50000リクエストRemembrance−前編−
「・・・すまない、マヤ・・・」
その言葉はもうお決まりの文句になりつつあった。
はぁ、また仕事に真澄をとられるのか・・・。
心の中ではそう思うけど、言葉には出せない。
何て言ったて、想い焦がれて、好きになった相手。
自分など一生振り向いてなどもらえないと思っていたのに、彼は今、彼女の恋人なのだ。
「・・・いいの。速水さんが忙しいのは知ってる。社長さんだもんね。我慢しなきゃ」
受話器越しから聞こえるため息とともに、出た言葉に真澄の胸がチクリと痛くなる。
「・・・本当にすまない・・・来月になれば、体が空くと思うから・・・」
来月まで会えないの?
真澄の言葉に思わず、そう呟きそうになったが、マヤは喉元で何とか飲み込んだ。
「・・・そう、お仕事頑張ってね。じゃあ」
これ以上話ていると、恨み言を言ってしまいそうなので、マヤは思い切って電話を切った。
「・・・はぁぁ」
小さくため息を漏らし、目の前のグラスを見つめる。
「また、彼氏にすっぽかされたのか?」
今同じ芝居に出ている俳優の野沢一樹がマヤに話し掛ける。
マヤは今日は芝居のメンバ−と飲みに来ていた。
今日は速水と約束があると言って、断ったが、顔を見せる程度でいいからと言われ、仕方がなく来てしまったが・・・。
まさか、速水の方が駄目になるなんて・・・。
もうこうなれば今夜は自棄酒に走るしかない。
「・・・みたいです」
カクテルを一気に飲み干し、苦笑を浮かべる。
「はははは。北島、そんな冷たい男捨てて、俺と付き合えよ」
冗談とも本気ともつかぬ表情でマヤを見る。
「野沢さん今、そんな事私に言うと本気にしますよ」
クスクス笑い、酒のお代わりを頼む。
「本気で言ったんだがな」
一瞬、真剣な表情でマヤを見つめる。
その瞬間、マヤは噴出してしまった。
「はははははははは。野沢さん、それ面白い!」
マヤの笑顔に野沢も表情を緩める。
「・・・北島、もっと彼氏に甘えたらどうだ?男なら好きな女からの我侭は結構嬉しいぞ。
おまえは少し物分りがよすぎる」
フッと優しい表情になり、諭すように言う。
その表情がどこか速水と重なる。
「・・・甘えていいのかなぁって・・・思うんです。だって、きっと私の方が好きで・・・、絶対振り向いてもらえないと思っていたのに、
彼は私の方を見てくれて・・・好きだと言ってくれた。もう、それだけで嬉しくて・・・だから、少しぐらい会えなくても我慢しなきゃ、ばちが当たるような気がして・・・」
数杯目の酒を口にしながら、胸の内を見つめるように話す。
「ばちが当たるか・・・。それが北島らしいな。だが、それじゃあ、駄目だ。本当に好きなら我侭にならなくちゃ・・・、おまえ都合のいい女で終わってしまうぞ」
野沢の言葉に胸が痛む。
「今のままじゃ、気持ちがすれ違ったまま・・・別れるなんて事になるかもしれないぞ」
野沢の言葉にドキッとする。
「嫌!速水さんと別れるなんてそれだけは!」
言葉を荒げた彼女に野沢は一瞬、瞳を見開いた。
「例えばの話だよ。そうなるとは言っていないが・・・だけど、忙しい、忙しいで会えないでいると何時の間にか距離ができてしまうものなんだよ」
「・・・野沢さんなら、どうしますか?」
すがるように彼を見る。
「俺なら今すぐ会いに行くね」
その言葉にマヤは突然、席を立った。
「北島?」
「私、今から会いに行ってきます」
酒の入っていた彼女は何だか強気だった。
「えっ」
「会って、速水さんに言いたい事言ってきます」
「よく、マヤちゃん許しましたね」
電話を置いた真澄に水城があきれたように彼を見る。
「これで真澄様が約束をすっぽかしたの5回目になりますよ」
水城の言葉を無視するように書類を見つめる。
「それとも、真澄様と会えなくてもマヤちゃんはどうって事ないのかしら」
グサリと刺さる。
「・・・水城君、そんな事より、会議の準備はできているのかね」
これ以上何も言わないでくれというように鋭く水城を見る。
「えぇ。プロジェクトのメンバ−は皆そろいましたわ」
水城の言葉を聞くと、真澄は社長室を出て、会議室に向かった。
「あの、速水さんはいますか?」
水城が社長室に会議の資料を取りに行こうしたら、突然、マヤに話し掛けられた。
「・・・マヤちゃん・・・」
驚いたようにマヤを見つめる。
「社長なら、今会議中だけど」
その言葉にマヤの顔色が曇る。
やっぱり、お仕事が忙しいのに来たら迷惑だよね。
「そうですか」
そう言い、マヤは来た道を戻ろうとする。
「待って」
マヤを引き止めるように水城が声をかける。
「せっかくここまで来たのに会っていかないの?」
マヤはゆっくりと水城の方を振り返った。
「えっ、でも、速水さん忙しそうだから・・・いいんです。次会う時まで我慢しますから」
会いたい想いを必死で堪えているマヤに水城は胸が痛くなった。
「・・・マヤちゃん、物分りが良すぎるわよ。好きなら、偶には我がままを言って、社長を困らせなきゃ」
水城の言葉と野沢の言葉が重なる。
まさか同じ日に、同じ事を二度言われるなんて・・・。
私って、物分り良すぎるのかな・・・。
なんて事を考えながら、マヤは苦笑を漏らした。
「後、一時間もすれば、会議終わると思うわ。社長室で待っていれば?」
「社長、お客様が見えていますよ」
会議が終わった後、そっと水城は速水に耳打ちした。
「客?」
「えぇ。もう、一時間程、社長室でお待ちです」
水城の言葉に腕時計をチラリと見ると、午後10時を少し過ぎていた。
この時間なら、まだマヤに会いに行けるかなと、淡い期待を抱いていたが、突然の来客に、速水はため息をついた。
「あら、どうなさいました?」
真澄の顔色が少し疲れたように見えた。
「いや。何でもない」
真澄は覚悟を決めて、社長室に入った。
と、そこにいたのはソファ−で転寝をしているマヤだった。
嬉しい来客に自然に笑顔ほ浮かぶ。
「・・・こんな所で寝ていると風邪ひくぞ」
そう声を掛けられ、薄っすらと目を開けるといつの間にか彼がマヤの隣に座っていた。
「・・・速水さん・・・」
気づけば、真澄の上着が肩にかかっていた。
「・・・会いたかったよ・・・」
真澄の顔を見た途端に抱きつく。
いつもよりも積極的な彼女に、自分がどれ程悲しい思いをさせていたかを知る。
「・・・速水さんに会えなくて、本当は寂しかったの。だって、あなたはずっと、ずっと仕事で・・・」
自然とマヤの瞳に涙が浮かぶ。
「・・・すまない・・・。寂しい思いをさせたみたいだな。そうだ、君にプレゼントがある」
そう言い、真澄は何かを思い出し、ソファ−から立ち上がった。
「水城君、例のものはどうなっている?」
デスクの上のインタ−ホンで話し掛ける。
「日程の方はいかがなさいますか?」
水城の涼し気な声が返ってくる。
「・・・マヤ、今週末は時間があるか?」
優しい瞳を彼女に向ける。
「えっ・・・。あっ、はい。空いていると思いますけど」
それを聞いて、真澄は水城に再び、何事かを告げた。
「・・・あの、一体?」
マヤの隣に再び戻ってきた真澄を見つめる。
「・・・俺も少し、休みを取る事にしたんだ。今週末は一緒に出かけよう。行く先はマヤが一番行きたがっていた所だ」
真澄の言葉に目が輝く。
「えっ、私の行きたがってた所!」
「あぁ。そうだ」
にっこりと笑って真澄はマヤを抱き寄せた。
そして週末・・・。
「わ−!!!!ミッキ−だ!!!」
マヤは童心に帰ったようにミッキ−マウスの姿に笑みを浮かべた。
「速水さん、写真、写真」
真澄はマミッキ−と並ぶ、マヤに笑みを零しながら、シャッタ−を切った。
そう、彼らが今いる場所は東京ディズニ−ランド。
一歩入ればそこは夢の国、かわいい建物や、キャラクタ−たちに囲まれ、幸せな気持ちにさせてくれる。
マヤは初めてのディズニ−ランドに目を丸くして喜んでいた。
「速水さん、次、あれ!あれ乗ろう!!」
そう言い、マヤが示したのはスペ−スマウンテン。
実は真澄はこの手の乗り物が苦手だった。
随分前にディズニ−ランドに仕事で行った時、これがどんなアトラクションか知らず、痛い目にあったのだ。
「あっ・・・いや、マヤ、俺はここで待っているから、君一人で行っておいで」
真澄の一言に、一瞬、マヤの表情が曇る。
カップルで来て、一人で乗るなんて、こんなに味気のない事はない。
「・・・えっ、でも・・・」
マヤが困ったような瞳で真澄を見つめる。
うっ・・・。その瞳に弱いんだよな・・・。
小さく心の中で呟き、真澄は決断をした。
「冗談だよ。ははは。もちろん俺も一緒に乗るさ」
愛するが故に真澄はその一言を口にした。
もちろん、彼の顔色が幾分か青白くなっていたのは言うまでもないだろう。
そして、待つ事30分。
並んでいる間、もう、真澄はマヤの話など頭に入らなかった。
大丈夫だ・・・。落ち着け、速水真澄。
たかが、ジェットコ−スタ−の一つや、二つ・・・。
「お次の方、どうぞ」
そう呼ばれ、マヤが嬉しそうに乗り込む。
「あの?どうかされましたか?」
一向に乗り込まない、真澄に係りの者が不審そうな目を向ける。
「いや・・・。何でも・・」
小さく呟き、真澄はマヤの隣に乗り込んだ。
普段なら、神頼みなどする事がない、真澄でもこの時ばかりは祈らずにはいられなかった。
どうか、無事に帰って来られますように・・・。
そう願った瞬間、ゆっくりと乗り物が動いていく。
「わぁ、真っ暗」
驚いたようにマヤが呟く、そして、次の瞬間コ−スタ−は加速を上げ、動き出した。
「楽しかったですね」
コ−スタ−から降りると、上機嫌のマヤが真澄に言う。
真澄はというと顔色は真っ青、足元はふらふらとおぼつかない。
それでも、マヤの前なのだから、しゃんとしなければと、その強い自制心を使い、何事もなかったように振舞う。
「・・・あぁ。面白かったな・・・」
「そうだ!次はあれ行こう!」
そう言い、マヤが指したのはナント!ビックサンダ−マウンテン。
真澄の顔色が更に悪くなったのは言うまでもないだろう。
「・・・もう、速水さん、苦手なら、苦手だと言って下さいよ」
スペ−スマウンテン、ビックサンダ−マウテン、スプラッシュマウンテンを一度ならず、二回ずつ乗った真澄に、もう自制心なんてものは残っていない。
明らかに顔色の悪い彼にマヤはさすがに、真澄がその手の乗り物が苦手な事に気づいた。
「・・・いや、君が楽しそうだったから・・・言い出せなくて・・・」
ベンチに座り、頭を抱えながら、真澄が呟く。
真澄の一言に何だか、胸の中が熱くなる。
「・・・速水さん・・・」
申し訳なさそうに真澄を見る。
「・・・なんだ?どうした?そんな顔するな。次はあれに乗ろう」
マヤが落ち込んでいる事に気づくと、笑顔を向け、真澄はベンチから立ち上がった。
「・・・えっ、でも・・・あれってお化け屋敷じゃ・・・」
真澄が誘ったのはホ−ンテッドマンションだった。
マヤはお化けの類は実は苦手だった。
「大丈夫。あれは日本のお化けとは違うから、楽しめるよ」
マヤの手を握り、歩き出す。
少し不安な思いに駆られながら、真澄についていく。
「・・・わぁ!かわいい」
真澄が言った通り、ちっともそのアトラクションは怖くなかった。
お化けたちが出て来てもマヤはクスクスと嬉しそうに笑う。
「なぁ、怖くないだろう」
マヤの耳元にそっと囁き、首筋にキスをする。
「あっ・・・速水さん。お化けが見ていますよ」
思わぬ真澄のキスに頬を赤くする。
ここは暗がり、そして、完全に二人っきりになれるので、真澄の中の悪戯心が動き出すのも無理はなかった。
「別に構わないさ」
そう言い、マヤの唇に濃厚なキスを落としていく。
「・・・もうっ」
真っ赤になりながら、マヤはそれを受け止めていた。
日もどっぷり暮れ、パレ−ドも終り、閉園の10時丁度に二人はディズニ−ランドを出た。
もちろん、マヤの手には抱えきれない程のおみやげがぶら下がっている。
「・・・そんなに、買ってどうするんだ?」
半ば呆れたように真澄が言う。
「えっ、だってかわいいかったから。それに皆におみやげ買って行くって言っちゃったし」
「自分へのおみやげの方が多いんじゃないのか?」
からかうように真澄が言う。
「・・・だって・・・」
恥ずかしそうにマヤが答える。
そんなマヤを真澄は愛しそうに見つめた。
「・・・さて、ついたぞ」
車を止め、真澄が言う。
「わぁぁ・・ステキ」
ホテルを見上げ、マヤは感嘆の声をあげた。
「驚くのはこれからだぞ」
意味深な笑みを浮かべ、真澄はマヤと共に車を降り、シュラトンの中に入った。
「いいって言うまで、目を開けちゃ駄目だぞ」
部屋に入る前に真澄が言う。
「えっ・・・うん」
そう言われ、マヤはわくわくした気持ちを胸に目を閉じた。
真澄はマヤの手をそっと引き、部屋の中に入る。
「ねぇ、まだ?」
ドアの閉まった音で、部屋の中に入った事を悟る。
「もう少し・・・よし、いいぞ!」
マヤを窓の前に立たせ告げる。
次の瞬間、マヤの目に入ったのは宝石のように輝く夜景と海だった。
「わぁぁぁぁぁ!!!!綺麗!!!!」
真澄が取った部屋は最上階のスィ−ト。
このホテルで一番、景色が良く見える場所だった。
「気に入ってもらえたかな?」
真澄の言葉に満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう。速水さん」
胸が一杯で涙が溢れてくる。
「おっ、おい」
マヤの涙に驚いたように口にする。
「・・・ごめんなさい。嬉しくて、嬉しくて・・・涙が止まらないの」
そんなマヤに真澄はそっと近づき、涙を拭うようにキスをした。
「・・・愛してる・・・」
キスを落としながら、何度も何度も彼女の耳元で甘く囁く。
その言葉にマヤの胸が熱くなる。
張り裂けそうな程に愛しさが募る。
「・・・私も・・・愛してる」
真澄を真っ直ぐに見つめ告げる。
二人はゆっくりとベットに倒れていった。
その夜、何度も真澄に抱かれ、マヤはこの上なく幸せだった。
二人で明け方の空を見つめる。
大きな窓からは有明の月と、真っ青な海が見えた。
「・・・何を考えているんだ?」
真澄に抱かれながら、ぼんやりと窓の外を見つめる彼女に問う。
「・・・あなたと出会えて良かったなって」
彼を見つめ、呟く。
その言葉に真澄も同じ想いが胸を占める。
「俺も・・・。君と出会えて良かった・・・」
ギュッと裸体のマヤを抱きしめる。
愛しさを伝えるように。
密着した素肌と素肌から互いの想いが伝わり合う。
「・・・もう、何があっても君とは離れられないな」
「・・・私も、あなたとは離れられない」
ギュッと彼の腰に腕をまわす。
そして、マヤの方からそっと、真澄にキスをする。
そのキスに誘われるように、真澄は再び、マヤをベットに沈めた。
「北島、なんだ?そのニヤケ顔は」
朝からにやっけぱなしのマヤに野沢が声をかける。
「・・・えっ、にやけてなんて・・・」
赤くなって彼を見かえす。
「・・・口元が緩んでいるぞ」
野沢の言葉に思わず、鏡を見つめる。
確かに、野沢の言う通りしまりのない顔を浮かべていた。
「その分じゃ、週末は彼氏と楽しんだのかな」
からかうような野沢の言葉にマヤは真っ赤になった。
「おっ!図星か」
「・・・もう、野沢さん、からかわないで下さい」
「ははははは。久しぶりにおまえの元気そうな顔を見れて安心したよ」
優しい瞳でマヤを見つめる。
その表情が何だか、真澄と重なるので、マヤはドキッとした。
「ご心配おかけしました。もう、大丈夫です。さぁ、稽古、稽古」
マヤは次回出演する芝居も野沢と一緒になった。
今日はその顔合わせと、本読みである。
野沢とは何でも気軽に話せるという仲になっていた。
この公演の稽古に入れば、また暫くは速水とは会えなかったが、もう、マヤには不安な気持ちはなかった。
しかし・・・ある日、ふと目にした週刊誌に、どこかの財閥のお嬢様と真澄のスキャンダルが出ていた。
その写真に写る真澄の姿はとても優しそうな瞳をしていた。
そう、マヤに向けるような・・・。
「・・・速水さん・・・」
マヤの心が大きく揺れ始める。
記事を読めば、読む程、不安な思いに駆られる。
真澄と最後にあってから一週間、いつもなら、連絡をくれる彼が何も言ってこない。
胸の中に真っ黒な感情が占め始める。
マヤは堪らず、彼の携帯に掛けた。
”現在この電話は電波の届かないところにあるか、電源が・・・”
お決まりのアナウンスに電話を切る。
それでも彼の声が一言でも聞きたくて、大都芸能の方にかけるが、生憎、真澄は留守で、水城までもいなかった。
「どうした、北島?」
寂しそうに肩を落とす彼女に野沢の声がかかる。
「・・・何でもないんです」
明らかに、何でもないという顔じゃない。
その事が野沢の胸を切なくさせる。
「何でもないって顔じゃないぞ。また、彼氏と何かあったか?」
野沢の言葉にポロポロと涙が流れてくる。
「・・・北島・・・」
野沢はそっと、マヤの肩を抱いた。
「はぁぁ・・・片付いたなぁぁ」
突然のトラブルをようやく、片付け真澄は東京に戻ってきた。
「お疲れ様でした」
水城が労うように言う。
「あぁ。君もご苦労だった」
「どうします?今日は社に戻りますか?」
そう言われ、一瞬、マヤの事が浮かぶ。
先週彼女とディズニ−ランドに行ってから、次の日に会社に行ったら、真澄は大きなトラブルに巻き込まれ、
雪崩込むように処理にあたっていた。
「・・・あぁ。戻る。まだ片付けなくてはならない書類があるから」
まだマヤに会ってから一週間しか経っていない事に、真澄はどこかで鷹をくくっていた。
自分のスキャンダルが出ているとも知らずに、社に戻った。
「飲め!飲め!こういう時は、北島、酒だ!」
野沢に連れて来られたのは落ち着いたム−ドが漂う、Barだった。
進められるままに、酒を飲み、もう自分がどこにいるのかわからない。
そして、真澄に会えない寂しい胸のうちを語っていく。
その瞳には薄っすらと涙が見える。
そんなマヤを目にする度に野沢の胸に締め付けられような想いが膨れ上がる。
思えば、彼女と出会ってから、こうしてずっと相談に乗ってきた。
俺だったら寂しい想いはさせないのに・・・。
そんな想いがいつの間にか胸いっぱいに溢れる。
いつの間にか、彼女が愛しい存在になっていた。
「はぁぁ・・・。どうして、あの人の事好きになっちゃったんだろう・・・。もっと、近くにいる人好きになればよかったな」
真澄に会えない寂しさがそんな言葉を口にさせる。
あんなに強く抱き合ったのはつい、一週間前なのに、もう寂しくて、不安で仕方がない。
「・・・野沢さんを好きになればよかったかなぁ・・」
甘えたような声で、そう言い、彼の肩に頭を乗せる。
「・・・北島・・・」
「・・・真澄様!大変です!」
社長室で一週間分の書類を見つめていると、血相を変えて水城が入ってくる。
「どうした?」
水城を見る。
「真澄様のスキャンダルが・・・」
そう言い、週刊誌を渡す。
そこには以前、パ−ティ−で出くわした取引先の社の社長令嬢と親しげにしている写真と、
事実が大きく歪曲された記事が出ていた。
「何だ!これは!」
記事を途中まで読終り、険しい形相で水城を見る。
「私たちが出張でL.A.に行った日に出たみたいです。すみません、気づくのが遅くて、只今、その記事をが出た雑誌元に抗議しております」
「・・・何て事だ・・・」
明らかに、その記事は真澄の出張中に狙って出したとしか思えなかった。
「記者を連れて来い!」
鋭く言い放ち、真澄はその雑誌を投げた。
こんな事をする俺をおまえは恨むだろうな・・・。
だが、もう、止まらないんだ・・・この気持ちは・・・。
野沢は酔ったマヤを自分のマンションに連れ込み、ベットに寝かせると、唇を奪った。
「・・・う・・ん・・・速水さん・・・」
マヤには野沢が速水に見えていた。
優しい愛撫に夢心地で抱かれ、何度も速水の名前を口にした。
中編へ
【後書き】
おまたせいたしました!!このリクエスト頂いてから、一月と少し・・・。
すぐ書くつもりだったんですけど・・・気づけば時間が(>_<)
本当、リクエストをくれたNEWPON様、申し訳ありませんでした。
さて、今回のリクエスト(←リクエスト内容知りたい方はここをクリック。但し、今後の展開がわかってしまいますよ)の第一課題として
TDLまたはTDSに行く二人でしたが・・・、何せ、Catが日本のディズニ−に行ったのはもう、6,7年前、(ロスのディズニ−は最近行ってきたのですが(^^;))
なので、かな−り、記憶が曖昧で・・・細かく書く事ができませんでした。もっと、もっと、いろんなアトラクションに二人を乗せたかったんですけど・・・(冷や汗)
TDSにも、まだ行った事なくて(でも、そのうち行く予定です 笑)なので、TDLに二人を行かせました。
ちょっと・・・物足りなかったかなぁぁとも思うんですけど・・・すみません。許してやって下さい。
これから、後半・・・このお話・・・結構、辛い展開です。
皆様、気をしっかり持ってお付き合い下さい(苦笑)
最後には必ず・・・フフフ(←なぜか不敵な笑み 笑)
では、中編でお会いしましょう♪
ここまで、お付き合い頂きありがとうございました♪
2002.1.8.
Cat