< Assaaain―4― >






22

「誰があなたの妹を狙っているかわかったわ」
冴子はそう言い、槙村に調査結果を渡した。
「・・・すまないな。冴子」
「あなたの頼みなら断れないわ」
穏やかな表情を浮かべ、槙村を見つめる。
まるで、恋人にでも向けるような表情で・・・。
二人の関係は友達以上恋人未満という言葉があてはまるものだった。
好きだ・・・。愛してる・・・。などと、互いに口にした事はない。

言葉にしなくても、互いの気持ちはわかっていた。
だが、槙村は冴子との関係を一歩踏み込めずにいた。
そんな槙村にじれったさを感じる冴子はしばしば僚に色目などを使って、
槙村をあおっていた。
僚もそんな冴子の女心を知ってか、知らずか、どんなに誘惑されても彼女を抱くことはしないでいた。

「・・・ガ−ドの方はどう?」
心配そうに槙村を見つめる。
「・・・中々、腕のいいヤツらしい。この間。ちょっとした撃ちあいをしたよ。あれは裏の人間だな」
静かにコ−ヒ−カップを口にし、呟く。
「・・・守りきれる自信はあるの?」
核心に触れるように言葉を口にする。
「・・・守ってみせるさ・・・この命を盾にしてでもな」
その言葉に冴子は悲しそうに槙村を見つめた。

自分はただ、こうして槙村の無事を祈っているしかできないのだと、感じる。
テ−ブルに置かれた槙村の手にそっと触れ、力強く握り締める。

「・・・死んだりしたら、許さないから・・・」
冴子にとって精一杯の言葉。
「あぁ・・・肝に銘じておくよ」
一瞬、愛しむように冴子の頬に触れると、槙村は席を立ち、喫茶店を後にした。


23
「何か用か?」
遠慮がちに叩かれる扉を開けると、香が立っていた。
僚は少し、驚いたように彼女を見つめる。
「あの、夕飯まだでしたら、ご一緒しません?」
香はそう言い、抱えていた買い物袋を見せた。
「アニキがあなたの所に行っててくれって言ったんです。あなたの所にいれば狙われる事はないから」

信用されている訳か・・・。
俺が暗殺者だと知ったら、槙村、おまえはどうする?

「あの・・駄目ですか?」
何も言わない僚に不安そうに見つめる。
「君の手料理が食べれるってわけか」
僚は穏やかな表情を浮べると、彼女を部屋の中に通した。
「美女の訪問はいつでも歓迎さ」


24

「アニキ・・・来るって言ってたのに」
出来上がった料理をテ−ブルに運び終わると、香は淋しそうに呟いた。
「何、ヤツならそのうち現れるさ。先に食べようぜ」
そう言い、香の料理にパクつく。
中々の味に僚の食は進む。
美味しそうに幾つもの皿をたいらげていく僚に、香はクスリと笑みを浮べた。
「・・・冴羽さんって、本当に美味しそうに食事するんですね。何だか、食べて頂けて嬉しいです」
香の言葉に思わず、箸を止め、彼女を見る。
そこには穏やかな表情で自分を見つめている彼女がいた。
何だか、温かいものが心の中に溢れる。
「僚でいい。敬語もそろそろやめてもらいたいな」
自然とそんな言葉が彼の口から毀れる。
「あっ、すいません。つい・・・」
「ほら、また敬語だぜ。香」
僚に”香”と呼ばれ、彼女は胸が大きく高鳴るのを感じた。
「じゃあ・・・僚・・・」
恥ずかしそうに口にした言葉に、僚の胸の中に知らない気持ちが流れる。



25
「すまないな。遅れて」
食事が終わり、香が食器を片付けている頃、槙村が現れた。
「おまえの分はもう残ってないぞ」
リビングで香にいれて貰った食後のコ−ヒ−を楽しみながら、僚が口にする。
「えっ・・・楽しみにしてたのにな」
少しがっかりしたように、僚を見る。
「あっ、アニキ、やっと現れたわね」
洗い物を終わらせ、香がキッチンから出てくる。
「少しだけ残っているわよ。アニキ食べる?」
香の言葉に槙村は嬉しそうに頷いた。
そんな兄妹の姿を見ていて、何だか僚は微笑ましかった。
自分が経験した事のない家族の温もりというものがこんなものだったのかと思えてくる。

「実は、おまえに頼みがあるんだが」
軽食を済ませ、槙村が僚に切り出す。
「何だ?また面倒な事じゃないだろうな」
「・・・香を泊めて欲しいんだ。もちろん、俺もここに泊まる。部屋ならいっぱい空いているだろ?」
その提案に僚は凍りついたように槙村を見る。
「ここなら、どこよりも安全だ。調印式が終わるまで・・・後、3日。香と俺を泊めてもらいたい」

そう、期限は後3日しかなかった・・・。
3日の内に彼女の命を奪わなければならない。
そうしなければ、目の前の親友は命を落としてしまう。

だったら、好都合じゃないのか・・・。
ここに泊めれば、少なくても夜は僚の手の中に標的はいる。

だが・・・。

「・・・僚、お願い」
答えに渋っていると、香がすがるように僚を見つめた。
「・・・あぁ。好きにすればいい。その代わり、俺は何の手も貸さないぞ」
香の瞳を見ていたら、そう言うしかなかった。
僚の言葉に槙村と香は嬉しそうに笑みを浮べた。

「さてと、僚ちゃん、そろそろ遊びに行ってくるから。後宜しく」
二人から逃げれるように、僚は部屋を出ていった。



26
「あっ・・・帰ってたんですか」
マンションの屋上に登ると、ほろ酔い加減の僚が新宿の景色を見つめていた。
「まだ、起きてたのか」
優しく、香に語りかける。
「何だか、寝付けなくて」
僚の隣に立ち、同じように景色を眺める。
「この街は大きく変わってしまったんですね。私が知っていた頃の新宿とは違う」
淋しそうに香が言う。
「淋しいな・・・物事には常に変化が生じる。人も、街も・・・少しずつ、変わりながら、皆破滅に向かっていく・・・。
永遠だと思えるものはこの世には何一つないのだと思い知らされる」
僚の言葉に香は瞳を細めて、見つめる。
「・・・あるわ。永遠だと思えるものが」
自信たっぷりに香が口にする。
「・・・人の思いだったり、愛だと呼ばれるものだったり・・・。確かに心変わりをする人もいるけど、消えない思いもある。
強い意志は人から人へと受け継いでいく・・・。時間を超えて、人を超えて、強い意志の元に成り立つ夢はいつか実現する」
迷いのない瞳で言い切る彼女が美しく、逞しく見えた。
「・・・それは、君が死んでもか?」
僚の言葉にハッとするように彼を見つめる。
「えぇ・・・。私がもし、今、殺されても、誰かがきっと意志をついでくれる。だから、私は怖くない」
真っ直ぐに僚を見つめる。
崇高な魂が宿る瞳に、心が揺り動かされる。

自分は何をしようとしているのだろう・・・。
この気高き瞳を持つ女の命を奪うというのか・・・。
後ろめたさが募り、思わず、彼女から視線を逸らす。

「何だか、偉そな事口にしゃった」
照れたように微笑み、僚を見る。
「・・・君は強いんだな・・・」
ポツリと呟き、新宿の街を見つめる。
「俺は人間の汚い所ばかり見てきた・・・。それが俺の住む世界だから・・・。目を逸らす事ができなかった」
知らずのうちに決して人に見せる事のない自分の心の中を口にする。
「耐えるしかなかった・・・。慣れるしかなかった・・・。そして、いつの間にか、俺もそんな世界に染まっていった」
「・・・僚・・・」
初めて見る、悲しそうな瞳に香は戸惑いを感じた。
「・・・俺はズルイ人間だよ。君とこうして一緒にいられる資格などない・・・」
そう僚が口にした瞬間、背中に温もりを感じた。
「・・・香?」
斜めに後ろを見ると、香が僚の背中を包み込むように抱きしめていた。
「そんな事ない・・・。あたなはとても温かい人よ・・・。私は知っている。あなたの心の中にある優しさを、温かさを・・・」
涙声で彼女が囁く。
その言葉に、僚は救われた気がした。
崖っぷちにいる自分を彼女が引き戻してくれる。
常に心の中にあった張り詰められていた緊張感がとかされていく。
知らずのうちに胸が熱くなり、思わず涙が浮かびそうになった。




27
「・・・これは・・・」
槙村は冴子に渡された資料を見つめ、信じられないものを見つけてしまった。
なんと香の命を狙っているのは世界最大の麻薬組織だった。
その組織のボスはずっとベ−ルに包まれていたが、槙村が貰った資料の中にはしっかりとボスの顔が写された写真と、
彼の最も信頼する男が一緒にいる写真が映し出されていた。

「・・一体・・・どういう事だ?」
槙村は軽い眩暈を感じた。


28 
「この写真を拡大して欲しい」
朝一番で冴子のオフィスを訪れ、槙村は厳しい表情で言った。
「どうしたの?朝から・・・」
ただならぬ様子の槙村に冴子は険しい表情を浮べた。
「・・・これを見てくれ」
そう言われ、槙村に写真を渡された。
そこには中年男性と一緒にいる男の横顔が写っていた。
だが、ピンぼけなのでその顔が誰なのかハッキリはしなかった。
「・・・誰かに似てると思わないか?」
槙村にそう言われ、じっと写真を見てみると、確かに、思い当たる人物が一人いた。
「・・・まさか・・・。他人の空似よ・・・きっと」
認めたくない事実を否定するように言う。
「・・・この男の顔を拡大すれば、別人かどうかわかるさ」
槙村は込み上げてくる怒りを抑えながら言った。







                    
                              <Assassin5>






本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース