幸せってこういう事を言うのかな・・・。
朝起きると、大好きな人がいて、優しく微笑みかけてくれる。
どんなに忙しくても、帰ってきて、私の作った朝食を一緒に食べてくれる。

これが、幸せってものなのかな・・・。




          
         二度目の初恋−前編−










「マヤ?」
ぼんやりとしているマヤに真澄が心配そうに話し掛ける。
「えっ!」
突然、真澄に話し掛けられ、手に持っていたら、皿を手放す。

ガシャ−ン!!

見事に皿は床に激突!
「大丈夫か!」
キッチンに立っていたマヤに慌てて、真澄が近づく。
「・・・だ、大丈夫よ」
動揺しながら、マヤは一心に砕けた欠片を集める。
真澄も慌てて、欠片を拾う。

そして、二人して、同じ、欠片に手を伸ばす。
「あっ!」
不意に重なった手の温もりに、マヤの体が火がついたように赤くなる。
驚いたように、真澄の手から、逃げ出し、集めた欠片を手に立ち上がる。
そんなマヤの様子が、どこかよそよそしくて、急に心配になる。
「・・・マヤ?」
不思議そうに彼女の名を口にする。
「・・・欠片、全部集まったみたい。さぁ、速水さん、そろそろ会社に行く時間でしょ」
真澄に背を向けたままもいつもの調子で言う。
「あぁ・・・。そうだな」
マヤに言われ、時計を見つめる。
「今日も遅いの?」
ゆっくりと、振り向き真澄を見つめる。
その瞳の可憐さに、真澄の心臓が高鳴る。
「・・・そうだな。今日も、帰りは深夜になると思う」
淋しそうに口にする。
「・・・そう。社長さんじゃ、仕方ないか」
諦めたような笑顔を浮べる。
「先に眠っていて構わないから。じゃあ」
キッチンを出て、ソファ−に無造作に置かれていた上着を手にするとヒュッと着込み、玄関に向かう。
そんな些細な事だけでもカッコよく見えてしまう。
じっと、真澄を見つめ、自分がどうしようもない程に彼に惹かれているかを知る。
「何か俺の顔についてるか?」
ふと、マヤの視線が気になり、口にする。
「・・・ううん」
俯き、僅かに頬を赤くして答える。
「・・・じゃあ、行ってくるよ」
そんなマヤの態度に笑みを浮べると、優しい声で囁く。
自分を見つめる真澄の瞳に、声に、胸がギュッと締め付けられる。
「・・・行ってらっしゃい」
本当はどこにも行かないで、何て言ってしまいそうになる。
マヤの言葉を聞くと、背を向けてドアを開ける。
「あっ、そうだ」
思い出したように、振り向き、彼女を抱きしめる。
突然の抱擁に頭の中が真っ白になる。
「ずっと、君を抱きしめられなかったから・・・。いいだろ?」
甘えたように、彼女の耳元で囁く。
「後、これも」
そう言い、驚き、戸惑っているマヤの唇に自分の唇を重ねる。
「・・・うんっ」
思わぬ、ディ−プキスに甘い眩暈を感じる。
体中が火照り、どうにかなってしまいそうだった。
「これで、OK。行ってくるよ」
満足そうに微笑み、彼女を解放すると、足軽に、部屋を出る。
ドアが閉まった途端に、急に体中の力が抜け、へなへなとその場に座り込む。

「・・・もうっ、人をこんなにしといて・・・」
マヤは恨めしそうに呟き、ドアを見つめていた。






「すまない。問題が起きて、暫く家に帰れそうにない」
珍しく、早くマンションに戻ったと思ったら、そんな言葉を聞かされる。
「今日から、出張だ」
「出張?どのくらい?どこまで行くの?」
ス−ツケ−スを取り出し、素早く荷造りをしている彼に問う。
「長くて2週間。行き先はN.Yだ」
申し訳なさそうに真澄が言う。
「・・・そう」
「・・・毎晩、電話するよ。何があっても。帰ってきたら、ゆっくりできると思うから」
「・・・速水さんが、帰ってくる頃に、私は地方公演に行ってしまうから、当分、会えないよ」
マヤの言葉にハッとする。
「そういえば、そうか。後、2週間後だったよな」
「・・・次はいつ会えるんだろうね」
淋しそうに呟いたマヤの言葉に胸をかき乱される。
理性が弾け、力強く彼女を抱き寄せる。
溢れる程のキスを彼女に送る。
ベットに押し倒され、真澄の愛撫に体が溶けそうな程熱くなる。
「・・・う・・んっ。速水さ・・・ん。出張に遅れちゃうよ」
微かに残る理性にしがみつき、彼に言う。
「・・・まだ、時間はあるさ」
彼女のブラウスのボタンに手をかけながら言う。
「・あっ・・。だって、まだ荷造りできて・・な・・い・・・」
真澄の手が、唇が、彼女の胸に優しく触れる。
暫くぶりの感覚に、体中が濡れ出す。

Trrrrr・・・。Trrrrr・・・。

恋人たちの時間を引き裂くように真澄の携帯が鳴り出す。

「くそっ!」
半裸のマヤから名残惜しそうに離れ、電話に出る。
「水城君か。あぁ、わかった、すぐに行く」
不機嫌そうに答えると電話を切る。
真澄が電話をしているうつにサッと身なりを整え、起き上がる。
「ほら、時間がないでしょ」
淋しさを隠すように言う。
「あぁ・・・」
母親が子供にしかりつけるようなマヤの言い方に、苦笑を浮かべ、答える。

「じゃあ、行くよ」
ス−ツケ−スを手に、真澄はマンションから出て行った。





「きゃっ!」
突然、頬に冷たい感触を受けて、驚く。
悪戯っぽい笑みを浮べた桜小路が彼女の頬に今、買ってきたばかりジュ−スを押し当てていた。
「どうしたの?ぼんやりしてて」
マヤの隣に座り、優しく話し掛ける。
「・・・何でもない。ただ、今日、速水さんが帰って来る日だなぁぁ・・と思って」
地方公演中の彼女にとって出向かえに行けな事は何よりも辛かった。
「何だか、ずっと、会えない気がするの。このまま、もう二度と会えないような・・・」
抱えていた不安を口にする。
「考えすぎだよ。この公演も一ヶ月もすれば終わる。そしたら、ゆっくり会えるよ」
安心させるような穏やかな笑みを浮かべる。
「・・・そうだよね」
桜小路の言葉に安心したように呟く。

しかし、マヤの予感は現実のものとなった。


『JUR201便、が突然、消息を絶ちました』

夜の公演が終わり、楽屋でテレビをつけると、そんな言葉がマヤの耳に入ってきた。
「JUR201便・・・」

”JURの201便で帰って来るよ”
真澄の言葉が頭の中をすり抜ける。

「北島?」
さっきまで楽しそうに話していた彼女の顔色が変わり、黒沼は何事かと、彼女を見つめた。
「・・・先生・・・速水さんが・・・速水さんが・・・」
瞳いっばいに涙を溜め、途切れそうな声で呟く。





「・・・水城さん」
新幹線に飛び乗り、迎えに来た彼女に不安そうな瞳を浮かべる。
「大丈夫よ。まだ、希望はあるわ」
崩れそうな自分を支えるように水城は言う。
水城に連れられて訪れた対策本部には乗客の関係者と、航空会社の人間で、騒然としていた。



「只今、墜落した機体を発見したそうです」

辛い知らせを、誰かが、口にする。
その言葉に、そこにいた全員が押し黙る。

一瞬の沈黙・・・。
そして、深い悲しみの訪れ・・・。

マヤはその場に倒れ、意識を失った。






飛行機事故から三か月。
今だに、一部の乗客の遺体は発見されなかった。
そして、真澄の遺体も・・・。
マヤは微かな希望に必死で毎日しがみついていた。

「今日、社長の荷物が発見されたそうよ」
公演が終わり、帰ろうと思った時に、水城が現れた。
その言葉に大きな衝撃を受ける。
「これから、荷物の確認に行くけど、来る?」
水城は覚悟を決めたようにマヤに言った。



「・・・そんな・・・速水さん・・・」
出てきた荷物の中から、真澄と一緒に移っている写真が見つかる。
そして、あの日真澄が手にしていたス−ツケ−スも・・・。
厳しい現実が彼女の希望を絶つ。
しがみついていた希望が彼女の手の間からすり抜けていく。

「・・・私は信じない!!速水さんの遺体を見るまでは!!!信じないわ!!!」
大きな声で泣き叫び、何度もその言葉を口にする。
自分を支えるように、希望を逃がさないように・・・。






ここはどこだ・・・。
俺は一体・・・誰なんだ・・・。
真っ白な天井を見つめ、男はそんな疑問を抱きながら、日々を過ごしていた。
「あら、今日は顔色がいいわね」
看護婦のナンシ−が彼に話かける。
「何だか、幸せな夢を見たんだ」
そう言い、夢の中に現れた小さな少女を思い出す。
「この分だと、後、一週間もすれば退院よ」
その言葉に男は急に不安になる。
「どうしたの?ケイイチ?」
「・・・俺は、一体、誰なんだろうと思って・・・。何も思い出せないんだ・・・。何も・・・」
「大丈夫。そのうち思い出すわ。あなたは酷い事件に巻き込まれても、こうして生きてるんだから」
励ますように優しい笑みを浮べる。




事故から半年。
フライトレコ−ダ−が回収され、ついに事故の調査は打ち切りになった。

冷たい、雨が降り続けていた。
1000人以上の人が真澄の葬儀に駆けつけていた。
しかし、その中にマヤの姿はない。

彼女は真澄が生きていると強く信じていた。
だから、葬儀には出なかった。
認めたくなかったから・・・。
狂いそうな自分を曝け出したくはなかったから・・・。




「ここにいたの?ケイイチ」
淋しそうに海を見つめる彼に話かける。
「・・・エミリ−」
優しく、微笑みかける。
ケイイチと呼ばれた男は退院をすると、エミリ−という女性に引き取られた。
彼女にとって、ケイイチは命の恩人であり、記憶のない彼を見捨てる事はできなかった。
「どうして、思い出せないんだろう・・・」
歯痒そうにケンイチが呟く。
「・・・あなたは、もしかしたら、ここの人ではないのかも?」
ネイティブのように流暢に英語を話す彼をエミリ−は日系アメリカ人であると思っていた。
しかし、どんなに彼の関係者や、肉親を求めて探しても名乗り出る者はいなかった。
「・・・探す場所を変えてみない?」
「・・・探す場所を変える?・・・一体、どこに?」
怪訝そうに彼女を見つめる。
「日本よ」
その言葉にケイイチの胸がざわめく。
「・・・日本か・・・」
その言葉に憧憬を抱くように瞳を細める。





「マヤ、何泣いてるんだ?」
聞き慣れた優しい声がする。
「・・・速水さん」
不安そうな彼女を抱き寄せる。
どんなに辛くても、この腕があったから、耐えられた。
優しい彼の温もり・・・。
決して無くなる事のない・・・。
「・・・会いたかったの・・・会いたかったの・・・あなたに」
力強く、真澄を抱きしめる。
その感触を感じる為に・・・。
「毎日、顔を合わせているのに、君って子は・・・」
そんなマヤの言葉に嬉しそうに微笑む。
「だって、気づいたら、速水さんがいなくなっちゃいそうで・・・」
何がそう自分を不安にさせるのかわからなかった。
「馬鹿だな。俺はいつだって、マヤの側にいるよ」
クスリと笑い、彼女を見つめる。
「君が邪魔だと思う時だって、側にいるぞ」
悪戯っぽい、笑みを浮べる。



「・・・速水さん・・・」
目が覚めると、真澄の姿はなかった。
また、自分が夢を見ていた事に気づく。
幸せな夢・・・。
悲しい現実を忘れさせてくれるような・・・。
知らずのうちに涙が浮かぶ。
恋しくて・・・。
愛しくて・・・。
身が切られそうな思いに駆られる。





日本に来てから一週間。
ケイイチはやはり何も思い出せなかった。
「何、暗い顔をしているの?」
エミリ−が心配そうに尋ねる。
「・・・俺は本当に日本人なのかなって・・・。よく考えれば、このケイイチという名前だって、俺を救ってくれた医者が勝手に
つけたものだし・・・。俺が日本人である証拠は何もない」
「あなたは日本人よ。だって、あなた日本語話すじゃない。中国語は話せないでしょ」
「・・・わからない。忘れていて話せないのかもしれない・・・」
「もう、そんな顔しないで。今日は気分転換にお芝居でも見ましょう」
「芝居?」
「実は友人が急に行けなくなって、チケットをくれたの。何でも、今日本で一番人気のある芝居だそうよ」
エミリ−は嬉しいそうに2人分のチケットをケイイチに渡した。
「・・・紅天女・・・」
チケットに書かれたその題目に、なぜかきゅっと胸が締め上げられる。





『誰じゃ・・・私を呼び覚ます者は誰じゃ・・・』
私は紅天女・・・。

『森の木霊か夜の静寂か・・・』
芝居をしている時は全てが忘れられる。

『いや、これは血の匂い・・・』
悲しい現実も、愛しい人の事も・・・。


何だ・・この感じは・・・。
胸に溢れるこの切なさは・・・。

ケイイチは目にする舞台に、訳のわからない感情が溢れ出すのを感じた。
「・・・ケイイチ・・?」
苦しいそうなケイイチに隣に座る、エミリ−が話し掛ける。
「・・・何でもない・・・ただ、胸が急に苦しくなっただけだ・・・」



『あの日、谷で初めて、おまえを見た時、阿古夜にはすぐわかったのじゃ・・・。
おまえがおはばが言う、もう一人の魂の片割れだと・・・』

”魂の片割れ・・・”
その言葉にケイイチの心に何かが、浮かぶ。
自分にくったくのない笑顔を浮べる少女・・・。
切ない程に、向けられた瞳・・・。

『年も姿も身分もなく、出会えば互いに惹かれあい、もう半分の自分を求めてやまぬという・・・。
早く、一つになりたくて、狂おしいほど相手の魂を乞うると・・・。
それが恋じゃと・・・』




「ケイイチ、どうしたの?」
芝居が終わっても、席から立たない、彼に促すように聞く。
「・・・何だか、不思議な感じなんだ・・・胸の中がざわめくというか・・」
「今のお芝居がステキだったからかしらね・・・」
エミリ−は切なそうに芝居を思い出した。
恋に生きる女の姿。
紅天女の幻想的な優美さ・・・。
片言の日本語しかわからない彼女にもそれは十分な程伝わってきた。
「・・・もう少し、ここにいたいんだ。先にホテルに戻っててくれるかい?」
日本に来て、やっと、何かを思い出しそうな彼は真剣な瞳を浮べていた。
「・・・ケイイチ・・・わかったわ」
そんな彼の思いがわかるように、エミリ−は劇場を後にした。




「マヤちゃん、帰ろうよ」
着替えが終わった桜小路はいつものようにマヤの楽屋を訪れた。
そこにはぼんやりと考え事をしていた彼女がいた。
いつもと違う様子に心配になる。
「どうしたの?何かあった?」
「・・・何だか、胸がざわめくの・・・。舞台の間中からずっと・・・。誰かの瞳を感じたの・・・。何だろう、この気持ちは・・・」
不思議な気持ちを口にする。
「・・・どうしたんだろう。私・・・」
「きっと、紅天女としての気持ちがまだ残っているだけだよ」
「・・・そうかな・・・」



「あの、お客様、そろそろ閉めますが」
劇場に残っているケイイチに係りの者が話し掛ける。
「あぁ・・・そうか」
その言葉を聞くと、仕方なく、席から立ち上がる。




「夕飯、何食べる?」
楽屋から出て、マヤと一緒に歩きながら、聞く。
「・・・そうだなぁぁ。スパゲッティとか食べたいかも」
漠然としたさっきの不思議の気持ちを消すように、桜小路との会話に集中する。
「よし、じゃあ。僕のとっておきのお店に案内するよ」
「やった。嬉しい」
無邪気な笑顔を浮かべ、桜小路を見る。
と、その時、桜小路の表情が何かを見つけ、凍りついたように固まるのがわかる。
「・・・どうしたの?」
不安そうに、そう言い、彼の視線を追うように、彼の見ているものを探す。

ロビ−に立つ、長身の男性・・・。
Tシャツにジ−パンというらふな姿だが、その背中に見覚えがあった。
顔を見なくても、その後ろ姿が誰だかわかる。
マヤの胸の中に熱い思いがこみ上げてくる。

「・・・速水さん!!」
突然、誰かにそう呼ばれ、抱きしめられる。
ケイイチは驚いて、自分を抱きしめる少女を見つめた。
その姿に夢の中に出てくる少女の影が重なる。
そして、意識がフッと途切れ、その場に倒れた。

「速水さん!速水さん!」
急に倒れた彼に不安そうに叫び続ける。
「桜小路君、救急車・・・救急車呼んで!!」




「・・・う・・・ん・・・。ここは・・・」
目を開けると、また真っ白な天井が見えた。
先ほど、自分を抱きしめていた少女が、ベットの側で眠っていた。
酷い頭痛がする。
何かで大きく頭を叩かれたような・・・。
「・・・痛むの?」
頭を抑え、抱え込んでいる彼に、心配そうな声がかかる。
眠っていた少女が、いつの間にか目を覚まし彼を見つめていた。
「あぁ・・・」
少女の問いに小さく答える。
「・・・ここはどこなんだ?」
「病院。あなた、突然、倒れて・・・」
心配そうに彼を見つめる。
「でも、よかった。もう二度と会えないかもしれないと思ったあなたが、今こうして、ここにいる」
愛しそうに彼の頬に触れる。
「・・・会いたかった・・・ずっと、会いたかった・・・」
戸惑っている彼を抱きしめ、涙を流す。
「やめてくれ!」
少女の行動に重く何かがのしかかり、彼女を突き放す。
「・・・速水・・・さん?」
そんな真澄の行動に信じられないものでも見るように見つめる。
「・・・俺は、ケイイチだ。速水なんかじゃない」
真澄の言葉に驚いたように見つめる。
「嘘!あなたは速水さんよ・・・」
突然、突きつけられた事実を否定するように口にする。






「・・・記憶喪失?」
彼が連絡を取るように頼んだ、ホテルに電話すると、病院に駆けつけた女性は片言の日本語で、
マヤと、そして、水城に言った。
水城は堪能な英語を駆使して、真澄の今までのいきさつをエミリ−から聞きだしていた。
マヤは桜小路にささえられながら、そんな二人のやりとりを呆然と眺めていた。

知らない人を見るように見つめる真澄の瞳・・・。
決して今までそんな事はなかった・・・。
事故にあって、その生死を絶望にされていた彼がせっかく戻ってきたのに・・・。

記憶喪失だなんて・・・。

「マヤちゃん、大丈夫?」
エミリ−から事情を聞き出した水城が、呆然とする彼女を見つめる。
「・・・わからない。大丈夫なのか・・・」
空ろな瞳で、呟く。
「・・・で、速水さんに何があったの?」
水城はその言葉に、真澄がエミリ−を助ける為に銃弾を浴びた事を聞いた。
「・・・銃って・・・。速水さん撃たれたの?」
「えぇ、強盗に占拠されたコンビニに偶然入って・・・。強盗どもは抵抗したエミリ−を撃とうとしたんだけど、
その時に社長が彼女を庇って、頭に銃弾を受けたそうよ。幸い、急所は外れて、神経組織には異常はなかったんだけど、
撃たれショックで記憶を失ったそうよ」
「・・・じゃあ、飛行機に乗らなかったんだ・・・」
「えぇ。荷物だけ預けて、そのすぐ後にきっと、事件に巻き込まれたんじゃないかしら。
社長の身元がわかりそうなものは全て、強盗どもに奪われてしまったらしいわ・・・」
「・・・速水さん、大変な思いをしたんだね・・・」
真澄を襲ったこれまでの不幸を考えると、涙が止まらなかった。
「・・・そうね」





それから一ヶ月。
奇跡の生還を遂げた真澄は周囲の者を驚かした。
あの、速水英介でさえ、真澄の姿を目にした途端に、涙を浮べたという。
エミリ−はアメリカに戻り、真澄は社長業に戻っていた。
だが、やはり、自分が速水真澄なのだという事は思い出せなかった。
仕事の方は不思議と、こなしていく内に、違和感を感じなくなっていくのに、
恋愛に関して・・・特に、マヤに関しては、一緒にいる事に違和感を感じていた。
彼には、彼女という存在が不思議で仕方がない。
自分が、誰かに恋をするなんて・・・。
確かに、愛しく思う気持ちはどこかに、存在する。
だが、やはり何かが違うのだ・・・。
掛け違ってしまったボタンのように・・・。


「お帰りなさい」

遅く戻る彼を健気に彼女が出迎える。
その事が彼には重く、煩わしい。
「・・・起きてなくて、いいと言ったのに・・・」
「だって、速水さんの顔を一日一度でも見ないと、落ち着かなくて」
「毎朝、顔を合わせるじゃないか」
「じゃあ、一日に二度だわ」
彼の為に作った夜食を用意しながら答える。
そう言った、彼女の笑顔が可愛くて、一瞬、訳のわからない気持ちにさせられる。
やはり、自分はこの子を愛しているのか?
少女のようなあどけなさを持つ彼女に・・・。
やっと、決意し、今日こそは言おうと思った言葉がどこかへと崩れそうになる。

駄目だ、言わなくては・・・。
彼女の為にも・・・自分の為にも・・・。
再び強く、決意を固めると、彼は口を開いた。

「実は明日から、速水の屋敷の方に帰ろうと思う」
彼の口から出たその言葉は彼女の表情から笑みを奪う。
「・・・何も思い出せない以上、これ以上、俺は君と一緒にいる訳にはいかないと思うんだ・・・」
自分の思いを口にする。
「それに環境を変えれば、何か思い出すかもしれないし・・・。君はこのマンションを使っていてくれていいから」
最後に彼女を気遣うように言葉を繋げる。
予想通り、彼女は辛そうな表情を浮べていた。
その表情に胸が痛む・・・。
「・・・速水さんがそうしたいのなら、構いません」
泣き出してしまいそうな自分を必死で抑え、優しく笑う。
「何か思い出したら、この部屋に戻ってきて下さい。私はその時の為にずっと、ここであなたを待ちます」
淋しそうに笑い、変わらぬ気持ちを口にする。
「・・・どうしてなんだ。どうしてそこまでして俺を待つ?もしかしたら、一生君の事を思い出さないで、他の女性に心を奪われる
かもしれないんだぞ」
彼女の自分を待つという言葉に、苛立ちを感じ、感情のまま言葉を口にする。
「・・・私だって、わからない。あなたの事を忘れて他の人の事を好きになれれば、あなたにも、私にもいい事なのかもしれない。
でも、やっぱり、駄目。あなたを愛してしまったから、あなたを好きになってしまったから・・・」
純粋な瞳で真澄を見つめ、どうしようもない思いを口にする。
そんな彼女が痛々しくて、つい、抱きしめそうになってしまう。

ここで、手を差し伸べてはいけない・・・。
自分は何も思い出せないのだから・・・。

自制心を総動員させ、彼女から背を向ける。
「ごめんなさい。こんな気持ち、重たいですよね。気にしないで下さい。勝手に私が思ってるだけですから。
あなたが誰を好きになろうと、私は構いません。ただの私の片思いですから・・・」
自分に背を向けた真澄が怒っているのかと思い、懸命に謝る。
「・・・今まで、私と一緒にいてくれてありがとうございました。それだけで私は幸せです。だから、あなたが私を思い出してくれなくてもいいです。
あなたのしたいようにして下さい」
マヤはそう言うと、リビングを出て、寝室に入っていった。
これ以上真澄といるのが辛かったから・・・。
彼に涙を見せたくなかったから。

恋はいつか終わるもの・・・。
一度でも真澄に心から愛されたのだから・・・。
もう、それだけでいい・・・。
彼が生きているのなら、それだけでいい・・・。

この恋を終わらせる事になっても・・・。
片思いに戻っても・・・。

マヤはベットに身を沈め、一晩中そんな事を考えながら、泣いていた。







【後書き】
明日飛行機に乗るのに・・・何てものを書いているのでしょうか(苦笑)
はぁぁ・・・。時間がないのに・・・。PCを開いて、ficを書いている自分が信じられません(笑)
駄目だ・・。帰ってきてから書けばいいのに・・・。
何て事を思いながら、結局は前編を書いてしまいました(笑)
つくづく・・・私って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(撃沈)

さすがに後編書いている時間はないので、ここでやめておきます。

ここまで、お付き合いくれた方、ありがとうございました♪

2001.9.2.
Cat









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