Memory



僕は誰なんだ・・・。
ここはどこだ?
目を覚ませば、そこは全く知らない世界。
狭くて、暗い部屋の中・・・。
自分が誰なのか・・・何も思い出せない。
なぜここにいるのかも・・・。

そして、僕はまた眠りに落ちる。
安堵を求めるように夢の世界へと・・・。



「もう!モルダ−!!また書類溜め込んで!」
夢の中で僕はいつも彼女に怒られていた。
赤褐色の髪に、知的な蒼い瞳。
「えっ、何の事だい?」
彼女が怒っている理由を知っていて僕は技とらしく答える。
そんな僕の態度にまた彼女が眉を上げる。
僕はそんな彼女の表情を見るのが好きだったのかもしれない。
だから、いつも怒らせるような事をしているのかも・・・。

しかし、これは夢・・・。
現実とは全く違う。
遥か遠い意識の底でもう一人の僕がそう囁く。
夢に飲まれてはいけない・・・。
おまえは孤独なんだと・・・。
それでも、何もない現実を忘れ、僕は夢に身を任せた。

「・・・いい!今すぐ報告書書くのよ!スキナ−がカンカンに怒っているんだから」
事件のファイルを差し出し、彼女が言う。
「えぇ・・・あぁ」
逃げる理由が見つからない事に気づくと、僕は渋々彼女からファイルを受け取った。




「どう?終りそう?」
彼女がまた僕の前に現れる。
コ−ヒ−カップを持って。
「あぁ。何とかね」
PCのディスプレイから視線を移し、彼女が入れてくれたコ−ヒ−を一口すする。
苦い味が一気に口の中に広がり、ぼんやりとし始めた体を再び起こす。
「・・・帰らないのか?」
ふと、時計に目を向けると、とっくに就業時間は過ぎていた。
「・・・うん・・・。そうねぇ・・・」
言葉を濁すように呟く。
少し困ったように彼女は時計を見つめた。
「いくらパ−トナ−だからって・・・無理に付き合う事はないんだぞ」
クスリと笑い、またPCを見つめる。
「・・・それとも、そんなに僕が信用ないのか?大丈夫。ここまで書いているんだから、ちゃんとスキナ−に出して帰るよ」
どうやらこの問いは正解だったようだ。
彼女は一瞬、図星だと言わんばかりの表情を浮かべる。
「だって、あなたいつも見ていないと・・・逃げるんですもの」
苦笑交じりに呟く。
「ははは。本当、信用ないな・・・こういう事に関しては」
キ−を打ちながら答える。
「一体、何度あなたに泣かされてきたと思ってるのよ」
冗談交じりに彼女が言う。
「さあ。どうだったかな・・・。まぁ、それでも僕のパ−トナ−でいる君はよっぽどタフだと思うよ」
チラリと彼女を見る。
僕の言葉に彼女は微かな笑い声を浮かべる。
そんなちょっとした表情も好きだ。
いつもは厳しい表情を浮かべている彼女だけど、偶に気が抜けたように表情を見せてくれる。
「私は慈悲深いのよ。こう見えても・・・。だから、あなたのパ−トナ−をしているの」
彼女の首の十字架が一瞬キラリと光った気がした。
「なるほど、じゃあ、君は僕に救いの手を差し出してくれるという訳か」
「そうよ。私があなたを救ってあげるわ」
僕の言葉に可笑しそうに笑いながら答える。
「それは、それは勇ましい事で。僕は頼りがいのある相棒を持って幸せだよ」
他愛もないこんな会話が好きだった。
このままずっと彼女と一緒にいられたらいいのにと思う。

しかし、これは夢・・・。
目覚めればまた、意味のない現実が待っている。
そう、退屈で自由のない現実が・・・。

「どうしたの?ぼんやりとして」
感慨に耽っていると不思議そうに彼女が僕を見る。
「嫌、何でもないよ・・・。よし!終わった!」
最後の一行を入力し、報告書をプリントアウトする。
「よかった。じゃあ。私はそろそろ帰るわ」
ホッとしたように彼女が言う。
「待って」
一人になるのが嫌で、咄嗟に彼女の手を掴む。
少し驚いたように僕を振り返る。
「・・・何か食べていかないか?君も夕食はまだだろ?」
甘えるように彼女を見つめる。
「・・・いいわよ。ただし、あなたの驕りね」

二人でオフィスを出て、何を食べるか結局迷いに迷った挙句、テイクアウトを持って彼女の部屋に行った。
彼女の部屋はとても居心地が良かった。
自分の部屋に戻るよりもここにいたいと思う。

「どう?ワインも一緒に」
テイクアウトしたものを綺麗に皿に盛り付け、ワインボトルと一緒に彼女がテ−ブルに並べる。
「おっ!いいね」
二人で互いのワイングラスに注ぎ合い、乾杯をする。
そして、料理をつっつきながら、またとりとめのない話をする。
話題は仕事の事だったり、家族の事だったり、最近読んだ本や、観た映画だったり・・・。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、気づけば朝になっていた。
「・・・あっ、もうこんな時間か・・・」
時計を見つめ、呟く。
「・・・そろそろ帰・・・」
そう言おうとした瞬間、隣に座っていた彼女の体がぐったりと寄り添うように僕に倒れかかる。
驚いて、彼女を見ると、安らかな寝顔があった。
無防備な表情に愛しさが募る。
暫く、寝顔を見つめ、頬にそっと口付ける。
「・・・おやすみ」
そう告げ、カウチで眠っている彼女に毛布をかけると、僕は彼女の部屋を出た。

彼女との距離が心地良かった。
仕事上のパ−トナ−で・・・親友で・・・。
決して恋人とは言えないけど・・・でも、それ以上に密度の高い時間を僕たち共有している。
それで僕はいいと思う。
これ以上を望んだら、きっと大切な僕たちの関係は壊れてしまう気がするから・・・。
今はまだ、このままでいいと思った。


「眠そうだね」
オフィスに現れた目を赤くした彼女に問い掛ける。
「おかげさまでね」
恨めしそうな瞳を投げかける。
「ははは。ごめん。ごめん。昨夜はつい話し込んでしまって」
苦笑を浮かべる。
「いいのよ。別に。私も楽しかったら。それより、あなたこそ一睡もしていないんじゃない?」
少し心配そうに僕を見る。
「僕は眠らなくても大丈夫なんだ。知ってるだろ?」
悪戯っぽく答える。
「そうだったわね。あなたが普通の人間じゃない事を忘れていたわ」
「さて、そろそろ仕事しようか」
そう言い、彼女に興味深い事件のファイルを差し出す。
彼女はやれやれ・・・またか。という表情を浮かべ、僕の話を聞いていた。


そこで目が覚めた・・・。
また狭い部屋が視界に入る。
部屋には小さな窓が一つあった。
唯一、僕に許された自由は眠る事と、窓の外から空を見る事だった。
今日は青空が広がり、穏やかな天気だった。
ふと、こんな天気のいい日は夢の中の彼女と一緒にどこかに行けたらなぁぁと、
あるはずのない事を想像する。
明るい空の下で、楽しそうに笑う彼女を想い、心が温かくなる。

そういえば、彼女の名前は・・・何だったかな・・・。
想いを巡らせていくうちに彼女の名前を知らない事に気づく。
夢の中で僕は彼女の名前を呼んだ事がない。
それは知らないから・・・。

再び瞳を閉じ、彼女を思い出す。
また彼女に会いたくなった・・・。


「絶対この事件には僕たちが望んでいる答えがある!」
「でも、これ以上捜査をする事は私たちの権限ではないわ!」
僕と彼女は何かの事件について議論をしていた。
「君が何と言おうと、僕は一人でも捜査する。これはXFILESだ!」
”XFILES”その言葉が何だか懐かしい気がした。
でも、それが何なのかわからない。
これは夢だ・・・何の意味もないばずだと、深く考えるのをやめた。
「・・・モルダ−・・・」
困ったように僕の名前を呼ぶ。
そして僕をどう説得しようかと彼女は考えを巡らせるように黙っていた。
できれば、彼女にこんな表情はさせたくなかった。
でも、僕の中にある強い信念が彼女をも押しのける。
一端スィッチが入ってしまうと、僕は思う通りに行動しないと気がすまないようだった。
「・・・危険よ。この事件からは手を引いた方がいい。何か嫌な予感がするの」
いつも科学的な理由を述べて僕を黙らせる彼女が珍しく”予感”だなんて非科学的な事を口にする。
「予感?君は勘に頼って捜査するのか?」
「勘に頼って捜査するのはあなたもそうじゃない」
「僕の勘と君の勘は違う。僕は絶対この事件には何かあると思う」
「また陰謀だとでも言うの」
「そうだ。陰謀だよ。陰謀が絶対絡んでいる。僕は自分の勘を信じる」
「モルダ−!やめて、危険よ」
僕の前に両手を広げ、行く手を阻む。
「ここから先は行かせない!!」
真っ直ぐに僕を見つめる。
「・・・スカリ−、どいてくれ」
”スカリ−”そうか・・・彼女の名前はスカリ−なのか。
無意識に自分の口から出た言葉に心地よい響きを覚える。
「どかないわ!」
意地を張るように言い、鋭く僕を睨む。
「・・・仕方ないな・・・こんな事はしたくないが」
彼女に近づき、腕を掴み抱き寄せ、魅惑的な唇を奪う。
蒼い瞳が大きく見開かれ、僕を見つめる。
ここで、彼女とはもう二度と会えない気がした。
彼女が言ったように僕の中にも”嫌な予感”があった。
でも、それでも、僕は自分の道を進むしかなかった。
真実を知りたいといつも思ってきた。
例え、命わ失う事になっても、僕は真実を知りたかった。

これが彼女と最初で最後の別れのキス・・・。

「・・・スカリ−・・・愛してたよ」
胸にずっと秘めていた想いを口にし、彼女の首に手刀を入れる。
腕の中で華奢な体は意識を失った。
愛しむように暫く意識のない彼女を抱きしめていた。

「・・・君ともう一度出会えるかな・・・」
ポツリと呟き、彼女を抱え上げ、車の中に運ぶ。
「間違いなく君は怒るだろうな・・・。勝手な僕を・・・」
苦笑を浮かべ、車のドアを閉めると、僕は真実を求める為、進んだ。


そしてまたそこで目が覚める・・・。
窓の外からは星空が見えていた。
そういえば、夢の中の彼女と一緒に星空を見つめた事があったなと、思い出す。

一緒に野原に寝転がり、満天の空を眺める。

「こうしていると宙に浮いているみたい」
無邪気な表情で彼女が口にする。
いつものク−ルな表情から少女のようなあどけない笑みを見せる。
かわいいなぁぁ・・・なんて、言ったらからかっているの!なんて言われそうだ。
「・・・何、見てるの?」
じっと彼女の横顔を見つめていると、不思議そうに僕を見る。
「・・・君・・・」
いつもより素直な自分がそう告げた。
「・・・やだ。私なんて見たって面白くないわよ。今日は星空を見つめながらUFOを探すんじゃないの?」
照れたように頬を少し赤める。
「UFO探しよりも・・・今は君を見ていたいな」
「・・・モルダ−、それ口説き文句に聞こえるわよ」
苦笑を浮かべる。
「・・・なんだ、やっと気づいたのか?僕は今、君を口説いているんだけどな」
冗談交じりに本音をちらつかせる。
「私なんて口説いたって何も出ないわよ・・・」
クスリと笑顔を浮かべ、僕を見る。
「・・・それは残念」
そう告げた瞬間、視線と視線が合う。
胸がドキリと音を立て、体中が熱くなる。
不味いな・・・この空気は・・・。
自分の心に残る理性を動かし、何とかその瞳から視線を反逸らす。
「ハックシュン!」
二人の間にある妙な緊張感を崩すように彼女が小さくクシャミをする。
そのクシャミが可愛くてつい、笑みがこぼれる。
「・・・寒い?」
「うん。少し」
彼女の言葉を聞くと、着ていた上着を脱ぎ、彼女にかける。
「少しは暖かいだろ?」
「・・・暖かいけど・・・あなたが寒いわよ」
「大丈夫、僕はこうすれば暖かい」
そう言い、思い切って彼女を抱きしめる。
「・・・モルダ−・・・」
驚いたように僕の名を呟く。
「暖かい、暖かい」
華奢な彼女を腕の中に閉じ込め、耳元で囁く。
「もう!人をカイロか湯タンポと間違えてない?」
「ははは。あたり!」


目を開けると、また僕は狭い部屋の中にいた。
どれくらいここにいるのかもう、わからないくらいここにいる。
夢で彼女に会うたびに恋しさが募る。
現実には存在するはずはないのに・・・。
なぜ、こんなにも彼女の事が鮮明に浮かぶのだろう。
何もない僕の現実に唯一の幸福を感じさせてくれる。

もし、ここから抜け出す事ができたら、僕は彼女のような存在と出会えるのだろうか。

壁に寄りかかり、膝を抱えながら、ありもしない幻想を思う。
窓の外に映る三日月が儚げに見えた。

「・・・スカリ−・・・君に会いたい・・・」
瞳からは幾筋もの涙が流れ、頬を伝う。
夢の中の自分が幸福な程、目覚めた時は地獄の底に突き落とされたように寂しい。
前はこんなに涙を流す事はなかったのに・・・。
いつから、僕は泣くようになったのだろう。
夢から目覚める度に涙を流す。

もう、あんな夢見たくはない。
余計な幻想を抱き、失望するのが怖いから。
希望なんて持つべきではない・・・。
叶わぬ夢は持つべきではない・・・。

この部屋にいる僕が現実の自分なのだから・・・。
手に入らないものは願ってはいけない・・・。

だから、僕は自らの手で最後を迎えようと思った。
永遠に眠り続けようと思った。
幸せな彼女の夢を見て・・・。



「・・・モルダ−!!!」
衰弱しきった彼がそこにいた。
もう、一年以上彼に会っていない。
狭い部屋に閉じ込められ、彼は壁に寄りかかり座っていた。
「モルダ−!私よ!スカリ−よ!あなたを助けに来たのよ!」
彼の表情は空ろで私なんて見えていないようだった。
涙が溢れる。
あまりにも変わってしまった彼に、止め処なく涙が溢れる。
「・・・モルダ−−−−!!」
彼に抱きつき、声を上げて泣いていた。




「・・・モルダ−の容態は?」
病院を訪れ、スキナ−が心配そうに聞く。
「・・・かろうじて・・・生きています・・・」
そうとしか言いようがなかった。
彼の体中には拷問の痕がいくつも残る。
余程、辛い目にあったのだろう・・・自分の心を亡くしてしまうぐらいに。
彼に何を問い掛けても反応はなかった。
ただ、ぼんやりとどこかを見つめている。
それでも、時々、ヘ−ゼルの瞳が優し気に私を見つめている気がした。
あの頃とは変わらぬ彼がまだ存在している。
私の愛した彼が・・・。

私は待っている・・・。
あなたが全てを思い出すのを・・・。
心を取り戻すのを・・・。
何年でも待っている・・・。

あなたは生きているのだから・・・。

穏やかな寝顔を浮かべている彼にそっと唇を重ねる。
想いを伝えるように、離れていた時間を埋めるように、長く・・・。

「・・・モルダ−・・・愛してる」
唇を離し、彼の胸に顔を埋め、力強い鼓動に耳を済ませる。

トクン・・・トクン・・トクン・・・。

それは彼が生きている証・・・。
私の希望・・・。

彼が鼓動を刻み続ける限り、私は諦めない・・・。
あなたを愛しているのだから・・・。




THE END


【後書き】
年内に一つ書くと言ってしまった事を思い出し・・・何となく書き始めました(笑)
なんか・・暗い(^^;
どうもS8のゾンビモルがイメ−ジとして強いようで・・・。書き始めるとこんな話になってしまう(苦笑)
最近、XFficを書く脳が退化しつつあります(爆)このまま退化の一途を辿るような・・・。
来年こそはかつてのような勢いは戻ってくるんでしょうかね?(笑)

ここまで、駄作にお付き合い頂きありがとうございました♪


2001.12.30.
Cat

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