<Assassin―2―>









9,
「妹が帰ってきてるんだ」
パ−トナ−である槙村のアパ−トに行くと、彼は嬉しそうに僚に言った。
「妹?血の繋がらないっていうのか」
槙村はよく酒が回ると10年程前に別れた妹の事を話していた。
何でも、彼女の本当の親が現れた為に槙村は彼女を手放すしかなかったようだ。
とても仲の良い兄妹だったようだが当時の槙村は父親を亡くしたばかりで、妹を支えるだけの経済力が
なかった。妹の幸せを考えれば裕福な本当の両親の元に返すのが正しいと、断腸の思いで決断をしたのだった。
「あぁ。今夜会う事になっているんだ。僚も来るか?」
「えっ、いや。邪魔しちゃ悪いから遠慮するよ」
「そうか・・・」
心なし彼の顔色が曇ったように見える。
「どうしたんだ?妹に会うのにそんな顔色して」
「いや、実を言うと・・・会うのは10年ぶりだから、会いにいくのは不安なんだ」
「ほぉぉぉ・・・まきちゃんは俺について来てもらいたい訳?」
いつもの口調で僚が言う。
「僚!頼む!!」
手を合わせ、瞳を潤ませて僚を見つめる。
「・・・そんな目で見るなよ。男に見られても気持ち悪いだけだ」
「そう言わず・・・今度飲み代奢るから」
その言葉に僚はビクっと反応する。
「もっこりちゃんもつけろよ」
「わかった。冴子も誘う!」
槙村の切り札と言うべき言葉に僚はにんまりと笑みを浮べた。




10,
「何だか、落ち着かないみたいだけど、どうしました?」
移動中の車の中で事務総長が香に話し掛ける。
「・・・あの、そのプライベ−トな事で」
「槙村君は確か日本出身でしたよね」
「はい。16歳までこの国に住んでいました」
「ほぉぉ・・・そうですか。日本に来るのは久しぶりのようですが」
「えぇ・・・10年ぶりになります」

Trrrrr・・・・。Trrrrrrr・・・・。

車内に携帯の音が流れる。

「はい」
香は素早く携帯に出た。
「事務総長はいるかね」
低い声だった。
「どちら様ですか?」
「海原と言えばわかる」
香は相手の名前を伝えると事務総長に携帯を渡した。
心なしか彼の顔色が悪くなったような気がする。

「何!!!」
事務総長の声が尋常ではない様子を表していた。

「・・・槙村君、君に大事な話がある」
携帯を切ると事務総長は蒼白しきった表情で彼女を見つめた。





11,
僚と槙村は待ち合わせ場所になっているイタリアンレストランに来ていた。
新宿に位置するこの店は比較的手ごろな値段と、それ以上の味でOL達に人気があった。
「うひょ!もっこりちゃん!」
テ−ブルの回りに座るOL達に僚が舐めるような視線を送る。
「僚、コラ!やめろ!」
ただでさえ、男二人という組み合わせで目立っているのに、僚の行動はそれをより際立たせた。
店中から痛い視線を浴びながら、槙村は何とかして僚を止めようとしていた。
「えぇ−まきちゃんのケチ」
悪態をつきやっと大人しくメニュ−を見つめる。
「しっかし、おまえの妹、遅いんじゃないの」
待ち合わせの時間は30分程過ぎていた。
「きっと、仕事が押してるんだろ」
「仕事って?」
「国連で働いているんだ。今は確か、事務総長の秘書官補佐をやっていると聞いたぞ」
槙村の言葉に僚は胸が締め付けられる程のイヤな予感を感じた。
「・・・まさか、おまえの妹って・・・かお・・」
「ごめん!アニキ!」
僚が彼女の名前を口にしたと同時に後ろから声がかけられる。
「おぉっ!香!!」
槙村の口から出たその言葉に彼は彼女の顔見るまででもなかった。
「僚、俺の妹の香だ。香、俺の仕事の相棒の冴羽僚だ」
槙村に紹介され、二人は初めて顔を見合わせる。
「兄がいつもお世話になっています」
香は礼儀正しく、僚にお辞儀をした。
「・・・いやぁぁ」
僚はあまりの事で何と言ったらいいかわからなかった。
「あら?どこかでお会いしませんでした?」
僚の顔をじっと見つめ、香は不思議な感覚に襲われていた。
「いや、君に会ってのは初めてだがな」

スコ−プの中で俺が見つめていた事を除いては・・・。

「・・・そうですか」
「槙村、すまないが、急用を思い出した」
僚はそう言い椅子から立ち上がった。
「えっ、僚・・・」
唐突な彼の行動に槙村は不安そうに彼の名前を口にした。
「あの・・・」
僚が立ち去ろうとした時、香の声がする。
「またお会いできますよね」
その言葉に僚は悲しそうに笑みを浮べた。
「あぁ・・・」






12,
「どういうつもりだ!俺に親友の妹を狙わせるなんて!!」
海原とのいつもの待ち合わせ場所の公園に行くと、僚は怒鳴った。
「・・・おまえでも取り乱す事があるんだな」
海原は面白そうに僚を見た。
「・・・きさま。知ってて、俺に狙わせたな」
海原を鋭く睨みつける。
「いやぁ、全くの偶然だよ。私がそこまで性格が悪いと思うかね」
「思うから、言っているんだろうが!」
「心外だな。。。まぁ、これで、私の楽しみは増えたみたいだ」
その言葉に僚は海原の胸ぐらを掴む。
「言っておくが私を殺せば、義足に仕込まれている爆弾が起動するぞ」
「くっ」
海原の言葉に仕方なく、手を放す。
「俺にこの仕事はできない。他の奴をあたれ」
「最初に言ったがおまえに選ぶ権利はない。最後までやり遂げられなかった時はおまえの親友が死ぬだけだ。逃げようなんて事は考えない方がいいぞ。
うちの組織は世界中にあるからな、そして、今後も増え続ける」
「・・・逃げ場はないという訳か・・・」
「あぁ。そうだ。期限は後、5日。それ以内に女をやれなかったら、おまえの親友は死に、おまえも組織から命を狙われる」
海原はそう言い残すと、去った。
僚はベンチに座ったまま、頭を抱えていた。

「くそっ・・・。どうすればいいんだ・・・」









13,
「変わりないか」
槙村は心配するように目の前の妹を見つめた。
「えぇ。とっても順調よ。好きな仕事に就けたし、こうして、アニキにも会えたから」
そう言った香の瞳に不安が過ぎった事を槙村は見逃さなかった。
「・・・香」
優しく彼女の名前を呼び、彼女の手に自分の手を重ねる。
香は驚いたように槙村を見つめた。
胸が高鳴る。
ずっと彼に抱いていた恋心が再び彼女の心を占めていた。
「何?どうしたの?アニキ。そんな真剣な顔して」
茶化すように言葉を口にする。
「俺の目は節穴じゃないぞ。何か心配事があるんだろ?」
その言葉に香はハッとした。
「いくら10年ぶりの再会だからと言って、妹の心配事に気づかない程、俺は鈍感じゃないぞ」
妹を思う兄の目・・・。
昔から槙村は香の兄として彼女を見守ってきた。
香にとってそれは何よりもかけがえのないものでもあり、また辛かった。
彼女がどんなに思いを寄せていても槙村は彼女の事を妹しか見ていなかった。
例え血が繋がっていなくても・・・。
報われない恋だとわかっていても、槙村への気持ちは10年前と何一つ変わらなかった。
「・・・アニキ。大丈夫よ」
香は明るい笑顔を浮べた。
槙村はそんな香に歯がゆさを感じた。
兄として妹の身を案じるのは当然の事。
昔なら、何でも香は自分に言ってくれた。
それが、今ではこうして誤魔化そうとしている。
もう、自分の助けは彼女にとって邪魔なものなのだろうか・・・。
「香、どうして言ってくれないんだ」
槙村は淋しそうに彼女を見つめた。
重なり合った手に力が入る。
「昔は何でも話してくれたじゃないか」
槙村の言葉に香の中の何かが弾ける。
「・・・何でも?いいえ、違う」
香の言葉に槙村はショックを受けたように彼女を見つめる。
「私がどうして、アニキの元を離れたか知ってる?どうして日本に戻って来なかったか知ってる?」
苦しそうに言葉を並べる彼女を槙村は呆然と見つめた。
「アニキの事が好きだったから、兄としてじゃない。男としていつの間にか、好きになっていたから・・・。
だから、離れたかった・・・。こんな苦しい思いを抱えているのが嫌だったのよ!」
思いがけない彼女の告白に、槙村は何と言ったらいいのかわからなかった。

「・・・ごめんなさい。今のは忘れて・・・」
一生口にしないと思っていた気持ちを口にして、香はいたたまれず、席を立った。





14,
「・・・風邪ひくぜ」
雨の中を歩いている彼女に声がかかる。
「あなたは」
見上げるとレストランで会った男が傘を持って立っていた。
何だか急に力が抜け、彼女の瞳から涙が溢れる。

「・・・今夜はいろいろあったな・・・」
そんな彼女を抱きしめ、僚は呟いた。


その夜、新宿に降った雨は二人にとって悲しく、辛い夜を洗い流してくれているようだった。









                                                          <assassin3>

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