優 し い 雨
AUTHOR 翠

                                                            
 
 
「マヤちゃん、今好きな人はいる?」
紅天女を射止め、世間の注目を浴びるようになったマヤには
いつもレポーターが追いかけてくるようになっていた。
 
「私の好きな人は紫の薔薇の人です。」
少女の頃から変わらない無邪気な瞳を向けて記者に答える。
これだけきっぱりと答えられては記者たちも取り付くしまがない。
 
何度聞いても同じ答えしか言わないマヤに困り果てて
苦笑を浮かべて、救いを求めるようにマネージャーの水城を見る。
「マヤはずっとこの人を好きだったですよ。じゃあ、これで。」
旬の女優の恋物語は記事になる、と踏んでいた記者は
肩を落として去ってゆく二人の姿を見送った。
 
 
 
「紅天女、北島マヤ熱愛か!!!」
雑誌の表紙に踊る言葉に真澄は我を失った。
急いで水城を呼びつけ、事態を説明させようとした。
 
「水城くん、これはどういうことだ。」
真澄は例の見出しが載った雑誌を無造作に放り投げ、
怒りを含んだ視線で睨みつける。
「あれ程、言っておいただろう。スキャンダルはマヤのマイナスになるから
注意してくれって。相手の方に早急に手を打ってもらうように
手配してくれ。金はいくら掛かっても構わん。」
真澄の表情は、所属事務所の社長ではなく
まるで嫉妬しているただの男のようだった。
 
水城は真澄がすっかり誤解しているのが
可笑しくて、口に手を当てクスクスと笑い始める。
どうして笑われているのか分からない真澄は
更に苛立ちを増して、
「何が、可笑しいんだ。水城くん。」
思わず机を腹立たしげに叩いた。
 
「すみません。社長。ところで、記事の中身はお読みになられましたか。」
見出しに心を惑わされ、すっかり記事を読むのを忘れてたことに気づいた。
苦虫を噛み潰したような顔で、中身を読み始める。
だんだんと顔色が変わってくる。
その様子を水城は笑いを堪えながら見ていた。
 
「紅天女、北島マヤのハートを射止めた紫の薔薇の人とは?
彼女の語る所に拠ると、初めての舞台からファンだと言って紫の薔薇を送り続けて
くれている人だそうだ。彼女を影で支え続けてくれた人であり、また経済的な援助を惜しみなく
与え、彼女に高校まで通わせてくれたそうだ。いわば、彼女をここまでしてくれた
恩人だそうだ。」
 
記事にはまだ先があった。
 
「これまで、全くの匿名で誰だかわからないままで心苦しいかったが、
最近やっと正体が分かったそうだ。本人にインタビューしても
教えて貰えなかったが、当雑誌では引き続き調査をしていきたい。」
 
真澄は驚きの余り声が出なかった。
マヤが紫の薔薇の正体に気が付いている・・・・?
その上で好きだと告白しているのか・・・?
ふと沸いた疑問を打ち消すように社長室をノックする音が聞こえた。
 
「失礼します。私をお呼びですか?速水社長。」
目の前に立っていたのはマヤだった。
「これはどういうことだ。水城くん。」
「社長、自らマヤちゃんに注意なされたら如何でしょうか。
雑誌に恋愛のことを言うなって。」
それだけ言うと、一礼をして社長室を出て行く。
 

その様子を見ていたマヤがおずおずと
「あのう・・・用件はなんでしょうか?」
と切り出した。
少しだけ怯えた彼女の潤んだ瞳に真澄の忍耐力は限界を迎えた。
俯く彼女の腕をとり、自分の胸の中へと閉じ込めた。
 
「は、速水さん・・・?」
 
驚きに目を開き、慌てている彼女が堪らなく愛おしい。
「マヤ、俺が君に紫の薔薇を送り続けていた。そして・・・・
  君を愛している。」                  
腕の中の彼女の感触を意識しながら、一気に言いたかったことを言った。
 
状況が分っていないマヤは真澄の腕の中で呆然としている。
「速水さんが私を・・・。」
小さく呟くとポロポロと涙を流し始めた。
 
「チビちゃん・・・。」
急に泣き出したマヤを見て、真澄の胸に不安な気持ちが過ぎる。
やはり、紫の影でいるべきだったのかと後悔の念に苛まれる。
泣き続けるマヤに掛ける言葉が見つからず、ただ泣き続ける彼女の
背中を優しく擦り続けていた。
 
涙の合間にマヤがポツリと言った。
「すみません。こんなに泣いてしまって。
だた、嬉しかったんです。あなたが、紫の薔薇の人だったこと、
そして、私はあなたを好きだったから。嬉しかったんです。」
 
再び、マヤの目に涙が零れ始めた。
マヤの想いを受け取った真澄は、微笑みながら
その涙をゆっくりと拭っていった。
 
思わず、マヤは瞳を開けた。
視線の先には、とても穏やかに幸せそうに
微笑む真澄の顔があった。
 
「君のことが、ずっと好きだった。
記者にインタビューされたら、今までどうり紫の薔薇の人が好きだ、
と言っておいてくれ。それで、問題ないだろう。」
少しだけ意地悪な顔をして、マヤに言う。
「はい、分りました。速水社長。」
こちらも業とかしこまって言う。
 
「全く、いつも君には、はらはらさせられるよ。」
大袈裟に溜め息を吐いて言った。
マヤは彼がどうしてそんな事を言うのか分らない。
「もう、私が一体何をしたっていうのよ。」
ちょっぴり剥れてみる。
 
その表情がとても可愛くて、真澄は抱きしめる腕に力を込め、
「君を一人でいさせたら、俺の心臓がもたん。
これからはずっと一緒だ。」
プロポーズの言葉を告げた。
 
一ヶ月後、二人は夫婦になった。
 
「紫の薔薇の人は、大都芸能の速水氏だった・・・。」
センセーショナルに雑誌に報道されたのは言うまでもなかった。
 
                                                                                                  FIN


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【Catの一言】
翠さん、初投稿ありがとうございます♪と−っても甘くてCat好みのお話で嬉しいです♪
読み終わった後、一日の疲れが飛びました(笑)
速水さんが記事に嫉妬する所ツボです(笑)水城さん可笑しくして仕方がなかったでしょうね(笑)


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