『イジメの実態を掴むためにな、何人かの先生や保護者に協力してもらって、死んだフリしてたんだ』
屋上でそう聞かされた。
『ホントなら、先生がもっとしっかりしてればこんな大事にはならなかったんだけど…ごめんな。まぁもう大丈夫だ。心配かけたかな。それともソースかけたかな』
「何それ、英雄気取りなの」
『その通り。知ってるか。ヒーローってな…』
くだらなくて無意味で屁理屈なうんちくが始まる。と思った。
『…その昔、今の先生みたいに突然復活して困ってた人を救った奴がいてな、そいつが何食わぬ顔で【ヘロー】って言いながら出てきたから、【Hero】って言うようになったんだそうだ』
「だから先生も真似して言ってみたの」
『あぁ。真似してやってみた』
「くだんないね。そもそも、【Hello】が【Hero】の語源なんて、聞いたことないよ」
『まぁ…先生による新説ってやつだな』
「先生は親切な奴だね」
『お前、上手い事言うようになったな』
ニヤニヤと笑う。こんな表情、擬音語でも使わないと形容できやしない。
先生は僕の両手を掴んだ。
僕は柱に身を寄せた。
拠るべき柱は、「賛成雨」で溶けてしまったはずだった。
『世の中、捨てたもんじゃないだろ』
「中身の方が美味しいんでしょ。皮が美味い食べ物なんてそうないよ」
『そうそう。だから世の【中】をジューシーにする方向で考えないとな…ってお前、ホントに上手い事言うようになったなぁ』
それは、ある教師の影響。
その事を伝えたら、僕の成績は「とてもよい」になるのだろうか。
よく分からない。よく分からなくなった。
温かくて、よく分からなくなって、安心した。
今はよく分からなくてもいいんだということは、分かった。
「…………」
『どうした』
「……ヘロー」
『…ヘロー』
「…ヘロー」
『ヘロー』
「…………」
『………』
「ヘロー!!」
『ヘロー!!!』
こだました!