ス ピ カ
AUTHER MIO




雅也と若葉が想いをかよわせ合った日から数週間が過ぎていた。
どちらも社会人同士であるし、休日も重ならないことからあまりデートをする時間も
とれなかったが、今の時代連絡をとる手段はいくらでもある。まず携帯のメールで、
ちょっとした会話はできるし、お互いパソコンも持っているから1日の出来事を報告
し合うなんてことも可能だ。雅也はまだ照れくさいせいもあってあまり書かないが、
若葉は日に一度いろいろと書いてくる。返事すら滅多に書けなかったが、若葉のメー
ルを読むことはイヤじゃなかった。辛いことも多少はあるようだが、大概は友人との
楽しい会話や出来事を長々と書いてきて、思わずクスリなんて笑うこともしばしば
だった。

若葉はあれから俊輔に会っていなかった。時折電話はかかってきた。しかし若葉はき
ちんと会って話をしたいと考えていたし、まだうまく説明できる自信がなかった。
急に仕事が忙しくなったという口実で曖昧な態度をしたまま日付が過ぎていた。
これではいけないと思いつつ一体全体どうやって話そうかと思いあぐねていたのだっ
た。
なにしろ自分が一番驚いているのだから・・・。

そんなとある日、帰宅しようと会社を出ると俊輔が待っていた。
いつかの喫茶店で会って以来だった。
「俊輔・・・どうしたの?急に。仕事は?」若葉はとっさに答えた。
「話がある、ちょっとつきあってくれ」
俊輔は怖い顔をして若葉の腕をつかむとつかつかと近くの店に入っていった。
俊輔はドカッと椅子に座ると口を開いた。
「俺に話すこと、あるだろ?」
若葉はギクリとしたが、やはりここでごまかすことはイヤだし、いい機会だと思い、
思い切って結城先輩のことを話すことにした。
「・・・・うん、ごめんなさい。俊輔に話さなくちゃいけないことある。」
「・・・・」
若葉はごくりと唾を飲み込んだ。
「私、好きな人できたの・・・・。俊輔の知ってる人、結城先輩・・。」
「え?あの結城さん?」
「うん、そう・・・それで、それで・・・。」若葉は次のセリフをためらった。
今までの俊輔とのつきあいが頭をよぎった。決して俊輔を嫌いだったわけじゃない、
憧れて好きになって、想いが通じ合ったー。大切にしてもらったし、すてきな思い出
もたくさんできた。
幸せだった二人の日々を思い出し、自然と涙があふれた。
涙に気付いた俊輔があとの言葉を続けた。
「それで?俺と別れたいってこと?」
「・・・・はい、ごめ、ごめんなさい・・・。」涙があふれて言葉にならない。
俊輔はショックを隠せないようで、大きなため息を一つついてようやく話始めた。
「2、3日前に人から聞いたんだよ、若葉が男の人と歩いているのを見たって・・
・。
で、俺もまさかって思ってたんだけど、最近の若葉の様子もおかしかったしさ、この
間の電話でも会う約束を突然キャンセルして、その後連絡つかなかっただろ?」
「うん・・・。」
「でもまさか、結城さんとなんて思いもよらなかったよ、で、つきあってるんだろう
?」
「うん、俊輔に話さなくちゃって思いながら、ときどき先輩に会ってた。ひどいこと
した・・・。本当にごめんなさい」若葉は深々と頭を下げた。

「はあーまいったな・・・。俺たち4年だぞ?ちょっと前に会ったとき結婚のこと話
したばかりじゃないか?お互いの両親にも正式に挨拶をって話、あれ嘘だったのか
?」
「嘘じゃない、嘘じゃないの。あのときは俊輔との結婚、ちゃんと考えてた。
俊輔のお嫁さんになろうって・・・。でも気付いちゃったの、自分の本当の気持ちに
・・・。
ずっと先輩のこと想ってた自分に気付いたのー」
「ひどいな話だな、俺とつきあいながら結城さんのこと考えてたってことなのか?」
「そういうことじゃないのー。俊輔とは真剣につきあってたってこと信じてほしい。
それに正直に本当のこと話した方がいいでしょう?
こんなに俊輔のこと傷つけて偉そうなこと言えないけど、せめて俊輔にはうそ偽りの
ない気持ちを話したいの。それが私にできる最後の誠意みたいなものだから」
「わかったよ、でも俺そんな簡単に諦められないな」
「俊輔・・・」
「だってそうだろ、今聞いたんだぜ?若葉の気持ち・・・。すぐに受け入れろってい
うのは無理だろーが」
「うん、でも・・・」
「俺も実は話があったんだ、けどまた今度にするよ。とにかく若葉の気持ちはわかっ
た、じゃ」
レシートを持つと俊輔は出口に向かった。
若葉はすぐに立ち上がれなかった。俊輔と会ってあらためていかに自分がひどいこと
をしたか思い知らされていた。4年という年月が重くのしかかっていた。俊輔の言う
とおりこんな話合いで4年のつきあいを反故にしようというのだ、俊輔が納得いかな
いのも無理ないのかもしれない。しかし、何か俊輔の様子がおかしかった。釈然とし
ないというのはこちらにも理解できる、当然だろうと思う。けれど・・。それに話が
あると言っていた。一体なんだったのだろう?

その数日後ようやく若葉は久々に雅也と会うことができた。若葉のお気に入りのイタ
リアンの店だった。そして正直に俊輔と別れ話をしたことを報告した。
静かに話を聞いていた雅也は頷いて
「それで俊輔君は納得できたようだった?」
「わからないんです、すごく怒っているってわけでもなかったし、ただ諦められない
なって・・・・」
「そう・・・。若葉ちゃん、後悔・・・してるんじゃない?俺とのこと」
「そんなことないです。それは絶対に違います。確かに俊輔とは長くつきあってきた
し、結婚の話もでました。でも今は先輩と歩いて行きたいって思ってます。
先輩のこと・・・好きだから・・・。」雅也の目をみつめながら言った。
「ありがとう、嬉しいよ。なんか照れくさいけど・・・」そのまっすぐな視線に雅也
は少年のようにはにかんで答えた。そしてそれ以上その話はしなかった。

店を出た二人は夜の街を歩くことにした。
「ところで若葉ちゃん、スピカって知ってる?」
「スピカですか?え、えーと、なんだかどこかで聞いたことのあるような・・・。
星の名前かなんかでしたっけ?」
「そう、あたり。春の大三角形の一つで乙女座の中の一等星。ほら今日は晴れてるか
らよく見えるよ。あの北斗七星のひしゃくをたどるとスピカがあるんだけど・・・。
わかる?」
「ええ、あの白く光ってる星でしょう?詳しいんですね、星のことー」若葉は意外
だった。
雅也が星に詳しいなんて全く知らなかったのだ。
「ついでにもう一つ教えてあげるよ。スピカには対になってる星があるんだ、うしか
い座の一等星でアルクトゥルスー。二つの星は春の夫婦星って言われてるんだよ。」
「そうなんですかー。夫婦星・・・。ふふふ、どこでそんなこと覚えたんですかぁ
?」
若葉は意外を通り越しておかしくなっていた。
雅也とは長い間先輩後輩としてのつきあいだったが、ほとんど何も知らないに等し
かった。
それがこうして恋人としてつきあうようになって一つ一つ新しいことを知る。
まるでそれは雅也という大きな木に茂る沢山の葉を数えるような感覚だった。
「ん?まあ話すと大したことはないんだけどねー。俺高校出てすぐ働こうとしたんだ
けど、いろんな夢を捨てられなくてさ、1年ほど留学してたんだよ、話してなかっ
たっけ?」
「えー!?知りませんでした。てっきりすぐに就職したとばかり・・・」
「まあね、似たようなことなんだけどー。両親は地元の大学に行って就職して早く落
ち着いてもらいたいって思っていたみたいだけど・・・。昔から映画制作の仕事をし
てみたいなって思ってたんだ、それでいきなり何も考えずに行ってしまった・・・。
親不孝だよなー。
勉強しながらいろんな仕事をしたんだよ。その時の縁で輸入車の仕事の“つて”が出
来たようなものなんだけどね。ただ初めての海外だったし、慣れない生活でホーム
シックにかかってしまったんだな・・・でも親に泣きつくわけにいかないしさー」
「・・・先輩がホームシックに・・・?」
「うん、それでね、同じ下宿の留学生に星の見方を教えてもらったんだよ。
そいつも寂しかったのかもしれないなー。
“この星達はおまえの故郷(ふるさと)でも見えているはずだから”っていうのが口
癖でさー。
でも随分励まされたなぁ。不思議なことにだんだん元気が湧いてくるんだよ」
「そんなことがあったんですね・・・。私ホント何も知らなくてー。」
「そりゃ、当然だろう。」雅也は優しい笑顔で振り返った。
「はい・・・」若葉は遠い土地で孤独に耐えていた雅也を想像していた。
先輩が時折見せる陰のある表情と凛とした強さはこのような経験からだろうかー。
自分より随分大人に感じる雅也を頼もしく感じる反面、自分の幼さを知り、二人の間
が妙に開いてしまうような感覚を覚えていた。
私は本当に先輩にふさわしいのだろうか?特にこれと言ってやりたいこともない。
苦労という苦労もしていなければ、故郷を思うほど孤独になったこともない。
始めは気にならなかった9才という年齢差も今は随分気になり始めていた。

「若葉ちゃん?」急に黙り込んだ若葉に気付いて雅也が心配そうに話しかけた。
「え?あ、はい?」
「どうしたの?急に黙りこんじゃってー」
「いえ、別に・・・」若葉はなんと話していいかわからなかった。
「別にそんな暗い話なんかじゃないんだよー。今となってはとても良い経験をしたっ
て思ってる。それにね、どんな経験も無駄なことなんかないと思うんだ・・・。
ま、そんなこと言うと俺の離婚の弁解しているようでちょっと気が引けるけどね、は
はは」
そう言いながら雅也は若葉の肩を抱いていた。
「若葉ちゃん、俺ね若葉ちゃんとはスピカとアルクトゥルスみたいになれたらいい
なって思ってるんだ、ダメかな?」雅也は夜空に瞬く星をみつめながら言った。
若葉は嬉しかったが、素直に頷けなかった。
「俺、フラれそう・・・・・」雅也は冗談ぽく言った。
「え?あ、いえ、そのー、嬉しいです。そんなフルだなんてー。私こそ先輩に振られ
そうです。
いつか私のことイヤになるんじゃないかって・・・。」
「どうしてー?」
「どうしてって、私先輩より9才も年下で、まだ就職したばかりで世の中のこと何も
わかってません。苦労なんか今までしたこともないし、きっとわがまま言ってしまう
と思います。」
若葉は思いつくままに話していた。雅也のことを想えば想うほど自分との距離がある
ように思えた。あの嵐の日に自分から告白して以来、雅也をどんどん好きになってい
た。
彼氏のことで一日中頭がいっぱいだなんて、子供の証拠じゃないかー。
「私、ダメなんです。先輩のことで頭がいっぱいなの。一日中先輩のことを考えてい
て想ってて、なかなか逢えなくて寂しくて、ついついメールにいろいろ書いてしまっ
てー。こんなの子供でしょう?わがままな証拠でしょう?先輩みたいに大人になれな
いんです・・・」
「だったら俺も子供だな」雅也は笑いながら答えた。
「え?」
「お互い子供同士、釣り合いとれてるじゃないかー。もうそんなこと気にすんなよ、
ね?」
「はい・・・・」
「しかし若葉ちゃんって結構照れくさいこと平気で言うんだね」
「え、あ、すいませんー」
「いいよ、いいよ、嬉しかった。一日中俺のことで頭がいっぱいなんてー」
「あ!?」言ってから真っ赤になった若葉だった。

その夜、若葉は空を見ていた。
教えてもらった通り北斗七星の枝のカーブにそって延長すると二つの明るい星をみつ
けることができた。白色がスピカ、オレンジ色がアルクトゥルスだった。
「夫婦星かー。先輩もきっと見てるよね・・・」

その頃若葉を送った雅也は自宅のマンションの前にいた。そこに見覚えのある女性が
立っていた。
「冴子?」
「お帰りなさい、お久しぶり・・・。4年ぶりかな?」
「ああ、そうだなー」
冴子は離婚した元妻だった。
「話があるのー。一杯だけつきあってもらえないかな?すぐ終わるから」

「それで?話って」雅也は飲む前に話を聞きたかったが、とりあえず近くの飲み屋に
でかけた。
「うん、私ね、結婚することになったの。一応報告したくて」
「そう、おめでとう。」
「ありがとう。雅也は?結婚しないの?」
「俺は今のところ仕事で忙しいしね」
「好きな人は?」
「ん?まあね」結婚すると聞いた後では嘘をつく必要もなく素直に答える。
「そう・・・いるんだ、好きな人・・・。あの頃ね、あなたが仕事を辞めて独立した
いって言ったとき、ついていけないって思ったわー。
どうして今更苦労しなくちゃいけないのかって・・・・。若いせいもあったけど、我
慢ができなくてね。私のわがままだったのかなって、今でも時々思うのよ。」
「いや、そんなことない。すべて俺の勝手さ。冴子が気にする必要なんかないよ」
「相変わらず優しいんだね」
「何言ってんだよ、今度の旦那に優しくしてもらうんだろ?」
「うん、ありがとね。あなたも元気でね。」

冴子は先に店を出て行った。あの頃自分が独立するという話でもつれにもつれ、とう
とう離婚する羽目になってしまった。バブルのときはともかくこの不況で独立したい
という方がおかしいのだろう、冴子の出す離婚条件を無条件でのんだ。相手を思いや
る言葉も忘れ、いがみあったまま別れたー。思い出すだけで辛く胸のふさがる別れ
だった。だから出来るだけ思い出さないように黙々と仕事に打ち込んだ。冴子に対し
て見返したいという気持ちがあったのも本当だろう。しかし年月を経てこうして冴子
と和解できた。俺が幸せにすることはできなかったけれど、素直に冴子には幸せに
なってもらいたいと願った。
“冴子のアルクトゥルスは俺じゃなかったんだよな”
雅也は星空を見上げながらつぶやいていた。

ある日若葉は本屋にきていた。最初は特に目的もなく歩いていた。何気なく雑誌を手
に取りパラパラとめくっていたのだが、あるページに目が釘付けになった。そこでは
お手製のジュエリーが紹介されていた。ガラス玉、天然石やパール、ベネチアンガラ
スやとんぼ玉などという石で彩られたもので、美しい輝きを見せていた。
若葉は昔小さい頃ビーズをつなげてネックレスを作ったことを思い出していた。
本当の宝石ではないが、母親が買ってくれた初めてのジュエリーだった。今はこんな
に種類も豊富で手作りの石もあれば大量に輸入して日本に入ってきている高価なクリ
スタルガラスもあった。眺めているだけで懐かしい気分になるとんぼ玉やきれいなガ
ラス玉に関わる仕事ができたらどんなに楽しいことだろう・・・。どうすれば手にす
ることができるのだろうか。
こんな私でもできることがあるのだろうか・・・。
若葉は初めて自分のやりたいことをみつけた感触にわくわくしていた。
気がつくと若葉は本屋で何時間も過ごしていた。

俊輔と会った日から一週間ほど過ぎていた。ここ数日は初夏を思わせるほどの日差し
で暖かい日が続いていた。“もう五月だものねー”若葉はひとりつぶやきながら、仕
事を終え会社を出た。そこで俊輔と視線がぶつかる。
「俊輔・・・・。」つかつかと俊輔が近づき若葉をビルの陰に引っ張っていった。
そして急に柔らかい髪がほほにふれたかと思うと懐かしいたばこの香りとともに乾い
た唇の感触がした。若葉はあわてて俊輔を突き飛ばした。
「ひどい、ひどいよ!俊輔」
「今、俺のキスを受けようとしたよな?」俊輔がにらんでいた。
「違う、そんなつもりない」若葉も目をそらさずにらみ返す。
「そんなに簡単に俺のこと忘れられるのかよ、今でも若葉は俺のこと好きなはずだ、
ここにはまだ俺が住んでるはずだ」と若葉の胸を指さした。
「違う、私のこころの中にあるのは俊輔との思い出だけ。もう俊輔は住んでないよ。
どうしてそんな悲しいこと言うの?俊輔らしくないよ」
「俺らしくない?それは若葉の方だろ?こんな冷たい仕打ちしておいて」
「もう止めてくれないか?」二人が声のする方を振り返ると雅也が立っていた。
思わず若葉は駆け寄った。
「結城さん、あなたに若葉は似合わない。」
「ああ、そうかもしれないな・・・。だけどもう彼女を責めるのはやめてくれないか
?」
「若葉はまだ学生気分の抜けない子供なんですよ。あなた幾つなんです?こんな子供
相手に満足出来るんですか?」
「俊輔!なんてこと言うの?失礼なこと言わないでよ。そりゃあまだまだ私は先輩に
比べたら子供かもしれないけど、先輩のことちゃんと見てるつもりよ。あなたにそん
なこと言われるつもりはないわ。」若葉は俊輔のひどい言葉に傷ついていたが、それ
よりも雅也に失礼なことをいう俊輔に腹が立っていた。
「若葉・・・。」
「もうこれ以上、俊輔のこと嫌いにさせないで。俊輔との思い出を汚さないでほし
い」
若葉は心の底からそう思った。俊輔がなぜこんな行動をするのかわからなかったが、
もう俊輔とのことは本当に終わったのだと、今確信した。
「俊輔くん、一体どうしたんだ?君はこんなことするやつじゃなかっただろ?」
雅也は静かに話しかけた。
「俺、ドイツ赴任の辞令が出たんです。それで結婚の話がでてたから若葉と一緒に行
くつもりだったんですよ。夫婦で行った方がなにかと良いらしくて・・・それにドイ
ツ行きは俺にとっていい話だったから絶対断りたくなかったんです。」俊輔はようや
く本当のわけを話した。
「若葉―。俺、若葉と行くつもりだったんだ。だから君とちゃんと結婚して、君を連
れて行こうと思ってた。最近忙しくて話ができなかったけど、若葉のこと本当に愛し
てたんだ・・。」
「ごめんなさい」若葉は深く頭を下げた。
「俊輔の大事なときに力になれなくてごめんなさい。俊輔のパートナーになれなくて
ごめんね・・・。」若葉はもう一度下げた。
「若葉、もう止めてくれよ。俺が悪かった、ごめんな。もうこんなことしないよ。
ちゃんと結城さんについてくんだぞ。結城さん、若葉のこと宜しくお願いします。」
俊輔も雅也に頭を下げた。
雅也は少しほほえみながら頷いた。
「ありがとう、俊輔。ドイツ行き頑張ってね」
「ああ、若葉も元気でな」雅也と若葉は俊輔を見送った。

「さしずめ俊輔君はしし座のデネボラってとこだなー」雅也がぽつりと言った。
「え?それってどういう意味なんですか?」
「夫婦星であるスピカとアルクトゥルスは春の大三角形だって話、覚えてる?」
「ええ、もちろんです」
「三角形ってことはもう一つ星があるんだけど、それがしし座のデネボラってわけな
んだ」
「それって、あの・・・」若葉は雅也の話している意味がわかった。
「私、俊輔にひどいことしちゃったんですね・・・。」先ほどのやりとりを思い出し
て若葉は元気がなかった。
「若葉ちゃん、行ってみたいところあるんだけどいい?」雅也は若葉を元気づけよう
とある場所に連れて行った。
そこは新しくできたバーカウンターのある展望台だった。ガラス張りの窓からは夜空
が広がっていた。カウンターに腰掛けると雅也が話し始めた。
「この間ね、別れたかみさんに会ったんだ。」
「え?別れた奥さん?」
「うん、彼女ね再婚するんだって、俺に報告しにきてくれたんだ。離婚するとき俺は
彼女をひどく傷つけてしまったんだ。もう二度と許してもらえないだろうって思って
たんだけど、ちゃんと俺には再婚のこと報告してくれて、お互い笑顔で話ができたん
だよ。嬉しかったな」
「そうですか・・・。奥さん再婚されるんですか・・。」
「誰だって傷つけたくて傷つけるわけじゃないんだと思うな。若葉ちゃんだって俊輔
君がドイツに行っても頑張ってほしいって思っただろ?」
「ええ、もちろんです。」その気持ちは嘘じゃなかった。
「だったらもういいんじゃないかな?彼だってわかってるさ」
「はい・・・。そうですね。」ようやく若葉は笑顔をむけた。

「ところで、これプレゼント!」と雅也が小さな四角い箱を出した。
開けてみると一粒の真珠がついたネックレスだった。
「ありがとうございます!いいんですか?」若葉は嬉しかった。
つきあって初めてのプレゼントだった。
「なんていうか・・・そのースピカなんだ」
「スピカって真珠星って呼ばれてるんだよ」雅也が説明する。
「真珠星・・・。素敵な呼び名がついてるんですねー。
こんな大玉のパール初めてー。嬉しいです。大事にしますね、先輩」
若葉は嬉しそうに眺めている。
「あのー、若葉ちゃん?」
「はい?」
「その先輩っていうのそろそろやめてくれないかな?」雅也は思いきって言う。
「う〜ん、でも長い間先輩って呼んでたからー。じゃ先輩も“ちゃん”付けで呼ぶの
止めてくれます?」
「オッケー。よし呼ぶぞー、えーっと、わかば?」
若葉はクスクス笑った。
「あ、ずるいぞー、俺のことは?ちゃんと呼んでくれよ」
「はい、わかりました。雅也さん、でいいですか?」
「うん、いいよ。」二人は顔を見合わせて声を押し殺して笑った。

「雅也さん、私やりたいことみつけたかもしれない・・・。」
「そうなのか?」
「はい、今いろいろ勉強中です」そう答えた若葉の目は生き生きとしていた。
夢を話し始めた若葉は幸せだった。やりたいことをみつけられた幸せ、それに向かっ
てがんばれる幸せ、そして夢を語り合える相手がいる幸せをかみしめていた。
雅也は膝におかれた若葉の手をそっと握って言った。
「俺にも若葉の夢の手伝いをさせてくれないか?それで・・・・すぐじゃなくていい
んだ、俺との結婚、考えてほしいんだー。」
若葉は一瞬大きく目を見開き驚いたようだったが、すぐに微笑んで答えた。
「・・・はい、宜しくおねがいします。」

おわり




あとがき
駄作におつきあい頂いてありがとうございます。
最初は若葉と雅也のラブストーリーをと考えていたのですが、いつのまにか若葉の自
分探しというか自立物語?に変わってしまったような気がします。
どうも失礼いたしました。


_____________________________________________



<<Catの一言>>
MIOさんご投稿ありがとうございます。若葉ちゃんと雅也さん好きです。
前回のお話を頂いた時、この後の二人読んでみたいなぁぁと、思っていたので今回もご投稿頂けてとっとも嬉しいです。
今回は若葉ちゃんの人間味が見えて、何だか共感を持たせて頂きました。次回作も待ってます。


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