Jealousy










「マヤ!!」
久しぶりに仕事を早く切り上げ、真澄は嬉しそうに自分の部屋のドアを開けた。
が・・・。
様子がおかしい。
起きていれば玄関まで向かえに来る彼女が現れない。

あれ?もう、眠ってしまったのか?

そう思い、時計に目をやるがまだ、午後8時を回った所だった。
部屋の中を見回し、彼女を探すが、どこにも姿が見えない。

変だな・・・。
今日は確かオフで家にいると言っていたんだが・・・。

ポリポリと頭を掻きながら、考えを巡らす。

やはり、電話ぐらい入れておけばよかったかな・・・。

そんな事を思いながら、真澄は上着を脱ぎ、Yシャツにズボンだけの姿になるとソファ−に横になった。
マヤと久しぶりにゆっくりと過ごせると思って帰ってきたのに、大きく空振りしてしまい、何だか、淋しい気持ちに襲われる。

はぁぁ・・・。まぁ、いいか・・・。

必死でそう思わせ、目蓋を閉じる。
日頃溜まりきっている疲れがどっと押し寄せ、いつの間にか、真澄は眠りの世界へと落ちていった。


「・・・速水さん・・・」
午前0時を過ぎ、いつもならまだ帰ってきていないはずの真澄の姿をソファ−に見つける。
すっかりと、熟睡しているようで、気持ちの良さそうな寝息を立てていた。
久しぶりに見る真澄の姿に胸の中が切なくなる。
これから、自分がしようとする事への決意が崩れそうになる。

駄目。駄目よ・・・。マヤ・・・。

必死で理性にしがみつき、マヤは寝室に向かい自分の荷物をス−ツケ−スの中に詰め出した。

マヤがこんな事をするのに理由はあった。
事の起こりは1週間前まで遡る。

それは、マヤが偶然、ちょっと高そうな洒落たbarに連れていかれた時の事だった。
こんな店にはやはり真澄のような男が似合うのだろうな、なんて事を考えていた時に彼が現れた。
思いもよらない真澄との再会に嬉しくて、声をかけようとした瞬間、別の女性が真澄に声をかける。

「あら・・・真澄じゃない」
その一言でマヤの体が硬直した。
彼を”社長”でなく”速水さん”でなく、”真澄”と呼ぶ人物がいるのだ。
それも・・・かなりの美人。。。

「・・・杏子・・・」
驚いたように真澄も彼女の名前を口にする。
親しそうな呼び方に、またマヤの心が凍りつく。
二人は意味深に見つめ合っているように見えた。

一体誰なの?
速水さんと親しそうにするこの女性は・・・。

「・・・久しぶりね」
そう言い、女が真澄の隣に座る。
「あぁ・・・。そうだな」
「一人?」
「あぁ。まぁな。接待していた相手が急に帰ってしまったんでね。俺も帰ろうかと思っていた所さ」
「あら、そう・・・。だったら、もう一杯どう?奢るから・・・。昔の話をしない?」
相変わらず、自信たっぷりな笑顔を向ける彼女の美しさに、真澄は僅かに心がざわめくのを感じた。
「・・・いや、待っている人がいるから・・・今日は帰るよ」
代金をテ−ブルの上に置くと、真澄は席を立った。
「待って、忘れ物よ」
そう言われ、振り向いた瞬間、唇を塞がれる。
まるで一枚の絵ハガキの用なキスシ−ンに、マヤの胸はチクリと痛んだとともに、自分と真澄がつり合わない事をも実感させられていた。
これ以上、見ている事が辛くて、マヤは涙を溜めながらRest roomに駆け込んだ。


それから、一週間、毎晩、毎晩、帰らない真澄の帰りを一人、待ちながら彼女は疑心暗鬼にかかっていた。

彼が前よりも遅く帰ってくるような気がしていた。
この一週間で、真澄がまともにマンションに帰ってきたのは今日を入れて2日しかなかった。
まさか・・・あの女性の所に・・・。
真澄はもう、自分なんかの事は忘れているのではないだろうか?
”杏子”と親しそうに呼ばれた女性。
マヤより数段綺麗で、年も真澄と同じくらいに見えた。
マヤにないものを持っている大人の女性・・・。
真澄と一緒にいるのは、やはりああいう女性が一番似合う。
認めたくないけど・・・それは事実だった。

辛い思いが一気に溢れる。
毎夜、毎夜、帰らない人を待ちながら、涙にくれる日々。
いつの間にか、醜い気持ちがいっぱいになて、自分でも信じられない感情が心を占有し始める。

こんな想いをするなら真澄と離れよう・・・。
真澄と別れている方が数段楽だと、答えを出し、彼女は荷造りをしていた。
嫉妬にかられた醜い自分を真澄の前に曝け出す前に、彼女は逃げてしまいたかった。

「・・・さよなら、速水さん・・・」
眠っている真澄の唇にキスを一つ残すと、彼女はス−ツケ−スと一緒に部屋を出ていった。


真澄が異変に気づいたのは顔を洗っている時だった。
時々早朝トレ−ニングに行っているマヤに朝起きて、会わない事はあったが、ハブラシまで一緒にいなくなる事はなかった。
どこをどう探してもマヤのハブラシが見当たらない。。。
ハブラシだけではなく洗顔クリ−ムまでなくなっていた。

嫌な予感がする。

水道の蛇口をギュっと閉めると、慌てて寝室に向かう。
クロ−ゼットを開け。彼女が使っていたスペ−スを探す。

ナント!綺麗さっぱりに彼女の荷物はなかった。

力が抜け、ベットにペタリと座り込む。

「・・・マヤ・・・一体、どうして?」
口にして、考えてみる。

そういえば最近、仕事におわれていて、マンションに帰って来なかったなぁぁぁ。
最後にマヤに会ったのはいつだったのだろうか・・・。

彼女に淋しい思いをさせていた事は知っていたが、理解してくれてると思っていた。
これは俺の思い上がりか?

ついに彼女に愛想をつかされてしまったのだろうか・・・。

とにかく、彼女と話し合わなければ・・・。
そう強く、決意すると、マヤの携帯の番号にかける。

『現在お客様がおかけになった電話は電波が届かない場所にあるか、電源が・・・』
幾度かけても同じアナウンスが流れてきた。
真澄は携帯は諦める事にし、彼女のマンションに行く事にした。






「麗・・・暫く、泊めてくれない?」
早朝、マヤがス−ツケ−スを抱えて現れる。
眠い目をこすりながら、麗は目の前の出来事について冷静に頭を巡らせた。
「いいけど・・・速水さんと何かあったのかい?」
麗の言葉に途端にマヤが泣き始める。
麗はそんなマヤを部屋に入れ、好きなだけ泣かせる事にした。




「・・・えっ・・・マンションを引き払った?」
マヤが住んでいるはずの部屋にいくと知らない男が出てきた。
何がなんだかわからず、管理人室に飛び込むと、マヤはもう一ヶ月前にこのマンションを出ていた。
そういえば、彼女に言われた事があった。
ずっと、真澄の所にいるのだから、自分のマンションはもう必要ないと・・・。

迂闊だった・・・。
彼女はその時にマンションを引き払った事を俺に言おうとしていたのだ。
何よりも大切なマヤの事なのに・・・。
最近自分は彼女に甘えていた気がする。
忙しさに託けて、満足に会話もしていなかった。

自分が取り返しのない事をしていた事に気づき、胸が抉られる思いだった。






「・・・で、何があったんだ?」
ようやく、泣き止んだマヤに優しく麗が囁く。
「・・・速水さんが・・・他の女性とキスしていた所を見たの・・・」
マヤにゾッコンな真澄がそんな事をするなんて・・・。
麗は自分の耳を疑った。
「・・・それは、本当に?」
「・・・正確には、キスされていたのを見たの・・・」
「・・・そうか」
「その相手の女性、とっても速水さんに似合うの。美人で、大人で・・・。私とは正反対・・・」
「で、その事を速水さんに言ったのかい?」
麗の言葉にマヤは大きく頭を横に振った。
「まさか、マヤ。何も言わずに出てきたのかい?」
「だって・・・そんな事言ったら、醜い私が出てきてしまう。そんな姿速水さんには見せたくない」
「・・・どうして?」
「・・・それは・・・」
「嫌われたくないから・・・だろ?」
言葉を詰まらせていると、麗が彼女の心を見透かしたように言う。
「・・・麗・・・」
「・・・まだ、そんなに好きなのに・・・いいのかい?このまま速水さんと別れてしまって」
麗の口から出た”別れる”という言葉に急に現実感が増してくる。 
「・・・嫌、別れるなんてイヤ!できる事なら速水さんと別れたくない」
自分の言葉にハッとし、口を抑える。
「だったら・・・。ほら、速水さんの所に早く戻んなよ。戻って徹底的に話しておいでよ」
「・・・でも・・・」
「・・・マヤ、人を好きになるって事はね。綺麗な所だけを見せ合うだけじゃ駄目なんだ。本当に好きなら、放したくないなら、
自分の感情の全てを曝け出す必要だってあるんだよ」

「・・・麗・・・。でも、もう少し考えさせて・・・。速水さんとの事少し距離を置いて考えてみたいの」
麗の言いたい事はわかっていても、それをするだけの勇気が彼女の中にはまだなかった。
「あぁ。好きなだけいてくれて構わないよ」
麗はそんなマヤの気持ちがわかってか、優しい笑みを浮べた。






「・・・社長?」
昼過ぎ、ようやく会社に現れた真澄に、水城は驚いたように声をかけた。
「・・・何かございましたの?」
どう、見ても昨日、マヤと楽しんだようには見えなかった。
真澄の表情は暗く沈み込み、苦悩に満ちている。
「・・・別に・・・何もないさ・・・」
人を寄せ付けない鋭い瞳で水城を見る。
「そういえば、お客様がお見えになっています。応接室の方に通しておきました」
水城にそう言われ、仏頂面のまま、真澄は応接室の扉を開けた。

「あら、今日は機嫌が悪いのね」
真澄の顔を見るなり、女はそう口にした。
「・・・杏子・・何しに来た?」
怪訝そうに彼女を見つめる。
「今日はビジネスの話をしに来たのよ・・・。速水社長」
杏子はそう言い、脚本を真澄に渡した。
「・・・これは?君が書いたのか?」
パラパラとその内容に目を通しながら、口を開く。
「・・・いいえ。私の友人よ。中々面白い話なの・・・で、是非大都で映画化してもらえないかなと思って」
「・・・なるほど・・・。いいだろ。とりあえずこの脚本は預からせてもらう。そうだ。一週間後に、返事をしよう」
「えぇ。快いお返事待ってるわ。ところで、あなた女泣かせたでしょ」
突然の切り替えしに、真澄は吸っている煙草を落としそうになる。
「・・・何を・・・突然・・・」
「いいえ。正確にはあなたが泣かされたのかしらね。その顔にしっかりと別れたくない!って書いてあるわよ」
相変わらず、鋭い彼女の洞察力に、真澄は何と返事をしたらいいのかわからなかった。
「あなたがそんな表情を浮べるのなだから・・・。よっぽど、惚れていた女に逃げられたのかしら?」
可笑しそうに言葉を並べる。
真澄は何だか丸裸にされたような気分だった。
「・・・君の方こそ・・・。今も男を泣かせているんじゃないか」
「さぁ、どうかしらね」
白々しく言い、彼女も煙草を吸う。
「まぁ、お互いに痛い思いはしたからな」
吸殻を灰皿に捨てると、真澄は過去を思い出すように彼女を見た。
「・・・そうね」
真澄の言葉に苦笑を浮べる。
「じゃあ、一週間後に」
真澄はそう言うと、応接室を後にした。






真澄のマンションを出てから3日が経っていた。
心に浮かぶのは真澄に会いたいと思う気持ちだけだった。
芝居をしていても、役になっていても、気を抜くと、すぐに真澄の顔が浮かび上がる。

「・・・マヤちゃん、大丈夫?」
偶然テレビ局で桜小路に出会うと、彼は彼女のいつもと違う様子にすぐに気づいた。
「・・・大丈夫よ・・・」
作り笑いを浮かべる。
「・・・マヤちゃん、君は本当にカメラが回っていないと大根になるよね」
そんなマヤのわかりやすい演技に、桜小路は苦笑を一つ零した。
「・・・何かあったら、僕に話してよ。相談にのるよ」
変わらずいつも自分に優しくしてくれる桜小路に、マヤは胸が苦しくなる。
我慢していた真澄への恋しさが募り、マヤの目から涙が流れ落ちた。
そんなマヤを労わるように桜小路は抱きしめていた。

そんな二人の姿はあろうことに週刊誌のゴシップになろうとしていた。



それから3,4日経ったある日、水城は血相を抱えて社長室に現れた。
「真澄様、こんな記事が・・・」
水城が差し出した週刊誌には、マヤを力強く抱きしめている桜小路の姿が映っていた。
「・・・なっ・・・」
あまりの事に困惑する。
「幸いまだ発売はされていませんが・・・差し押さえますか?」
「あぁ。当然だ!大都の力をつかって何としても差し押さえろ!」
声を荒げて、週刊誌を机の上に叩き置く。
「それから、マヤを連れて来て欲しい・・・今すぐに!彼女の所属する事務所の社長として
用がある」
ついに真澄の中の何かが、キレた瞬間だった。

真澄はマヤがいなくなった日に、彼女の居場所をつきとめていた。
それでも、会いたい気持ちを必死で堪え、彼女には会わなかった。
いずれ、彼女の方が自分に会いに来るだろう。
それまで、待とうと思っていた。

しかし、週刊誌に載った写真は真澄のただでさえ狭くなっている許容範囲を超えたのだった。


「あら、また不機嫌なのね」
約束の時間に社長室に現れた杏子が真澄をからかうように言う。
「映画化の件だが、うちでやらせてもらう気になったよ」
彼女の言葉を無視して、本題に入る。
真澄としてはさっさと仕事を片付けて、これから来るマヤに意識を集中したかった。
「そう。よかった。引き受けてくれるのね」
「あぁ。後はうちの映画部のヤツと交渉してくれ、今来るから」
「・・・今日は何時にもまして冷たいのね」
真澄の態度に淋しそうに彼女が口を開く。
「・・・この後も仕事が詰まっているんだ。ただ、それだけだ・・・」
「そう・・・。相変わらず、仕事虫ね」
つまらなそうに言う。
「いつまでも、そうだと、好きな女に愛想つかされるわよ」
今の真澄にとっては痛い言葉だった。
思わず彼女から視線を逸らす。
「あら、図星だったみたい」
可笑しそうに笑い、真澄を見つめる。

コンコン・・・。

遠慮がちに扉が叩かれる音がする。
真澄が返事をしようとした瞬間、杏子のしなやかな長い腕が伸びてきて、真澄の首にかかる。

「・・・あの・・・速水さん・・・」
マヤが入った瞬間に目にしたのはテ−ブルを挟んで、重なる影だった。

「・・・どういうつもりだ!」
マヤの姿が視界に入ると、彼女をソファ−に突き飛ばす。
「あら、軽い挨拶よ。真澄」
そうだった・・・。
昔から彼女はこんなヤツだった。。。
真澄は頭を抱えて、彼女を睨む。
「悪いがな、冗談が通じないヤツもいるんだよ」
恨めしそうに言い、マヤの方を見つめる。

マヤは頭の中が真っ白になり、ただ、そこで立ち尽くしているしかなかった。
「あの、映画部の戸田ですが」
マヤが開けたままの扉からひょいと顔を出す。
「君の迎えが来たようだ。さぁ、行きたまえ」
冷たく杏子に言い捨てると、真澄はマヤの方に歩いていった。
そして、彼女が逃げないように強く手を握る。
「なるほど・・・その子が本命って訳ね」
真澄のあからさまな態度を目にすると、去り際に杏子はそう言った。

パタンっ

ドアは閉められ、社長室には真澄とマヤの二人だけになる。
マヤをソファ−に座らせると、重い沈黙が二人の間に流れる。
言いたい事はいっぱいあったのに、いざ本人を目の前にすると、胸が苦しくて言葉が出てこなかった。

なんて事だ・・・。速水真澄とあろうものが・・・。

自分を叱咤し、何とか口を開かせようとする。

「・・・今の人、お綺麗な人ですね」
一週間ぶりに彼女の口から聞いた言葉は、そんな他人行儀な言葉だった。
「速水さんと親しそうでしたけど・・・どんな関係なんですか?」
必死で抑えていた嫉妬心をゆっくりと口にする。
真澄の表情が心なしか、辛そうに見えた。
「・・・彼女とは何でもない・・・。君が心配するほどの関係じゃないよ」
真澄としてはできれば杏子の事は話したくなかった。
正直に話した所で、いらん苦しさを彼女に与える事になる。
「・・・心配するほどの関係って何ですか?」
全ての感情を表情から消し、まるで人形のような表情を浮べる。
こんなマヤを目にするのは初めてだった。
「やましい事がないなら、正直に隠さず言って下さい」
感情のもたない瞳で鋭く真澄を見つめる。
真澄はもはや逃げられないと思い、彼女との過去を話す事にした。
「・・・怒るなよ。彼女と付き合っていたのは、学生時代なんだから・・・。それも一年も続かなかったしな・・・」
煙草を取り出し、気を紛らわすように吸う。
「・・・過去に付き合っていた女性なら、キスとかも平気でするんですか?」
マヤは強く拳を握り、泣き叫びそうな自分を抑えていた。
「・・・望んでしたんじゃない。彼女にされたんだ。俺にそんなつもりは全くない」
「それは、速水さんに隙があったからじゃないんですか・・・barでも、ここでも・・・」
そんな事言うつもりはないのに、口が勝手に動き出す。
「bar?」
マヤの言葉にハッとする。
「私、見たんです。偶然速水さんがいるbarに入って、今の人にキスされていたあなたを。それも全然嫌そうじゃなかった。
・・・彼女のキスを受け入れていた・・・」
「・・・君が俺の部屋から出て行ったのは彼女の事が関係しているのか?」
マヤの相当深い嫉妬に、真澄はそう思うしかなかった。
図星を言われ、じっと真澄を見つめる。
「・・・私、怖かったんです。あなたの心が私から離れてしまったのではないかと・・・。待っていても帰って来ないあなたに・・・。
理性では仕事で遅いのだとわかっていても、あのキスを見てからは、もしかしたら、あの女の人の所に行っているんじゃないかと
思うようになっていたんです」
マヤの言葉に真澄は唖然とする。
「なっ、何を言っているんだ。知っているだろう。俺が愛しているのは誰か・・・。俺が遅くなっていたのは全て仕事だ。
疑うなら調べたっていい。彼女の事はもう過去の事だ。今じゃない!」
「・・・本当はわかっています。あなたが仕事で帰って来られなかったのだと、キスをしていたんじゃなく、されていたんだって・・・。
でも、でも、理性ではわかっていても、心がついていかないの。醜い気持ちがいっぱに膨れ上がって、私、凄く意地悪になっているんです」
自分にこれほどまでに強く嫉妬しているマヤに改めて、彼女の愛の深さを知る。

あぁ・・・。どうして俺は、仕事を放り出して彼女の元へ帰らなかったのだろう。
こんなに愛されているのなら、どうして、もっと彼女と一緒にいなかったのだろう。
こんなに愛しているのに、どうして伝わらないのだろう。

「・・・速水さん、私、不安なんです!あなたが私を愛してくれているのはやっぱり夢で、目が覚めると、あなたは私とは違う、大人の女性と付き合って
いるんじゃないかって・・・そして、結局は私のただの片思いで終わるんです」
不安そうに感情を露にする彼女を真澄は堪らず、抱きしめる。

こんなに愛しているのに・・・彼女にこんな思いをさせるなんて・・・。
俺はなんて馬鹿なんだ・・・。

「・・・私なんて、あなたには相応しくないです」
苦しそうに言葉を口にする彼女の唇に真澄の唇が重なる。
長いキスを重ねあいそっと唇を放す。
「もう、それ以上言うな・・・」
両手でそっと彼女の頬を包み、愛しむように彼女を見つめる。
「マヤ・・・。愛している。この気持ちは永遠に変わらない。俺がこんなにも人を愛したのは君が最初で最後だ」
真っ直ぐにマヤを見つめ、偽りのない言葉を口にする。
「・・・速水さん・・・」
「・・・愛してるんだ・・・マヤ・・・。君の事を思うと、胸が苦しくて、切なくて・・・俺は・・・俺は・・・」
辛そうに言葉を口にする真澄の瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。
頬を伝う一筋の涙にマヤは驚き、じっと、真澄を見つめる。

速水さんが泣いている。。。
私よりも11も年上で、大企業の社長をしている速水さかんが・・・。
いつも余裕たっぷりに私をからかう速水さんが・・・。

泣いている。。。

その涙は私の為?
私を愛してくれているから泣くの?

「・・・マヤ・・・俺から離れないでくれ。君がいない世界は辛くて、悲しくて・・・俺には生きていけない」
自分でも情けない事を言っているんだと思う。
でもこれが真澄の本心だった。
「・・・速水さん・・・」
真澄の言葉に、涙に、どんなに自分が愛されているかを気づく。
「・・・マヤ・・・愛してるんだ・・・心の底から・・・君が俺の元の戻ってくれるのなら、何でもする。だから・・・」
「速水さん・・・。私の方こそ、ごめんなさい。我が儘でした。あなたの気持ちを知らずに勝手に出て行って・・・ごめんなさい。ごめんなさい」
真澄の腕の中でマヤは償いの涙を流した。
真澄にこんな思いをさせている自分が許せなかった。






二人はピタリと寄り添ったまま真澄のマンションに帰った。
一週間ぶりに戻った部屋はマヤがいなかった為か生活感がなかった。

「・・・速水さん、ずっと、帰らなかったの?」
心配そうにマヤが聞く。
「あぁ・・・。帰っても君がいないからな・・・」
その言葉に真澄も淋しかったのだと、実感する。
「・・・ごめんなさい」
彼の首に腕を絡ませ、引き寄せるように唇を重ねる。
「・・・マヤ・・・」
彼女からのキスに愛しさが溢れる。
「淋しかった・・・。速水さんに会えなくて・・・淋しかった・・・」
素直な思いを口にし、真澄に強く抱きつく。
「・・・俺も淋しかった・・・」
二人は離れていた時間を埋めるように、夢中で唇を重ね、肌を重ねた。
愛しさを表すような、真澄からの一つ、一つの愛撫に、自分が愛されている事を強く感じる。
不安だった思いはどこかに消え、残るのは真澄を思う愛しさだけだった。



「ねぇ・・・杏子さんとも肌を合わせたの?」
体を繋げた後、真澄の腕の中でマヤが呟く。
その質問に、真澄の心から汗が流れる。
「・・・過去の事だ・・・」
ベットサイドに置いてあった煙草を手に取ると、口にする。
「・・・知りたいの。速水さんの事ならなんでも、過去も今も未来も・・・。もう、怒ったりしないから、
話して」
真澄の瞳をじっと見つめ、真剣な表情で聞く。
「・・・マヤ・・・」
彼女の純粋な瞳にまた、自分が彼女に惚れたのだと気づく。
「・・・いいだろ。そんなに聞きたいなら、彼女の事を話す。でも、本当に怒るなよ。昔の事なんだから」
彼女にしっかりと釘を指すと、マヤはわかったというように大きく頷いた。

「・・・杏子と出会ったのは、大学生の時だった。俺は初めて特定の女と付き合った。俺と杏子は似たもの同士だったんだよ。
全てが手の中にあるのに、無償に淋しくて・・・人生に何の意味も持てなくて・・・。だから、抱き合う事でその淋しさを埋めていたんだ。
だが、二人とも、かなり我が儘だからな。付き合ってから、半年で別れたよ。厳密に言えば、彼女に捨てられたのかな」
真澄の言葉にマヤは驚いた。
「・・・捨てられた?速水さんが・・・」
「あぁ。他の男とベットにいるのを見てしまってな。つい、感情的になって責めたら、もう終わりだと言われたよ。彼女が一人の男で満足できないのは
知っていたが・・・さすがの俺も目の前で見せられてはな」
苦い思い出に真澄は切なそうに瞳を細めた。
「・・・速水さん、杏子さんの事愛していたんだね」
マヤの口から出た”愛”という言葉にハッとする。

そうか・・・。確かに、あの時の俺は彼女を愛していたのかもしれない・・・。
マヤを愛するのとは違う感情で・・・。

今更になって自分の気持ちに気づき、真澄は苦笑を浮べた。

「俺が愛しているのは君だけだよ・・・。マヤ・・・」
煙草を灰皿に置き、彼女を抱きしめる。
「・・・こんな話して本当によかったのか?」
不安そうに彼女を見つめる。
「・・・うん。昔の速水さんが知れて嬉しいです。・・・でも、やっぱり、ちょっと胸が痛むかな」
少し悲しげな笑みを浮かべる。
その表情に真澄の胸はキュンとなる。
「・・・マヤ。忘れないでもらいたい事がある。どんなに離れていても、どんなに会えなくても、喧嘩をしても。俺はいつだって君の事を考えている。
君だけが俺の心の中にいるんだ。君が愛しくてたまらない・・・君と出会ってから、ずっと俺の心の中は君でいっぱいなんだ」
熱い眼差しでマヤを見つめる。
「君がいつか俺の側から離れてしまっても・・・俺はきっと君を愛し続けるだろう」
真澄に見つめられ、胸の中が愛しさでいっぱいになる。
気持ちがいっばいになって、涙が溢れる。
「・・・速水さん、ズルイ。私だって、速水さんに負けないぐらいに、あなたの事愛しているんだから」
涙を流しながら、冗談ぽく、口にする。

苦しさも・・・。
辛さも・・・。
恋しさも・・・。
愛しさも・・・。

みんなあなたが私に教えてくれた気持ち・・・。
これから先もきっと、あなたへの気持ちが大きくなって、息ができない程、苦しくなるかもしれない・・・。

でも、それでも、私はあなたの側にいたい・・・。
あなた側にいられない事が何よりも辛いから・・・苦しいから・・・。

「・・・速水さん、私、一生あなたの側から離れらない・・・。それでも、愛してくれますか?」
笑顔が消え、真澄を見つめながら呟く。
「・・・マヤ・・・。もちろんだ」
真澄は嬉しそうに力強く、彼女を腕の中に閉じ込めた。

そして、恋人たちの熱い夜が再び始まる。
マヤは嫌という程真澄の愛を全身に浴びるのだった。








                             THE END


【後書き】
今回はマヤちゃんの嫉妬を書いてみました。
ガラかめって書き出すと止まらなくなるんですねぇぇぇ♪
何だか、まだまだ、書きたくて仕方がありません。。。
相当ガラかめに対して自分がストレスを感じていたのだと、改めて気づきました(笑)

まだまだ、恋人な真澄様とマヤちゃん書くつもりです♪
やっぱり、勢いがある内に書かないとね(笑)


ここまでお付き合い頂きありがとうございました♪♪



2001.8.31.
Cat


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