☆天使の悪戯−後編−☆





「・・・愛してる・・・そう、言ったら、君はどうするかな」
ベットから抜け出し、すっかり夢の中に入っているマヤを見つめる。
穏やかな寝顔に、胸が掻きむしられる。
許されるなら、すぐにでも彼女を抱いてしまいたい・・・。
そんな欲望が彼の胸を占めていた。

「・・俺は何を考えているんだ」
頭を掻きながら、寝室を後にする。
もう、空は白み始めていた。
しかし、起きるにはまだ早い・・・。
リビングのソファ−に横になり、ぼんやりとマヤの事を考えていた。

健太と遊ぶマヤ・・・。
母親のような優しい笑顔を向けて、楽しそうにじゃれあう。
知らないマヤの一面にまた、胸が高鳴る。
もう、引き返せない程、彼女に心を奪われている事に改めて思い知らされる。

「・・・愛してる・・・なんて言ったら、パンチが飛んできそうだな」
苦笑を浮かべ、呟く。



「・・・う・・ん、あれ?」
ぼんやりと目を開けると、健太の隣で眠っているはずの真澄の姿がなかった。
そっと、熟睡しきっている健太の手を離し、寝室を出る。

「あっ・・・」
目についたのはソファ−で眠る彼の姿だった。
ソファ−に無造作に突き出された長い足。
パジャマの胸元から僅かに肌蹴てみえる逞しい胸。
そして、無防備な寝顔。
真澄の全てに、息が止まりそうになる。

「・・・何だ、もう起きたのか?」
マヤが動けずに、呆然と立ち尽くしていると、人の気配を感じた真澄が目を開ける。
「・・・何だか、目が覚めちゃって・・・」
時計はまだ午前6時を指していた。
「速水さんこそ、こんな所で眠っていると風邪ひきますよ」
感じた戸惑いを隠しながら、口にする。
「今、起きようと思っていた所だ」
そう言い、ソファ−から起き上がる。
「何だ?ぼけっと立ってないで座ったらどうだ?」
所在なさげに立っているマヤに可笑しそうに言う。
「・・・あぁ・・そうですね」
そう言い、ソファ−に座ろうとした時、何かに足元をすくわれる。
「きゃっ」
つまずき、真澄の方へと倒れる。
「相変わらず、そそっかしいな」
マヤを受け止めるように真澄が抱きしめる。
思いがけない距離に、顔が真っ赤になる。
「しかし、君は抱き心地がいいな」
マヤが戸惑っている事を知ると、からかうように、ギュッと抱きしめる。
益々赤くなるマヤを面白そうに笑う。
「・・・人を猫か何かと間違えてません?」
動揺を必死で隠すように言う。
「ははははは。猫か・・・猫ならもっと、大人しくて、可愛げがあるぞ」
「ムッ!どうせ、私は可愛げがありませんよ!」
真澄の言葉に赤くなりながらも膨れっ面を浮かべる。
「なんだ。自覚はあるのか」
尚もマヤをからかうように笑う。
「・・・速水さん、からかってるでしょ?」
ようやく真澄にからかわれている事に気づき、また膨れっ面を浮かべる。
「からかうなんて、とんでもない。未来の大女優様にそんな態度恐れ多くて」
冗談たっぷりに言う真澄が可笑しくて、今度はマヤが笑い出す番だった。
「やだ、速水さん・・・可笑しいです」
マヤの笑顔に真澄もつられて、笑顔になる。
打ち解けた柔らかい空気が二人を包んでいた。

「・・・あの、ところで、そろそろ解放してくれません?」
笑いが落ち着くと、恥ずかしそうに真澄を見つめる。
「えぇ、あぁ」
マヤに言われ、名残惜しそうに、抱きしめる腕を緩める。
「ずっと、抱きしめていたい・・なんて、言ったら、君はどうする?」
腕を解く前に、マヤを見つめ、呟く。
「えっ」
その言葉と、真澄の瞳に胸が高鳴る。

「マヤ、俺は・・・君を・・・」
「おねえ−たん、ごほんよんで!」
真澄が何かを言いかけると、無邪気な健太の声が聞こえてきた。
その声に驚き、二人は健太の方を見る。
もう、すっかり目を覚ました健太がいた。
「健太くん、早いわね、もう起きたの?」
慌てて、真澄から離れ、健太に笑顔を向ける。
「うん!だから、むこうで、ごほんよんで!」
そう言い、マヤを寝室に連れて行こうとする。
「わかったわ」
ソファ−から立ち上がり、寝室に向かう。
「マヤ」
歩き出す彼女に真澄が声をかける。
呼び止められ、ドキっとする。
「少し、眠るから7時になったら起こしてくれ」
「えっ・・・はい」







「おねえ−たん、ますみのことすきなの?」
「えっ」
それは動物園でペンギンを見ている時に健太が口にした言葉だった。
あまりにも唐突な言葉に何と言ったらいいかわからない。
真澄はどうしても会社に顔を出さなければならないと言って、マヤに健太を預けてこの場にはいなかった。
「・・・好きよ」
少しはにかんだように答える。
その答えに健太は面白くないようにマヤを見る。
「健太よりもますみの事好きなの?」
ただならぬ様子でつめよる。
「・・・えっと、それは・・・」
どう答えたらいいのかわからず、言葉を詰まらせる。
「健太くんを好きと思う気持ちと、速水さんを好きと思う気持ちはちょっと違うわ」
「違う?どう違うの?」
「・・・それは・・・う・・・ん。そうね・・・」
「もういい!やっぱり、健太よりもますみが好きなんだ!」
マヤの様子に腹を立て、健太が泣き出す。
「健太くん・・・」
マヤはどうしたらいいのかわからず、ただおろおろとしていた。



「どうした?健太?」
仏頂面で真澄を見る健太に言う。
「ますみなんか嫌い!・・・」
ふてくされたように言う。
「えっ」
健太の言葉に戸惑いの表情を浮かべる。
「こら、健太くん、速水さんなに何て事を・・・」
健太の態度に慌てて、マヤが口を挟む。
「俺がいない間、何かあったのか?」
明らかに昨日までとは違う健太の態度に不安そうに言う。
「えぇっと・・・その・・・」
健太がこうなってしまった原因はわかっていたが、それを真澄に言う訳にもいかず、マヤは言葉を詰まらせた。
「おねえ−たん、ぱんだ見たい」
マヤの手を引っ張って健太が歩き出す。

「・・・一体、どうなってるんだ?」
ポリポリと頭を掻きながら、真澄は訳がわからないという調子でマヤと健太を見ていた。





「速水さん、健太くんが」
血相を変えて、マヤが真澄に言う。
「・・・落ち着け、まだその辺にいるはずだ」
健太が迷子になった事を知ると、真澄は冷静な調子で言った。
「君は迷子センタ−の方に行っててくれ、俺は健太の母親との待ち合わせ場所に行って、事情を話してくる」
もう健太を母親の元に引き渡す時間になっていた。
「・・は、はい」
動揺しながらも何とか返事をし、マヤは真澄に言われる通りに迷子センタ−に向かった。



「4歳の男の子なんですけど・・・来ていませんか?」
迷子センタ−に着くと、マヤが不安気に言う。
「うぅぅん・・・そうね、この中にいなかったら、いないと思うわ」
職員に通され、迷子たちが遊んでいる部屋に通される。
残念ながら、健太らしき男の子はいなかった。
マヤの中で一気に落胆の気持ちが広がる。



「ますみ」
待ち合わせ場所に向かって歩いていると、誰かがそう彼の事を呼び止めた。
「健太!!」
振り向くと、迷子になっていた健太がいた。
「どこにいたんだ!」
近寄って、屈み健太を真っ直ぐに見つめる。
「・・あそこ。ますみもおねえ−たんもいなくなったから、あそこにいたの。ま−が迷子になった時はらいおんさんの前にいなさいって
言ってたから・・・」
涙ぐみながら、ライオンの檻の側を指差す。
「そうか。よかった・・・無事でいて」
ギュッと健太を抱きしめる。
その瞬間、真澄に会えた安堵がこみ上げ、健太は泣き崩れていた。


「ほら、ジュ−スだぞ。喉渇いただろ」
やっと、落ち着いた健太をベンチに座らせジュ−スを手渡す。
嬉しそうに受け取り、健太は美味しそうにジュ−スを飲んでいた。

「ますみもおねえ−たんのこと好きなの?」
ジュ−スを飲み終え、ポツリと健太が言う。
「へっ」
あまりの事に手にしていた缶コ−ヒ−を手放しそうになる。
「・・・好きなの?」
黙ったままの真澄にもう一度聞く。
「・・・そうだな。う・・・ん」
「おねえ−たん、ますみの事好きって言ってたよ」
「えっ!」
その言葉に今度こそ飲みかけの缶コ−ヒ−を落とす。

「遅い!!」
真澄が何か口開こうとしたら女の声がする。
「ま−!!」
声のした方を向き、健太が女性に向かって走り出す。
「・・・ルリ子」
その女性こそは真澄に健太を預けた本人だった。
「真澄さん、待ち合わせの時間はとっくに過ぎてるわよ」
時計を見てみると30分以上過ぎていた。
「すまん。ちょっと、いろいろあって・・・な」

「健太くん!!!」
真澄がルリ子と話していると、マヤの声がした。
「おねえ−たん!!!」
健太は一目散にマヤに走り寄る。
マヤはギュッと健太を抱きしめて、薄っすらと、涙を浮かべていた。

「・・・真澄さん、あの子は?」
突然の出来事に驚いたように口する。
「あぁ、俺の知り合いだ・・・。彼女も健太の面倒を見てくれたんだ」
真澄の言葉を聞くと、マヤの方に歩き出す。
「さぁ、健太、もう、お姉ちゃんとはお別れよ」
「あっ・・・」
マヤは視界に現れた美人を驚いたように見つめた。
「真澄さんに聞いたわ。健太の面倒見てくれたんですってね。ありがとう」
とても優しく笑い、健太を抱きしめたままのマヤの頭をポンと撫でる。
「あっ・・・いえ、こちらこそ、健太くんと一緒にいれて楽しかったです」
頬を赤面させながら答える。



「かわいい子ね。あの子大人になったら綺麗になるわ」
別れ際にそっとルリ子が言う。
その言葉に思わず、口にしていた煙草を落としそうになる。
「・・・あぁ見えて彼女は二十歳すぎてる」
軽く咳払いをしながら答える。
「あらっ、じゃあ、あなたの恋人?」
「何っ!」
思わず声を荒げる。
「隠さなくったっていいわよ。あなたの態度見てればわかるわ。本当、昔から変わらないわね」
嬉しそうにケラケラと笑いながら言う。
「・・・ふん、何とでも言え」
少し頬を赤め、口にする。

「それじゃあ、マヤさん、そろそろ行くわ」
離れて健太と遊んでいる彼女に声をかける。
「えっ、はい」
そう言い、健太をルリ子の元に連れていく。
「健太くん、またね」
「・・・・・うん」
寂しそうに潤んだ瞳で答える。
「健太。男の子なら泣かないのよ。いい男になれないわよ」
ルリ子の言葉に健太は涙を拭う。
「そうそう。それからいい男は好きな女性にちゃんと気持ちを伝えるものよ」
チラリと真澄の方を見ながら言う。
「ゴホンっ!」
咳払いをし、ルリ子に余計な事を言わせないように睨む。
「おねえ−たん。健太が大きくなるの待っててくれる?」
健太が純粋な瞳でマヤを見つめる。
「えっ・・・」
「健太が大人になって・・・いい男になったら、真澄を好きなのと同じ気持ちで健太を好きなってくれる?」
その言葉にマヤと真澄の脈が上がる。
「あら、この子・・・」
ルリ子は驚いたように健太を見た。
「なるほどねぇぇぇ」
にたにたと笑いながら、真澄を見る。
真澄は信じられないといった表情を浮かべていた。

「・・・えぇ・・・そうね。待ってるわ」
健太の一生懸命な気持ちを悟ると、マヤは屈み込み、そっと健太の頬にキスをした。
「さよなら。楽しかったよ」
耳元で囁き、健太を見つめる。
健太は淋しげな笑顔を浮かべ、母親の元へと駆け寄った。




「行っちゃった」
健太を見送ると寂しそうにマヤが呟く。
「・・・そうだな」
無表情で真澄が答える。
マヤの胸はさっきの健太の言葉をどう真澄が受け止めたか気になっていた。
「悪かったな。ずっと、つき合わせて、アパ−トまで送るよ」
何も触れようとしない真澄に不安が募る。
「いいえ、一人で帰れますから・・・」
真澄と一緒にいる事が辛くなる。
それに、ただならぬム−ドのルリ子と真澄の様子も気になっていた。

もしかしたら、本当に健太くんの父親って・・・。

「遠慮はいらないぞ」
「いいえ、本当に、一人で帰れますから・・・」
そう言い、真澄を置いて歩き出す。
「待て!」
急に態度が変わったマヤが気になり、手を掴む。
「・・・放して下さい」
辛そうに表情を歪める。
「・・・どうして、そんなに顔を歪める?」
心配そうにマヤを見つめる。
その表情に抵抗ができなくなる。
感情に流されそうになる。

「だって・・・速水さん、何も言ってくれないから・・・」

駄目・・・これ以上、言っては駄目。
頭の奥で理性が警報を鳴らし始める。

「・・・どう思っているんですか?私の事?」
理性を押し切り、口が動き出す。
もう、彼女には止める事ができなかった。
「健太君の言葉を聞いたでしょ?聞かなかったフリをするのはやめて下さい。辛すぎます・・・」
マヤの言葉に驚いたように見つめる。
何も言わない真澄に胸が軋む。
「もういいです。忘れて下さい」
手を振り払い、歩き出そうとしたが、強く握られた手は離れる事はなかった。
「・・・どうして、放してくれないんですか?」
そう口にした瞬間、ギュッと抱きしめにられる。
「・・・速水・・・さん?」
驚いたように彼の名前を口にする。
「・・・信じられなかったんだ・・・この俺を君が好きだなんて・・・」
掠れた声で真澄が口開く。
「君には嫌われていると・・・ずっと思っていたから・・・だから・・・言えなかった。君を好きだって・・・ずっと、愛しているって・・・」
今度は真澄の言葉にマヤが驚く番だった。

今何て・・・速水さんは言ったの?

君を好きだって・・・ずっと、愛してるって・・・。

本当に、そう言ったの?

「マヤ、愛してる」
じっと、見つめ、その言葉を告げる。
マヤの瞳にじわりと涙が浮かび始める。
「・・・本当に?本当なの・・・?」
マヤの不安そうな言葉にこたえるように唇を塞ぐ。
そっと、愛しさを伝えるような優しいキス。
軽く触れるだけのキスに胸がじ−んと熱くなる。

「・・・これで、信じてもらえるか?」
唇を離し、呆然と真澄を見つめる彼女に言う。
一瞬の戸惑いと、愛しさがマヤの胸に押し寄せてくる。
「・・・はい」
涙を流し、ギュッと真澄に抱きつく。
そんな彼女を真澄は愛しそうに抱きしめた。




「あの、一つ、聞いていいですか?」
互いの気持ちを伝え合い、街を歩きながら、マヤが思い出したように口開く。
「うん?何だ?」
「・・・健太くんって・・・もしかして、速水さんの子供ですか?」
ずっと、心にひっかかっていた疑問を口にする。
「・・・へっ?」
今まで見た事のない程の、驚いた表情を浮べる。
「・・・だって、健太君てどことなく速水さんに似ていたし・・・。ルリ子さんと速水さん、凄く仲良さそうだったから・・それで・・」
マヤの言葉を聞くと、一秒置いて真澄が笑い出す。
「ルリ子と俺が仲良さそうとは・・・傑作だ」
お腹を抱え、苦しそう笑う。
「・・・そんなに、笑わなくても・・・」
「もし、俺の子だと言ったらどうする?」
真澄の言葉に不安気な表情を浮べる。
「・・・どうするって言われても・・・、健太君のいいお母さんになれるように努力します」
苦し紛れに口にする。
「だって、速水さんと離れる事できないし、速水さんの子供なら、私にとっても愛しい存在だから・・・」
黙ったままの真澄に必死で自分の気持ちを告げる。
「・・・知らなかったな。君にそこまで愛されていたなんて」
突然、立ち止まり、マヤを抱き寄せる。
真澄の言葉に照れたように赤くなる。
「残念ながら健太は俺の子じゃないよ。ルリ子はただの幼馴染みだ。彼女に対して恋愛感情を抱いた事は一度もない」
「・・・速水さん・・・」
真澄の言葉に嬉しそうに笑みを浮べる。
「なんだ。ちょっと、残念。健太君みたいな子欲しかったから」
照れ隠しにそんな事を言う。
「じゃあ、俺と君とでこれから作るか?」
真澄の言葉に一瞬の間を置いて赤面する。
「はははは。君はわかりやすいな」
そんなマヤを可笑しそうに笑う。
「もう、また人をからかって・・・」
「からかってないさ。俺はいつか君との間に子供が欲しいと思ってる。愛する人との子供が欲しいと思うのは自然だろ?
まだ先の話になるがな・・・ちょっとせっかちかな。そう思うのは」
少し照れたように言う真澄の言葉に胸が熱くなる。
「君は俺との間に子供ができるのは嫌か?」
「うぅん。そんな事ない!!速水さんの子供が欲しい!!!」
嬉しさのあまり、大きな声で叫ぶ。
マヤのあまりの大きな声に、周りの人が驚いたように二人を見つめる。
「・・・マヤ、声がでかいぞ」
周りの視線に真澄が赤くなる。
マヤも視線を感じ、真澄以上に赤くなっていた。

二人はいつまでもそんな幸せな未来について話しながら寄り添うように歩いていた。





                                   終わり







【後書き】
何とか書き終わりました。どうです?甘くしたつもりなんですけど・・・。。。
今ひとつ足りなかったかな・・・なんて、読み返してみて、思ったりします(冷や汗)
る−さんのリクエストとも何かズレている気がする・・・(苦笑)
まぁ、とにかく、20000hitするまでHPを続けてこれてよかったです♪♪訪問者の皆様、遊びに来て頂き、ありがとうございます♪♪

2001.10.9.
Cat


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