過去からの贈り物〜後編〜
AUTHOR 涼夜

本作品の著作権は全てCC、1013、FOXに続します。
プロローグからの続きとなっております。

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生きていれば、何度か人生の岐路に立つ事があるだろう。
だからこそ人は、今を悔いなく懸命に生きたいと願うのかもしれない・・・。


「リノ」
「その名前で呼ばないで、モルダー」
「どうして?君の名前だろ?」
「あなたは呼ばせてくれないじゃない」
「そんな・・・・僕だけジュリアスって呼ぶのかよ!?3歳も年上のくせに大人気な
いぞ」
「3歳も年下の子供に言われたくないわ」
「リノ!!」
「じゃ、リノ以外なら何でもいいわよ」
「うー・・・まだ納得できないけどいいや」
「っで、なんて呼ぶの?」
「うーん・・・・」
「何?」
瞳を大きく開くと、小さな少年はとびっきりの笑顔になった。

「ジュリア!!」

白いベットの上で、彼は夢の中の小さな自分が叫んだのと同時に目を開いた。
一瞬ここが分らなかったモルダーは、自分を心配そうに覗き込むジュリアを見て、夢
の続きかと思った。
「大丈夫?モルダー」
彼女の手が頬に触れた瞬間、モルダーは自分が倒れたのだ言うことを思い出す。
「あっ・・・・」
「医者としての診断はね、軽い栄養失調に睡眠不足よ」
「君と同じかい?」
「一つ違う所があるわ。あなたここ1〜2週間まともに寝て無いでしょ?」
視線をそらしたモルダーの腕に、ジュリアがそっと触れた。
「・・・・・まだ、眠れないの?悪夢はまだ続いているの?」
優しく響くその声は、遠く甘い過去を残酷にも蘇らせていく。
あの頃、彼女が全てだった。
いつも笑ったその顔が見ていたくて、ずっと側にいたくて・・・。
満たされていたと、今なら言える。
愛されて愛して・・・胸が痛いくらいに・・・。
「モルダー?」
モルダーは何も答えない変わりに、自分に触れるジュリアの手の平に優しい口付けを交わした。
どうしてこの手を離して生きてこれたのか?
別れは必然だったのだろうか?
今でも思わずにはいられない。
「何があったか、話せる・・・?」
「・・・・・・・」
「いいたくないのね?じゃ・・・」
ジュリアは優しく微笑むと、モルダーの頭を自分に抱き寄せた。
汗で濡れたその髪を軽くかきあげ、何度も落ち着かせるようにさすってやる。
昔もこんな事があった。
眠れない夜、悪夢で飛び起きた時、声を殺して泣いていた日でさえも、いつも側にい
て彼女は安心感をくれた。
その鼓動を耳より早く体で感じるたびに心が安らいだ。
もう何年も忘れていた優しさ・・・懐かしい時間。
「君と別れてから・・・色々な事があったよ・・・・」
「・・・・私もよ、モルダー・・・」
「時間だけは過ぎるのは早くて・・・・」
「でも実際の自分は何も変わっていない?」
首を傾げたジュリアに、モルダーは軽く微笑んだ。
「モルダー・・・・私ね、実は・・・モルダー?」
反応を無くした彼の顔をジュリアが覗き込むと、そこからは安らかな寝息が聞こえて来た。
彼女は小さく微笑むと、モルダーをそっとベットに戻した。

「リノ!」
部屋を出た瞬間にジュリアはスカリーとかち合ってぶつかりそうになる。
それでも息を切らせて走ってきたスカリーを見て、ジュリアは優しく微笑んだ。
「大丈夫、軽い睡眠不足で貧血を起したみたい。今さっき眠った所よ、中に入る?」
ジュリアが一歩引いて扉を指差したので、スカリーは部屋の窓からモルダーのようす
を伺った。
あまりに安らかな寝顔にスカリーは安心して口元を緩ませると、黙ってモルダーを見つめる。
「中に入らないの?」
「えっ・・・ええ、気持ちそうに眠ってるから」
「倒れるまで無茶をしないと眠れないのね、きっと」
呆れたようなジュリアの声にスカリーは、彼女も知っているのだと感じる。
モルダーの無茶苦茶な性格、まっすぐな考え方。ひたむきな思いと強い情熱。
そして誰よりも深い信念を抱いてる事を。
「ダナ・・・聞きたい事があるんだけど、少しいい?」
ジュリアの改まった口調にスカリーは少し驚いたが、小さく頷いた。
「ここはもう大丈夫だと思うから研究室に戻りましょう」
きびす返して歩き出した彼女の後ろにスカリーも続いた。
その後ろ姿は美しく、ジュリアは昔、スカリーがこんな女性になりたいと初めて憧れ
た女性だった。

研究室に戻ったスカリーは、ジュリアが入れてくれるコーヒーを待ちながらぼんやり
と彼女と過ごした日々を思い出す。
まだ自分が学生だった頃、よくこんな風に彼女の研究室に遊びに来た物だった。
分からない事や講議の疑問にもジュリアはめんどくさがらずに丁寧に説明してくれ、
スカリーは多くの事をこの師の元で学んだ。
美しさと聡明さを兼ね備えたジュリアは学生の間でも人気が高く、スカリーは友人の
男子生徒から手紙を渡して欲しいと頼まれた事を思い出して小さく笑った。
決してその美しさに自惚れる事もなければ、その頭脳の明晰さをひけらかす事もなく
自分の持てる知識の全てを伝えようとする1人の化学者としても、女性としてもスカ
リーはジュリアに憧れた。
こんな風になれたら・・・こんな風に微笑む事が出来たらと・・・・。
3年と言う時間をかけてスカリーは少しずつ自分の理想に近付いて行った。
それでも、スカリーが手に入れる事が出来ない物があの頃一つだけあった。
それは" 微笑み "
いつも幸せそうに笑っていた、ジュリアの優しい笑顔。
それは簡単に手入れる事は出来ないだろうとあの頃スカリーは思い、そんなジュリア
の横顔を側で見ていた。
だからこそ今でも覚えている。
ある日、急に彼女の微笑みは消えてしまったのを・・・・。
「ダナ?」
声をかけられ我に返ったスカリーが顔をあげると、ジュリアが湯気のたったコーヒー
を差し出してくれていた。
「どうしたの?」
「あ、なんでもないの・・・少し昔の事を思い出してて・・・ありがとう」
「昔?」
ジュリアはおかしそうに微笑むと、首を傾げた。
「色んな事よ」
「あなたは手のかからない生徒だった。頭もよくて、理解力もあって・・・どれだけ
助けられたか」
「そんな事ないわ」
「それがあるのよ、今じゃFBI捜査官だもね」
にっこりと微笑むジュリアを、スカリーは困ったように見つめた。
「ただ一つ言えば・・・・」
ジュリアは天井を見上げて考えるような素振りみせる。
そしてスカリーの不思議そうな顔を確認すると、軽く彼女の頬に人さし指で触れた。
「もっと笑うべきよ」
その一言にスカリーは目を丸くしたが、いつまで自分は彼女にとって教え子なのだと
感じ笑い出した。
「そう、そんな風に笑えばいいの」
深く納得してみせる彼女の前で暫く笑っていたスカリーだったが
自分を真剣に見つめるジュリアの視線に気付くと、聞きたい事があると言っていた事
を思い出す。
「ごめんなさい、リノ。それで聞きたい事って何?」
「えっ・・・ああ・・・」
「何?」
「・・・・・・モルダーの事なの」
あまりに真剣なジュリアの表情に、スカリーの心に少しの緊張が走る。
「・・・・何?」
「話せる範囲でいいんだけど・・・最近、何かあったの?モルダーに」
「えっ」
「彼を変えてしまう、何かが・・・そんな気がしてね・・・」
ジュリアは肩をすくめて見せた物の、その瞳は真剣だった。
「なんだか・・・・強く思いつめてるんじゃないかと思って・・・・」
「リノ・・・」
「あ、言えなかったらいいのよ」
両手を広げてジュリアは言いにくそうなスカリーを制止すると、微笑んだ。
それでも、その瞳の中にモルダーへの心配の思いを強く感じたスカリーは、ゆっくり
と口を開いた。
「最近・・・よく私にも良く分からないの」
スカリーは手に持っていたカップから視線を離さず続けた。
「彼の妹さん・・・知ってるでしょう?」
「ええ。サマンサね・・・とってもいい子だった」
ジュリアは微笑んだが、すぐにその瞳には影が走った。
「その事件が解決してから、モルダーの様子が少し変わったのよ」
「!!解決した!?」
ジュリアの大きな声にスカリーは驚いたが、すぐに深く頷いた。
「ええ」
「・・・・サマンサは?」
暫く考えこんだが、スカリーは静かに首を横に振った。
深く息を吸い込み立ち上がって背中を向けたジュリアに、スカリーは声をかけず黙っ
ていた。     
やがて小さな沈黙の中で、背中を向けた彼女が目の涙を拭っているのがスカリーには
分かったが、何も言わず続けた。   
「その捜査中、彼の友人が死んだりして・・・・・・」
「友人?」
赤い目をこすり振り向いたジュリアにスカリーは名前を言うべきか悩んだか、小さく
呟いた。
「ダイアナ・ファウリーって言う名前の女性捜査官だけど・・・」
その瞬間、ジュリアが驚いた顔したのでスカリーは言葉を止めた。
「・・・・・ダイアナ?ダナ、ダイアナって言った?・・・彼女死んだの・・・?」
「知ってるの・・・?リノ・・・」
今度はスカリーが驚いた番だった。
「知ってるって、ええ。彼女の事は・・・・・それよりそれいつ事なの?」
「二週間前よ、TVのニュースにも流れたわ」
「じゃあ見て無いはずだわ。私、ドイツに出張してたから・・・」
「リノ?」
ジュリアの顔は困惑した物から、深い悲しみに変わっていく。
「モルダーは・・・何か言ってた?」
「いいえ、特には・・・・」
「そう・・・・」
「リノ、それで・・・・」
スカリーがなぜダイアナの事を知っているのかジュリアに聞き返そうとした瞬間、研
究室のドアが強くノックされた。
考え込んでいるジュリアの変わりにスカリーは立ち上がりドアを開ける。
「あ、先生ちょっと来てもらえますか?」
そこでスカリーはもう休憩時間が終わり、講議が始まる時間だと言う事に気付いた。
「リノ」
振り返った先にはすでにジュリアの姿はなく、スカリーは立ち尽くしてしまった。


自室に戻ったモルダーは、自分の荷物の中から黄色い小包を取り出した。
それはシカゴに来る前、友人から受け取った物で、ワシントンを旅立つ時に一緒に持っ
て来た物だった。
後ろに乱雑に書かれた"D"の文字。
かつて同じ時を恋人として過ごした相手。
あれが愛だったのか、寂しさをまぎらわす為に一緒にいたのか、今は分からないが、
彼女といると全てを忘れられた。
でもそれは甘やかすだけの日々で、決して心の空洞は埋められなかった。
気付かない振りをしていた二人。
同じ時間を過ごした事に後悔はないし、思いでは振り返っても楽しい物ばかりだった。
ただ・・・あまりにも望んだ愛され方と違っていただけで・・・。
欲しいのは、目に見える確かな関係や快楽を与える性欲じゃなかった。
だから二人の関係の終わりは一瞬だった。
どんなに愛を与えられても満たされていない僕に気付き、彼女は諦めた。
だからはっきりと覚えている。
自分の元を去ると言った彼女・・・ダイアナの後ろ姿を見送っても、痛みも涙なかっ
た事を・・・。
モルダーは小包を裏返すと、しっかりと縛られた革ヒモを解き、箱の中身を開いた。
中には小さな箱が一つと、手紙が一枚だけ入っていた。
手紙をそっと開いて見ると、中には彼女、ダイアナからの最後のメッセージがつづら
れていた。

" モルダー

あなたがこの手紙を見ていると言う事は・・・・・きっと私はもうこの世にいないの
でしょうね。
あなたと再会してから、どこかで感じてた"予感"だわ
だからあなたに伝えたい最後の言葉を手紙に残します。
事件の事やXファイルについては私が書き残すよりもあなたが目で見て感じて信じた
方がきっといい。
言いたかった事は一つだけ。
あなたにもらった、これを返そうと思って。
これをくれた日を今でも覚えてるわ。色んな意味でね?だけど分かった事もあった。
私達の愛情の深さよ。あなたは確かに愛してくれた。
その言葉で、その心で愛を囁いてくれた。
だけど私は、あなたの特別には・・・なれなかった。
でそれも初めて出会った日から分かっていた事だったのよ。
だけど認めたくなくて・・・ずっと気付かないふりを別れた後でも続けていた。
でも・・・もうあなたに永遠に会えない日が来るなら、きちんと伝えたいと思うよう
になったの。
口では言えないから、こんな形になるけど・・・これをあなたに返します。
これはあなたが本当に愛してる人に、想っている人に渡して。
それは私じゃない。
あなたには分かってるはずよ、モルダー。
さよなら、元気でね・・・・

*追伸* 一度もつけられなかったわ
                 
                     ダイアナ  "


手紙のそえられた小さな箱を開けて、彼は言葉を失った。
「・・・・・!!」
その小箱の中には、いつか彼がダイアナに送ったシルバーの指輪だった。
そこには「永遠の愛を」と彫られていて、これを受け取った時、彼女は涙を涙を浮か
べて喜んでいた。
でも贈った彼の想いは複雑だった。
それは彼が愛した女性に渡せなかった指輪だったから。
開いたデスクの中に大事そうにしまわれていた思い出の品。
振り切るために、忘れ去る為に、モルダーはそれをダイアナに贈った。
ジュリアの影を振り払う為に・・・・。
でも贈った本当の意味も、その指輪が誰ための物だったのか、ダイアナは本当は分かっ
ていたのだ・・・。
「ダイアナ・・・・」
モルダーは小さく呟くと、指輪が飾られた小箱を握りしめた。
昔ダイアナに贈った物が、今度は彼女から贈り返された。
"過去"の塊。"過去"の思い出。ダイアナからの、忘れていけない"過去からの贈りも
の"
モルダーが包まれる後悔の念に身を任そうとした瞬間、部屋のドアがノックされた。
近寄って扉を開くと、そこには自分を心配そうに見つめるジュリアが立っていた。
「モルダー・・・・その・・・・」
ジュリアはモルダーの頬に触れると、悲しそうな瞳で彼を見つめた。
「・・・・・ダイアナが死んだと聞いたわ・・・・・」
「・・・ジュリア・・・」
「・・・本当なのね?」
震えるジュリアの手を頬から直接感じながら、モルダーは小さく頷いた。
「そう・・・・辛かったわね・・・・」
「・・・・!!」

"心から愛してる人にこの指輪を渡して"

モルダーの脳裏に、一瞬ダイアナの言葉がよぎった。

これは君の悪戯なのか?それとも過去と向き合う為の試練なのか?
モルダーは瞳から溢れ出る涙を押さえる事が出来ず、そのまま目の前のジュリアを抱
き寄せた。
瞬間、抱き寄せたはずみで彼の手から握りしめていた小箱がすり落ちた。
それでも、モルダーは足下に落ちた小箱を拾らおうとはせず、彼女を抱き締めた腕を
放さなかった。
震える肩に彼が泣いてるのだと、抱き締められた腕の中でジュリアも感じた。
そのままモルダーの頭を包み込むと、そっと抱き寄せた。


「・・・僕は結局何も変わってはいないんだ」
カウチに座ったモルダーは、額を押さえたまま言葉を続けた。
「結局何も・・・変わってはいないんだよ」
「モルダー・・・・」
隣に座るジュリアはそっと、モルダーの手に自分の手を重ねた。
「妹や真実に辿り着く為に今までどれだけの物を犠牲にしてきたか分からない。
どれだけの人を傷つけてきたのか・・・・!!」
「あなたの責じゃないわ」
「でも僕と関わらなければダイアナは死なずにすんだ!!」
「・・・・ダイアナとはいつ別れたの?」
「・・・!!なんで知って・・・・」」
「一度だけ、ドイツに戻って彼女から連絡があったのよ。あなたと付き合うようになっ
たって」
「・・・・ダイアナは一言もそんな事・・・・」
「言わないと思うわ。きっと私の事も、二人の間では話題には登らなかったんでしょ?」
確信めいて問いかけて来るジュリアに、モルダーは小さく頷いた。
ダイアナといても、ジュリアの話題は彼女がドイツに戻ってから一度も出なかった。
いや、あえて自分とダイアナはその話題を避けていた。
ジュリアの存在を、否定するように・・・・。
ダイアナと出会ったのは、ジュリアの紹介だったから・・・。
勝ち気でまっすぐなダイアナが思いをぶつけて来るのはストレートだった。
彼女と付き合う事になるのはそんな難しい事でも時間もかからなかった。
ジュリアを失い、仕事に打ち込むようになった自分を慰めてくれた、より自分に近い
相手だったのだから。
ただ求めていた愛情ではなかっただけで、決して嫌いで別れたわけではなかったのだ。
彼女が仕事を選んだとしても、それは言い訳であって決して原因ではなかった。
原因はもっと根本的な、誤摩化す事の出来ない気持ちの歯車。
求めていたのはダイアナじゃなかった。
でも、自分以外の相手と幸せになって欲しいと願っていた・・・。
「君がドイツに行ってから少しして付き合いだして・・・1年ぐらいで別れたよ」
「ダイアナなら・・・あなたの心を支えられると思っていたわ」
その言葉に、モルダーは小さく首を振った。
「お互いが傷付く前に別れたんだ。最初の頃、僕は君の事を引きずってた。
それはダイアナも分かってた。でも彼女は僕を慰めてくれて、僕は彼女を愛し始めた・
・・でも・・・」
「何があったの?」
「彼女じゃなかったんだ」
「・・・・モルダー・・・・」
「ダイアナじゃなかった。確かに彼女を大切だと思ったけど・・・・」
モルダーはジュリアの手をそっと握りしめると、彼女を見つめた。
「君が僕の元を去る時に言った言葉の意味を持つ相手じゃなかった。
君が去ってから、ずっとあの言葉の意味を考えてたよ。
なぜ君は僕の元を去ったのか、どうして想い合っているのに別れないといけなかった
のか」
「モルダー・・・・」
「けど僕は考える事から逃げて・・1年間ダイアナの側で彼女の温もりに甘えていた。
でもそれは僕が望む物でも求めている物でもない事にお互いに最初から気付いていた。
これ以上側にいても辛くならないよう、彼女の異動と共に僕らの関係も終わった」
「それから・・・・ずっと独りで?」
モルダーは小さく頷いた。
ジュリアの瞳から溢れそうになる涙を手で拭ってやりながら、彼女を愛しそうに見つ
める。
「さいわい僕には仕事があった。何もかも忘れる事が出来て没頭できる仕事が・・」
モルダーはきゅっと唇を噛み締めると、言葉を続けた。
「僕らの別れに繋がった仕事が・・・・結局、僕は何も変わっていないんだよ。
ダイアナよりも仕事を選んだ。今だって仕事の為に多くを犠牲にして来たんだ」
「・・・そんな事ないわモルダー。あなたは変わった。昔とは違う、私には分かるの・
・・」
「ジュリア・・・・・」
「昔のあなたはもっと冷たい目をしてた。だけど今のあなたの瞳は・・・とても優し
いわ」
「それは・・・・」
「人は1人では変われない。そうでしょ?」
「・・・・僕を変えたのは・・・・」
「・・・ダナ?」
モルダーは答えなかった。
彼の答えは一つ。考える間もないぐらいはっきりとしていたからだ。
モルダーはジュリアの手を取ると、震える指先で力を込めた。
「僕がダイアナを殺した」
「・・・モルダー・・・・!!」
「僕とさえ関わらなければ彼女は死ななかったんだ、ジュリア」
痛みと悲しみで傷付いたモルダーの瞳から、ジュリアは彼の多くの後悔を感じとった。
「もう誰も殺したくない」
「モルダー・・・・?」
「失いたくないんだ彼女だけは・・・」
深い決意を彼は心の中で誓った。
言わなければいけない言葉を・・・。


2日後、ワシントンDCに戻ってきた彼はシカゴでの日々を地下のオフィスで思いか
えしていた。
旧友の頼み、ずっと胸の奥深くに封印していた甘い思い出の女性、ジュリアとの再会。
懐かしい時間、降りそそぐ優しさ。
そしてダイアナが残した・・・・過去の思い出・・・。
モルダーはポケットから彼女の最後の贈り物、指輪を取り出して見つめた。
「・・・・永遠の愛を・・・・・か」
手の中で光るシルバーの指輪を見つめて、彼は誰もいないオフィスで小さく呟いた。
永遠など信じてはいないのに。
それでもあの頃はジュリアが全てだった。
幼くて、大人になりきれず・・・何度も傷つけて・・・。
モルダーは想いを封印するように指輪を手の平で強く握りしめた。

" 心から愛する人に・・・・ "

「モルダー?」
名前を呼ばれたモルダーが顔を上げると、そこには彼の相棒"ダナ・スカリー"が立っ
ていた。
モルダーは真っ直ぐに彼女を見つめ、小さく微笑んだ。
この美しい女性にずっと言わなければいけないと思っていた事。
怖くて言い出せず・・・ただ黙っていた一言。
でもダイアナが死んで、心の中にあった不安は確信へと変わり・・・。
ずっと言わなければいけなかった言葉は日々に溢れそうになって、眠れぬ日が続いた。
言えば後悔すると分かっている。失ってしまう事が怖い事も、だから何度もそこ言葉
を飲み込んで来た。
だけどジュリアと再会して、ダイアナからの過去の贈り物に・・・心は決断を下せた。
「スカリー・・・・・」
モルダーは立ち上がると彼女の側まで歩み寄り、小さく一呼吸してから続けた。
「ワシントンに帰ったら話すと言って事を覚えてるかい?」
「・・・・・!」
真剣なモルダーの瞳に、スカリーは彼が「わけ」を話すのだと感じとった。
ずっと自分を避け続けていた訳を・・・・。
「君に言いたい事は一つだけだ。スカリー・・・僕は君と・・・君とのパートナーを・・・」
モルダーはスカリーから一瞬目をそらしたが、でも真っ直ぐに彼女を見つめ返した。
「君とのパートナーを解消したい」
「!?」
「それをずっと言いたかったんだ」
「モルダー!?いきなり何を・・・!」
「いきなりじゃない。もうずっと・・・ずっと考えていたんだ」
モルダーは遠い目でスカリーを見つめた。
そう、言い出せなかっただけで本当はもうずっと昔から考えていた。
そして言わなければいけないとずっと思っていた。
自問は毎日繰り返された。
このままでずっと過ごすか、解放するべきか。

どちらが彼女にとって正しい事なのか、答えは分かり切っていたのに、その一歩を踏
み出せずにいた。
もっと早く・・・手を放すべきだったのだ。
彼女から離れるべきだった・・・。

" もう誰も殺したくない "

ジュリアに言った言葉が、彼の中を通り過ぎた。
「話はそれだけだ」
「ちょっ・・・モルダー!!」
背後から聞こえるスカリーの抗議の声、静止の言葉にもモルダーは耳を貸さず、オフィ
スから出て行った。
その彼の動きが止まったのは、エレベーターから降りて来た人影をみた瞬間だった。
「・・・・!!」
自分の目の前に立つ人物に、モルダーは言葉を失う。
今度こそ二度と会う事はないと思っていたのだ。
シカゴとワシントンでは・・・・・・。
「どうして・・・ここに?」
流れるような金髪に、海のように深いブルーの瞳。
「理事長勅命の指示で3週間ここFBIに研究の手伝いに来たのよ。
迷った末に引き受ける事にしたの。あなたの事が・・・気掛かりだったから」
やさしい口調に、かつて思い出の中で満たされていた時間を共に過ごした相手。
「ジュリア・・・・」
彼は目の前の相手に、彼だけが許されたその名を囁いた。


                      to be continued・・・。


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すいません><: めちゃくちゃ遅くなってしまいました〜!!
これからは気合いと根性で頑張ります(笑)


【Catの一言】

アップが大変遅くなってしまい申し訳ございませんでしたm(_ _)m
いやぁぁ、しかし・・・いい所で切りましたねぇぇ。涼夜さん!!この後の展開気になりますぅぅぅ!!!
気合と根性の続編お待ちしてまぁす(はあと)



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