紅 天 女 -13-


「・・・そうか。大都では上演したくない・・・か」
水城からの報告に悲しそうに瞳を細める。
「はい。ですが・・・。まだ、どこで上演するかは決めていないみたいです」
「引き続き・・・彼女との交渉を頼む。何があっても大都で上演させるんだ」
鋭く水城を見つめる。
「・・・はい、かしこまりました」
そう告げると、水城は社長室を出た。

マヤ、おまえは俺の顔なんて見たくないだろうな・・・。
きっと、俺を憎んでいるのだろうな・・・。

煙草を取り出し、口にする。
ため息とともに、煙を吐き出した。






「・・・大都で上演したかっんじゃないの?」
桜小路が不思議そうにマヤに言う。
「・・・うん。でも・・・」
複雑な表情を浮かべ、微笑を漏らす。

マヤの中には相反する気持ちがあった。
一方では大都で上演したいと思うが、他方では絶対にはそれは嫌だと思う。
その想いは両方とも強く・・・いくら考えて答えが出ない。

「・・・月影先生の事を考えると・・・大都で上演できないでしょ」
ポツリともっともらしい理由を述べる。
「・・・でも、今の上演権の持ち主は君だよ。君がどこで上演させるかは自由なんじゃないかな」
「・・・桜小路くんは大都で上演したいの?」
マヤの問いかけに一瞬、考えるように黙る。
「そうだな・・・。僕は君が上演したいと思う所ならどこでもいいよ。僕は一真さえ演じられればいかな」
「・・・私もそう。本当はどこでもいいの。紅天女さえ演じられれば・・・でも、それだけじゃ、駄目なんだよね」
ため息を漏らし、きつく瞳を閉じる。
その瞬間、真澄の辛そうな顔が浮かんだ。

マヤにはわかっていた。
あれが彼の本心ではない事を・・・。
自分に彼を忘れさせる為に言った事なのだと・・・わかっていた。

いや、そう思いたかった・・・。
あれが彼の本心だとは思いたくなかった・・・。






「・・・潰せ!」
珍しく大都芸能に現れた英介が真澄に言う。
「大都で上演できんのなら・・・あの子を潰せ」
その表情は気迫に満ちている。
真澄に一言も挟ませないというように睨む。
「もう少し、待って下さい!北島マヤはどこで上演するかまだ決めていません!」
バンと、デスクを叩き、声を荒げる。
「だったら、おまえが交渉にあたれ!これは仕事だと真澄!個人的な感情で放棄する事は許されん!」
英介の言葉に全てが漏れている事を知る。
「・・・個人的な感情?何の事か私には・・・。ただ、私はあの子に嫌われているから、水城君に交渉の窓口になってもらっているだけです」
感情を切り捨て、冷静な表情を向ける。
「・・・本当にそれだけか?」
探るようにじっと真澄を見つめる。
「・・・まぁ、いいだろう。おまえがあの娘にどんな感情を抱こうと知った事ではない。だが、いいか。
後、一週間で結果を持ってこい!わしはそれ以上は待たん!いいな」
威圧的にそう言い捨てると、英介は社長室を出た。

「・・・後、一週間だと・・・くそっ」
一週間で結果を持ってこなければ、英介がマヤに何をするか真澄にはわかっていた。






「お疲れ様」
そう言われ、冷たいジュ−スを差し出される。
「・・・水城さん」
水城はここ一月、毎日のようにキッド・スタジオを訪れていた。
目的はもちろん、紅天女の上演権だ。
「・・・水城さんも中々しつこいですね」
ジュ−スを受け取り、あきれたようなため息をつく。
「それだけ、紅天女の上演権が欲しいのよ。いいえ。くれなくてもいいわ。ただ。大都で上演させて欲しいの。
知ってるでしょ?うちの社長の思いを・・・会長の思いを・・・。大都芸能は紅天女を上演するために興した会社なのよ」
水城の言葉に躊躇うような表情を浮かべる。
「・・・本当言うとね・・・。私も大都で上演したいって思うの。それだけ、紅天女の事を思ってくれる所で上演する方がこの作品にとって一番いい事だと思うの。
でも・・・、大都で上演する事になると、速水さんと顔を合わせる事になるから・・・。私、また、速水さんを困らせる事をしてしまう・・・。この間会った速水さんは
とても辛そうだった。あんな辛そう表情をもう速水さんにはしてもらいたくないの・・・。だから・・・私は・・・」
薄っすらと涙を浮かべる。
「・・・マヤちゃん・・・」
「すみません。こんな個人的な理由で・・・。私、速水さんに対しては冷静でいられないんです。いつか上演と割り切れるようになったら、大都にお願いします。
だから、もう少し・・・待ってくれませんか?」
崩れそうな表情に、水城は何も言えなかった。






「真澄様、やめて頂けませんか」
紫織はずっと、胸の中にあった思いを口にした。
「えっ」
立ち止まり、紫織を見る。
「紅天女です。大都で上演させたいそうですが・・・やめて下さい」
真澄を見上げ、真っ直ぐに見つめる。
「仕事の事に口出しはしたくありませんが・・・。でも、これだけは聞いて下さい!あの子とあなたを近づけたくないんです!
例え仕事上の繋がりでも嫌なんです!!」
紫織の言葉に段々、真澄の表情が凍りつくように厳しくなる。
「・・・無理です・・・それだけは、いくらあなたの頼みでも聞けない」
初めて見る彼の厳しい表情に、紫織は言葉が出なかった。
「・・・一体、紅天女って何なんですか!ただの、芝居じゃありませんか!」
振り絞るように言葉を口にする。
紫織の言葉に真澄は眉一つ動かさず、クスリと笑った。
「・・・そうです。ただの芝居です。だが、俺はそのただの芝居に母親を奪われた!」
真澄の声にドキッとする。
恐ろしいほどの冷たい表情に、紫織は体が震え出した。
真澄はそれ以上は何も言わず、紫織を置いて、歩き出した。

そう、紅天女は俺から母を奪った・・・。
そして、俺の人生を変えた・・・。

あの子に会ってから・・・俺は・・・。

瞳を細め、曇り空を見つめる。
今にも振り出してきそうだった。




英介から言われた一週間が過ぎても、大都芸能は紅天女を手にする事ができなかった。
あんなに急かせていた英介は期日が過ぎたと言うのに何も言ってこない。
その事が真澄の心を不安にさせた。

あの義父の事だ、必ず何かしかけてくる。
そう思うと落ち着かなかった。

「真澄様!!」
突然、血相を変えた水城が社長室に入ってくる。
「どうした?」
嫌な予感が過ぎる。
「・・・北島マヤが何者かに刺されました」

その言葉に頭を鈍く叩かれたようだった。





                                         

HOME MENU NEXT

本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース