「服が濡れちゃうと困るから、今日はお外であそべない」
ミルカはそう言った。
「関係ないじゃん。大丈夫だよ」
夏の僕らにとって、台風は最高の胸の高鳴りだった。
外に出て、全身で風と雷雨を浴びること以外考えられないはずだった。
「だって洗うの大変だから」
ミルカの意外な拒絶に、僕らは困惑した。
「そんなの、」
汚れた服は、2日もたてば自動的に綺麗になって戻ってくる。
それが僕らの常識だった。
ご飯はテーブルについたらもうそこにあるものなのだ。
今にして思えば、
「おばちゃんが洗ってくれるじゃん」
という一言を飲み込むことが出来た、
このとき、僕は初めて、
自分が大人に近づきつつあることを自覚したのかもしれない。
そしてそのとき、
「ありがとう」
ミルカはとっくにもう、大人だったのだ。