過去からの贈り物〜追憶、モルダ−
AUTHOR 涼夜




幼かった僕が君への気持ちを口に出来る頃には18歳になっていた。
気がつけば、15歳のあの日から・・・僕を信じてると抱きしめてくれた日から、三
年間ずっと君の後ろ姿を見つめ続けて来た。
触れれば傷つけてしまいそうで、一体いつからだろう・・・。
心の中の、誰にも触れることの出来ない場所に君への想いを積もらせていったのは・
・・。

あれから二年がたち、僕は20歳で君は23歳になった。
思いを交わしあってから二人で過ごす時間はとても幸せな日々だった。
変わらない毎日、それでもささいなことが嬉しくて君の笑顔を見れるだけ良かった。


でも・・・まだ幼すぎた僕達はあまりにも求める物が違い過ぎた。
誰かを本気で愛するには、僕はまだ心が成長してしきれていなかった。
けれど、それに気がつかないほど僕は君を愛し、子供のような愛情をぶつけた。
君の想いの"本気"と、僕が思っていた"本気"は違うものだった。

だから・・・突然に別れに、僕は理解できなかった。


1980年−秋−

「・・・・・留学・・・?」
聞き返した僕に、目の前に立っていた彼女は小さく頷いた。
一つに結い上げた美しい金髪と、堅い意志を持ったアイス・ブルーの瞳が強い決意を
見せる。
「ドイツに留学する事にしたの」
真っ直ぐに、それでも彼女ははっきりと言い切った。
「何・・・?急に・・・・」
とまどいの瞳を浮かべてモルダーは、ジュリアの肩を掴んだ。
「ドイツに留学って・・・ジュリア!!」
「もう決めたのよ、モルダー・・・分かって」
強く掴まれた肩に鈍い痛みを感じながら、ジュリアは目を逸らさずにモルダーを見つ
め返した。
その"強さ"を秘めた瞳を何年もずっと側で見てきたモルダーは、彼女の言っているこ
とが冗談や嘘ではない事を理解した。
「どうして・・・・・急に?」
モルダーのかすれたような声に、ジュリアは静かに首を振った。
「・・・急じゃないわ・・・・・・・ずっと、考えていたの」
その言葉に、モルダーは傷ついた顔を見せた。
「どのくらい・・・?」
「五年は、帰ってこないつもりよ・・・・」
「・・・・・!!じゃあ、僕たちは・・!?」
掴んだ肩によりいっそう力を込めて、モルダーはジュリアを引き寄せた。
彼女は一瞬瞳を閉じてから、ゆっくりと瞳を開いてモルダーの頬にそっと触れた。
優しく慈しむような目でモルダーを見つめる。
モルダーはジュリアがいようとしている言葉がどうか自分の想像と違う事をその一瞬
に祈った。
けれど彼女の表情は悲しみ満ちていた。
「・・・・・私たちは別れた方がいい・・・・今の関係を続けられないわ・・・」
「・・・!!!どうして!!どうして、そんな事を・・・!!」
考えた事もないジュリアとの別れに、モルダーは声を荒げた。
「待ってるよ!五年でも十年でも!!君が帰って来るのを待ってる!!」
「モルダー・・・・・」
「君のやりたい事を僕が止める事はできない。だから君が留学すると言うなら、それ
を応援する。だけど、君を失うのだけは嫌だ。離れていても僕の気持ちは決して変わ
らないよ・・・・別れるなんて、そんな事出来ない!」
モルダーは視線を床に落として首を振った。
そして、強く掴んでいたジュリアの肩から力を抜き、ゆっくりと彼女を抱き寄せる。

その自分を包み込んでいるモルダーの腕が、かすかに震えている事にジュリアは気付
いた。

喪失の恐怖.....。
それが彼をこんな風にしてしまう。そしてどれだけ自分が愛されているのか、彼女は
心から実感した。
「モルダー」
ジュリアは顔をふせているモルダーの頬を両手で包み込み、自分と向かい合わせた。

小さな子供のように、モルダーは不安に満ちた瞳をしている。
「.....愛してるわ」
優しく、ジュリアは愛しさをこめて口にした。
その想いは決して嘘では無く、彼女の本心だった。
「だけど一緒には入られない」
「.....どうして.....?」
「あなただって....分かっているはずよ」
「分からない....分からないよジュリア!!愛しているならどうして僕から離れ
ようとするんだ!!」
彼女の心が理解出来ないモルダーにはもう、声を上げてジュリアを問い詰めるしか出
来なかった。
ジュリアはモルダーを強く抱き締めると、彼の胸に手を当て、腕の中からスルリと離
れて距離を持った。
「ジュリア....?」
離れた彼女に手を延ばそうとしたモルダーの動きがジュリアを見て、止まった。
自分を見つめる美しいアイス.ブルーの瞳から、ひとすじの涙がこぼれ落ちていたか
らだ。
「ジュリ....」
驚いて声が出せないモルダーの前で、彼女は小さく微笑んだ。
けれどその微笑みはあまりにも儚げで、少しでも触れれば壊れてしまいそうに感じ
る。
ジュリアは溢れ出る涙を手で拭う事もせず、ただ黙ってモルダ−を見つめた。
「ジュリア......」
戸惑いながらも手を延ばして来たモルダーの温もりが腕に伝わった瞬間、彼女の心を
嬉しさよりも痛さが走った。

もう、この感情を"恋"と呼ぶ事は出来ない.....。
そんな言葉では片付けられないほど彼を愛している事に、ジュリアは気付いてしまっ
た。
誰かを本気で愛したら、それは決して喜びや幸せではなく"切なさ"や"悲しみ"だと言
うこと。
小さな子供が大人へと成長して行くように、いつか"恋"は"愛"に変わる。

「愛しているわ、モルダー」
「僕だって....」
モルダーが言い終わる前に、ジュリアは小さく首を振った。
そしてモルダーの手を取ると、その手のひらをゆっくりと自分の頬に当てた。
昔と変わらない温もり....。
けれどあんなにも小さかった手は、もう自分を包み込むほどに大きくなった。
昔のままでは入られない。変わって行くのだ....何もかも。
このまま固執していても、決してこの心の中の不安と孤独は消えはしない。
「私はあなたを、愛し過ぎたの....あなたは変わらない。優しくて純粋で、私に
とってとても愛しい存在よ。変わりなんていない。きっと出来ない」
「ジュリア.....」
「だけど、それじゃ前に進めない.....」
「.........」
真っ直ぐ自分を見つめるジュリアに、モルダーは初めて彼女の言わんとする事が分
かった。
心の中の"不安"決して口に出さない、ジュリアの"弱さ"
側にいても、いつも彼女の微笑みをどこか遠く感じていた自分。気付かない振りをし
て毎日を過ごして来た。
一体いつからだろう.....。
自分に微笑んでくれる顔も抱き締め返してくれるその細い腕も、遠くに感じ初めてい
たは・・・。
彼女が見ているのが、決して"今"では無いことに気付いたのは....。

「あなたの可能性を、私で縛る事は出来ないわ....」
「僕は君と歩いて行きたい。他の誰でも無い、君とだけだ....!」
そう言ってモルダーはもう一度ジュリアを抱き寄せた。

力強い腕に、熱い言葉、熱い想い....。
どうしてこんなにも愛されているのに心は満たされないのだろう。なぜこんなにも悲
しいのだろう..。
腕の中で、ジュリアは初めてモルダーに愛を囁かれた日を思い出していた。
どんな時よりも嬉しかったあの日、そして始まった辛く切ない日々。
答えはただ一つ、そう.....。

「あなたは私を.....」
ジュリアが静かに息を飲むのを、モルダーは感じた。
「愛していない........」
静寂で包まれた部屋に、ただ一言彼女の声が響いた。
その言葉に、モルダーは彼女を抱き締めていた自分の手の力がゆっくりと抜け落ちる
のを感じる。
思ってもいなかったその一言に、モルダーは無言でジュリアを見つめた。
彼女の瞳は涙に濡れ、そのアイス.ブルーは広い海のような輝きを放ち、モルダーは
決して彼女の心に触れる事は出来ないのだと悟った。
もう一度儚く微笑むと、ジュリアはゆっくりとモルダーから離れてその場を去って
行った。


季節がゆっくりと秋から冬に移り変わろうとした時、ジュリアは出発を決意した。
空港に向かう車の中で、彼女はただモルダーの事を考えていた。
あれから一度もモルダーと話ことは無かった。離れなければ分からない事もある。
今は理解出来ないモルダーも、いつかきっと分かる日が来る。
"愛"と"恋"は違うのだと言うこと。

今離れなければ、彼はいつまでも私を手の届かない"あこがれ"として想って行くだろ
う。
心の中に閉じ込めて、きっといつまでも"私"を見ようとはしない。
彼の愛情と、私の愛情は"想い"の形が違っていた。
でもそれにまだ、彼自身は気付いていない。側にいすぎて、見えていないのだ。
小さな少年のように、あなたは私に恋をしてくれた。そして私はあなたを愛し
た....そう、ただそれだけの違い。
けれど彼が望んだのはいつまでも変わらない"あの頃"の延長線.....。
何も失わずに生活をし、全てが満たされていた日常。いつまでも側にいて、優しさを
与え続けて行く幸せの象徴。
それが"私"
でも、それは決して"愛"では無い。
人はいつか心の傷と向かいあわなければいけない。私はあなたを失う事に恐れて言い
出せずに来た自分の弱さと向かい合う。
そしてあなたはサマンサを失った痛いほどの心の悲しみと、現実に存在している終わ
りの見えない孤独と向かい合わなければいけない。
けれどそれは....私が今、側にいては永遠に無理だろう。
あなたは自分自身で気がつかなければいけない。
いつまでも、目を背けてはいけないのだと言うことに・・・・・・。


空港につくと、そこにはモルダーが待っていた。
「モルダー・・・・」
静かに彼はジュリアへと歩みよって来る。
あの日別れた時にように、モルダーの瞳は今も苦渋に満ちているようだった。
「・・・・見送りに、来てくれたの?」
モルダーは何も言わず首を横に振り、そっとジュリアの右手を握りしめてから、彼女
を見つめた。
「僕なりに、一生懸命考えたよ・・・君が言った言葉の全を。だけど、僕にはまだ答
えは見つからない・・・・でも、一つだけ分かったことがある・・・・・・」
ジュリアは黙ってモルダーの次の言葉を待った。最後まで聞かなくてはいけない。
もう逃げないと、誓ったのだから・・・・・。
「僕は君を、傷つけてきたんだね」
「・・・・・・・!」
「そばにいることで傷つけて来たんだ・・・・。だけど、今の僕にもこれからの僕に
も、君が必要なんだ・・・」
モルダーは握りしめていた手に力を込めて一瞬瞳を閉じると、静かに彼女の前に膝ま
ずいた。
「モル・・・・!」
驚いたジュリアが声を上げようとしたが、それはモルダーの強い瞳よって言葉を失
う。
「ジュリア・・・・僕と、結婚して欲しい」
「・・・・・!!!」
「君を、愛してるんだ・・・・」
「モルダー・・・・!」
憂いを帯びたへイゼルの瞳が、真っ直ぐにジュリアを求める。
もう、モルダーにはこれしか彼女を止める手だてはなかった。
ジュリアを愛している。それはかけがいの無い真実で、その心を否定することは出来
ない。

この温もりを失ったら、僕は壊れてしまうかもしれない・・・・。

けれどモルダーは分かっていた。
前を見ていくジュリアが出すだろう答えを。でも、諦めきれなかった。
彼女の瞳に迷いを感じたこの一瞬に、全てをかけた。
「YESと言ってくれ・・・・」
祈るようにモルダーはジュリアを見つめた。
「モルダー・・・・・」
許しを請うようなモルダーの瞳が、彼女の心の壁を崩しかけた。
心の中の、モルダーを愛している"女"としての自分が、彼を受け入れたいと願ってい
たからだ。
そして何よりも、いつかモルダーがその言葉を囁いてくれるのを待っていた。
このプロポーズが自分を引き留めようとしているのはジュリアにも分かっていた。け
れどそれでも嬉しいと素直に感じている自分がいる。
彼女もその心の想いを認めるしかなった。
「モルダー・・・・私・・・・」
受け入れたい・・・・。それがジュリアの心の本心だった。
モルダーの暖かくてその優しい情熱に、いつまでも包まれていたいと彼女は思った。


真っ直ぐなその愛情・・・たとえそれが自分の望む愛で無くても・・・・・・!
「私・・・・!」
ジュリアがモルダーの想いに応えようとした瞬間、彼女は自分を見つめる彼の優しい
その瞳の奥に、深い切なさに満ちた悲しみに気づいた。
それはどこかで見た悲しみ、そしてどこかで感じていた切なさ.....。
一体どこで....?
ジュリアはモルダーのヘイゼルの瞳の中に写っている自分を見た。
悲しみと切なさと言い様のないほどの愛情に包まれている自分。
その瞳はまるで......。
自分を見つめるその切ない瞳は、心の奥の悲しみは.....。
「私.....」
痛いほどに知っている。
そう、それは.......。

ジュリアは自分を見つめたまま膝まづいているモルダーの頬にそっと触れた。
「ジュリア....?」
彼女は優しく、そしてとても悲しそうに微笑んだ。
今に散りそうな柔らかい花のような、儚い微笑み....。
その微笑みを見たモルダーは、何も聞かなくてもジュリアが辛い決断を下した事を理
解した。
そしてこれ以上彼女をとどめておけないことを感じ、黙ってその手から自分の手を離
して静かに立ち上がった。
二人の間の張り詰めていた緊張が砂のようにゆっくりと溶けて行く.....。

「一つだけ聞きたいんだ..........僕を、愛してた?」
決してジュリアの気持ちを疑ったのでなく、彼女の決断を責めるのでは無く、ただ純
粋に彼は最後にジュリアの心を知りたいと思った。
彼女を手放すことを覚悟したその瞳にはもうさっきまでの切なさはなく、おだやかな
優しさが溢れていた。
「今も、愛してるわ」
迷う事なくジュリアは答え、そして優しく微笑んだ。
「だから、行くんだね....」
「.......いつかきっとまた会える....その時は....」
「.....ああ」
見つめ合ったまま少しの沈黙の後、モルダーがゆっくりと彼女を抱き寄せた。壊れ物
を扱うかのように酷く優しく。
ジュリアは抵抗することも無く、モルダーの胸の中にその身をゆだねた。
その瞳からは、冷たい物が頬を流れ落ちて行く。
言葉も無く、二人はただ静かに抱き合った.....。

いつか会える"その日"を信じて.....。


飛び立つ飛行機の中で窓に目を向け、ジュリアは離れゆく故郷を見つめた。
その口元に、静かな笑みが漏れる。
生まれそだった町、生まれそだった場所。溢れるほどの思い出が詰まっている。
たくさんの友人に優しい両親・・・そしてたった一人、初めて愛した人の暮らす場
所。
目を閉じれば思い出す、何もかもが幸せだったあの頃を・・・。
「きっと会える......」
運命と言うものが存在して二人の間をへだてるものがなくなった時、いつかきっ
と...。


そして月日は流れ季節は巡り、六度目の春が訪れた1986年。
二人は"その日"をむかえるのだった.....。


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なんかとモルダー編、書けました(^^;)
えっ?スカリーが出てねえじゃねえかって!?すいません〜(滝汗)
今度こそ中編の向かいます!!
いつまでも追憶してる場合じゃ無いんで!!
でわ×でわ、Cat様よろしくお願いします!
















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【Catの一言】
今回は切ないですねぇぇ。ジュリアとモルダ−の別れ。二人の心情のすれ違いに切なくなってしまいました(笑)
次回も楽しみにお待ちしております♪


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