素直になれなくて−1−
「あなたなんか嫌いよ!」
真っ直ぐに見つめられ、いつもの罵声をかけられる。
やれやれ、彼女は毎回素直に反応するな。
社長室に無理矢理入るなり、マヤがその一言をつきつける。
マヤが怒っているのは真澄がとある工作をした事がバレたからだった。
「よくも、あんな汚いマネを!!」
唇を震わせ、これ以上ない程、険しい表情で真澄を睨みつける。
「君が俺の言う事を聞かないからだ」
マヤが選んだ芝居のバックには悪名高いプロダクションが絡んでいたものだった。
そんな芝居に出れば彼女が食い物にされる事は目に見えていた。
「余計なお世話です!!」
尚も真澄に食い下がる。
「そんなにその芝居がしたいのなら、大都でやればいいだろう。脚本はもうこちらで買っておいた」
そう言い、テ−ブルの上にポンと台本を投げる。
「俳優も演出家も手配してある」
いつもながら根回しのいい真澄に怒りの半分が飛んでしまう。
「・・・だ、誰が大都なんかに出るものですか!」
反射的にそんな言葉を口にする。
「誰が君を出すと言った?俺は君がこの芝居がしたければこれからやるオ−ディションに受かるんだなと言おうとしただけだ」
煙草を口に咥えながら、冷たい表情を浮べる。
「・・・それとも、君は最初から出られると思っていたのかな」
クスクスとマヤをバカにするように笑う。
「何ですって!!人から芝居を取り上げといて・・・あなたなんか大嫌いよ!!」
そう言い捨て、悔し涙を浮かべながら、社長室を後にしようとする。
「待て、台本を持っていきたまえ」
マヤの側に寄り、台本を差し出す。
「悔しいと思うなら、俺から勝ち取ってみろ!この芝居がしたかったんだろ?」
一瞬、優しい瞳でマヤを見つめる。
速水さん・・・。
「それとも、勝ち取る自信はないか?」
マヤが真澄の瞳に戸惑っていると、真澄がまた冷たい表情を浮べる。
「あるわ!必ず、この芝居に出てあなたにアッと言わせてみせるんだから!」
真澄からひったくるように台本を取る。
「それでこそ、ちびちゃんだ。オ−ディションを楽しみにしてるよ」
気づけば・・・またアイツのペ−ス・・・。
台本を手にして、大都を出ながら、そんな事を思う。
本当はわかっている。
アイツが私の為にしてくれているって・・・。
私が芝居を掴みやすいように、態々憎まれ役になって、私をたきつけているって・・・。
私だって・・もう、子供じゃない・・・。
アイツと過ごした年月を考えればわかる事・・・。
いつも、彼が私にどうしてくれていたか・・・考えればわかる。
でも・・・。
言い出せない・・・。
素直になんかなれない・・・。
だから、変わらず、こんな茶番を演じ続ける。
これ以上、進むのが怖いから・・・。
今の関係を壊したくないから・・・。
私は臆病者・・・。
”あなたなんか大嫌いよ”
ずっと言われ続けているあの子からの言葉・・・。
そう言われる度に胸が痛む。
こんな事で感傷的になるなんて・・・俺らしくもない・・・。
いつまで、彼女とこんな茶番を繰り返すのだろう・・・。
本当は彼女も俺の気持ちに気づいている気がする。
そして、彼女の気持ちも・・・。
紅天女の舞台で嫌という程、彼女の気持ちを知ってしまった。
だから、俺は迷う事なく婚約を解消した。
でも、彼女との関係は変わらなかった。
どうして、後、一歩を踏み出せないのだろう。
俺もただの臆病者なのだろうか・・・。
「来たな」
オ−ディションに来たマヤに審査員席から声をかける。
軽く真澄の方を見る。
「速水さんも・・・今回は審査員なんですか・・・」
「あぁ・・そうだ」
「あの、審査始めていいでしょうか?」
マヤと話している真澄に進行役の男が言う。
「あぁ。構わない」
「それでは、北島さん、先ほど、渡したセリフを言って下さい」
進行役に言われ、マヤの表情がガラリと変わる。
『・・・どうして、気持ちを隠すんですか?』
苦しそうに見えない相手に顔を向ける。
『お願いです。私に応えて!・・・迷惑なら、迷惑だと・・言って下さい・・・』
じっと、真澄の方を見つめる。
『・・・好きです。・・・ずっと、ずっと、好きでした・・・』
薄っすらと涙を浮かべ、儚い表情を浮べる。
思わず、彼女に手を伸ばしそうになる。
「はい、そこまで」
その言葉に、ハッとする。
「・・・ありがとうございました」
十人の審査員に礼をし、審査室から出て行く。
真澄はその一つ、一つの仕草を追いかけるように見つめていた。
「ダントツ、北島で決まりでしょう」
参加者全員の審査が終わり、口を揃えて審査員たちが口にする。
「速水社長はどうです?」
「えっ」
そう呼びかけられ、正気にかえるように、回りを見渡す。
「えぇ・・・そうですね。彼女が一番適していると思います」
「・・・好きです・・・ずっと、ずっと、好きでした・・・か」
オ−ディションからの帰り道、思い出したようにセリフを口にする。
あの時の彼女は演技ではなかった。
あれは役としてではなく、素の彼女の言葉だった。
あんなセリフと、真澄を目にして、正気ではいられなかった。
そして、どれ程、自分が速水を好きだったかを思い知らされた。
「・・・セリフに込めたあなたへの気持ち・・・届きましたか?」
夕暮れの空を見上げ、そんな言葉を口にする。
”好きです・・・ずっと、ずっと、好きでした・・・”
ただの演技なのに・・・。
あの子の表情が、声が頭から離れない・・・。
馬鹿だな・・・真澄、何を考えている?
あれはただの演技だ・・・。
演技・・・じゃあ、紅天女もただの演技だったのだろうか・・・。
俺はやはり、思い違いをしているのだろうか・・・。
わからない・・・彼女の気持ちが・・・。
俺はどうすれば・・・いい?
「久しぶりだね」
舞台の製作発表の日、そう言ってマヤの前に懐かしい人物が現れる。
「・・・里美・・・さん・・・」
そこにいたのはマヤの初恋の相手である里美茂だった。
「君の相手役をする事になった。宜しく」
「里美さんが相手役?」
マヤの中で何かがときめく・・・。
「そろそろ製作発表だ」
真澄が二人の前に現れる。
一週間ぶりに会う真澄は少し痩せたように見えた。
「何だか絵になる二人だな。昔の北島マヤとは考えられないくらい・・・」
「本当、子供ぽっさが抜けて・・・里美ともひけを取らない存在になった」
「・・・そう言えば・・・昔、二人は付き合っていたんだよな」
後ろで記者会見の様子を見守る真澄の耳に外野たちのそんな言葉が入る。
確かに、里美と並ぶのに丁度良い程に女らしくなった。
そういえば、紅天女の舞台が終わってから、ぐっと綺麗になったな・・・。
あの子も女性として花を開き始めたのか・・・。
そんな事を思い、優しい笑みを浮べる。
速水さん・・・。
記者の後ろで佇む彼が視界に入る。
とても穏やかな瞳をしていた。
その瞳に胸がキュンとする。
誰を見ているの・・・?
そんな優しい表情で・・・。
まさか、私?
でも、どうして、そんな表情で見つめるの・・・。
まるで恋人を見るような瞳で・・・。
まさか・・・やっぱり、あなたも・・・。
「マヤちゃん、マヤちゃん」
我を失ったように真澄を見つめるマヤの意識を戻すように声がする。
「えっ・・・」
「質問があるみたいだよ」
隣の里美が小声で囁く。
「あっ、失礼しました。どうぞ」
テ−ブルの上に置かれているジュ−スを一口含み、記者に向かって平然とした表情を浮べる。
「何を熱心に見つめていたんだい?」
記者会見を終え、里美がマヤに言う。
「・・・別に・・・何でもないわ」
「そうかな。ただならぬ様子だったけど」
マヤをからかうように言う。
「もう、里美さんったら」
「あっ、速水さん」
里美の口から出たその言葉にドキッとする。
「ご苦労だったな」
労うように真澄が二人に言う。
マヤは戸惑ったようにチラリと真澄を見る。
「それじゃあ、失礼するよ」
そう言い、すぐにその場を立ち去る。
「あっ」
何かを言おうとした時、もう真澄はその場にいなかった。
「違う!その目じゃない!君がオ−ディションで演じた表情はそんな薄っぺらいものじゃなかったぞ!」
里美とのラブシ−ンに演出家の声が飛ぶ。
これでもう、10回以上のやり直し・・・。
どうしてもオ−ディションで演じたような気持ちになれず、マヤは悩んでいた。
「すみません。もう一度お願いします」
「いや、もういい。君はまだこの役を掴んでいないみたいだ。少し時間をあげるから、自分で役を理解してくるんだ」
「少し、お休みになったらどうです?」
休む暇もなく、仕事をする真澄に水城が心配したように言う。
「いや、休んでる暇なんて・・・今の俺にはないから」
最近の真澄の仕事ぶりには目を見張るものがあった。
殆ど、睡眠をとらない状態で、朝早くから日付が変わるまで会社にいる。
さすがに最近は顔色が悪くなってきた気がする。
このまま行けば、間違いなく過労死を迎える事になる。
「何を言ってるんですか!そんなに顔色悪くして!少し睡眠をとって下さい!!午後の予定は全てキャンセルさせて頂きました」
凄い勢いで水城が言う。
「ほら、早く、お帰りになって下さい」
真澄を追い出すように言う。
一瞬の口も挟めず、真澄は社長室から追い出された。
「・・・俺の会社だぞ」
ぶつぶつ文句を言いながら、仕方なく会社を出る。
やっぱり、仕事に逃げているのか・・・俺は・・・。
水城に会社を追い出され、公園のベンチに横になる。
暖かい日差しが照らし、昼寝にはもってこいの天候だった。
水城くんがくれた時間だ・・・少し寝るか・・・。
欠伸をしながら、そんな事を考える。
常に睡眠不足が続く、真澄は一瞬で眠りにつく事ができた。
「えっ・・・速水さん?」
考え事をする為、公園に来ると、ベンチで気持ち良さそうに眠っている真澄の姿が目につく。
「どうして・・・ここに?」
あまりにも以外すぎて、つい、じっと見つめてしまう。
「・・・睫毛長いなぁぁぁ・・・。やっぱり、綺麗な顔立ちしてるな」
眠る真澄を間近で見つめ、口にする。
「・・・誉めてくれてありがとう」
マヤの言葉に反応するように真澄が言う。
「えっ」
驚くと、真澄が目を開けて、マヤを見つめる。
「やっぱり、君か・・・」
嬉しそうに笑みを浮べる。
「速水さん・・・起きていたんですか?」
「起きていたというか・・・起されたという方が正しいだろうな」
ベンチから起き上がり、嫌味たっぷりにマヤを見る。
「あっ・・・すみません」
真澄の言葉に素直に謝る。
「はははは。別に謝らなくても・・・。君が素直だと、雨が降るぞ」
真澄の言葉に頬を膨らませる。
「・・・どうせ、私は素直じゃありませんよ」
「・・・立ってないで座ったらどうだ?」
「えっ・・・あっ、はい」
つられるように真澄の隣に座る。
「どうした?この時間ならまだ稽古中だと思ったが・・・。その顔を見ると演技が上手くできなくて、演出家に追い出されたか?」
まさにその通りだったので、マヤは言い返す言葉が見つからなかった。
「はははは。図星か・・・。で、何に悩んでいる?」
「・・・目が違うって言われました。このセリフを口にする時、どうしても感情が上手く入れられないんです」
真澄に台本を渡し、その箇所を示す。
「・・・”好きです”って、これはオ−ディションで使ったセリフじゃないか」
「はい。オ−ディションの時は上手く言えたけど・・・稽古の時になると、なぜか、気持ちがわからなくなって・・・」
『俺に構うな・・・君には関係ない事だろう』
台本を見つめながら、真澄がセリフを口にする。
「えっ」
驚いて真澄を見る。
「丁度、俺も今は時間が余っている。セリフの読み合わせぐらいはできるぞ」
「えっ・・・はい。お願いします」
『どうして、気持ちを隠すの・・・』
意識を役に集中させ、セリフを口にする。
『・・・隠してなんかいない・・・君の勘違いだ・・・』
台本を見ながら、真澄がセリフを口にする。
『迷惑ですか・・・そんなに、私の気持ちが迷惑ですか?』
苦しそうに瞳を潤ませる。
『・・・どうして、何も言ってくれないの?』
マヤの演技に段々、目が離せなくなる。
『私の気持ちはもう気づいているんでしょう・・・。あなたを好きだって・・・愛しているって・・・。』
その表情にオ−ディションでの彼女が重なる。
『好きです・・・。ずっと、ずっと・・・好きでした・・・』
思わず、彼女を抱き寄せる。
「・・・速水さん?」
真澄の腕の中で驚いたように彼の名を告げる。
「えっ・・・その、台本に抱き寄せるって書いてあったから・・・」
我に返ったように、パッとマヤを放す。
「やっぱり、駄目だな。俺みたいな素人じゃ、君の練習相手にはなれないよ・・・」
理性を総動員して、マヤの元から離れるように、ベンチから立ち上がる。
「・・・急用を思い出したから、行く。舞台頑張れよ。楽しみにしてる」
マヤの頭を軽く撫で、笑顔を一つ残し、その場を後にする。
「・・・速水さん・・」
小さくなる真澄の背中を見つめながら、呟く。
その姿に胸が締め付けられる。
「君が演じられない理由は彼かい?」
「えっ」
声のした方を向くと、いつの間にか里美がマヤの隣にいた。
「君が稽古場を出た後、慌てて、追いかけてきたよ。速水さんとの演技見せてもらった」
里美の言葉にドキッとする。
「あのセリフを口にしていた時の君の瞳は本気だった。本気で恋する女を演じていた。・・・いや、演技じゃなく、本当に速水社長に恋してるように見えたよ」
「・・・気のせいよ」
表情を半分凍りつかせながら口にする。
「・・・君が製作発表の時見つめていたのは速水さんなんだろう?」
マヤから逃げ場を奪うように決定的な一言を口にする。
「・・・速水さんなんか・・・見てないわ・・・」
背を向け、頑なに言い張る。
「どうして・・・彼を好きな気持ちを認めない・・・」
マヤの肩に手を置き、無理に自分の方に向かせる。
「・・・だって、認めてしまったら、抑えられなくなるから・・・。速水さんが、私を相手にしてくれる事はないから・・・」
涙を浮かべながら、苦しい思いを口にする。
「・・・マヤ・・・ちゃん」
「・・・好きでした・・・か」
「何かおっしゃいました?」
真澄が小さく呟いたのを聞いて、水城が聞き返す。
「いや、何でもない。君のおかげで、昨日はゆっくりと休めたよ」
「それはよかったですわ」
そう言い、真澄の好きなブル−マウンテン入りのコ−ヒ−カップを渡す。
「そうだ。午後一時間程、時間があるか?」
コ−ヒ−を口にしながら聞く。
「何かご予定でも?」
「今度大都劇場で上演する芝居の稽古を見にいきたいと思ってね」
「あぁ、マヤさんが主演するやつですね。わかりました。稽古の始まる時間とあうようにお時間作ります」
「・・・頼むよ」
『お願い、気持ちを隠さないで・・・私を見て・・・』
相手役の里美をじっと見つめる。
その瞳に速水への想いを重ねる。
「そうだ・・・その瞳だ。北島くん」
演出家がマヤの表情を食い入るように見つめる。
『・・・好きです。ずっと、ずっと・・・』
セリフを口にしようとした時、稽古場に真澄が入ってくる。
その姿を目にし途端、感情が溢れ出す。
『・・・好きです』
真澄の方を真っ直ぐに見つめ、告げる。
その瞳からは涙が流れていた。
皆、マヤの迫真の演技に胸を掴まれる。
そして、里美にはその視線が自分の方を向いていない事がわかった。
「・・・マヤちゃん・・・」
その視線の先には真澄がいた。
真澄もマヤの演技とは思えない感情の入った視線を受け。逸らせずにいた。
二人の間で何かがともる・・・。
パンパンパン・・・。
真澄がその場の雰囲気を壊すように、手を叩く。
「やぁ、よかったよ。ちびちゃん。君の迫真の演技に引き込まれそうになった」
いつもの表情を浮かべ、口にする。
「これは、これは速水さん」
演出家が真澄を嬉しそうに出迎える。
「近くまで来たものだから、稽古の様子を見に来たんですよ」
そう言い、差し入れを渡す。
「いや、すみませんな。態々来て頂いて」
「よし、皆、10分休憩だ」
その声と同時にマヤが稽古場から飛び出す。
「・・・マヤちゃん・・・」
慌てて、里美が追いかけようとする。
「ほっといてやれ」
里美の腕を真澄が掴む。
「今の演技だと思いますか?どうして、彼女の気持ちに答えてあげないんです!」
声を荒げ、正面から真澄を見つめる。
里美の言葉に真澄は何も言わず、背を向け、マヤの出て行った方へと歩いていく。
コツコツ・・・。
マヤが階段に座り込んで気持ちを落ち着けていると、足音がした。
その足音はマヤの真後ろで止まる。
「心配しないで・・・さっきのは芝居で感情が高ぶっただけ。時々こうなってしまうの・・・。自分の気持ちが抑えられてなくて・・・感情的になってしまう」
振り向かずに後ろの人物に言う。
「・・・ごめんね。里美さんの足を引っ張ってばかりで・・・」
マヤは完全に真後ろに立つ人物を里美だと思い込んでいた。
「・・・今日は速水さんの顔を見たら、気持ちが走り出しちゃって・・・。全く、速水さんのタイミングの良さには驚いちゃうわ。
丁度、あのシ−ンの時に現れるんですもの・・・私、やっぱり、速水さんの事が好きみたい・・・。里美さんが言った通り、
どう隠しても・・・この気持ちからは逃れられない・・・」
涙を隠すように、笑う。
「さて、そろそろ戻って挨拶してこなくちゃ・・・変に思われるよね」
そう言い、立ち上がろうとした瞬間、急に通路の電気が切れ、真っ暗になる。
「きゃっ」
驚き、階段から転げ落ちそうになる。
「マヤっ!」
咄嗟に彼女の腕を掴み、抱き寄せる。
「えっ・・・今の声・・・」
抱きしめられ、聞き覚えのある声に反応する。
「・・・まさか、私を抱きしめているのは・・・里美さんじゃなくて、速水さんなの?」
マヤの言葉に真澄は何と言ったらいいかわからなかった。
言葉を告げず、ただ、暗闇の中でマヤを見つめる。
「どうして、答えてくれないの?お願い・・・教えて、速水さんなの?」
震えた声で懇願する。
「どうして、黙っているの?そんなに私の気持ちが迷惑ですか?あなたの事を愛してはいけませんか?」
涙交じりにマヤが口にする。
「マヤちゃん、大丈夫?」
電気が回復し、里美が慌てて、駆けつけると、マヤが一人、呆然と佇んでいた。
「えぇ・・・大丈夫よ」
泣きはらした目でマヤが里美に言う。
「何かあったの?」
心配そうに彼女を見つめる。
「・・・何もないわ」
速水さん・・・どうして、何も答えてくれなかったの?
それとも、あれはやっぱり、速水さんじゃなかったの?
稽古場に戻ると、もう真澄の姿はなかった。
つづく
【後書き】
何となく書いてしまいました(苦笑)
本当、何が書きたかったんでしょう・・・。しかも、長く続きそうな予感が(笑)
最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
2001.10.9.
Cat