「そこの!」 全てはこの一言からはじまった。 「やぁ、美しいお嬢さん」 男が話しかけると、指差された女は答えた。 「風の音が邪魔をしている」 男は凹んだ。しかし男は負けなかった。 「しかし貴方はなんと美シヤ」 女は自分の視野の狭さを指摘されたのだと痛感した。 「だって、私はこの村から出たことがなインダモの…」 男は自分の村の特産品である「インダモ(ヤマイモを皮を剥いた状態で3日寝かせ、その間に用意しておいたオオカナダモをすり潰してご飯にかけたもの。寝かせたヤマイモはきちんと分別して火曜日の朝8時までに決められた場所へ捨てなければならない)」を女が知っているのだと勘違いし、そして感動した。 「君には勇気という名の果てしない欲望ガアルんだ」 女は自分が「欲望ガール」と呼ばれ侮辱されていることに憤慨した。 「蹴るわよ!そんな失礼なこと言うと」 男の故郷では、女性が倒置法でしゃべることは求愛の印だった。 「結婚しよウジャないか」 女の頭脳では、「ウジャ」が毛虫をイメージしてしようがなかった。 「大好き…」 女は毛虫が大好きで 「俺もだよ」 男はすっかりその気になった。 10年後、村は吸収合併により「サンサンカッペーコロンブス市」という名前になった。 当初は市名改名の運動があったが、やがて人類は滅亡した。 氷河期を必死に耐え抜いた男と女は、インダモの再興のためにその生涯をDNA研究に捧げ、その2つの種芋に「アダモ」と「イモ」と名づけた。 感動したNHK職員はすぐさま「プロジェクトX」で放映し、平均視聴率が30%を超えた時点で 「そこの!」 独身貴族を名乗っていた平社員ツツミは首になった。 原因はツツミの寝坊癖だった。 ツツミは泣いたが、それでもやはり、今日も世界は回っている。 |