手近な物を思いきり投げ捨てて、裏拳でガラスを割って、一撃必殺のコンビネーションパンチでムカツクあの野郎をKOしたくなる。スイッチはとうに入ってる。残すは、あと一歩。もう数センチだけ身体が動けば、そこから発動だ。春風が一瞬でも吹いたなら、2秒後には俺は死神と化しているだろう。

けれど、そんな時でさえ、今壊れる事で後々自分や周りに与える影響を細かく計算し、親切にも報告までしてくれる自分がいたりする。彼はとても冷静で、いつも冷徹だ。アイツはロボットに違いない。感情的な俺の意味もやり場も無い不条理な怒りは、結局何にも被害を及ぼす事の無いまま、俺の中のロボットによって制される。そして呟くのだ。弱虫、と。自分を完全に捨て切る事の出来ない弱虫に、ロボットが話しかける。マンガでも読んだら？気がつくと笑ってる。さっきまで本気で死に触れようとしていた自分は一体何処へ。もしかして元々いなかったとか？まさか！あの時確かに俺は見た。壁に電撃パンチで穴を空けようとする怒り狂う寸前の俺の姿を。だが、俺はまたアイツも見た。穴を空けてしまった事で生じる私生活でのデメリットを事細かに計算し、「親に心配をかける・団欒が乱れる・友人関係の修復は困難・そもそも手が痛い」なんて書かれたビラを、発狂カウントダウン中の俺の目の前に突き付けるロボットのような俺の姿を。いいように操られている。飼われている。一体、誰に？俺？あれは本当に俺か？そもそも俺は一体何なんだ。

精神分裂は、一種の逃げらしい。責任転嫁みたいなものだと。そうか？どう考えても俺の中のアイツらは一人とは思えんのだが。ソトヅラが一人に見えるだけで、きっとあれ違う人間だぜ。でないと一人ボケツッコミじゃないか。それはあまりに孤独過ぎる。孤独過ぎる心が、新しい俺を創り出したのか。だとしたら元は一人？んじゃ逃げか、やっぱり。ダメじゃんか！

夜中に洗面台に向かう。こっそり、鏡にキムタクの顔写真を貼り付けておく。オヤスミ。ぐっすり眠れたか？さぁ顔を洗いに行け。…おぉ！？何時の間にか俺キムタクになってるぞ！？いや、まぁ分かってたけどさー。こう露骨に顔に出ちゃうとちょっと恥ずかしいよねー。なんて。自分の手鏡に彼氏のプリクラを挟んでる女子を見てて思ったりした。

何時でも何処でも正論を吐く奴がいる。どう言う思考回路をしてるんだろう。謎過ぎる。一体何処をどうひん曲げたらあそこまで正しい意見がしれっと出て来る口へと進化するのか。まるで世界が彼の発言の後に着いて周っているみたいだ。ドラえもんの新しい道具か？ちくしょう、俺にもわけやがれ。俺の口からはアドリブと言い訳と知ったかぶりしか出てこない。まるで芸人だ。ネタばかりの人生でもあるまいし。俺にサッカー部も顔負けの脚力があったなら、今すぐにでもあの左脳がぎっしり詰まっているであろう頭を蹴飛ばしてやるのに！くそう、現代社会を背負って立つであろう未来の新皮質人間め。あれがグローバルスタンダードだとすると、さしずめ俺は物の怪の類か。