<< 幸 せ の 情 景 >>
AUTHOR Ruru




 深夜の速水邸にキッと車の止まる音。
引き続き静かに重い玄関の扉が閉まる音が聞こえる。
真澄が帰って来たに違いない。ベッドサイドの時計を見るともう夜中の1時を回って
いる。
 暫くすると寝室のドアがソッと開き、入ってきた真澄はクローゼットの前に立ち、
明かりも着けずに着替え始めた。
「お帰りなさい。遅くまでお疲れ様・・・。」背中越しにかけられた少し寝ぼけたマ
ヤの声に、パジャマの袖に腕を通しながら、振り向く。
「ああ、悪い。起してしまったか。」
マヤは、ベッドサイドのライトにスイッチを入れながら起きだし、真澄がドレッサー
の背に脱ぎ捨てたワイシャツを片付けながら、笑いかける。
「今日は、速水さん、早く帰ってくるって言っていたから、愛が待っていたのよ。結
局、待ちくたびれて寝てしまったけど。」
「それは悪かったな。だが、明日から2日間休みを取るために、仕事を全部終わらせ
なければならなかったからな。」
「えっ、ホント?本当にお休み取れるの?この頃、続けてお休み取れることなかった
でしょ?うれしいっ。じゃ、本当に遊園地に行けるのね?愛が喜ぶわ!!」
「ハハハ。凄いはしゃぎ様だな。愛じゃなくて、本当は君が一番楽しみにしているん
じゃないか。」
クスクスと笑いをもらし、マヤを背中から抱き締めながら、少し膨らんできたお腹を
さする。
「だが、大丈夫なのか?お腹は。無理しないでくれよ。」
「うん、大丈夫。もう悪阻も収まったし、お医者様にも安定期に入ったって言われた
から。今日のドラマの撮影も順調にいったし。」首筋にキスを落としながら、お腹を
さする真澄の大きな手に手を重ねながら、マヤは柔らかい微笑を浮かべる。
「そうか。安定期に入ったか。では、ちょっと、かまってもらおうかな、奥様。」と
言うやいなやマヤを抱き上げ、ベッドに降ろし、優しく体を、そして唇を重ねる。
長く深いキスが一息つき、真澄の熱い唇が首筋を伝い始めると、マヤが身をよじる。

「やっ。ねえ、速水さん。明日、遊園地行くんだったら、朝早いから。もう寝ない
と。」
いつの間にか、ネグリジェのボタンを外し、マヤの胸に顔を埋めている真澄は、そん
なマヤの声は聞き入れず、白い乳房に唇で愛撫を加えはじめた。
「この頃、御無沙汰だったんだから、いいじゃないか。君も体調が悪そうだったし、
それに・・・・」
 真澄が柔らかなマヤの乳房の感触を片手で確かめながら、一方の薄紅色の蕾を舌で
弄ることに夢中になり始めた時、遠くで、「うえぇぇぇぇ〜ん」という小さな女の子
の泣き声が響き始めた。
「またか・・・。」と溜息をつきながら、真澄は心底ガックリしたようにマヤの胸に
顔を埋める。
「なんでこの頃、我が家の姫は、あんなに夜泣きをするんだ?もう4歳だろ?これで
は、なかなか君と二人きりになれないじゃないか・・・」とぼやく真澄の頭を優しく
抱きかかえながら、
「ねっ、ほら、愛ちゃんが呼んでいるわ。こっちに連れて来るね。」とマヤはクスク
スと笑い声を漏らしながら身を起し、子供部屋へと愛を迎えに行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ますみっ。お帰りなさい。抱っこして。」とマヤに抱きかかえられ、夫婦の寝室に
入ってきた愛は、真澄を見つけると腕を伸ばす。
「こらっ、また。「ますみ」じゃないでしょ。パパを呼び捨てにしちゃだめで
しょ。」
「ハハハ。いいさ、おちびちゃんに名前で呼んでもらって光栄だよ。こっちの「おち
びちゃん」は、未だに名前では呼んでくれないからな。」と愛を抱き上げながら真澄
がマヤをからかうように眺めやった。
「もうっ、愛には甘いんだからー。でも、どうしてかな。この頃はあなたのことパ
パって呼んでいたのに。」とマヤは溜息をつきながら布団を捲くり、愛を抱いた真澄
を促し、自分も愛を挟んでベッドの反対側に身を沈めた。
「おててつないで。もっと。もっと!つよく!!」と愛は、マヤと真澄の手をそれぞ
れ掴むと、駄々を捏ね始めた。そんな愛に、マヤと真澄がそっと視線を交わしながら
苦笑を漏らすと、
「ますみ、ママのほうじゃなくて、愛のほうを見て。こっち見てっっ。ママを見ちゃ
ダメッ。ママも愛のほう見て。」益々駄々を捏ねる愛を、真澄はギュッと抱き締め、

「ああ。愛だけを見てるよ。」と言いながら柔らかな頬に優しく口付けた。
そんな真澄の仕草にやっと満足したように、愛は目を閉じ、暫くすると静かな寝息を
立て始めた。
「どうしたんだろうな。本当に、この頃の愛は。こんな駄々をこねる子じゃないはず
だが。」
「少し前までは、お姉ちゃんになるんだって張り切って、大人ぶっていたぐらいなの
にね。」
「まぁ、この頃、俺も仕事が忙しくて愛をあまり構ってやれなかったからな。明日は
その罪滅ぼしでも致しますか。」
「あたしにも家族サービスお願いしますね、速水さん。」
とのマヤの言葉に、真澄は、苦笑しながらおやすみのキスを贈り、二人は目を閉じ
た。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ママ、パパ。はやくーっ。こっち。こっち!」
愛は、ミニSLの乗り場を見つけると、一目散に走っていく。
「やれやれ。この俺がSLに身をかがめて乗っているなんて光景を見たら、大都の社
員は驚いて気を失うな。」と背を屈めて小さなSLの入口を通り、愛の隣に座りなが
ら真澄が呟く。
「いいじゃない。こんな良い天気だもん。そりゃ、温かい太陽に照らされて、「大都
芸能の鬼社長」の仮面も脱ぎたくなるわ。」とマヤが真澄の隣で眩しそうに空を仰ぎ
見ながら笑う。
「まあ、普段、君からの「北風」ならぬ「豆台風」に煽られているから、難しい顔で
もしてなくてはもたないけどね。」
「えっ?私のどこが「豆台風」ですか?!速水さんったらいつまでもそんな風にから
かうんだからっ。」と膨れるマヤに、そんな所が豆台風なんだと言わんばかりにクス
クスと真澄が笑う。
愛はそんな二人のやり取りを暫く見つめていたが、俄かに
「愛が、まんなかに座るう〜。」と手足をバタつかせ始めた。
「ああ、悪い、悪い。そうだな。危ないから、愛はまんなかに座っていた方がい
い。」とひょいっと真澄が愛を抱き上げ、二人の間に座らせると、愛は満足そうに微
笑み、
「しゅっぱつ、しんこー!!」と嬉しげに声をあげた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「つぎは、あのコーヒーカップのやつにのろーっ。」と二人の手を引きながら、愛が
ゲートをくぐる。
3人で乗りこみ、カップが回り始めると、愛はキャッキャッと無邪気に笑う。
真澄がハンドルを回すと、
「パパ。もっと、もっと!!」と早くなった回転に益々嬉しげな声をあげて笑う。
そんな無邪気な笑顔がマヤにそっくりだと思いながら、真澄がマヤの方を見遣ると、
いつもなら愛と一緒になってはしゃいでいるはずのマヤが浮かない表情をしている。

「どうした?マヤ?」
「う・・ん。ちょっと。何だか胸のあたりがちょっとムカついて。」と呟くマヤの顔
色は良くない。
「悪いっ。大丈夫か?カップも、もうすぐ止まるだろう。我慢できるか?」とマヤの
背をさすり、真澄が気遣う。
やがてコーヒーカップが止まると、真澄はマヤの背を抱きかかえながら、近くのベン
チへと連れていき座らせた。
「本当に悪かったな。気付かなくて。君が妊娠中だって分かっていたのに、どうかし
てた。」
飲めるかと炭酸系のジュースのカップをマヤに差出しながら、真澄は心配げに詫び
る。
「ううん。大丈夫。ちょっと酔っただけ。ほんと、大丈夫。気にしないで。」
なおも、大丈夫かと声をかけながら真澄がマヤのお腹に手を当てると、それまでしょ
ぼんと項垂れ黙っていた愛が、俄かに騒ぎ出した。
「ますみっ。愛、つぎは、あのおうまさんに乗りたい。」
「愛。ママがちょっと調子が悪いんだ。休ませてあげなきゃ。な?」と真澄が愛の頭
をくしゃくしゃと撫でながら、宥める。
そんな真澄の仕草に苛立ったように、
「・・・・いやっ。今日は、いっぱい、いっぱい乗り物のるんだって楽しみにしてた
んだもん。はやく乗らなくちゃ、おうちに帰る時間になっちゃうもん。」と我が侭を
言う。
「・・愛。どうしたんだ。もう直ぐ、お姉さんになるんだぞ。そんな我が侭ばっかり
言っていると、お腹の赤んぼうに笑われるぞ。」と真澄はマヤのお腹を摩りながら、
愛をたしなめる。その言葉に、愛はキッと顔を上げると、マヤのお腹を摩っている真
澄の手をその小さな手で引っ張った。
「こら、愛!」と真澄が声を荒げかけると、愛がグシャッと表情を崩し、くすん、く
すんとすすり泣き始めた。
そんな愛に、真澄もそれ以上怒るにおこれず、ただ困ったように愛の頭を撫でるばか
りでいたが、
「速水さん。あたし、本当にもう大丈夫。愛とメリーゴーランド行って来て。あたし
はここで見ているから。」と大丈夫、大丈夫っとマヤが手を振って笑う。
「本当に、大丈夫か?それなら、ちょっと愛と行ってくるから。」と真澄は未だしゃ
くりあげている愛の小さな手を引きながら、メリーゴーランドへと向かっていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「愛。どうしたんだ?さっきの態度は愛らしくないぞ。」と大きな白馬に愛を抱えて
跨った真澄が、愛の頭に顎を軽くのせ尋ねかける。
「・・・」
「愛は、ムスッとしたしかめっ面したり、ぐすぐす泣きっ面しているよりも、笑って
いる顔が100倍いいぞ。ほら、見えるか?ママがあそこで手を振っている。良いお
顔でママに応えてやろうな?」とまだ項垂れ黙っている愛の小さな手を持ってマヤに
向けて一緒に手を振る。
「・・・」
「本当に、どうしたんだ、愛。どこか具合が悪いのか?それとも幼稚園で何かあった
のか?」
「・・・。パパ、愛のこと好き?」
「・・どうしたんだ。当たり前じゃないか。愛は大事な、大事な俺の娘だ。」
「でも、ずっと前と、この頃とどっちの愛が好き?」
「どういう意味だ?わからないな。愛は愛だ。変わらず、でも益々愛が好きだよ。」

と柔らかい愛の髪に口付けながら応える真澄に、やっと小さな声で愛が話し出した。

「・・・・このあいだね。ようちえんでなかよしの由美ちゃんちにね、男の子のあか
ちゃんがうまれたの。それまでね。由美ちゃんね。あかちゃん、うまれるの、すっご
くたのしみにしてたの。でもね、由美ちゃん、あかちゃんきらいって言うんだよ。あ
かちゃんうまれるとパパとママから半分しか好きになってもらえないって。・・・愛
も、あかちゃんうまれると、そうなっちゃうのかな・・?」
「愛・・・。」小さな愛の素朴な、それでも真剣な悩みが、愛の頭を撫でる手の平を
通じて伝わってくる。
「愛。愛は俺のこと好きか?」
「うん!愛ね、パパのこと大っすきだよ。」そうか、そうかと真澄は嬉しげに愛の頭
を撫でつづけながら、
「愛は、俺とママとが結婚して、ママのこと好きな気持ちは半分になったか?」
「ううん、ママのことも大好き!!変わらないよ。それにパパも、ママも同じぐらい
好きだもん。」
「そうだろ。俺もそうだ。・・・・・パパはね。ママのことがずっと好きだった。好
きで、好きで堪らなくて、ずっとママのこと忘れられなかったら、神様がパパのお願
いを聞いてくれたんだ。そしてママと結婚できた。ママと結婚して、そして愛と本当
の親子になれて、愛のことも、そしてますますママのことも好きになった。毎日、ど
んどん好きになる。このおちびちゃんのふくれっ面見ているとな。」と愛の柔らかな
片頬を優しくひっぱりながら、
「家族ってそんなものじゃないのか?家族が増えていくと益々楽しくて、好きな気持
ちも倍になる。・・・今度、また赤ん坊が産まれてきたら、もっと愛のことを好きに
なると思うな。家族が増えるのは楽しいと思うぞ、そうじゃないか?」と続ける真澄
の話に、次第に愛の表情が明るくなってくる。
「・・そうかな?そうだよね。・・男の子かな?女の子かな?愛は一緒におままごと
できるから妹がいいな〜。」とキャッキャと笑い声を立てて乗っている木馬の背を手
で叩いてはしゃぎ始めた愛を、真澄は苦笑ともつかない優しい笑顔を浮かべて見つめ
ていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今日は楽しかった〜。また、連れていってね〜。」と、遊園地で一日を満喫して帰
宅し、真澄と一緒に風呂から出た愛が、嬉しげにマヤに話し掛ける。
「そうね。愛がよい子にしていたらね。」
「よい子にしているもん。愛、もうすぐお姉さんになるんだから。だから、今日はマ
マとパパの邪魔しないよ。それにね、ママ。もうすぐ、もう一人こどもが増えるんだ
から、そろそろパパのこと、「速水さん」って呼ぶの止めたら?おかしいよ。じゃあ
ねー。おやすみなさい。」と乳母に手を引かれながら、ご機嫌で子供部屋に入ってい
く。
「やだ。愛ったら。」と頬を薄赤く染めるマヤの肩を優しく抱き寄せながら、
「はははっ。やれやれ、おしゃまさんだな。マヤより愛の方が成長しているんじゃな
いのか?」とからかう真澄の胸を、もうっと膨れながら叩くマヤの手を掴み、
「では、愛のお言葉に甘えて、俺達は仲良くしますか。」と軽々とマヤを抱き上げ寝
室に向かうなか、真澄は優しくマヤに口付けた。




【Catの一言】
Ruruさん、素敵なお話ありがとうございます♪一周年記念に頂けてとっても、とっても幸せでございます(感涙)
あぁ。HP持って良かったぁぁぁ(しみじみ)
もう、愛ちゃんがかわいくて、かわいくてにやけた顔が元に戻りませんでした(笑)

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