過去からの贈り物〜中編〜
AUTHOR 涼夜


本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。


タイトル:「過去からの贈り物〜中編〜」プロローグからの続きとなっております
NAME:涼夜

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厳しく辛い過去の中で、ひときは輝いていた日々があった。
忘れる事など決して出来ない、優しく甘い思い出・・・・。
今も鮮明に覚えている、彼女と過ごした時間、お互いだけだと信じあえたあの頃、何
よりも彼女の笑った顔が好きで、その笑顔をずっと側で見つめ続けて行けたらと、
願った。
そう、ただ一人だと信じた相手・・・・・・。

「・・・・二人とも、知り合いなの・・・・?」
見つめ合ったまま動けないでいるモルダーとジュリアを、スカリーが驚いた顔で交互
に見つめる。
「・・・驚いた、元気そうね・・・モルダー・・・」
信じられないという顔をしているモルダーに、とても優しい口調でジュリアが声をか
けてきた。
「君も・・・・・」
それだけを言うのが精一杯で、言葉がでてこない。
スカリーが説明を求めているだろうとモルダーは頭の片隅で思い、彼女に説明しよう
としたが目の前の現実に、12年ぶりに会うジュリアから目を離せずにただ立ちつく
していた。
ジュリアは微笑むと、モルダーの気持ちを感じとったかのようにスカリーへ向き直っ
た。
「ダナ、私達、幼なじみなの」
「えっ?」
いきなりの言葉にスカリーの目が大きく開き、驚いたようにモルダーに視線を向け
た。
「彼女の言う通りだよ・・・会うのは、もう何年かぶりだけど、昔、近所に住んでた
んだ」
モルダーは小さく頷いてみせる。
「あなた達は?」
今度はジュリアがスカリーに、二人の関係を聞き返して来た。
「あ、ああ私達は仕事のパートナーなの。リノに紹介するつもりだったんだけど・・
・・」
それ以上は言わず、スカリーは肩をすくめて困ったように微笑んだ。
「モルダー紹介の必要は無いみたいだけど一応約束したから・・・彼女はリノ・ジュ
リアス話してた私の恩師よ」
「君が、スカリーの・・・・」
偶然の再会に、スカリーを通じて繋がっている自分とジュリアとの関係。
モルダーの心には嬉しさや懐かしさと、言葉に出来ない複雑な思いが交差していた。

「あなたこそ、ダナのパートナーだったなんて・・・・本当に、驚いたわ」
「僕もだよ・・・・」
こうやって、何年ぶりかに再会した彼女は昔とまるで変わってはいない。その姿も容
姿も美しさも、何一つ・・。
「大変、もうこんな時間!?」
驚いたような顔して、ジュリアが部屋の時計を見ている。
「ダナ、次の講義がはじまっちゃうわ。急がないと!!」
「えっ!?嫌だ!すぐ行かないと、じゃ、また後でねモルダー!」
「あ、ああ」
圧倒されて立ちつくしているモルダーに、部屋を出で行こうとしたジュリアが振り向
いた。
「久しぶりに逢えて、嬉しかった」
「・・・・・!!」
優しい微笑みを向けてジュリアはそのまま部屋から出ていった。
その笑顔を見て、モルダーの脳裏に懐かしい思い出がよぎった。その時、部屋の外か
らスカリーの叫び声が聞こえてきた。
「!!スカリー!?」
部屋から飛び出ると、そこには数人の人だかりができている。人波を押し寄せて駆け
寄ると、体をぐったりと横にして、ついさっき微笑みを自分に向けてくれていたジュ
リアが倒れていた。
「ジュリア!!!」
一瞬の出来事に心臓を鷲掴みにされた気分になって、モルダーが叫ぶ。
「一体どうしたんだ、スカリー!?」
「大丈夫、急に倒れたから心配したけど、貧血みたいね」
的確な診断でスカリーが結論を生み出す。彼女の判断を信じているモルダーは、ほっ
となって胸をなで下ろした。
「医務室で休ませないと、誰か・・・!」
スカリーが声をあげようとした瞬間、誰よりも早くモルダーが彼女を抱き上げた。
「医務室は?」
「あ、こっちです」
回りを取り囲んでいた一人に、モルダーが道を尋ねる。
「スカリー、君は彼女の代わりに講義にでろ、僕はジュリアを運んでくる」
「ええ。私も後で様子を見に行くから、リノをお願い」
「ああ」
短く答えると振り返らずに、モルダーはジュリアを抱きかかえて走りさって行った。

走って行くモルダーの後ろ姿を見て、スカリー心に残っていた"ある事"を思い出し
た。
"ジュリア"
駆け寄って来るモルダーが叫んだその名前は、確か・・・この間彼が寝言でとても親
しそうに呼んでいた、女性の名だと言うことを・・・・。


「っう....うん....」
重たい意識の中で、ゆっくりと彼女は瞳を開く。
目の前には白い天井が広がり、感じた事の無い体のだるさに、彼女は自分の状況の異
変に気付いた。
「大丈夫かい?」
その時、優しい声が空から降って来た。
驚いた顔でジュリアが目を向けると、モルダーがベットに腰をかけて心配そうに見つ
めていた。
「....モルダー...私.....」
「倒れたんだよ」
「そう.....」
彼女は小さなため息をついて、すぐにはっとした表情に変った。
「大丈夫、講議ならかわりに彼女がやってる」
ジュリアの言いたい事をすぐにさっして、モルダーが微笑んだ。
「迷惑かけちゃって、モルダーあなたにも....」
「そんなこと.....」
彼はまた微笑むと、彼女の手を優しく握りしめた。
冷たい指先に、暖かい温もりが伝わっていく。
「軽い栄養失調に睡眠不足、疲労だよ。あいかわらず無理してるんじゃないのか?」

「最近徹夜続きだったから、忙しくて.....」
言葉を続けずに、ジュリアは顔を下に伏せた。
もともと白い肌の彼女の顔は透き通るほどに青白く、流れるように見事な金髪が彼女
の美しさを引き立てていた。
「不思議ね・・・・・」
小さな沈黙を先に破ったのはジュリアの方だった。
「えっ?」
「こんな風に再会するなんて・・・・・・」
「・・・ああ・・・・・」
その言葉に、この再会にとまどっていたのは自分だけではなかったと理解し、モル
ダーは小さく呟く。けれど、すぐに彼女の指先がかすかに震えている事に気付いた。

「立てる?」
「え、ええ?」
「送って行くよ」
「えっ?」
「そんな状態の君を一人で帰せないからさ、スカリーには僕から言っておく」
立ち上がったモルダーの腕を、ジュリアが引き止めた。
「モルダー、そんな...そこまで迷惑かけられないわ」
「迷惑だなんて思ってないよ、僕がそうしたいんだ」
ジュリアの両手を優しく包み込み「車を取ってくるよ」と、モルダーは微笑んで医務
室から出て行った。
残された手の温もりが、ジュリアに懐かしい昔を思い出させていた。

「さっきね、懐かしい夢を見たのよ.....」
車に乗り込んでから一言も話さなかったジュリアが、窓の外の風景を見つめながら話
しはじめた。
「どんな?」

車を運転していたモルダーは、彼女の顔色が大分良くなっているを見て少し安心し
た。
「すごく、昔の夢.....あなたに再会したからかしら」
「僕も君の夢のなかに?」
「ええ....」
「本当に?それは嬉しいな。っで、どんな夢なのさ?」
質問されてジュリアは一瞬押し黙った。が、すぐに「秘密」と呟いて、口元を軽く上
げた。
モルダーは彼女の笑みを見てまいったねと、顔で表してから、自分も最近彼女の夢を
見たことを思い出した。
それを口に出そうかどうか迷った瞬間、車の中にジュリアの携帯の音がなり響いた。

「もしもし?」
すぐに携帯に出るが、やはりその声にはあまり元気が感じられない。
「ええ、大丈夫よ心配しないで。少し横になれば治るから......大丈夫、分かってる
わ。ええ、じゃまた後でね」
彼女は携帯を切ると、それを力なさげに鞄に押し込んだ。
「大丈夫かい?」
ジュリアが漏らした小さなため息を聞き逃さなかったモルダーが、心配そうな瞳を彼
女に向ける。
「ええ、ただちょっと、今日は人会う約束が会って」
「誰と?」
間髪入れず聞き返して、モルダーは自分の失言にはっとなった。
「ごめん....」
彼は少し照れたような口調で、前を向いて小さく呟いた。
それを見て、ジュリアはすぐにおかしくなって微笑んだ。
「いいの、気にしないで....変らないのね、モルダー」
「自分でも驚いてるよ」
モルダーは決まりが悪そうに笑っている。
昔から、ジュリアが出かける時はモルダーは絶対"誰"と会うのかを毎回聞いていた。

自分の知らない人間や、聞いたこともないような名前だと、彼はしつこく説明を求め
た。
けれどジュリアは嫌な顔一つせず毎回、モルダーに話していた。それは二人が付き
合ってからお互いを不安にしないと言う約束だったので、聞く方も話す方も決して苦
にはならなかったのだ。
でも、今は違う。彼に聞く権利は無い。
モルダーは暫く黙りこむと、反省の念にかられていた。
「ジョシュアよ、覚えてない?」
「えっ?」
そんなモルダーの様子を見越して、ジュリアが助け舟を出した。
彼は意外な人物の名に、目を丸くする。
「ジョシュア.バーバリーよ、忘れた?私の従兄弟であなたと同じクラブだった。彼
が、私にどうしても会わせたい人がいるって」
「忘れるわけないさ!ジュリア、彼が僕を....」
言いかけて、モルダーは口を閉じた。
「モルダー?」
急に黙ったモルダーの顔を、ジュリアは覗き込むようにして声をかけた。
「僕、僕だ....それ」
「えっ?」
意味の分からないジュリアはモルダーに聞き返したが、彼の頭の中には留守番電話に
吹き込まれていたジョシュアからのメッセージが流れていた。

"元気かモルダー?今回は急な頼み事で本当に迷惑かけてすまなかった。さっき本部
の方から電話があって、引き受けてくれるんだってな。ありがとう、助かるよ。俺は
明日学会の方に出なくちゃいけないから、夜一緒に食事でもしよう。久しぶりにお前
に会わせたい人もいるしな。じゃ、また明日アカデミーについてから連絡する"

ジョシュアが言っていた"久しぶりに会わせたい人"
モルダーがジュリアを振り向いた。
「食事に行く店はリトル・パルレ?」
「え?ええっ」
「予約の時間は八時からだろ?」
「どうしてあなたがしって・・・・」
言いかけて、ジュリアあることにすぐ気づいた。
「ジョシュアが代理で呼んだ教官って言うのは、もしかしてあなた・・・・?」
「ああ、僕は彼に頼まれたんだ」
「じゃ、会わせたい人って言うのは・・・・」
「どうやら、僕みたいだったね」
一瞬、二人の間は短い沈黙に包まれた。驚きとジョシュアの行動に。
「驚かせようとしたんじゃないのか?」
真剣に言うモルダーがおかしくなってジュリアは笑い出した。
「こ、これで?」
「ある意味、驚いたよ」
そう言って、モルダーもおかしそうに二ヤリと笑ってみせた。
「偶然ってあるのね」
外に目をやりながらも、ジュリアはまだおもしろそうに笑っている。
「・・・・そうだな・・・・」
彼は小さくつぶやいて"偶然"の文字を頭の中で繰り返していた。
懐かしい夢に黄色の小さな小包、ジョシュアの働きでスキナーからの頼み、そしてス
カリーの恩師だった君。
その全てが"偶然"で片づくのだろうか・・・・・。
"偶然"ではなくて"必然"?もしくは・・・・・。
「運命?」
頭の中を読まれたのかと思って、モルダーはドキリとした。
ジュリアは図星でしょ?と、得意顔で笑っている。
「あー・・・・・食事にはスカリーも誘いたいんだけど、いいかな?ジョシュアを紹
介するって約束したんだ」
「ええ、もちろん」

モルダーの誤魔化すような態度に、彼女は声を殺して笑った。


PM'8:00
スカリーは書類を片づけるとすぐに約束の店に向かった。
思いの外講義には時間がかかり、レポートチェックも一日で山のように積み上げられ
た。
携帯にはモルダーからのメッセージが入っていて、内容はジュリアのことだった。
容態は心配いらない、けど彼女を一度送ってから、一緒に来る。と言う理解出来ない
ものだったが、店につけば全て分かるだろうと思ってスカリーは急いだ。
「スカリー!!」
彼女が良く目を凝らして見てみると、そこにはモルダーがこっちに向かって手を振っ
ていた。
「モルダー!遅れてごめんなさい、そっちは大丈夫だったの?」
「大丈夫、中に入ろう。彼女も来てるから」
「えっ?」
「いいから早く」
モルダーはそう言うとスカリーの手を取って、急いで店の中に入った。
階段を下りたフロアにはテーブルがいくつも折り重なって、満員とは言えないが、多
くの人がひとが食事をしていた。
「あっ・・・・」
当たりを見回したスカリーの目が、ある一角で止まる。
「ダナ!!」
それに気づいて目が合った瞬間に彼女は立ち上がって、スカリーを招いた。
「リノ!」
スカリーは小走りでジュリアへと走りより、モルダーもそれに続く。
「良かった・・・体調は?」
「もう、大丈夫。ごめんなさいね、ダナ・・・迷惑をかけちゃって」
「そんなこと、気にしないで・・・元気になったのなら良かった」
そんな二人のやりとりをモルダー以外でもう一人、横から見ている人間がいた。
ゴホン、ゴホンと言う音を聞いて、スカリーがジュリアの後ろに目を向ける。そこに
は長身で優しい顔つきの男性が、優微笑んでいた。
「こんばんわ、君がダナ・スカリー?」
「え?ええ」
「ジョシュア.バーバリーです。お噂はかねがねモルダーとジュリアの二人かた聞い
てるよ」
差し出された手と握手を交わしながら、スカリーは意外な顔で彼をみた。
「何かついてる?」
彼女のそんな視線に気がついて、ジョシュアは笑ってみせる。
「ああ、ごめんなさい。初めまして、ダナ.スカリーです」
「よろしく」
二人が自己紹介を済ませたのを見て、モルダーが「座ろうか」と三人を促した。
きりっとした顔だちに薄いグレーの瞳、ジョシュアはスカリーが想像していた人物と
は違い、明るく陽気でユーモアに溢れ、その誠実さに好意さえ抱いた。
今であったことのあるモルダーの友人の中でも、一番まともだと言っても過言ではな
い。
ジュリアとジョシュアがイトコで、モルダーを含めた三人が幼なじみと聞いて、さす
がのスカリーも何年も前から自分とモルダーが繋がっていたことに驚いていた。
食事中、ジュリアとジョシュアに恥ずかしい過去を次々と暴露されたモルダーは、慌
てたり拗ねたりと普段おもてに出さない感情を、スカリーに見せていた。
初めてみせるモルダーの子供の顔に、スカリーも自然と口元がゆるみ微笑む。

しかし楽しい時間の中、スカリーは一つだけ気になることがあった。
それはモルダーが話の途中に時折見せる、切なさに満ちた瞳。懐かしい思い出に、決
して楽しさばかりでは無かった事を証明しているようで、そう思うと胸が痛んだ。
けれど、彼はそんなを目をした後でほぼ無意識にジュリアを見る。その視線に気づく
と、彼女は何も言わずにそっとテーブルの上に置かれたモルダーの手を握り、優しく
微笑む。
すると彼の顔は安心感に包まれ、現実の意識に戻って来る。
そんな瞬間が食事中、何度もあった。

「スカリー、悪いけど帰りはジョシュアに頼んだから彼の車に乗って帰ってくれ」
「えっ?」
楽しい時を過ごして食事終えたモルダーは、席を立ってレジに行く途中スカリーに話
しかけて来た。
「僕はジュリアを送って帰るから」
「....分かったわ、リノをお願い」
スカリーは軽く笑ってから、先に歩くモルダーの背中を見送った。
ジョシュアの車に乗り込む最中、モルダーとジュリアの話声が聞こえてくる。
「モルダー、本当にいいのに。来る時だって送ってもらったのよ?」
「いいから気にしないで」
「でも、逆方向なんだし...」
「いいから」
半ば強引にジュリアを説き伏せて、モルダーが彼女を車に乗せた。
「あなたって本当に....ありがとう」
小さく呟かれた声に、モルダーはクスリと笑った。
「いえいえ」

モルダーの滅多に見せない優しい笑顔に二人の姿を見ていたスカリーは、モルダーと
ジュリアの間に懐かしさ以上の暖かい空気を感じて、二人が昔、幼なじみ以上の関係
だったことに気づいた。
「車を出すよ?」
「え?ええ、お願い」
ジョシュアに声をかけられて、スカリーは急いで車に乗り込む。
「すまない。でも、モルダーが言い出したら聞かないの知ってるだろ?リノは自分が
送って行くって言い張っちゃって」
「そんな、いいのよ。リノの体調は確かに心配だし、それに・・・私達は仕事上の
パートナーでしかないから」
「・・・・さっきの話は本当だったんだ」
「ええ」
二人のが言う"さっき"とは食事中、ジョシュアがモルダーとスカリーに関係を聞いて
来た時の事だった。もちろん二人とも、良きパートナーとだけはっきりと言い切っ
た。
「そうか、なら・・・良かった」
どこか安心した優しい口調に、スカリーがなぜ?と言う目を向けた。
「あ・・・君がモルダーの恋人だったんなら、悪いことしたと思って」
「悪いこと?」
「君とリノは師弟であって、友達だから・・・・やっぱり、いくら偶然でも昔の恋人
だって知るのは辛いものがあるんじゃないかと思って。でも、良かった」
「・・・・昔の恋人・・・!?」
一瞬の沈黙の後で、スカリーは歯切れの悪く聞き返す。
彼女の驚いている顔を見て、ジョシュアは、はっとなった。
「もしかして、知らなかった・・・・?」
「・・・・ええ、今はじめて知ったわ」
驚いてそれ以上何も言えず、スカリーは瞳を下に伏せたまま顔を上げようとしない。

再会した態度や食事中の様子を見て、二人の間に幼なじみを越えた何かを感じていた
が、まさか本当に確信を持つ事になるとは思わなかった。
"昔の恋人"
自分の知らないモルダーとジュリアの過去に、なぜか胸が酷く痛んだ。

「今日は本当にありがとう、お礼にコーヒーでも入れるけど?」
車から降りたジュリアは運転席に座っているモルダーの方に回り込んで、自分の家を
指さした。
「いや、今日は遠虜しておくよ。倒れたんだからゆっくり休んで」
やんわりと申し出を断ると、モルダーはジュリアに優しく微笑んだ。
「ありがとう・・・・変わらないのね、本当に。そんなふうに優しい所」
「そんなことないよ」
ちょっと照れたようにはにかむと、彼女の顔色がまだあまり良くない事に気づいて、
心配そうな瞳でのぞき込む。
「ゆっくり休むわね、本当にありがとう」
彼女が小さく微笑んだので、モルダーもコクリと頷いて笑顔になる。
「じゃ、おやすみ」
そう言ってモルダーが窓閉めようとした瞬間、ジュリアの手が窓ガラスに触れた。
「ジュリ・・・・!?」
閉めかかった窓をあけてジュリアを見ると、彼女の顔がさっきとは違い悲しさに満ち
ていた。
「ごめんなさい・・・・・」
消え入るような声で囁いた彼女のその一言に、どんな意味が込められているのかがモ
ルダーのは痛いほどに分かった。
「今・・・・幸せかい・・・?」
とぎれるように問いかけて、モルダーは視線を彼女の薬指へと移した。
そこにはシルバーの指輪がキラリと光っていて、それが彼女の"今"を表していた。
「・・・・ええ」
小さく頷いたジュリアの頬に、モルダーがそっと手を触れた。
「なら、いいんだ・・・・良かった」
モルダーは優しく微笑むと、彼女の手を握り「おやすみ」そう言って窓を閉めて軽く
手を振ってから来た道を引き返して行った。
「・・・・おやすみなさい、モルダー・・・・」
遠い目をして小さく呟いたその声は、誰か聞かせるのでもなく、握られた手に自分の
温もりを重ね彼女は車が見えなくなるまで見送った。


翌日からモルダーとスカリーはお互いに講義に研究やらで忙しくて、ほとんど話をす
る事は無く別々に時間を過ごしていた。二人の部屋はそんなに離れているわけではな
かったが、アカデミー内で偶然会うと行った事も無かった。
「ふぅ・・・・」
さっきまで講義をおこなっていた広い教室で、スカリーは小さくため息をついた。
誰もいない教室は不気味なぐらい静かすぎて、彼女のため息は意識していなくても響
いてしまう。
目の前に広がる椅子や机を通り越し、スカリーの視線は教室の一番後ろの壁に注がれ
る。けれど、それも視線がそこまでに行きついただけで彼女の心は、もっと遠くを見
ていた。
夕べ帰り際にジョシュアから聞かされた自分の知らないモルダーとジュリアの過去。

"昔の恋人同士"
それが、スカリーの頭から離れなかった。
確かにモルダーが見せていた笑顔や表情は自分の知らない顔ばかりで、どこか彼を遠
くに感じた。辛い過去をもつ彼が、昔の旧友と会って心から笑っていたのだ。
過去を振り返ればサマンサを失った事を思い出して、弱い自分が出て来るからと、あ
まり昔話をしたがらなかったのに。
夕べの彼は小さな少年のようで、そしてとても幸せそうだった。
「どうかしてるわ・・・・」
二人のことが頭から離れない自分に、スカリーはまだ気づきたくない気持ちに蓋をす

る。
気づいてはいけない。気づくことはできない・・・・。
それでも自分の心の中を巡る、この"痛み"だけはどうしようもなかった・・・・。

「ちょっとモルダー!!」
廊下に出たスカリーが聞いた第一声は、ジュリアの大声だった。
そこには怒ったような困っているような顔をしたジュリアと、片手に書類らしき物を
上げて持っているモルダーの姿が合った。
「返しなさいってば、もう!!」
なんとか彼からその白い書類を取り返そうとジュリアは腕を掴むが、身長に差があり
すぎて届くはずも無かった。
「駄目だよ。今日の仕事はこれでお終い!昨日仕事を減らすように言われただろ?」

楽しそうに笑いながら、モルダーは首を傾げて彼女を見つめた。
「だからって、ちょっと!どこ行くの?」
「君はこれから僕と食事に行くんだよ。どうせ朝から何も食べてないんだろ」
「た、食べたわよ」
「コーヒーは飲料類だから食べたことには入らないよ、いいから行こう。奢るから」

「あのね......」
ジュリアは講議の声を上げようとしたが、モルダーの無邪気な笑顔を見て諦めたよう
に小さくため息をついた。
「.....本当に奢り?」
悪戯っぽい微笑みを向けて、モルダーを上目づかいで見上げる。
「もちろん」
「じゃ、断れないわね」
その言葉にモルダーは満足そうに頷くと、ジュリアの手を取って歩き出した。

エレベーターの中に消えて行く二人の姿を、スカリーは目をそらす事が出来ずにただ
黙って見つめていた。
自分の前では決して見せる事のないモルダーのその笑顔に、感じている胸の中の"痛
み"が、彼女の心の中を波のように広がって行く。
それでもスカリーはその気持ちを認めないために、二人とは逆の方に歩いて行った。

「ダナ?」
名前を呼ばれ驚いたように振り返ると、そこには昨日一緒に食事をしたジョシュアが
立っていた。
「あっ....」
「やっぱり、こんにちわ」
彼は笑顔で微笑むと、スカリーの横に並んだ。
「こんにちわ。昨日はわざわざ送ってもらってありがとう」
「いいんだよ、そんなこと。あ、そうだモルダーを知らないかい?」
「えっ?」
「お昼になったから一緒に食事でもどうかと思ったんだけど、部屋に行ってもいな
かったからさ」
「....そうなの」
スカリーの脳裏に、さっきの二人の姿がよぎった。
視線を床に向け瞬間、ふとジョシュアが抱えていた本が目に飛び込んで来た。
「ああ?これ?」
その視線に気がついて、ジョシュアが本をスカリーに向ける。
「メルク−リ自伝?」
「ギリシャ系の本だよ。昔、モルダーに借りたままだったからついでに返しに来たん
だ」
「モルダーが?」
「ああ...意外そうだね?確かに今のモルダ−からは想像出来ないかも知れないけ
ど、昔は読書家で本ばかり読んでいたんだよ」
「.......信じられないわ」
"読書家"...今の彼とは随分かけ離れているその言葉に、スカリーは苦笑した。
「所でもう、食事した?」
「いいえ、まだ」
軽く首を振ったスカリーに、ジョシュアがにっこりと微笑みかけた。
「じゃ、一緒に行かないか?一人で食べるのには飽きたしモルダーはいないし、それ
に....」
「それに?」
「ここのランチは最高だよ」
おどけたように両手を広げて見せるジョシュアに、スカリーはおかしくて笑ってし
まった。
「決まりだね」
「ええ」
二人は軽く笑ってから、ゆっくりとカフェテラスの方へと歩いて行った。


食事を終えて研究室に戻ったスカリーを待っていたのは、腕を組んだまま真剣な表情
をしたジュリアだった。
「リノ?」
スカリーが研究室にも入って来た事にすら気付いておらず、彼女は黙って壁の一点を
見つめている。
「リノ??」
さっきより少し大きいめの声でスカリーが名前を呼んだので、ジュリアは驚いたよう
に振り返った。
「ダナ、お帰りなさい」
「....どうかしたの?」
「え?ああ、さっき理事長に呼ばれて...ちょっとね」
「そう....大丈夫?」
「ええ、たいしたことじゃないの。コーヒー入れるけど飲む?」
さっきまでとは違い、見なれた微笑みを返してきたジュリアに、スカリーは小さく頷
いた。
「ねえ、ダナ....モルダ−の事なんだけど....」
「えっ?」
「昨日はバタバタしてたから、ゆっくり話せなかったと思って」
「ああ....」
スカリーはジュリアからコーヒーを受け取りながらも、なぜか彼女と視線を合わせら
れなかった。
「手紙に書いてた、どうしようもない"相棒"がまさかモルダ−だったなんて...本
当に驚いちゃった」
「....そうね、もっと早く名前を言っていれば良かったわね」
「気にしないで、まさかこんな形でもう一度再会する事になるとは思わなかったか
ら....」
そう言って微笑んで見せたジュリアの横顔は、どこか切ない物に満ちていた。
「昔と随分変わったわ。あんな風におだやかに笑えるようになったのは、きっとダナ
のおかげね」
「リノ....私達、そんな関係じゃないのよ」
スカリーは小さく首を振った。
「分かってる。でも信じてくれる人がいてくれるだけで、人は強くなれるものよ。特
に彼のような人間は.......」
「........」
「どうしたの?」
「良く分かってるんだなって、感心したの」
「と、言うよりほら、モルダーってああゆう性格じゃない?言ってることは昔から変
わらないから、いいかげん免疫抗体が出来たのよ」
ジュリアは肩をすくめて、悪戯っぽい笑みをスカリーに向けた。
「だから、ダナみたいな人が彼の側にいてくれるのなら安心。なんたって、自慢の教
え子ですもの」
「リノ.....」
軽い口調だったが、その言葉の奥にスカリーはおだやかな優しさを感じた。


時間がたつのは意外と早いもので、気がつくとシカゴに来てから四日がたっていた。

後三日しかシカゴにいられないモルダーとスカリーに、妻を紹介したいから家に来て
欲しいとジョシュアが言って来たのは、その日の夕方だった。
あわない時間を調整して、二人は心良くを返事をした。
「もっとたくさん食べて下さいね」
知的で聡明な顔だちのジョシュアの妻イリ−ナは、料理の腕もなかなかの物で二人は
でてきた料理を残すことなく全てたいらげた。
「おいしい料理をごちそうさまでした」
帰り際、普段口にする事のない言葉にモルダーは少し照れたふうにはにかんだ。
「また来て下さいね」
イリ−ナはモルダーとスカリーに優しい微笑みを向ける。
「本当にごちそうさまでした」
「じゃまた明日、ダナ、モルダー」
スカリーは笑顔でイリ−ナとジョシュアに握手を交わすと、モルダーと一緒に車へと
歩き出した。
「いい人ね....」
嫌味でも皮肉でもなく、スカリーは素直な気持ちを言葉にした。
「うん....ジョシュアもだけど、イリ−ナが素敵な人で良かったよ」
優しく、モルダーは遠くを見ながら口を開いた。
大切な友人が家庭を築き、幸せな生活を送っているとモルダーは知って本当に嬉し
かったのだろう。
その瞳は優しさに満ち、彼はずっと笑っていたのだから。
シカゴに来てからモルダーの様子が変わったのは、スカリーの目から見ても明らか
だった。
ワシントンにいる時よりも遥かに明るくなり、少年のような表情を見せている。
ここには彼の心を癒す"存在"があるから.....。
「ジュリアが、来れなかったのは残念だったな....」
そしてまた、彼の瞳は切ないものに支配される。
決して自分には向けられないその感情。
「....そうね」
スカリーはモルダ−を見る事が出来ずに、小さく頷いた。
「どうかしたのか?」
彼女の微妙な変化に気付いて、モルダーが顔を覗き込む。
「スカリー??」
首を傾げて自分を見つめるヘイゼルの瞳を見る事が出来ずに、スカリーは反射的に目
をそらした。
「私が運転するわ」
「あ、ああ...」
スカリーはモルダーからキーを取ると、それ以上何も言わず車を走らせた。
車の中で一言も話さないスカリーをモルダー心配したが、彼女はそれでも何も言わな
かった。
でもそれは言わなかったのではなく、言えなかったのだ。
言葉に出来ない気持ちをスカリーは自分自身の中に強く押し止める。
あと三日、それが過ぎればこんな気持ちは消えて、そしていつもどうりの自分に戻れ
るはず。
そのままモルダーとは少し気まずい別れをしたが、大丈夫....スカリーは自分に
言い聞かせるように心の中で繰り返した。

翌日、このまま何ごとも無くシカゴでの日々が過ぎると思っていたスカリーに、モル
ダーが倒れたと連絡が入ったのは、それから数時間後の事だった.....。

 
                                      
 続く

======================================
==========

やっと中編完成〜〜〜!!!(涙)
ううっ....やったよ(滝涙)
今回完成がいつもより(少し)早かったのは、追憶、モルダー編と同時進行で書いて
たからです(^0^)
だから、次の作品は、ちょっと(!?)遅くなるかも...(苦笑)
でも、頑張るっす!!





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<<Catの一言>>
モルダ−×スカリ−×ジュリアの三角関係が走り出しましたねぇぇ♪こういう微妙なのって大好きです(にんまり 笑)はぁぁ、しかし、モル倒れちゃうなんて、
この後どうなるか気になりますわ♪

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