食い下がる。

やれやれ、いつもながら、彼女は俺しか悪人を知らないようだな。

心の中で、小さくため息をつきながら、答える。
「劇場の名前は何て言う所だ?」
「国立フォ−ラムです」
「少し待ってなさい」
そう言うと、真澄はどこかに電話をし出した。


「キャンセルになった理由がわかったぞ。何でも大物ア−チストが無理矢理その日に入ってきたそうだ」
「えっ」
真澄の言葉に驚きの声を上げた。
「公演を3日ずらすんだな」
「3日?」
「3日後に劇場が使えるように支配人と話をつけておいた」
マヤは自分の思い込みに恥ずかしくなった。
勝手に真澄を犯人にしときながら、彼に救ってもらったのだ。
「早く、戻って仲間に知らせてやるんだな」
呆然としているマヤに真澄が言う。

「・・・ごめんなさい。私、自分が恥ずかしいです。つい、頭に血が上って・・・何も考えられなくて・・・
速水さんを悪者にして・・・なのに、速水さんは助けてくれて・・・」
薄っすらと涙を浮かべながら、真澄に言う。
思わず、そんな彼女に手をさし伸ばしたくなる。
「別に、俺としては、濡れ衣が晴れただけでいいさ」
ぐっと、堪えて、マヤから視線を逸らす。
「本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げる。
「気にするな。さて、俺はまだ仕事があるんだがね」
「あっ、はい。失礼しました」
マヤはそう言い、社長室から出て行こうとした。
「チビちゃん、俺を招待はしてくれるのかな?」
ドアノブに触れようとした瞬間に声をかけられる。
「はい、もちろん」
振り向き、飛び切りの笑顔で言う。
その表情に真澄の中の何かが、警報を鳴らしていた。

好きになってはいけない・・・。
愛してはいけない・・・と。



マヤに招待された日、真澄は観に行かなかった。
もちろん、紫の薔薇の人として、花束は贈っていたが・・・。

「速水さん、来なかったのかな」
いつもなら、控え室に嫌味を言いに来る真澄の姿が見えず気になっていた。
「マヤ、どうしたの?元気がないみたいだけど」
無事に公演が終えたはずなのに、いつもとは違うマヤに麗が心配そうに声をかける。
「えっ、別に・・・何でもないよ」


それから半年、マヤは真澄とは全く会っていなかった。
演劇界のパ−ティ−や何やらで、顔を見る事は会っても、マヤが話し掛けようとした時には真澄の姿は消えていた。
いつもなら、真澄の方から話かけてくるはずなのに・・・。

「何だか、避けられているみたい・・・。この間の事怒ってるのかな」

そして、その事が決定的になる出来事があった。
それは、マヤが偶々居合わせた高層ビルでエレベ−タ−を待っていたら、待っていたエレベ−タ−から真澄が数人の取り巻きを
連れて、出て来た。
「あっ、速水さん・・・」
一瞬、マヤの方に視線を向けると、真澄はまるで無視するように何も言わず、彼女の前を通り過ぎて行った。
「・・・速水さん?」
真澄の後姿を見つめながら、マヤは悲しくなった。

真澄は真澄でずっとマヤに対して葛藤を抱えていた。
いつの間にか彼女の事を女優以上に見ていた気持ちに気づき始めていた。
ファンとしての気持ちではなく、男として惹かれていた事に大きな衝撃を受けていた。

「まさか・・・俺が、マヤを・・・そんな・・・」
真澄は自分の気持ちが信じられなかった。
ずっと、子供だと思って扱ってきた彼女をそんな風に見ていた自分に釈然としない。
ただ、彼女といる時は楽しくて・・・彼女の膨れっ面を見るのが好きで・・・ただ、それだけだったはず・・・。

これ以上、自分の気持ちに気づきたくない真澄は極力マヤに会わないようにしていた。
好きだと、愛していると認めてしまう事が怖かったから・・・。
冷血で通っている速水真澄には信じられない事だったから・・・。


「どうして、私を避けるんですか!」
姫川亜弓の公演を観に行った時、偶然にもまた、マヤと鉢合わせる。
いつものように無視して、逃げようとした途端に彼女に腕を掴まれ怒鳴られる。
「・・・別に、君を避けているつもりはないが」
ポ−カ−フェィスを作り、彼女を見る。
半年ぶりに、間近で見る彼女は少し大人びていた。
また、訳のわからない感情が真澄の胸をきつく締め出す。
「嘘!速水さんパ−ティ−で見かけても、劇場ですれ違っても、私の方を見ないようにしていた」
真っ直ぐに真澄を見つめ、無視し続けられた切なさを口にする。
「一体、どうしたんだ?嫌いな俺にそんな事を言うなんて。悪いが急いでいるんでね。失礼する」
彼女の手を無理矢理ふり解き、歩き出す。
「・・・逃げるんですか!」
マヤの一言が胸にグサリと突き刺さる。
足取りを止め、マヤの方を見つめる。
彼女は涙を浮べていた。
その姿に胸が熱くなる。
「わかりました!速水さんは私の事なんて大嫌いなんですね!もう、いいです!」
そう言い、マヤは劇場の外に向かって歩き出した。
「待て!」
思わず彼女を追いかけ、腕を掴む。
「放して下さい!!私の顔なんて見ていたくないんでしょ!」
真澄から逃れるように振り払い、全速力で劇場の外に出た。

外には雨が降っていた・・・。

マヤは迷わずその中に飛び込んでいった。
一刻も早く真澄から離れたかったから・・・。
真澄を思う苦しい気持ちから逃れたかったから・・・。

気づいてしまった恋心から逃れたかったから・・・。

「待ちなさい!!」
いつの間にか、マヤに追いついたずぶ濡れの真澄が彼女の腕を再び掴み、抱き寄せる。
思いもよらず、真澄にきつく抱きしめられ、マヤは切なさに表情を歪めた。
「放して・・・お願い。これ以上、私を苦しめないで下さい」
ビクリともしない真澄の腕に、マヤは胸の苦しさを口にする。

俺はこの子をどうしようと言うんだ・・・。
どうするつもりなんだ・・・。

マヤを目の前にした真澄はただ、苦しかった・・・。
切なかった・・・。
今まで感じた事のない恋しさ、愛しさが胸をしめつける。

気づけば、彼女の顎を掴み、その唇に唇を重ねていた。
マヤは瞳を大きく見開き、真澄を見つめていた。

そして、何も考えられなくなる。



雨音が辺りに響き渡り、二人を包んでいた。









                     THE END


【後書き】
えっ、ここで終わり?と思った方・・・この後はご想像にお任せします(笑)
こういう中途半端な終わらせ方、実は好きだったりします(笑)
しかし、一体、いつの頃のマヤと速水さんなんでしょうねぇぇ・・・時間軸を考えないで書いていたので、何だか、訳がわからないです(苦笑)
まぁ、深く考えないで下さいね♪

ここまで読んでくれた方、ありがとうございました♪♪♪

2001.9.14.
Cat


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