「 あいつは、頭はいいけど人付き合いが本当に下手だ 」


山口県立 滝川西高校 2年
坂井 研治



やっぱり降ってきた雨に、走る。

面倒くさがって傘を持たずに出た自分を少し嫌う。

靴下まで濡れた。落書きだらけの上履きがひどく履き辛い。


朝一番、教室にあいつがいる。

廊下には、頭から雨粒を垂らした同級生たちの顔。

うちのクラスに、俺はいつも2番目に到着する。

「やっス」

あいつは俺をチラリと見て

「おはよう」

すぐに本に目を戻した。

3番目に到着する綾子が来るまで、俺は暇つぶしに話をしてやる。

「お前、オカルト好きやったっけ?」

読んでいたのが『カラスを使った呪い100選』だったから聞いてみた。

「割とね」

あいつの右隣の席の机―綾子の机―の上に腰掛ける。

「じゃぁ、俺が知っちょる呪い、今からかけちゃるよ」

あいつが本から目を離し、中指でメガネを持ち上げながら俺を見上げた。

「・・・何?」

俺は片目を閉じ、右手を拳銃の形にし

「ヴァン!」

発音に気をつけながら、銃を撃つそぶりを見せた。

「今お前に呪いをかけた。お前はあと19億8千6百万秒後に即死する」

「そっか。まぁ80歳まで生きられるんなら大方満足やね」

「・・・」

俺はあいつに拳銃を突きつけたまま

「お前」

かるく舌打ちしてみせた。

「本気で頭ええっちゃね」

冬休みかけて、せっかく考えついたのに。

「こういうのは、お前がよくよく悩んで」

「『やべぇ。あと何秒だ!?』とか思ってくれんと面白くないんよね」

俺は今、あまり面白くない。

なんとなく座る向きを変えた。雨は止んだみたいだ。

「いつ考えたん?今の」

本を閉じ、あいつは完全に俺の方に目を向けた。

「・・・小6んころ」

逆に俺の方が目を逸らす。

「へぇ。すごいやん。俺より全然頭ええよそれ」

・・・フォロー?今のは。

「参ったか」

「そのまま成長すればよかったのにね」

違ったらしい。


「ちょっと。人の机に座らんでぇや」

3番目に来た綾子が言う。

「あぁ、おはよ。悪い」

「おはよう」

「豊田君おはよ。・・・悪いと思うんならはよ降りてくれん?」

ワインレッド色のコートを椅子に引っ掛けながら、綾子が睨んでくる。

「どうせ座らんのやろ。はよ行けーや」

「感じ悪ー!」

白い歯を食いしばるようにしながら、椅子を強く戻す。

豊田が机の横から鞄を取り、おもむろに立ち上がった。

「坂井、今俺に言い負かされたばっかやから。行こう」

「はっ?」

瞬間、眉をひそめて豊田の顔を見る。

「言い負かされてねぇっつーの!」

笑いながら、叫ぶ。

豊田も、笑いながら。いつもの図書室へ行った。

綾子が追いかける。

「坂井君も勉強したら?そろそろ」

振り向いてそう言った。


聞きなれた高い機械音で目が覚める。

顔を上げると、教室にはもう10人前後のクラスメイトがいた。

「おはよ坂井。デコすげぇシワよお前」

タオルを敷いてうつぶせになった結果だ。

デコをさすり、苦笑いしながらメールを見る。

『豊田君、最近すごい楽しそうなんよ。多分坂井君のおかげ。ありがとね』

去年の夏期講習辺りから、2人は付き合いだしたらしい。

少し笑ってから、「返信」ボタンを押す。

『いや、それ多分綾子のおかげやけ。』

あいつとは中1からの付き合いだけど、この頃あいつはよく笑う。

『これからもよろしくやっちゃって。』


『あいつ、頭はええけど人付き合いがホントにヘタやから。』







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