七年目の片思い





「あっ!速水さん!」
そう呼ばれて、振り向くと、そこには愛しのマヤの姿があった。
「・・・ちびちゃん」
嬉しい偶然につい笑みが毀れてくる。
ここは、銀座にあるとあるクラブだった。
以外な場所での出会いに、つい、じっと見つめてしまう。
「どうして、ここに?」
「演出家の先生たちに連れて来られたんです。速水さんはお付き合いか何かですか?」
幾分、アルコ−ルの入った柔らかな表情でマヤが答える。
「・・・あぁ、まあな」
「そう言えば、お久しぶりですね。速水さんとこうして顔を合わせるの」
少しはにかんだ表情でマヤが言う。
確かにこうしてまともに出会うのは一月ぶりぐらいだった。
最後に会ったのは紅天女の舞台だった。

「・・・北島くん、どうしたの?」

マヤが真澄と話していると、演出家の一人がマヤを呼ぶ。
「あっ、そろそろ行かないと・・・では、また」
真澄が引き止めようとした瞬間、マヤは席に戻ってしまった。
「あらら、速水さんふられたんですか?」
淋しそうな真澄に店のママがからかうように言う。
「・・・えっ」
「何だか淋しそうですよ」
「・・・気が変わった。今夜はもう少しいるよ。席をあそこに移してくれないか?」
真澄はそっとマヤたちが視界に入る席を指した。

あの子ももう酒を飲む歳になったんだな・・・。
出会った時は本当に子供で・・・。
演劇以外とりえがなくて・・・。

マヤをそっと覗き見しながら、真澄はそんな事を考えていた。

いつも人の事毛虫かゴキブリみたいに見て・・・。
でも、かわいかったなぁぁ・・・。
俺の言葉に一々反応して、頬を膨らませる彼女。

表情を緩めながら、店の女の子に作って貰った酒を口にする。

それが、今では幻の名作と言われる紅天女を演じる程の女優になった。
女性としても落ち着いてきて、今日なんて、俺にあんな笑顔を見せるようになって・・・。

切なそうに瞳を細め、マヤをじっと見つめる。

もう、あの子は女なんだな・・・。
ずっと、彼女が大人になるのを待っていた気がする。
でも、だからといって・・・俺はどうする気なんだろう・・・か。

真澄は小さくため息をついた。
マヤにまだ思いを告げる準備はできてはいなかった・・・。


「北島くん、あそこにいるのはもしや、大都芸能の速水社長かい?」
マヤのグル−プの中の一人が気づく。
「えっ、あっ、はい」
「気づいているかい?さっきから、彼、君を見つめているよ」
俳優の一人が面白そうにマヤに言う。
「えっ・・・速水さんが・・・」
頬を僅かに赤らめ、チラリと真澄の方を見ると、確かに、こっちを見ているようだった。
そして、視線が重なる。
その瞬間にドキッとし、マヤは思わず、視線を外した。
「やだな。新木さん、酔ってるんじゃないですか?速水さんが私の方を見ている訳ないじゃないですか」
動揺を隠すようにマヤはグラスを空け、笑った。
本当は真澄の視線を痛い程感じて身動きもとれない程、ドキドキしていた。
「よかったら、速水さんも誘って一緒に飲んだら?」
飲みながら誰かが提案する。
「あぁ。私も賛成だ。彼とは話してみたかったからね。唯一社長と面識のある北島くん、誘ってきてくれないか?」
グル−ブの中心である演出家の篠山がマヤに言う。
「えっ、でも・・・速水さんに・・・迷惑じゃ・・・」
「いいから、いいから」
皆酔った勢いで、マヤを仰いだ。
マヤはその勢いに乗せられ、仕方がなく真澄の元に行く事になった。


「・・・あの」
見つめていた彼女が突然、真澄の目の前に現れる。
真澄は思わぬ距離に心臓がギュッと握られたようだった。
「何かな?ちびちゃん」
グラスを口にし、真澄が答える。
「今日来ている皆さんが一度速水さんと話してみたいって・・・それで、よかったら、一緒に・・・」
もじもじとしながら、マヤが言う。
「あの、迷惑じゃなかったらでいいんです。無理には・・その、お誘いしませんから」
自信のなさそうに言うマヤについ笑みが浮かぶ。
「何ですか?また人を馬鹿にするように笑って」
真澄の笑いに気づき、少し、ムッとしたように言う。
「いや、失礼。あまりにも君が遠慮がちに誘うから・・・」
苦笑を漏らしながら、真澄が言う。
「そのお誘いに乗りたい所だが、君のお仲間たちはもう帰ったようだよ」
「えっ」
真澄の言葉に驚き、振り向くとマヤたちの席にいたものは綺麗さっぱりに消えていた。

やられた・・・。

心の中で呟く。
マヤはどうしようと不安そうな表情になる。
「よかったら、俺と一緒に飲まないか?」
所在なさげなマヤに助け舟を出すように真澄が言う。
「まぁ、無理にとは言わないが・・・な」
「・・・無理にだなんて・・・その・・・はい。一緒に飲ませてもらいます」
マヤはパニックになりながらも、何とか答える。
その様子が可笑しかったのか、また真澄が笑い出した。

「速水さん一人だったんですか?」
ようやく、気持ちを落ち着かせ、真澄の隣に座りながら、マヤが口開く。
「いや、10分ぐらい前までは接待相手と飲んでいたんだがな・・・話もまとまったし、帰ろうって事になったんだよ」
マヤに手馴れた様子で酒を作りながら、真澄が答える。
マヤが来てから当然、真澄は店の女の子を外したので、このテ−ブルにはマヤと真澄の二人だけだった。
「でも、速水さんは残った?」
「あぁ。帰ろうとしたら・・・君に会ったからな」
「えっ」
真澄の言葉にマヤは驚いたように見つめた。

しまった・・・。つい、本音が・・・。

酔っているせいか、どうも、口が自然と動いてしまうようだった。
「ゴホンっ、ところで、次は映画をやるって聞いたが・・・」
軽く咳払いをし、誤魔化すように違う話題を口にする。
「あっ、速水さん今、誤魔化したでしょう?」
酔っているマヤはここぞとばかりに真澄に言った。
「・・・なっ、何の事だ」
そ知らぬ顔をし、マヤに酒を渡す。
「まぁ、いいです。これ以上聞かないでおきます」
真澄の作った酒を飲みながら、マヤがクスリと笑う。
そんな表情にもため息が出る程、女の色香を感じてしまう。
「何だか、速水さんとこうして飲んでいると、ホスト囲っているみたいで、楽しいです」
ケラケラと笑いながら、マヤが言う。
「・・・ホスト・・・」
その言葉に真澄は唖然とした。
「だって、速水さんって、顔立ち綺麗だし、長身だし、社長にしとくのちょっともったいないですよ・・・」
「君にそこまで買われていたとはな。では、お嬢様、もう一杯、どうです?」
そう言い、マヤの為にまた酒を作る。
「・・・きゃは。ありがとう。ま−くん」
完全に酔っ払ったマヤは恐い物なしだった。
真澄は真澄でマヤに親し気に”ま−くん”と呼ばれて悪い気はしなかった。
「ま−くんってお芝居好きなのに、自分で演じてみようって気にはならないんですか?」
もう、マヤの中では完全に”ま−くん”になっていた。
「・・・そうだな。そんな事チラリとも思わなかったな」
マヤの呼び名に苦笑を浮かべながら答える。
「・・・どうして?」
不思議そうに真澄に聞く。
「ま−くんなら、俳優としても成功すると思うのに」
「・・・その、ま−くんって・・・そろそろやめてくれないか」
くすぐったそうに真澄が答える。
「私の質問に答えてくれたら、やめてもいいですよ。ま−くん」
真澄の頬が段々赤くなる。
マヤは甘えるように真澄の腕にしがみつき、肩の上に頭を置いた。
抱きつかれた腕は微かにマヤの胸に当たり、アルコ−ルのせいだとは思えない程、真澄の頬を赤くした。
「あれ?速水さん、顔が赤いですよ。熱あるんじゃないですか?」
真澄に益々近づき、自分の額と彼の額を合わせる。
「えっ・・・いや・・・その・・・」
珍しく真澄が歯切れ悪くなる。
「う・・ん・・・わかんないや。はははは」
額をくっつけながら、マヤが無邪気に笑う。
そして、ふと、マヤが真剣な表情になる。
「・・・速水さん・・・私・・・」
「えっ」
マヤの表情にドキッとする。
真澄が戸惑ったように彼女を見つめていると、そっと、唇が重なった。
マヤからのキスに真澄の瞳が大きく見開かれる。
「はははは。キスしちゃった」
唇を放し、マヤがまた笑い出す。
「・・・速水さん、隙あり!ですよ」
陽気にそう言い、マヤは酔いが回ったのか次の瞬間には真澄に寄りかかるようにして眠ってしまった。
「・・・全く・・・この子は・・・」
真澄はマヤの寝顔を見ながら、嬉しそうに笑った。

君は本当に俺を戸惑わせるな・・・。
俺は君には、全く歯が立たないよ・・・。
これも、惚れた弱みかな・・・。


「あら、お連れの方眠っちゃったんですか?」
真澄がマヤを見つめながら感傷に浸っていると店のママが現れる。
「あぁ。みたいだな。そろそろ店を出るよ。タクシ−を呼んでおいてくれ」
「あっ、はい。お連れの方はどうするんですか?」
「俺が送っていく」
「・・・送り狼にならないで下さいよ」
ママの言葉に思わず、頬が赤くなる。
「ゴホンっ。誰がこんな子供相手に・・・」
軽く咳払いをし、少しムキになって答える。
いつものク−ルな真澄とは違う反応にママはクスリと心の中で笑っていた。





「あれ?ここは?」
見慣れない部屋のベットの上で、マヤがようやく目を覚ます。
「ホテルだ」
真澄がマヤの前に現れる。
「へっ」
その言葉に急にマヤが赤くなる。
マヤの反応に何だか後ろめたくなる。
「・・その、君が酔って眠ってしまったから・・・そのまま家に送って行く訳にもいかなかったし・・・。
言っておくが、下心はないぞ」
少し早口に一気に真澄が言う。
「やだ、そんなのわかってますよ。速水さんが私に対して、下心なんて・・・」
可笑しそうにマヤが笑い出す。
「女扱いなんてされていないって事は百も承知です」
笑いながらではあるが、そう言ったマヤの表情がどこか寂し気に見えた。
「何だか、ご迷惑かけちゃいましたね」
マヤはベットから起き上がり、真澄に申し訳なさそうに言った。
「どこに行く気だ?」
「えっ、家ですけど・・・」
当然のごとくマヤが言う。
「もう、午前3時だぞ。電車は止まってるし、タクシ−だって、あまりないぞ。今日はここに泊まりなさい。その方が睡眠がとれる」
真澄はできるだけ、いつもと変わらないように言った。
「えっ、でも・・・ここダブルベットでしょ?どっちがベットで寝るっていう話になりますよ」
マヤに言われた通り、この部屋はダブルべットだった。
今夜に限ってここしか部屋は空いておらず、マヤがすっかりと眠っていたから、真澄は構わないと思っていた。
「俺はそこのソファ−で眠るから、君がベットを使えばいいだろう」
「そんな・・・速水さんが取った部屋なんだから、速水さんが使って下さい。明日もお仕事で忙しいんでしょ?速水さんの方こそ睡眠とらないと」
「・・・俺の事は構わない。どこでも眠れるから」
「あら、私だって、どこでも眠れますよ」
「強情っぱり」
真澄が呟く。
「速水さんこそ、意地っ張り」
二人はそう言い合い、顔を見合わせて笑った。

「あっ、そうだ。ダブルなんだから、別に一緒に眠ればいいじゃないですか。別々に眠らなくてもいいと思いますよ」
まだアルコ−ルが残った頭でマヤが言う。
「えっ」
真澄が大胆なマヤの提案に固まったようにベットを見つめる。

マヤと同じベットで・・・寝る・・・。
いかがわしい想像が一瞬、脳裏に過ぎった。

「だ、駄目だ・・・それだけは!君は嫁入り前の娘なんだぞ!」
真澄の訳のわからない言葉にマヤがクスリと笑う。
「何言ってるんですか。さぁ、寝ましょう」
真澄の手を引っ張ってマヤはベットに倒れ込んだ。
まだ酔いが残っている真澄も簡単にマヤの上に倒れ込む。
柔らかい、マヤの感触を感じる。
頭の中が白くなる。
「・・・速水さん、ちょっと、重いかも・・・」
真澄が呆けていると、マヤが少し苦しそうに言う。
「えっ、あっ、すまん」
慌てて、マヤの横にずれる。
二人は並ぶように横になる。
「・・・男の人とこうして、眠るのっていいなぁ」
マヤがポツリと呟く。
「何か、お父さんと眠っているみたい」

お父さん・・・。

その言葉に自分がかなり信用されていると知ると、嬉しくもあり、落ち込みたくもなった。
「速水さん・・・手繋いでいいですか?」
甘えたようにマヤが言う。
「えっ・・・あぁ、別に構わないが・・・」
そう言い、手を差し出す。
「速水さんの手って大きくて、温かい・・・」
しっかりと真澄の手を握りながら言う。
「そう言えば・・・随分前にもそんな事、思ったけ・・・。あれは雪の日で、赤信号なのに、
道路に飛び出しそうになった私を速水さんが・・・抱きしめてくれて・・・」
マヤはそこまで口にするとス− ッと気持ち良さそうに寝息を立てた。
とても穏やかな寝顔を浮かべる。

「・・・人の気もしらないで・・・」

少し恨めしそうに呟く。
「・・・はぁぁ・・・。今日の所はお父さんでいるか・・・」
マヤの寝顔をじっと見つめる。
「彼女に片思いを募らせる事、七年と少し・・・年季が入っているんだ。これぐらい、我慢、我慢」
真澄は自分の理性に言い聞かせるように口にする。

そして、いつの間にか、真澄も眠りについていた・・・。





                         THE END


【後書き】
すみません。このお話製作時間2時間です(笑)
何となく、軽いものが書きたくなって、PCを見つめていたら、訳のわからないものができてしまいました。
これこそ・・・駄作中の駄作かも(笑)
まぁ、軽く流しといて下さい。

ここまで、お付き合い頂き、ありがとうございました♪

2001.10.25.
Cat




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