ある夜の秘密



      「・・・あぁっ!もうアイツなんか大嫌い!!」
        マヤは今非常に荒れていた。
        理由はそう・・・マヤの宿敵である大都芸能の速水真澄に原因があった。
        事の発端は30分前に遡る・・・。

        マヤの今度の舞台は大都がかかわる事になっていた。
        そして、製作発表の今日、記者の目の前で真澄に恥をかかせられたのだ。

        「北島さんは今回の役についてどう思いますか?」
        マヤにとって記者の目の前で話す事はまだ慣れていない事だった。
        「えぇ−と、その、とっても素晴らしい役だと思います」
        俯きながらもじもじと口にする。
        その姿に、記者会見を見ていた真澄が軽く笑ったのだった。
        真澄にとってみれば、普段自分にくってかかる彼女とのあまりの差につい、笑ってしまったのだった。
        最悪な事にマヤの視界にそれは移り、彼女はこれ以上ない程、真っ赤になって後の質問には何一つ答えられなかった。
        そして、さらに追い討ちをかけるように記者会見が終わると、待ってましたというばかりに真澄がマヤの前に現れ、いつもの
        皮肉を口にしたのだった。

        「中々面白いものを見せてもらったよ。今の君が本当の君なのかい?チビちゃん」
        真澄はクスリと笑った。
        「・・・そうです!私は本当は大人しくて内気なんです。それなのに・・・あなたが、笑い出すから」
        真澄を忌々しそうに睨む。
        「それは失礼した。君があまりにも本性を出しすぎたものだから、つい」
        そう言って真澄がまた笑う。
        「・・・よくも笑ったわね!この・・・」
        そこまで言い、マヤは考えるように真澄を見つめた。
        一瞬、真澄と視線が合い、ドキッとする。
        そして、気づかなかった思いに突然、胸が苦しくなる。
        「・・・どうしたのかね?その先は?チビちゃん」
        急に黙ったマヤをからかうように言う。
        「・・・いいえ。何でもないです・・・。失礼します」
        マヤはそう言い、真澄の前から逃げるようにして去った。


        そう、マヤがこんなにも荒れているのは・・・ただ、単に真澄に馬鹿にされた事ではなく。
        突然芽生えた訳のわからない感情に戸惑っているからであった。

        「・・・あぁ!!もう、何でアイツの事でこんなに悩むかな・・・」



        「あんまりからかっては可哀想ですよ。彼女なりに一生懸命にやってるんですから」
        水城が釘を指すように真澄に言う。
        「つい、彼女の反応が面白くて・・・な」
        煙草を咥え、さっきの彼女を思い出し、またクスリと笑う。
        「そんな風に楽しそうに笑う社長ってあまり見た事がありませんわ」
        「俺だって、人間さ。偶には笑いたくなる」
        「・・・それだけかしら?」
        「・・・何が言いたいんだ?水城君」
        「いいえ。別に」




        「稽古の方は順調か?」
        休憩中のマヤに真澄が声をかける。
        「あっ・・・」
        マヤは途端に表情を変えた。
        「ははははは。本当に、君は素直だな」
        マヤの隣に座り、その変化を楽しむように笑う。
        「今日は何ですか?また私を馬鹿にしにきたんですか?」
        トゲトゲしくマヤが口にする。
        「別に。ただ近くまで来たから稽古を覗きに来ただけだ」
        そう言い、煙草を口にする。
        「そんなしかめっ面で俺を見ていていい加減、疲れないのか?」
        「・・・だって、速水さん、いつも意地悪だし・・・、つい、こんな表情になってしまうんです!」
        「意地悪?俺がか」
        真澄はそう言い、大きく笑う。
        「あっ・・・また、馬鹿したように笑う」
        少し、いじけ気味に言うマヤにさすがに、真澄は笑うのをやめた。
        「すまない。つい。君を見ていると、笑ってしまって・・・。でも、別に馬鹿にしている訳じゃないんだ」
        珍しく優しい表情でマヤを見つめる。

        ドキッ・・・。

        またマヤの胸が鳴る。

        やだ・・・。速水さん相手に・・・。
        自分の気持ちに思わず真澄から視線を逸らす。
        「・・・私、そろそろ稽古があるんで、行きます」
        「待ちなさい」
        マヤが席を立とうとすると、真澄は彼女の手を掴んだ、
        その瞬間、マヤの心拍は一気に上がる。
        「今夜、一緒に芝居を観に行かないか?この間のお詫びだ」
        真澄の意外な誘いにマヤは驚いたように彼を見つめた。
        「・・・今日は少し、君に優しくするよ」
        そう言うと、真澄はマヤの分の芝居のチケットを渡し、その場を後にした。

        えっ・・・。これって・・・。速水さんとデ−ト?

        呆然としながら、マヤは頬が赤くなっていくの感じた。

        やだ・・・私、何考えているのよ・・・。
        自分の思考をかき消すように、マヤは頭を振った。



        「・・・社長。問題が起きたみたいです」
        社に真澄が戻ると、水城が少し青い顔をして言った。
        「何?」



        「・・・速水さん・・・まだかな・・・」
        劇場の前でマヤはいつもよりも着飾った格好で真澄を待っていた。
        時計は午後6時55分を指していた。
        開演までは後、5分程しかない。
        「・・・遅いなぁぁ・・・」



        「社長、そろそろ休憩になさいません?」
        急なトラブルも何とか片づき、水城がコ−ヒ−を真澄に持ってくる。
        「あぁ。そうだな」
        コ−ヒ−を口にしながら、ふと、視線を時計に向けると午後10時を回っていた。
        「あっ」
        真澄の頭にマヤとの約束が過ぎる。
        「社長?」
        「すまないが、俺はこれで帰る。君も適当に会社を出てくれ」
        水城にそう言うと、コ−トとマフラ−を手に、真澄は凄い勢いで、社長室を出た。



        真澄が駆けつけた時は芝居も終わり、劇場の明かりももう消えていた。
        「・・・待っている訳ないか・・・」
        真澄は淋しそうに口にした。
        「・・・はぁぁ、すっかりすっぽかしてしまったな・・・。怒ってるだろうな・・・」

        ”速水さんなんて大嫌い!”
        いつものセリフが頭に浮かぶ。
        「・・・どうするかな・・・」
        そう言い、真澄が劇場を立ち去ろうとした時、柱の影に隠れるマヤの姿が視界に入った。

        「・・・マヤ・・・」
        驚いたように彼女に駆け寄る。
        真澄の姿を見つけ、安心したような表情を浮べた。
        「・・・遅いですよ・・・。もう、お芝居、終わっちゃいました・・・」
        そう言うマヤのはく息が真っ白だった。
        「君、ずっとここで待っていたのか?」
        マヤの手を掴むと、氷のように冷たかった。
        12月下旬のこの時季は夜になると空気が痛い程、冷たかった。
        真澄の問いにマヤは静かに頷く。
        「・・・すまなかった。本当に・・・」
        真澄は何と言ったらいいかわからず、彼女を抱きしめた。
        冷え切ったマヤの身体に真澄の温もりが伝わる。
        「・・・温かいです・・・とても」
        呆然とした意識の中でマヤが口にする。
        「・・・あぁ。俺が温めてやる。君をこんなにしてしまった責任だ」
        そう言い、身体を密着させるように、彼女を包む。



        「温かくなったか?」
        真澄は車の暖房を最高に効かせ、彼女に言った。
        「・・・はい」
        「本当にすまなかった」
        運転しながら真澄が口にする。
        「お仕事だったんでしょ?」
        申し訳なさそうな真澄にマヤが口にする。
        「・・・あぁ」
        「だったらいいです。速水さんが誰よりも忙しい事は知っていますから」
        珍しく汐らしい彼女に真澄の胸がキュンとする。
        「どうしたんだ?もっと、詰っていいんだぞ?いつものように・・・」
        「・・・いいんです。何か、今はそんな気になれなくて」
        「はははは。これじゃ、反対だな。俺が君に優しくする気だったのに」
        「・・・速水さんは十分優しいです。本当は知っています。あなたが優しい人だって・・・」
        マヤの言葉に思わず、ハンドルを切りそうになる。
        「・・・どうした?熱があるんじゃないのか?」
        そう言い、マヤの額に触れると・・・本当に熱があった。
        「・・・マヤ、熱があるぞ!」
        驚き、真澄は車をただちに病院に向けた。



        「解熱剤を打ったので、下がると思います。今している点滴が終われば帰っていいですよ」
        医者はそう言い、病室を出た。
        マヤと真澄の二人だけになる。
        「・・・本当に・・・すまないな」
        ベットの側の椅子に座り、マヤを見つめる。
        「どうしたんですか?速水さん謝りっぱなしですよ」
        クスクスとマヤが笑う。
        「一応、俺にだって良心はあるんだ」
        「・・・それは知りませんでした」
        益々可笑しそうにマヤが笑う。
        「私、何か今夜は熱があるのに、幸せなんです」
        笑い止み、マヤが口にする。
        「えっ」
        意外そうに彼女を見つめる。
        「だって、今日はあなたといられるから・・・。それに、いつもより素直になれるんです」
        「・・・ちびちゃん・・・」
        熱で微かに潤んだ瞳に見つめられ、真澄はドキッとした。




        「本当にアパ−トに帰らなくていいのか?」
        病院を出た後、マヤが帰りたくないと言ったので、仕方がなく彼女の望む場所に連れて来た。
        「わぁぁぁ・・・海が見える!!綺麗!!」
        真澄の言葉をお構いなしに、マヤがはしゃぐ。
        マヤが行きたいと言った場所は真澄の”好きな場所”だった。
        突然のリクエストに真澄はいつも一人で来る別荘に連れて行った。
        「外に出ていると冷えるぞ」
        テラスに出て、海を見つめているマヤに声をかける。
        「だって、とってもいい眺めなんです」
        「・・・少しは病人だと自覚したらどうだ」
        マヤに自分のコ−トを羽織わせ、彼女の隣に立つ。
        「・・・へへへ、だって」
        マヤが甘えたように真澄を見る。

        う・・ん。本当に熱があるんだな・・・。
        俺にこんな表情を向けるなんて・・・。

        「こっちにおいで」
        そう言い、マヤを抱きしめる。
        「これで、寒くないだろう?」
        優しくマヤを見つめる。
        「うん。あったか−い」
        無邪気な表情を浮べる。
        腕の中の彼女に愛しさが募る。

        気づくと、真澄は彼女の唇に自分の唇を重ねていた。

        「・・・風邪、うつっちゃいますよ」
        唇を放すと、マヤが驚いたように真澄を見つめ、口にする。
        「・・・俺がひかせた風邪だ。責任は取るよ」
        優しく微笑み、もう一度唇を塞ぐ。
        今度は長く唇を重ねた。




        「・・・えっ・・・ここは?」
        翌朝、目を覚ますと、マヤは見慣れない部屋にいる事に気づく。
        そして、何だか頭が重かった。
        「目が覚めたか?」
        マヤの隣に眠っていた真澄が起き上がる。
        「えっ!!!」
        驚いたように声をあげる。
        「・・・何だ?」
        マヤの反応に不思議そうに見る。
        「・・・どうして・・・速水さんが・・・」
        真澄の姿にマヤの胸が大きく脈をうつ。
        「・・・どうしてって、ここは俺の別荘だし。君が来たいと行ったから、連れて来たんだ。それより、熱は下がったか?」
        コツンとマヤの額に自分の額をくっつける。
        マヤの動悸が早くなる。
        「いきなり、何するんですか!!」
        真っ赤になりながら、マヤは真澄から離れた。
        「ハハハハハ。いつもの君に戻ったみたいだな」
        可笑しそうに真澄が笑う。
        「その様子なら、熱もなさそうだ」
        「・・・熱って・・・一体?」
        「何だ、君、まさか何も覚えていないのか?」
        「・・・その、速水さんを劇場の前で待っていたのは覚えているんですけど・・・
        あっ!速水さん!!大遅刻ですよ!おかけでお芝居見逃しちゃったじゃないですか!」
        思い出したようにマヤが真澄に喰ってかかる。
        真澄は真澄で何だか、落ち込んだような、ホッとしたような気持ちだった。

        そうだよな。これがいつもの彼女だ・・・。
        昨夜のは甘い夢だったという訳か・・・。

        「はぁぁ」
        小さくため息をつく。
        「どうしたんですか?」
        何だか元気がない真澄に言う。
        「別に・・・何でもないさ」



        「ところで、どうして同じベットで寝ていたんですか」
        帰りの車の中でマヤがふと思った疑問を口にした。
        「えっ・・・それは・・・まぁ・・・その・・・君が熱があったから、添い寝をしていたんだ。それだけだ。
        言っとくがやましい事は何もしてないぞ」
        そう口にし、真澄は少し罪悪感を感じた。

        まぁ、キスは何もしていないうちに入るよな・・・。

        ベットの中で何度もマヤと重ねた唇を思い出し、真澄は一人胸の中にしまったのだった。





                                          THE END  




        【後書き】
        実はこんなマヤちゃんと、真澄様が好きです(笑)思いっきり嫌味を言い合う二人を見ていると微笑ましくなってしまう♪
        このお話、設定としては多分高校生ぐらいのマヤちゃんです。
        さてさて、真澄様、マヤちゃんと同じベットにいてキスだけで済んだんでしょうかね(笑)
        後は皆様のご想像にお任せします♪
        
        ここまで、お付き合い頂きありがとうございました♪  

        2001.10.31.
        Cat







本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース