Fake Love 2



「これは・・・脳腫瘍か」
リョウはカルテと一緒に入っていたレントゲンを見つめた。
脳に大きな腫瘍が一つ、とても複雑な部分にできていた。
カルテには手術で除去する事はほぼ無理だと書いてある。
「余命三ヶ月というのは本当らしいな」
大きくため息をつく。
「・・・さて、どうするかな」




「今夜は芝居を観にいきましょう」
神乃は楽しそうに告げる。
「えっ?お芝居?」
香はきょとんとした表情を浮かべた。
「えぇ。きっとあなたも気に入りますよ」
という神乃の言葉に香はイブニングドレスを着せられ、劇場に連れて行かれた。
神乃の婚約者になって一週間が経つ。
その間にわかった事は彼は有名人である事と、多忙な人間だという事だ。
どこに行っても、車から降りれば記者たちがはっていて写真をとったり、彼にインタビューをしたりする。
そして、彼は慣れたようにマスコミを裁いていた。
毎晩のように、クラッシクのコンサートや、政財界のパーティに連れ出されていた香は少し疲れていた。
神乃は本当によく動く。これが余命三ヶ月と言われた病人なのかとは思えない程に。
彼が疲れたような所を香はまだ見ていなかった。
逆に、香が少しでも疲れた様子を見せると、"疲れましたか?"などと言い、彼女を気遣ってくれる。

「今夜もお仕事のお付き合いの為なんですか?」
一番いい観覧席に座り、隣の神乃に言う。
「いえ。今夜は純粋に芝居を楽しみに来ただけですよ」
神乃は柔らかい笑顔を浮かべた。

そして、場内が暗転し、幕が開く。
演目はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』だった。

「あら?」
ジュリエットが登場した時、その顔に香は見覚えがあった気がした。
考えるように彼女を見つめてみるが、気づけば芝居に引き込まれ、観客として香はその芝居を楽しんでいた。
芝居は最終場が終わり、ロミオとジュリエットの死で幕が下りる。
観客はみな立ち上がり、大きな拍手を送る。
場内は割れんばかりの拍手でなり響いていた。

「・・・香さん、行きましょう」
周りの客と同じように拍手をしていた香に神乃が口にする。
「えっ、でも・・・まだアンコールが・・・」
そう口にし、神乃を見てみると、いつもの穏やかな表情が消えていた。
初めて神乃のそういう表情を目にする。
「では、僕は先に車に戻っています」
そう口にし、神乃は客席を後にした。
そして、拍手に答えるように幕があがった。



「何だ、今夜はお姫様は一人か?」
神乃を追うように劇場のロビーに出てきた香に声がかかる。
「リョウ」
振り向くと、いつものラフな格好をしたリョウが立っていた。
「王子様に振られたか?」
可笑しそうにリョウが笑う。
「一体何しに来たのよ」
「芝居を観に来たのさ。但し、こっちは現実の芝居だがな」
「えっ?」
眉を潜め、リョウを見る。
リョウは意味深に口の端をあげた。
「ロミオとジュリエットは舞台の上だけじゃないって事さ。じゃあな」
すっかり?マークを浮かべている香にそれだけ告げると、リョウはその場を後にした。

「・・・何なのよ。あいつ。訳のわからない事言って・・・」
遠ざかるリョウの背中を見つめながら、香は一人呟いていた。




「今夜はすみませんでした。先に席を立ってしまって」
マンションに戻ると、神乃が口にする。
「少し、気分が悪かったものですから」
「・・・いえ、お気になさらず。それより、大丈夫ですか?」
香は心配するように神乃を見た。
「えぇ。もう、大丈夫です」
いつもの穏やかな表情を浮かべる。
「私はまだ仕事があるので、社の方に戻ります。香さんは先に休んでいて下さい」
そう言い残し、神乃は部屋を出て行った。

香は一人になると、窮屈なドレスを脱ぎすて、シャワーを浴びた。
そして、頭の中に今夜の舞台が浮かぶ。
今夜の芝居はとても素晴らしく、まだ胸の中に余韻が残っていた。

「あっ!」
ふと、香はある事を思い出した。
急いでシャワーから出て、バスローブを羽織ると、リビングに置いたままの今夜の芝居のプログラムを開く。
「・・・そうよ。彼女だわ!」
ジュリエット役の写真を見つめ、香の中である一つのパズルが繋がった。





「その辺にしたらどうだい?」
神乃が行き着けのbarで飲んでいると、誰かの声がした。
「えっ?」
グラスから顔を上げ、声のした方を見ると、見知らぬ男がカウンター席の彼の隣に座っていた。
「やけ酒は翌日に響くんじゃないかい?神乃さん」
「・・・君は・・・誰だ?」
鋭く男を睨む。
「ただのお節介焼きさ」
男はクスリと微笑み、目の前のバーボンを口にした。
「僕は今夜は一人でいたいんだ。消えてくれ」
不機嫌そうに神乃は煙草に手を伸ばした。
「一人、あんたのジュリエットに浸っていたいという訳か」
男の言葉に神乃の手が止まる。
「あんたのジュリエットは泣いていたよ」
男はそう告げると、テーブルの上に金を置いて、その場を後にした。





香はとあるマンションに来ていた。
時計を見ると、午後4時を指していた。
香が調べた所では、これから訪問する人物は今日はこの時間に戻ってくるはずだった。
マンションの前に車を止め、じっと帰りを待つ。
そして、待つ事、20分。彼女が現れるが、隣には香のよく知る人物がいた。

「リョウ!!!」
車から降り、思わず香は大声でその名を口にした。
「おっ、香。遅かったな」
リョウは香が現れる事を知っていたかのように少しも驚かなかった。
「冴羽さんのお知り合いですか?」
リョウの隣にいた小柄な女性が口にする。
「あぁ、まぁね。でも、響子ちゃんと程深い仲じゃないよ」
いつもの軽い調子で彼女に言う。
「・・・深い仲・・・」
リョウが口にした言葉に香は眉をピクリと引きつらせた。

「おまえは人が働いている間に何をしているんだ!!!!!!!」
"ジェラシー100%"と書かれたハンマーが香の手に突如出現し、その次の瞬間、リョウは道路に埋まっていた。



「・・・あの、冴羽さん・・・あのままにしておいて大丈夫なんですか?」
香を自分の部屋に通すと、彼女が心配そうに口にする。
「えぇ。いつもの事なんで、大丈夫ですよ。それより、響子さん、あいつに変な事されませんでした?」
響子が出した紅茶を手に持ちながら、彼女に聞く。
「・・・変な事だなんて。冴羽さんにはいろいろと相談に乗ってもらってとてもお世話になりました」
一瞬、響子の表情の中に寂し気な影が浮かぶ。
「・・・今日、あなたがここに来たのは、神乃さんの事ですか?」
香が何かを告げようとした瞬間、響子が口にする。
「・・・だったら、心配しないで下さい。私と神乃さんは何の関係もありません。神乃さんは私の事なんて何とも思っていないんです。
ただのお気に入りの女優と言うぐらいにしか」
響子の言葉に香はある想いを察した。
「あなたと神乃さん、とてもお似合いです」
響子はにっこりと笑みを浮かべた。
香にはその笑顔がどこか痛々しく見える。
しかし、何も言う事ができず、香は彼女の部屋を後にした。




「彼女の片思いだそうだ」
香が車に戻ると、ドアが開き、助手席にリョウが乗り込んできた。
「えっ?」
「神乃とおまえの婚約パーティの会場で響子ちゃんとは会ったんだ。
彼女は神乃に告げたんだ。好きだって。でも、彼は何も答えなかった。
返事の代わりをするように、おまえとの婚約発表のパーティに響子ちゃんは招待されたんだそうだ」
リョウの言葉に香は婚約パーティを思い出した。
香の記憶の中に鮮明に響子の姿が残っている。あの夜、彼女を見たのは一瞬だったが、何かを感じ取る事ができた。
だから、芝居のプログラムに載っていた写真から、響子を思い出す事ができた。
「・・・あんたの言っていたロミオとジュリエットって・・・神乃さんと響子さんの事?」
香の言葉にリョウは口の端を上げた。
「これは勘だが、神乃は響子ちゃんの事が好きだぜ、きっと」




「神乃さん、明日は私、行きたい所があるんですけど、付き合って頂けますか?」
香はマンションに戻ると、神乃に告げた。
「えっ?行きたい所?」
神乃は以外そうに眉を上げた。
「場所は明日になってからのお楽しみ。私が運転していきます。いいですね」
神乃に一言も挟ませずにそう言うと、香は満面の笑みを浮かべた。
「・・・はぁぁ・・・まぁ・・・いいですけど」
香に押し切られる感じで神乃は返事をした。

そして、翌日。

昼頃にマンションを出発してから、車を走らせる事、4時間、
香は神乃をある海岸に連れてきた。

「・・・着きましたよ」
香の言葉に神乃は驚いたように海辺を見つめていた。
「・・・ここは・・・」
この地は神乃にとって思い出深い場所だった。
「さぁ、行きましょう」
戸惑っている神乃の手を取り、香は彼と一緒に浜辺を歩いた。
「・・・潮風が気持ちいいですねぇぇ」
香は久しぶりに訪れた海に清清しい気持ちになった。
それとは正反対に神乃の顔色はあまりよくない。
「・・・調べたんですか。彼女の事・・・」
鋭い瞳で香を見る。
「えぇ。それが仕事ですから」
立ち止まり、香は神乃の方を向いた。
「あなたが私に婚約者をさせる理由が知りたかったんです。
そして、この間観た舞台に出ていたある女優とあなたの事を知りました」
神乃は哀し気な瞳を浮かべていた。
「あなたはある孤児だった女性をずっと匿名で援助していたそうですね。その女性は女優の南崎響子さん。
彼女の事、話してくれませんか?」
香は真っ直ぐに神乃を見つめた。
神乃は考えるように海を見つめ、小さくため息をついた。
「・・・負けましたよ。あなには」
苦笑を浮かべる。
「いいでしょう・・・私と、彼女の事をお話しましょう」







【後書き】
お待たせ致しました!!!いやぁぁ・・・ごめんなさい。こんなに間をあけるとは思いませんでした(笑)
このお話、後、1,2話で終わる予定です。
ガラカメを知っている方なら、もうお気づきかもしれませんが・・・。今回の依頼人神乃一樹さんのモデルは『ガラスの仮面』の速水さんです(笑)
そして、響子さんはマヤちゃんモデルになります。
一話を書いた時はそんなつもりはなかったんですけど・・・二話目を書き始めたら、すっかり速水さんとマヤちゃんになっていました(笑)
次回はそんなに間をあけずにアップしたいと思います。

ここまでお付き合い頂いた方、ありがとうございました♪


2002.5.31.
Cat

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