snow frakes
ＡＵＴＨＯＲ みつき
打合せも終わって、
ビルから出ると雪がちらついていた。
「どうりで冷える訳だ。
おいで、チビちゃん。送って行こう。」
寒さでかじかんだ手を擦り合わせながらも
マヤは嬉しそうな顔をしている。
「いいえ、結構です。
私、歩いて帰りますから。」
え？と振り向く速水にマヤは少しバツの悪そうな顔をして
「あのー、雪が降ってるから… それで、あの…」
上手く言えなくて口ごもるマヤにクスリと笑って
コートの下の時計に目をやる。
7時。
乗り込もうとしていた車のドアを閉めて、車を帰してしまった。
「速水さん？！」
「つき合うよ。俺も歩く事にした。
ご一緒させていただけますか？お嬢さん」
「…ど、どうぞご勝手に！」
照れを隠すようにマヤがそっぽを向いて歩きだした。
オフィス街の明かりにちらちらと雪が舞う。
夜の闇に、ネオンに。
見上げれば暗闇から無数の雪の結晶が降ってくる。
空を見上げたまま歩くマヤの半歩後ろから速水が続く。
「よそ見してると転ぶぞ。」
子供だと思って、とマヤは無視して歩く。
「…いつだったか、君と雪の中を歩いたな。」
「……ええ」
「東京もまんざらではないと思うよ。
こうやって街の明かりにきらめく雪を見る時は…
こんな都会でも、冷えた空気で清々しい。」
「そうですね…私もそう思うんです。
…速水さんでもそんな事考えるんだ…」
「ははは、君はいつでも俺が仕事の事しか考えてないと
思ってるんだろうが、これでも人間らしい感情も持ってるんだ。」
「ふーん、そうですか？」
「君はひねくれっ子か？」
くっくっくと、笑いを堪えながらおかしそうに立ち止まる速水に
マヤも立ち止まって振り向く。
「また、そうやって私をからかうんだから！
だから速水さんの話は素直に聞けないんです！」
マヤの言葉を聞いて、より一層笑う速水にマヤは、
もう！知らないんだから！
と急ぎ足で歩き出した。
速水は慌てて後を追いかける。
「すまない、チビちゃん。
君がいると本当に退屈しないな。」
「速水さん、少し黙って下さい！」
まだ何か言いたそうな速水を少し睨んで制すると、
黙って空を見上げた。
つられて速水も空を見上げる。
まだ夜も早いというのに街に静けさを感じる。
音もなく降り続ける粉雪。
しばらくは黙って見続けていたが、目線を静かにマヤに向ける。
大きな瞳に光が反射し、輝いていた。
その瞳はこの夜空にも似て、清らかだと速水は思った。
不意に肩を抱きたくなって手を伸ばそうとするが、
寸での所で思いとどまる。
その時微かに、長い髪に手が触れた。
冷たい髪。
速水は自分のマフラーを取るとマヤにそっと掛けた。
「はやみさん…？！」
驚いて振り向く彼女に優しく微笑むと
「人の好意くらいは素直に受け取ってもらいたいね。」
そう言って後ろから両肩に手を乗せ、そして空を仰ぐ。
マフラーのせいだけでなく、マヤの顔が上気したのが背後からでも判るから
速水はそれだけで嬉しくなった。
私は少しだけ速水さんを知っている。
そう、速水さんは、本当はとてもあたたかい人…
……や、やだ、私ったら。
どうしてこんな事考えちゃうんだろう？
ここにいるのは速水さんよ？
意地悪な冷血仕事虫なのに！
耳まで真っ赤になって俯くと
速水の携帯が鳴った。
電話に出た隙に半歩離れて、また空を見上げる。
なんだか自分に降る雪が肌に触れた途端に蒸発していそうで落ちつかない。
「すまないね、チビちゃん。
最後までお供したかったが、時間切れだ。
さあ、タクシーを拾おう」
歩いて帰ると言ったマヤを無視して空車の渋滞の列へ向かった。
それでもマヤが大人しく従って歩いているのは、また速水がマヤの肩を抱いたから。
「…あの、速水さん…
これ、ありがとうございました」
マフラーを返そうと、ほどきかけたら
逆にしっかりと巻き付けられてしまった。
もうマヤはただ、ただ、赤くなるしか無い。
「いつかの傘のおかえしだ。
お礼は次の舞台のチケットでいいぞ。」
そう言ってマヤをタクシーに押し込んで微笑む。
つられてマヤも少しはにかんで笑う。
その晩、雪は降り続き
翌朝は東京中を銀色の世界へ変える程の寒さとなった。
それでもマヤと速水の心はあたたかなままだった。
ひとひらの雪にも似た、一瞬の幸福がいつまでも心にしみて…
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おしまい
お粗末さまでした
【Ｃａｔの一言】
好きですぅぅぅ。こういうマヤちゃんと速水さんの関係♪
あぁ、もう、何かうっとりさせて頂きました♪ありがとうございます♪