ジ ン ク ス
AUTHOR みつき




今日は早く仕事が終わった。
早く、といっても時計は既に9時をさしている。
仕事が片づかない!と嘆く社長をひとり残してさっさと会社を出て
久しぶりに街を歩く。
夜の匂いとざわついた街並み…
まっすぐには帰りたくない。

明け方まで開いている大きな本屋で、しばらく雑誌を立ち読みする。
商売敵の悪口が書かれたゴシップ誌、
事務所の女の子が表紙を飾るファッション誌、星占いのページや、
はやりの新書をパラパラめくっていた。
好きな作家の新刊が出てるのを見つけると、そのハードカバーを1冊、
それから南の島のリゾートが特集されたファッション誌と
商売敵の悪口の書かれた雑誌をレジに持って行く。
まとめてカードで払って領収書を貰う。
店を出る時携帯電話が鳴ったけれどディスプレイを見て留守伝に転送させた。

まだ地下鉄に乗りたくなくて一本裏道をぶらぶら歩く。
こんな遅い時間にも開いている花屋を見つけて入ってみた。
恋人か、それともお店の女の子にあげるのだろうか、思ったよりにぎわっている。
少し迷って切り花を買った。
白と黄色の小さな花で、名前は知らない。
透明のセロファンにくるんでもらっている間、
無意識に紫のバラをさがしてるのに気がついて苦笑した。

領収書を受け取って気がついた…
中指の爪が欠けている…

ああ、と小さく溜息をついて一気に気分が萎えたのを感じると
タクシーを拾った。もちろん、タクシーチケットを出すつもりだけれど。

マンションに帰って来ると、ヒールを脱ぎ捨て
カシミヤのジャケットも、グッチのアンティークのバッグもソファーに投げた。
バラの香りのバスバブルをたくさん入れてお湯が溜まるまで、
切り花を生けたり、マニキュアを落として待った。
携帯を充電しなければ。
そう思いついたけれど、さっきの着信が気になってバッグから出すのをやめる。

時間をかけてゆっくり湯につかる。
さっき買った本を読もうとおもったけれど、取りに行くのが面倒でやめた。
何も考えず、目を閉じて体を伸ばす。
ぷちぷちと泡の消える音と、幸せなバラの花の香りだけを楽しんだ。

遠くで携帯が鳴ってる。
しばらく呼び出し音を聞いていたけれど、勢いよくシャワーを出して音をかき消した。

サヴォイホテルのバスローブをはおり、
鏡の前で長い長い黒髪をブラッシングする。
鏡の中の自分を見て少しうんざりする。

(一体いつになったら仕事が片づくのかしら?)

せめて気分だけでも、と新しいマニキュアを選んでベッドに腰掛ける。
うすくオレンジがかったゴールド。
小さなガラス瓶をゆっくりまわして中身を混ぜる。
部屋の明かりに透かしてみて、今年のヴァカンスは絶対に取ってやると心に決める。
丁寧に爪にやすりをかけて甘皮を切る。
さあ、せめて指先だけでも晴れやかな気分になりましょう!
と、思った瞬間自宅の電話が鳴った。

片方の眉だけあげて時計を見る。12時をとうに過ぎた所だった。

「こんなんじゃ、休みなんて取れるわけないわね。」
(馬鹿ね、自分で選んだ道じゃないの)

やれやれ、と自分を呪い、重い腰をあげて電話を取る。

「水城くんか?
 こんな時間にすまない、
 さっきから何度か携帯に電話したんんだが…」
「あら、社長。それはスミマセンでした。
 会社の更衣室に携帯を忘れてきてしまったみたいですわ」
「そうだったか、、、
 ああ、実は明日の会議のスケジュールなんだが、
 最優先事項が増えた。朝一番の会議から3つばかり繰り上げたいんだが……」
「ええ、」

引き出しからベージュのマニキュアをひっぱりだしてきていた。
無造作にカシャカシャ振って、電話を顎に挟み相槌を打ちながら爪に塗る。

塗り終えると大きくフウ、と息を着く。
溜息なのか、それともマニキュアを乾かしているのか。
私にもわからない。
電話の相手は勿論前者と受け止め

「すまない。こんな時間だと言うのに。」

心苦しい声で詫びてきた。
フフ、と笑って返事をする。
「いいえ、社長こそ、こんな時間まで。
 もうお帰りになったらどうですの?
 今時、電源さえあれば仕事はどこでもできますわよ?
 明日のスケジュールの組み直しはこの後メールを出しておきますわ。」
「ああ、頼むよ。俺もあと1件目を通して帰るとしよう。」

受話器をそっと戻して、両手をパタパタ仰ぐ。
爪が触れないようにパソコンの電源を入れた。


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おわり







































*おまけ*


翌日の大都芸能本社ビル。

「働けど働けど休暇はナシ」
「なんだ、俺の事か?」
「いいえ、社長。その部下でさえ!ですわッ!」

熱いお茶をほんの少し乱暴にテーブルに置く。
今日もお昼だというのに山のような仕事の為にロクに食事を取る時間もない。

「……(何だか絡まれてるな)
 可哀想だな。
 よし、水城君、
 俺の弁当と君の弁当をトレードしてやろう」

重役会議で配られた高級仕出し弁当が余ったので社長室にもおこぼれがまわってきた。
けれど、勿論、社長の分だけ。

「赤坂・瑠璃仙のお弁当ですわね(はあと)」

ニッコリと微笑んで自分のコンビニ弁当の入ったビニール袋を差し出す。

『あ、そうじゃなくって…!
 け、決して食べ物でつられてる訳じゃなくてよ!』

良質の物に目のない水城は、
弁当を手に入れた喜びと、弁当ごときで騙されるものか
という葛藤に顔をひきつらせた微笑みで速水を見た。
速水は速水で袋の中のおぼろ豆腐と杏仁豆腐をどうしたものか、と顔をしかめた。

-----
おわり






【Catの一言】
誰の事かとドキドキしながら読ませて頂きました♪
華麗なる秘書(爆)水城さんの日常ってこうなんだろうなぁぁって素直に思えました♪
おまけ好きです(笑)

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