―――  同居物語 2 ――― 

「君はこの部屋を使ってくれ」
部屋に戻ると、真澄は客室用に空けていた部屋を彼女に差し出した。
眠り心地の良さそうな広いベットと、簡単な机が置いてあった。
「足りないものは、そうだな。明日は学校は休みだろ?」
同意を求めるようにマヤを見る。
「えっ、はい」
「じゃあ、買い物に行こう。必要なものを揃えないとな」
真澄の言葉に驚く。
「えっ、買い物って・・・いいです。そんな、私、身の回りの物、アパ−トから持ってきますから」
マヤが慌てたように言う。
「言っただろ?俺の要求は飲むって。俺は君の為の買い物がしたいんだ」
真澄の言葉になぜか、顔が赤くなる。
「・・・えっ、でも・・・」
恥ずかしそうに俯き、床を見つめる。
「俺のしたいようにさせてくれるんじゃなかったのか?」
いつもの意地の悪いような言い回しで、彼女に言う。
真澄の言い方に何だか、ムカッとする。
「わかりました!お好きにどうぞ!!」
訳もなく、マヤは大きな声で叫んだ。
側にいた真澄は、マヤの声に驚いたような顔を浮かべる。
「・・・ちびちゃん、元気なのはいいが。俺の鼓膜を破く気か?」
「あっ、すみません」
つい、出てしまった大声にマヤは自分でも驚いていた。
「ふふふ。まぁ、そんな所が君らしくていいんだかな」
優しい瞳で彼女を見つめる。
「えっ」
一瞬、真澄と視線が合う。
胸の中がドキリとする。
「じゃあ、俺はまだ、仕事が残っているから、社に戻る。好きに寛いでいてくれ」
そう口にすると、真澄は玄関に向かった。
何となく、彼を追いかけるようにマヤも玄関に行く。
「うん?」
所在なさげに、立っている彼女に視線を送る。
「・・・あの、何時にお帰りですか?」
もじもじとマヤが口にする。
「・・・そうだな。多分、日付が変わる頃だと思うが」
「そうですか」
真澄の言葉に何だか、がっかりする。
今夜はどうやら、彼とゆっくりと話している時間はないようだ。
「俺が帰って来るまで、無理して起きていなくていいぞ」
そう口にすると、真澄はドアノブに手をかけた。
「あっ、そうそう。リビングでなんて寝るなよ」
昨日の事を思い出しクスリと笑う。
「えっ」
その言葉にマヤは赤くなった。
「じゃあな、ちびちゃん」
そう言うと、真澄は部屋を出た。




彼がいなくなると、マヤはとりあえず、どんな部屋があるのか、見回った。
部屋はダイニングにキッチン、リビング、バスル−ムの他に五つがあった。
彼が使っているのは寝室用に一つと、書斎用に一つ、後は何も置いていない空き部屋だ。

「・・・本当、広い部屋だなぁぁ・・・」
一周し終わり、どれだけ自分と彼が住む世界が違うかを認識する。
「ここで、私、速水さんと暮らすのかぁぁ・・・」
何だか、まだ実感がわかなかった。
リビングに行き、ソファに座ると、何となく、テレビをつけてみる。
マヤの好きなドラマがやっている時間はとっくに過ぎていた。
あまり興味のないバラエティ−を何となく、見つめるが、すぐに気が散ってしまう。
そして、この部屋に自分が一人でいる事が急に寂しくなった。

「お風呂にでも、入ろうっと」
テレビを消すと、さっき、見つけた広そうなお風呂に向かった。

「へへへ。一度、やってみたかったんだよねぇぇ」
そう呟き、バスル−ムに行くと、浴槽にお湯を溜め、戸棚にあった泡風呂用のソ−プを入れる。

「何か、豪華」
湯が十分に溜まると、マヤは泡風呂に飛び込んだ。
「気持ちいい」
両手、両足を伸ばし、湯の心地にうっとりする。
普段銭湯通いの彼女にとって贅沢な事のように思えた。
バスル−ムを見回すと、全て大理石でできているようだった。
「・・・本当、ある所にはあるんだな。こんな生活・・・」
感心したように呟く。
マヤはたっぷり、一時間以上お風呂を楽しんだ。
客人用に用意してあった新しいパジャマに着替えると、喉の乾きを癒す為、冷蔵庫を開けてみる。
中は意外な程さっぱりとしていて、ミネラルウォ−タ−とオレンジジュ−スに缶ビ−ルぐらいしかなかった。
外食の多い真澄なら、当然かと思うが、何だか、部屋と冷蔵庫の中身が合っていなくて、寂しい。
そういえば、真澄が用意した朝食もどこからか調達してきたようなものだった。
「・・・こんなに広いキッチンなのに、もったいないな」
ミネラルウォ−タ−を取り出しながら、呟き、使った形跡がないキッチンを見つめた。






「水城君、悪いが明日は休みを取りたいんだが、調整はきくかね?」
帰り際に真澄が口にする。
「えっ」
休みが欲しいなんて、真澄からは滅多に聞けない言葉だったので、水城は大きく眉を上げた。
「・・・明日は、四菱銀行の頭取と、ゴルフが入っていますが・・・。
でも、多分。大丈夫です。先方には社長はお風邪を引いたという事にしておきましょう」
「すまない」
「いえ。社長のスケジュ−ルを調整するのも秘書の務めですから」
「ついでにもう一つ、スケ−ジュ−ルの事で頼みたいんたが、これからは週末はできるだけ休みを取るようにしたいから、
接待はあまり入れたくない。それに平日は9時ぐらいには退社できるようにしたいんだが・・・できるか?」
水城は真澄の言葉に今度こそ驚いた。
「・・・それは、完全にとは言えませんが、できるだけ社長の意向に副うようにします」
「ありがとう」
そう告げた真澄の表情が、いつもと違う気がした。
そういえば、ここ2日ばかりで、彼は変わった気がする。

まるで、恋人ができたような・・・そんな雰囲気だ。
恋人?まさか?真澄様が?
仕事が恋人だといつも言っている・・・彼が・・・。

水城は自分の問いにそんな事はあるはすがないと、軽く頭を振った。
それに、秘書がそこまで彼のプライベ−トな事まで考えてはいけないと思えた。
いつも通り彼が仕事をしてくれれば、彼女はそれでいいのだ。






「・・・速水さん、遅いなぁぁ・・・」
時計を見つめると、午前1時を過ぎていた。
マヤは寝付けずリビングでぼんやりとテレビを見ていた。
一人にはなれているはずなのに、さすがに部屋が広すぎるのか、堪らなく寂しくなってくる。
何だか、気を抜くと泣いてしまいそうだ。

コトン。

玄関の方で物音がする。
マヤはハッとし、横になっていたソファから飛び起きた。

「お帰りなさい!!!」
つい、つい、満面の笑みで彼を出迎えてしまう。
真澄はマヤが起きていた事と、嬉しそうに出迎えられた事に、瞳を見開いた。
「・・・まだ、起きていたのか・・・」
客人ように用意していた白いシルクのパジャマに身を包んだ彼女が可愛く見えた。
「何だか、寝付けなくて・・・」
真澄を見つめ、手に白い買い物袋を持っている事に気づき、何だか、普段の彼とイメ−ジが違い、可笑しく思えてくる。
「何だ?人の事じっと見て」
マヤの笑いたそうな視線に気づく。
「えっ、だって・・・何か、速水さんがコンビニの袋持っているなんて、似合わなくて」
口にすると、より可笑しい事のように思え、マヤはついに笑い出した。
「俺だって、コンビニぐらい行くさ。それに、我が家の冷蔵庫は空だったしな」
「持ちます」
そう言い、マヤは真澄から買い物袋を受け取ろうとした。
「いや、でも・・・」
躊躇ったように口にする。
「速水さんはシャワ−でも浴びてきて下さい。私が冷蔵庫に入れておきますから。こういう時こそ、同居人を使うべきでしょ?」
マヤの言い方があまりにも意地らしくて、真澄は買い物袋を持っている手をつい、緩めた。
彼から受け取ると、マヤはキッチンの方に向かった。




「・・・一体、彼女は俺の事、どう思っているんだろうか・・・」
シャワ−を浴びながら、彼女との会話を考える。
あまりにも無邪気な彼女の態度に、自分が彼女に憎まれている事を忘れそうになる。
頭を振り、そんな事はあるはずかない。俺は彼女の母親を殺した男だ。と、何度も自分に言い聞かせた。


「・・・お水ですか?それとも、ビ−ル?」
シャワ−から出て来た真澄にマヤが声をかける。
「えっ、あぁ。じゃあ、水を・・・」
リビングのソファに座り、濡れた髪をタオルで軽く拭きながら、彼女を待つ。
「はい。どうぞ」
真澄の前によく冷えたミネラルウォ−タ−を彼女が置く。
「あぁ。ありがとう」
受け取り、水を一気に飲み干す。
マヤは彼の隣に座ると、そんな彼の様子を見つめていた。
「・・・何だ?」
彼女の視線に気づき、呟く。
「・・・えっ、いや、何か、パジャマ姿の速水さんって新鮮だなぁと思って」
俯き、恥ずかしそうに口にする。
「いつも、速水さんス−ツだから・・・」
消えそうな声でモゾモゾと付け足す。
「はははは。新鮮か。なるほどな。俺も君のパジャマ姿には少し、驚いたよ」
真澄の言葉に思わず、彼を見る。
「えっ、そうですか・・・」
「それに、君がこんなに気が利くなんて知らなかった」
コップをテ−ブルの上に置き、クスリと笑う。
「・・・これぐらいの事、誰だってできますよ」
照れたように俯く。
「・・不思議だな。君は・・・。嫌いな相手にでも、無邪気な笑顔を浮かべたりする」
真澄の口から出た。”嫌いな相手”という言葉にハッとする。
「俺は君にとって、憎むべき存在なんだろう?どうして、そんな俺と一緒に住む気になった?」
真澄の言葉に自分でもどうしてだろうと思う。
確かに、速水は憎むべき存在。嫌いだと言い続けてきた相手なのだ。
なのに、こうして一緒にいる。
「・・・私、速水さんの事、確かに、嫌いだけど・・・でも、嫌いは嫌いでも、口で言っている程、嫌いじゃないんです」
マヤの言葉に胸の中が騒ぎ出す。
「それに、紫の薔薇の人には本当に心の底から感謝しているんです。
例え、見返りが目的だったとしても、いつも私を励ましてくれて、高校にまで通わせてくれて・・・」
感謝するような瞳で真澄を見つめる。
「・・・ずっと、ずっと紫の薔薇の人にお礼がしたいと思っていました。だから、あなたの要求に応えようって、思ったんです」
健気な彼女の言葉に真澄は自分が彼女に対して出した要求が後ろめたく思えた。
「・・・俺は、やはり、君に本当の事を言うべきではなかったな。ずっと、隠しておけば良かった」
視線を落とし、後悔するようにテ−ブルを見つめる。
「どうして?」
彼の言葉を否定するように告げる。
「私、嬉しかったです。あなたに名乗って貰えて、本当の事を言ってもらえて・・・」
真澄は彼女の言葉に軽く頭を振った。
「・・・嬉しい?そう思う前に幻滅しただろ?この俺が紫の薔薇の人だったんだ。君から母親を奪ったこの俺が・・・」
自分を責めるように口にする。
「・・・速水さん・・・」
マヤは何と言ったらいいのかわからなかった。

「・・・すまない。今日は疲れているみたいだ。もう、寝るよ」
そう告げると、真澄はソファから立ち上がり、寝室に向かった。






翌朝、真澄は大きな物音で目を覚ました。
「何だ?」
ベットから起き上がり、音のした方に向かう。
どうも、それはキッチンからしていたようだった。
「・・・何をしているんだ?」
真澄の声にマヤは驚き、振り向く。
「あれ、もう、起きちゃったんですか」
床に落ちた鍋を拾いながら、マヤが口にする。
「・・・あぁ」
時計を目にすると、午前7時だった。
「もう少し、寝ていて下さい。今日はお休みでしょ」
にっこりと笑顔を浮かべる。
「・・・えっ・・・そうだが。でも・・・」
心配そうにマヤを見つめる。
「いいから、寝てて下さい」
マヤは真澄の腕を掴み、無理矢理寝室に連れて行こうとした。
その瞬間、彼の胸がドキッとする。
「キッチンは大丈夫ですから、速水さんがもう一度起きた頃には、美味しい朝食ができていますよ」
彼女のなすがままに寝室に連れて行かれると、真澄はクスリと笑った。
「・・・なるほど、あの騒ぎは朝飯を作っていたという訳か」
「えっ・・・騒ぎって・・・はははは。何か聞こえちゃいました」
誤魔化すようにマヤが笑う。
「まぁ、いいか。君の言葉に甘えて、もう少し寝るよ。今度は大きな物音で目が覚めなければいいがな」
真澄の言葉にマヤは苦笑を浮かべた。
「大丈夫ですよ。じゃあ、お休みなさい」
真澄を寝室に入れると、マヤはそう言い、ドアを閉めた。

「一体、何ができるんだ?」
ベットに横になり、呟く。
マヤがキッチンで悪戦苦闘をしている姿が容易に想像できる。
真澄は自然と口元が緩んでいた。
「何ができるか、楽しみだな」




「よ−し。できた」
悪戦苦闘する事、二時間。
マヤはようやく、二人分の朝食を完成させた。
慣れないキッチンだったので、何度も鍋をひっくり返したり、皿を割りそうにもなったが、何とかなったようだ。
ダイニングテ−ブルに朝食を並べると、マヤは真澄を呼びに寝室に行った。

コンコン・・・。
ドアを叩き、声をかける。
「速水さん、できましたよ」
しかし、真澄からは何の反応もない。
「速水さん?」
もう一度、声をかけるが、やはり何もない。
「開けまますよ」
ドアを思い切って開けてみると、ベットの上で眠っている真澄の姿が目に入った。
「・・・本当に眠ちゃったんだ・・・」
真澄の寝顔を見つめる。
とても気持ち良さそうな彼の寝顔にマヤはクスリと笑みを零した。
そして、そっと、彼に寄り添うように自分もベットに横になる。
いつもよりも早起きをして、買い物に行ったり、朝食を作っていたりしたので、自然と瞼が重くなってくる。
「・・・少しだけなら・・・いいかな・・・」
マヤは軽く目を閉じて夢の世界に入っていった。




真澄は夢を見ていた。
それは子供の頃の夢で、まだ母と二人で暮らしていた頃の事だった。
優しい母に甘えるだけ甘える事ができたあの頃は真澄にとって幸せな時間だった。
夢の中で母は真澄が好きだった玉子焼きを作っていた。
その様子を真澄はわくわくした気持ちでじっと、見つめていた。
そして、時折、母と視線が合い、同時に微笑み合う。
そんな些細な事さえも幸せだった。

「・・・母さん・・・」

呟き、瞳を開けると、母の姿は消えていた。
夢だった事を知ると、胸の中が切なくなる。

「・・・眠ってしまったみたいだな」

ベットサイドの時計を見つめると、午前11時半を指していた。
久しぶりにゆっくりと眠れた気がした。
まだベットの中でぼ−っとしていたかったが、時計と反対の方を見た時、一気に真澄の眠気が覚めた。
「・・・ちびちゃん・・・」
何と彼の隣で穏やかな寝顔を浮かべているマヤの姿があった。

どうして彼女がここに?
思わぬ状況に頭の中が白くなる。
自分のベットに彼女が眠っているという事が彼の大人の欲求を刺激した。

「・・・俺は何を考えているんだ・・・」
強く頭を振り、浮かんだいかがわしい考えを頭から追い出す。

「・・・うん。速水さん?」
真澄が起きた気配を感じとったのか、マヤが目を覚ます。
「・・・やぁ」
ぎこちなく、彼女に応える。
「あっ、もう、11時半!」
マヤの目線に時計が入る。
二時間半も真澄と一緒に眠っていた事にマヤは驚いた。
「・・・ごめんなさい。速水さんを呼びに来たら、何だか、眠くなっちゃって・・・」
何だか、彼女らしくて笑いが込み上げてくる。
「・・・なるほど、どうりで、隣で大きないびきが聞えてくると思ったら、君だったのか」
からかうように口にする。
「えっ!私、いびきかいてました?」
驚いたようにマヤが言う。
「・・・あぁ。物凄い、大きいやつ」
真澄の言葉に恥ずかしそうに真っ赤になる。
その様子を見て、真澄は笑い転げた。
「ははははは。嘘だよ。ひっかかったな」
「えっ!嘘!騙したわね!」
ムッとしたようにマヤが叫ぶ。
真澄はマヤから逃げるように寝室を出た。
「あっ、逃げるなんてズルイ!」
真澄を追いかけるように走る。
二人は暫く、広い室内で走り回っていた。

「捕まえましたよ!」
真澄のパジャマの裾を掴み、少し息を切らしながら彼女が言う。
真澄はマヤに捕まりながらも楽しそうに笑っていた。
そんな真澄の無邪気な笑顔がマヤには眩しく見えた。
また、知らない彼の一面を見たようで、胸の奥がドキドキしていた。

「君には負けたよ。ちびちゃん。さて、そろそろ君の作ってくれた朝食が食べたいんだけどな」
真澄の言葉にハッとする。
「あぁ。そうだ。ご飯、冷めちゃったんだ。温め直しますから、少し待ってくれますか?」
マヤの言葉に真澄はクスリと笑い、頷いた。



マヤが用意した朝食はご飯、豆腐とワカメの味噌汁、玉子焼きに焼き魚が一つだった。
真澄は少し驚いたようにそれを見つめていた。

「・・・食べないんですか?」
箸をつけない彼にマヤが問いかける。
「・・・いや、何だか、懐かしくて・・・」
真澄が目にしたメニュ−は夢の中で母が作ってくれたものだった。
「・・・懐かしい?」
真澄の言葉に不思議そうに口にする。
「あぁ。ここ何年もこういう朝食は食べなかったから・・・」
「あっ、速水さん、和食よりも、洋食派でした?」
「いや、そんな事はない。和食は好きだ。とくにこういう素朴な家庭料理はね」
速水家の厨房では決して家庭料理は食べられなかった。
「いただきます」
そう口にし、真澄は懐かしそうに味噌汁を口にした。





午後1時頃になると、二人は部屋を出て、買い物に出かけた。
マヤが手にしていた物を次々と買う真澄の買い物ぶりに、マヤは驚いていた。

「・・・速水さん、そんなに買ってもらって悪いです」
人に何かを買ってもらうという事に慣れていない彼女は萎縮してしまう。
「気にするな。君が作ってくれた朝食のお礼だ。それに、俺は君の為に買い物がしたいと言っただろ」
既に両手いっぱいの荷物を抱えながら、真澄が嬉しそうに言う。
「・・・でも・・・これ以上、荷物が増えると大変ですよ」
マヤの手にもいっぱい紙袋が下がっていた。
「・・・それもそうだな・・・」
二人は顔を見合わせて笑いあった。
その日真澄が彼女の為に買ったのはパジャマから家具までと幅広く、どれもブランドものの値が張るものばかりだった。

日が暮れ始めた頃、二人はデパ−トを出ると、ドライブを楽しんだ。
運転する真澄を落ち着かないように、ちらちらと助手席のマヤが見つめる。

「・・・何だ?」
そんなマヤに真澄が声をかける。
「・・・いえ・・・」
呟き、マヤは視線を伏せた。
彼女はさっきから、胸の中がドキドキして仕方がなかったのだ。
今日一日一緒にいて、知らない彼を知る度に心の中がざわめき始めていた。
そんなマヤの心の内を知らない真澄は苦笑を浮かべていた。

「実はレストランを予約してあるんだ」
「えっ?レストラン?」
「あぁ。俺のお気に入りの場所だ」
そう言い、真澄が連れて来た店からは海が見えた。

「・・綺麗・・・」
窓の外から見える景色に思わず、口にする。
「中々いい眺めだろ?」
真澄の言葉にマヤは頷いた。
鮮やかな海の色に彼女の心はいっぱいになった。
思わず、涙が流れそうになる。
「・・・どうした?」
マヤの瞳に涙が薄っすらと浮かぶのに気づくと、心配するように見つめる。
「・・・嬉しくて・・・何だか。とっても嬉しくて・・・。こうして、速水さんと一緒にいる事が・・・」
涙を拭い、笑みを浮かべる。
その笑顔がどんな宝石よりも輝いて見えて、真澄の心を鷲掴みにした。
「・・・マヤ・・・」
そっと、彼女の頬に手を伸ばす。
「・・・俺も、君と一緒にいる事が嬉しいんだ・・・」
素直な気持ちを口にする。
今なら、全てを口にできそうな気がした。
「・・・マヤ、俺は、君を・・・」
胸の中の想いを真澄は言葉にするべく口を開いた。

次へ | メニュー


本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース