Lonely Eyes





ベットの上で絡み合う、肢体。
心の中の何かを埋めるように抱き合う体と体・・・。

男は時折、寂しそうな瞳で、ベットの中の女を見つめた。
そう、彼女が強烈に彼に引き寄せられたのは、その瞳だった。
彼は全てを持っているのに、まるで、どこかに捨てられていた猫のような顔をする。
抱き合っても、キスを交わしても、体を繋げても、男は寂しそうだった。

「・・・どうしてそんな瞳をするのですか・・・」
一通りの情事が終わった後、ベットの上で煙草を吸う彼に聞く。
彼は何も言わず、紫煙を見つめていた。
そんな彼を少し、苛立たしく思う。
自分より年下の彼にすっかりペ−スを崩される。
いや、彼のあの寂し気な瞳を見てから、今夜の彼女は彼に敵うはずはなかった。





彼と初めて会ったのは半年前だった。
彼女の上司、つまり大都芸能の社長である速水英介が、留学先から戻った息子の真澄を会わせたのだ。

「・・・水城くん、真澄は、ゆくゆくは大都を継ぐ男だ。教育の方を頼む」

そう言われ、社長の第一秘書だった水城は文字通り教育係りとして真澄にあらゆる事を教えた。
その為か、彼と一緒にいる時間が誰よりも多かった。
そして、気づいたのだ。
彼は決して幸せではないと。
高い学歴に、恵まれた経済力、恵まれた容姿。
人が羨しむものを全て持っているはずの彼は、一度も笑顔を見せた事はなかった。
どこか、冷めていて、いつも人と距離を取り、心の中を見せない。
まるで、氷で作られた彫像のように、心がなく、冷たい。
自分よりも若い彼が、なぜそこまで感情を切り捨てるのかわからなかった。




「・・・お疲れ様です」
堅苦しいパ−ティ−が終わった後、真澄はいつもよりも酔っていた。
「・・・あぁ」
タイを緩めながら、無愛想に答える。
少し、ふらつきながら彼は歩いていた。
「今、車を呼びます」
社用車の元へ行こうとした時、真澄に腕を掴まれる。
水城の胸がざわめく。
「・・・いや、車はいらない。君が使いなさい。俺は歩いて帰るから」
彼と視線が合う。
その時、初めて知った。
彼が寂しそうな瞳をしていた事を・・・。
その瞳に吸い込まれそうになる。
初めて、彼を男として意識した瞬間だった。
「でも、随分とお酔いになっているように見えますが」
水城の言葉に彼が苦笑を浮かべる。

「・・・酔っているか・・・。だったら、君が送ってくれ」

寂し気な笑みを向ける。
その表情に彼女はNoとは言えなかった。





「・・・大丈夫ですか?」
車の中の彼は気分が悪そうに瞳を閉じていた。
後部座席に座る彼を、水城はル−ムミラ−から見つめた。
「・・・あぁ。多分」
今夜の彼はらしくなかった。
いつもはこんな隙など見せる事はないのに。
それだけ、彼に信用されるようになったのだろうか。
「・・・水城くん、どこに連れていってくれるんだ?」
ハンドルを握りながら、彼女があれこれと考えていると、彼が口を開く。
今夜、彼は速水邸には戻らないと言い、水城の車に乗った。
全てを成り行きに任せていた水城は当然、この後、どこに行こうなんて思いつかなかった。
「・・・どこか、行きたい場所はありますか?」
水城の言葉に真澄は”そうだな・・・”と呟き、考えるように窓の外を見つめた。
「・・・落ち着ける場所なら、どこでも・・・」
それだけ告げると、真澄は再び瞳を閉じた。
水城は真澄の真意が掴めないでいた。
彼の元についてこんな事は初めてだった。


都内を走る事一時間、水城は悩みに悩み抜き、ついに彼をシティホテルに連れて行く事にした。
そう決めた途端、再び胸の中がざわめきだす。
一瞬、真澄との情事が浮かんだ。
こんな事、今までチラリとも考えた事はなかったのに・・・。
まして、上司である彼にこんな感情を抱くなんて・・・。
真澄もいつもと違っていたが、水城もその夜はいつもの冷静な彼女とは少し違った。




「大丈夫ですか?」
水城に肩を貸りて、真澄は部屋まで行った。
最上部に位置するその部屋からは都心の夜景と月がよく見えた。
「・・・すまない・・、水をくれないか」
部屋につき、真澄はセミダブルのベットに腰かけた。
水城は備え付けの冷蔵庫からミネラルウォ−タ−の瓶を取り出し、それをグラスに注いだ。
真澄は受け取ると、一気に飲み干す。
「・・・ありがとう・・・」
そう言い、グラスを水城に渡す。
「・・・いえ・・・」
真澄と瞳が合う。
とても寂し気な瞳が彼女の心を捕らえる。
金縛りにあったように突然、体が動かなくなる。
真澄はじっと彼女を見つめ、ベットから立ち上がった。
近くなる距離にドキっとする。

「・・・どうした?そんな顔をして」

心の中をも見透かすような瞳で、彼が口にする。
「・・・そんなに、不思議か。俺がこうするのが・・・」
そう言い、金縛りになったままの水城の腕を掴む。

ガシャ−ン。

水城の手の中からグラスが滑り落ち、砕け散る。
「・・・グラス・・・が・・・」
小さな声で呟く。
次の瞬間、彼の腕が強く彼女を引き寄せた。
あっという間に広い胸に抱かれる。
「・・・今夜は側にいて欲しい・・・」
耳元に甘い囁き声と吐息を感じる。
瞳を大きく見開き、水城はその言葉の意味を考える。
「・・頼む。今夜は一人でいたくない・・・」
掠れた声が囁く。
「・・・ずるい・・・です」
水城は真澄を見つめた。
「あなたにそんな事、言われたら、帰れなくなります」
捨て猫のように傷ついた彼を水城に置いていける訳はなかった。
今夜の事は彼の瞳を見てから、半ば覚悟していた。
そう、あの寂しそうな瞳を見てから、彼女の心は彼に捕まってしまった。

「・・・本当に、ずるい人・・・」

なじるように水城が口にすると、真澄は唇を重ねた。
酒の香が仄かに漂う。

二人はそのままベットに沈んだ。

互いの服を脱がせ合い、貪るような口付けを交し合う。
真澄に抱かれながら、こうなる事を心のどこかで望んでいた自分に気づく。
彼の愛撫は全てを奪うように荒々しく、官能的だった。
全身に彼の唇を感じる。
首筋から、胸、下腹部、腿を執拗なまでに愛撫する。
いつの間にか、水城は声を上げて、彼を受け入れていた。

彼を求めて下半身が濡れだす。
彼の唇がそれを捉える。

「・・・あっ・・・」

唇が触れた瞬間、体が大きく反応する。
彼は膝を立たせ、閉ざそうとする水城の脚をこれ以上ない程開かせた。

「・・・んんっっ!あぁっ!」

体中から艶かしい声がこぼれる。
彼女の膣は真澄を入れるには十分に濡れていた。

「・・・行くぞ・・・」

唇を離すと、彼が腰を入れる。

「・・・んっ!」

下半身に、彼の存在を感じる。
彼の先端が彼女の中をかき回すように入る。
一つになる場所を求めて彷徨い、収まるべき場所を見つける。
その瞬間、互いの体に甘い刺激が走る。
枕を掴み、彼女が声をあげる。

ベットが軋み出す。

彼は休む間もなく、彼女を突き上げ続けた。
やがて頂点に達し、彼女の方が先に絶えた。


事が終わっても、彼は悲しそうな瞳をしたままだった。




「・・・どうしてそんな瞳をするのですか・・・」

彼女の質問に彼は煙草を咥えたまま、何も答えなかった。
その横顔が彼女の胸を切なくさせる。
ベットから起き上がり、彼の頬にそっと触れる。
彼はどこか遠くを見つめているようだった。
「・・・何も言ってくれないんですね・・・」
少し責めるように口にする。
水城は今更ながら、彼に抱かれた事を後悔した。
関係を持っても、彼は変わる事なく、心を見せてくれない。

「・・・ずるい人・・本当に・・・」

なぜか悲しくなる。
彼との情事が何の意味もない事はわかっていたのに、悲しかった。
辛かった。
恋をした10代や、そこらの娘じゃあるまいし。
抱かれたからと言って、特別な関係になった事ではない事はわかっているのに。
もう十分大人なはずなのに・・・。
涙が止まらなかった。
まるで、初めて抱かれ、傷つけられた少女のように涙が溢れた。

「・・・水城くん・・・」

真澄は驚いたように彼女を見つめた。
そこにいるのは気丈ないつもの彼女とは別人だった。
初めて彼女の脆い部分を目にする。
傷ついた心を忘れるため、一時の情事に彼女を巻き込んだ事が、急に後ろめたくなる。
真澄は彼女の利用したのだ。
心の中に広がる寂しさから逃れるために。
誰かに側にいて欲しかった。
癒してもらいたかった。

「・・・すまない・・・」

彼女の涙を見つめる。
美しい彼女の頬に流れる涙を指で拭う。
「・・・謝らないで、あなたは悪くはない・・・」
頬に触れる彼の手に触れ、指を絡ませる。
「・・・自分の意志で・・あなたに抱かれたのだから・・・」
彼の唇に唇を重ねる。
思いを振り切るように、長く・・・。

二人の関係がこの夜だけのものだと、知っていた。
もう、二度と、彼に抱かれる事はない・・・。
だから、未練が残らないようにしたかった。
真澄もそんな彼女の気持ちを知ってか、知らずか、彼女のキスに応えていた。
やがて、キスは二度目の情事へと繋がる。
二人は互いの心の中にある隙間を埋めるように再び抱き合った。
朝が来るまで、何度も、何度も・・・。




「・・・帰ります・・・」

シャワ−を浴び終わり、ス−ツを来た彼女が言う。
「・・・そうか・・・」
真澄はベットの上から彼女を見つめていた。
化粧を整え、いつもの秘書の顔を作ると、水城は彼に背を向けて歩き出した。

「水城くん、一つ聞いていいか?」
彼女の背中に彼の声がかかる。

「俺はどんな瞳をしている?」

彼の言葉に水城は微かに口の端を上げ、彼の方を向いた。
「それは・・・」
そこまで口にし、言葉を止める。
「・・・昨夜あなたと過ごした代償として私の胸の中だけにしまわせて頂きます」
彼女らしい答えに真澄は穏やかな笑みを浮かべた。
「・・・そうか。君だけの秘密という訳か・・・」
真澄はそれ以上は何も言わなかった。
水城は再び背を向け、部屋を出た。

ホテルから出て、見上げると夜明けの空が広がっていた。
水城は暫らく、薄っすらと白く浮かぶ月を見つめた。
胸の中に切ない想いが残る。

ふと、思う。
自分は彼の心の中に一瞬でも入る事ができたのかと・・・。
あの寂し気な瞳に応える事はできたのだろうかと。
そして、自分の気持ちはどうなのだろうか?

考えるように瞳を閉じる。
そして、思う事はこれからも彼の側にいたい。
いつか、彼の悲しみを救ってくれる人が現れるまで・・・。
彼の部下として、彼を支えていきたい。
それが、今、思う事だった。

再び、瞳を開け、水城は歩き出した。




THE END




【後書き】
一体、誰なんだ!と読み返してみて、自分でつっこんでしまいました(笑)
何か著しく水城さんの人格が違う気が・・・(^^;
前々から、真澄様と水城さん絡ませてみたいなぁぁと思っていたんですけど・・・ちょっと、イメ−ジしていたものから脱線した
気がします(苦笑)こう、もっと渋い大人の恋愛(笑)みたいなもの書きたかったんですけどねぇぇ。
書き手がおこちゃまだから、それは無理かな(笑)

ここまで、駄作にお付き合い頂きありがとうございました♪



2002.2.21.
Cat

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