Many Classic Moments
AUTHOR bluemoon

雪が降っていた。
気付いたら、辺り一面真っ白になっていた。
マヤはそんな中、一人公園で佇んでいた。
周りの騒音や喧騒なんて、全然耳に入ってない。
それよりも自分が今、立っているのか、座っているのかも分からない位に、
自分の心の中に入っていた。

(・・・どうして気付かなかったのかな?)
((自分が気付こうとしなかったからでしょ。))
マヤの心の奥底で、何かが聞こえてきた様な気がした。
(紫の薔薇の人、ううん、速水さんは、今思い返してみればサインを出していたわ。
自分は、紫の薔薇の人だって・・・。なのに、私は気付かないで恨み言、憎まれ口ばっかり・・・!!)
((違うでしょ、気付く気、全然なかったくせに。それよりも、気付きたくなかったくせに。))
また、何かが聞こえたような気がした。
マヤは、周りを見回した。誰かが自分に対して言っている様な気がしたから。
でも、周りにはマヤ以外誰も居なかった。
(・・・あの声は何?あれは、もしかしてもう一人の私・・・?もう一人の私が、私を批判しているの・・・?
でも、仕方ない。批判されても。許して・・・)
マヤは、心の奥底で聞こえてくる声に対して許しを得ようとしていた。

(・・・でも、あの梅の谷の時、そう、川を挟んで速水さんと会った時。私の体から私が抜けて宙に浮いて、速水さんに抱きしめられた・・・あれは、夢・・・?)
(確かに、私は速水さんに対して、酷いことした。本当は、速水さんの優しさに気付いていたのに・・・。でも、あの時、速水さんも同じ風に感じていたの・・・?
私を抱きしめてくれたの・・・?月影先生は、私が感じたことは相手も同じように感じていると言っていた。魂の片割れなら・・・ああ、神様、お願い!あの梅の谷のことは夢でありませんように・・・!私、あの梅の谷の事は夢であってほしくないの!)
マヤは、祈るように未だに降り続く雪を見上げた。

その時。
「何やっているんだ!!」
聞き慣れた、愛しい声。
マヤの体が一瞬、びくっとした。
声がした方へ振り向くと、傘をささずに立ちつくす真澄がいた。
「は・・・速水さん・・・何故・・・?」
マヤは、呆然としていた。やっとの思いで出した言葉だった。
「何故もへったくりもないだろう!!そんなことして、風邪でも引いたら・・・」
真澄は、怒鳴りながらマヤへ近づこうと歩き出した時、マヤは真澄に抱きついた。
「・・・マヤ・・・?」
真澄は、マヤの態度に困惑していた。
(君は、俺を恨んでいるんじゃ・・・?俺を嫌っているんじゃ・・・?)
真澄の頭の中では、そんな言葉がぐるぐると回っていた。
「・・・速水さん、私がこんなこと言ったら、あなたは困ってしまうかも知れない・・・
でも、でも、言わないと私が壊れてしまう!」
マヤは、必死に訴えた。
そんなマヤに、真澄はますます混乱した。
「壊れるって・・・?、それに困るって・・・?」
真澄が、やっと言えた言葉だった。
「速水さん、そばに・・・私のそばにいて!あなたじゃなきゃ、いやなの!!」
「!!!」
「あなたに、紫織さんと言うフィアンセがいるのは分かっている。分かっているけど、私は、速水さん、あなたの事、好きなの!」
そう言うと、マヤは泣き出してしまった。
「・・・マヤ・・・」
真澄は、マヤを愛おしく抱きしめた。
「速水さん・・・ごめんなさい・・・こんな事言って・・・」
マヤは、泣きながら言った。
そんなマヤが、ますます真澄は愛おしくなっていた。
それに、真澄の秘めた想いも隠し通せなくなっていた。
何故なら、永遠に叶わないと思っていた想い人からの愛の言葉を聞いたから。
「・・・マヤ、愛している。」
泣きじゃくるマヤに、真澄はそう言った。
「え?」
マヤは、耳を疑った。
(マヤ、愛している・・・?今のは、何・・・?)
((嘘よ、そんなの。単なる、慰めよ。))
間髪入れずに、マヤのもう一人の声も聞こえた。
マヤは、どれが真実なのか分からずに、混乱していた。
そんなマヤに、真澄は想いを伝えた。
「マヤ、俺は君の事がずっと好きだった。初めてあったときから、ひたむきな君を・・・愛している。マヤ。それに俺は、君がそんな風に想うとは夢にも思わなかった。
それよりも恨まれていると思っていた。」
「だから俺は見合いを・・・」
真澄がそう言った途端、マヤは真澄の唇を塞いだ。
(マヤ・・・!)
真澄は、マヤの態度に一瞬驚いたが、優しくマヤの唇を受け入れた。
二人にとって、とても甘いキスだった。
降り続く雪は、そんな二人をまるで祝福しているようだった。


「マヤ、家まで送ろう。」
真澄はそう言って、マヤの肩に手を伸ばしたが、
「嫌、もう少しだけ、そばにいて・・・」
と、マヤは言い、真澄の手を払った。
「でも、このままだと本当に風邪引くぞ。明日から、紅天女の舞台だろ?」
真澄は心配そうに言った。
(紅天女・・・)
マヤの頭の中に、紅天女がかすんだ。
「舞台に穴を開けてしまったら、月影先生が怒るだろう。」
真澄は、マヤの気持ちをなだめるように、優しく言った。
でも、マヤは舞台よりも、今この一瞬を大切にしたかった。
舞台は、これからもある。いくらでも。
でも、こんな風に過ごす時間は、こんな風に二人っきりで居る時間は、もう二度とない。
真澄は、この紅天女の舞台が終わったら、婚約者の紫織と結婚してしまうのだ。
「・・・速水さん、もう少しだけ、もう少しだけでいいの。そばにいて・・・」
マヤは、すがるような目で言った。
「分かった。そばに居るから、とりあえず車に乗ろう。このまま、ここにいると本当に風邪を引くぞ。それじゃ困るからな。いいな?」
真澄がそう言うと、マヤはこくっと頷いた。


「さて、どこへ行こうか?どこか食べにでも行くか?」
真澄はそう言って、車を動かそうとした。
が、マヤに阻止された。
「マヤ?」
「・・・速水さん、私、一つあなたに聞きたいことがあるんです。」
マヤは、俯いてそうつぶやいた。
「聞きたいことって?」
真澄は不思議そうに、マヤに聞いた。
「梅の谷で、紅天女の衣装を着た私と会った日のこと、覚えていますか?」
「梅の谷って・・・あ!」
忘れる訳がない。真澄も、実はマヤと同じように、梅の谷の事は夢だったのか、現実だったのか、未だに分からなかったのだ。
それに現実じゃないと否定しつつも、マヤと同じように現実であることを心の奥で祈っていた。
そんな真澄の反応に、すかさずマヤは言った。
「覚えているんですね。速水さん、あの時、何か感じませんでしたか?」
マヤは、真澄の驚いた反応を見て、すかさず聞いた。そして、言った。
「あの時、私の体から、私の意識が飛んで、速水さん、あなたに抱きしめられました。
私は、それが現実にあったような感じでした。でも、日が経つにつれ、それは夢なのかとも思う気持ちも出てきました。
でも、私は現実にあったって、夢じゃないって私は信じたい気持ちの方が強いんです。」
真澄は、そんな一途なマヤを抱きしめた。
そして、
「マヤ、俺も君と一緒だよ。俺も梅の谷で君を抱きしめた。今、君にしているように・・・それに、感覚も残っていた。あのことは、夢じゃない。」
と、マヤの髪を撫でながら言った。
「速水さん・・・」
マヤは、また泣き出してしまった。それは、悲しくてではなく、幸せすぎてだった。
「・・・俺達は、実は「魂の片割れ」だったんだな。」
「気付くまで、ずいぶん長い道のりだったな・・・」
真澄はそう呟くと、意を決したようにマヤを自分の方へ向けた。
「マヤ。俺は、君と永遠に、そばにいたい。俺も、君じゃなければ嫌だ。」
「速水さん・・・!」
真澄の言葉に、マヤは驚きを隠せない。
「紫織さんとは、婚約を解消する。でも、いつ相手が解消してくれるかどうか分からない。
でも、俺は、マヤ、君と一緒に居たい。身勝手な事、言っていると自分でも思っているが、待っていてくれるか?解消するまで。解消したら、結婚しよう。」
「速水さん・・・!」
マヤは、涙をこぼしながら真澄を抱きしめた。
「マヤ、すまない・・・苦しい想いさせてしまって・・・すまない・・・」
真澄も、マヤを優しく抱きしめて、そう言った。
そして真澄は、マヤに優しくキスをした。
離れていても、二人はそばにいるという事を確認するために・・・
明日から、がんばれるように・・・
お互い、心の中でそう誓った。
さっきまで激しく降っていた外の雪はいつしか止み、満月が二人を見つめていた。


・・・それから、5年の年月が過ぎた。
真澄のそばには、紫織ではなく、優しくほほえんでいるマヤが居た。
二人の左手の薬指には、銀色に光る指輪がついていた。


The end 



【Catの一言】
bluemoonさん、素敵なお話ありがとうございます♪真澄様の登場の仕方がめちゃめちゃ、Catのツボでした♪
あぁぁ。真澄様にしかられてみたい(笑)それに、ちょっと、積極的なマヤちゃん好きです♪

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