【つかの間の未来】
「結」



2日後の朝。博士は、息子を一度抱きしめると、果実をもぎとり、処分した。突然の仕打ちに大泣きし出した息子の手を取って、2人でタイムマシンに乗り込む。これで【あの未来】へ戻ることができるのか。可能性は高くなかった。すでに一度失われた世界だ。すでにバラバラになって、時空のトンネルに置き去りにされたか、手の届くことのない次元へ投げ出された可能性も十分にある。
起動スイッチを押下する。片道分のエネルギーを積んで、タイムマシンは動き始めた。
すでに、未来を変える引き金は引いている。すべての果実をもいでから、丸1日果実を口にしなければ、もう生えてくることはない。あの戦いの中で実証されていた。ここにはもう、口にできる星の果実はない。彼らのいる【あの未来】は、失われた。では、代わりに現れるのは…

降り立った緑の中に、祖国の旗が見えた。その近くにある木のくぼみに、丸くなって横たわる人影が見えた。博士が駆け寄ると、すぐに目を覚ます。
「無事だったのね!」
「こっちの台詞だよ…」
息子を挟んで、しっかりと抱き合う。揺さぶられた拍子に、妻の身体でチリンと音が鳴った。
「何?」
博士が聞くと、
「熊避けの鈴。キーに着けてたものだけど、少しは役に立つかと思って」
「そりゃあ、効果は抜群だ」

その晩は、タイムマシンの充電のために、未来に泊まった。熊は、現れなかった。星型の果実も見当たらなかった。このあたりに撒かれた種は、息子の食べたあれが最初で最後だったのかもしれない。

夜、妻は、3日間ひとりで過ごしたと語った。博士は、息子が星を生やした瞬間から、未来は変わったのだと推測しており、日数が合致した。心の中で思ったり、頭の中に未来の知識を持ったりするだけでは、未来に影響を及ぼすことはない。具体的に行為として、それも決定的な行為でなければ、未来はそうそう変化しないのだろう。【あの未来】で過ごす中で得た仮説が証明されたようだった。
博士は、【あの未来】で、未来の動植物の栽培方法を研究し続けた。その知識が、今、頭の中にある。無事【この未来】に戻ってこれたときは、賭けに勝った気分だった。

博士は妻に言った。
「現代へ戻って、この果実たちを栽培しよう。土も一緒に持って帰れば、どうにか育てられると思う。実はこの3日間、研究していたんだ」
「すごいね!でも、移住の話は、いいの?」
そうだ。妻とは、未来へ移り住む話をしていた。少しずつ人々を連れてきて…救世主のような真似を…
「いや、果実の栽培が可能だと分かれば、現代で食糧を増やして、社会的な生活を取り戻す方が現実的だね。それに…」
博士は、2,3度深呼吸をして、笑顔で言った。
「その方が、未来を自分たちで切り開く、って感じがする」
妻が、眉をひそめながら笑った。
「どうしたの?らしくない、かっこつけ方が」
確かに、らしくないかもしれない。もっと、自信なく言うのが僕だ。
「友だちに影響されちゃったんだろうな」
博士が何気なく言うと、妻が敏感に反応する。
「友だち?研究を、友だちとやったの?」
「ああ、まあ、うん」
博士は照れ笑いをした。
「良かったね」
妻が、とても嬉しそうに言った。


おしまい

 




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