<Assassin―3―>





15

「飲むか・・・」
僚はそう言い、香にコ−ヒ−を渡した。
「いただきます」
受け取り、コ−ヒ−を口に含む。
苦い味が広がる。
香は苦そうに顔をしかめた。
「ブラックは苦手か?」
そんな彼女を見て、おかしそうに僚が言う。
「・・・苦いものは苦手みたい」
香は苦笑を浮べた。
「・・・私、アニキに言ってしまったんです。一生口にしてはいけない事を」
ポツリと彼女が話し出す。
その言葉に応えるように僚は優しい視線を送った。
「それで、雨の中にいた訳か」
「・・・はい」
「槙村には俺から言っとく・・・。あのまま別れたのでは、アイツの事だ。君の事を心配して
探し回っているだろうからな」
「すみません」
「いいさ。気にするな」
不思議と彼女と一緒にいると僚の心の中は落ち着いていた。

自分の手で命を奪わなければならない相手なのに・・・。

そんな矛盾が彼の心を苦しめる。
「・・・冴羽さんは何があったんですか?」
思いがけない言葉にハッとする。
「えっ」
「だって、何だか悲しそう・・・孤独の中で生きてきたような・・・そんな瞳をしている」
その言葉にドキっとする。
まるで全てを見透かすような瞳で僚を見つめる。
そして、その悲しさや辛さを癒すような優しい瞳・・・。
「・・・別に何もないさ」
視線を逸らし、コ−ヒ−を口にする。
その後は会話もなく、雨の音が部屋の中を包んでいた。




16

「僚、香を知らないか?」
焦燥しきった顔で槙村が現れる。
「今、おまえに連絡しようと思っていた所だ」
僚の言葉に槙村はハッとする。
「香に会ったのか!!」
凄い勢いで僚に詰め寄る。
「あぁ・・・。さっきまで俺の所にいたからな。下で会わなかったか?」
「・・・いや、会わなかった」
がっかりしたように肩を落とす。
「でも、どうして香がおまえの所に?」
「街を歩いていて偶然、雨の中をずぶ濡れになっている彼女に会ったんだよ」
「・・・そうか。世話になったな」
「おまえも彼女も普通じゃないみたいだが・・・何があったんだ?」
僚の鋭い質問に槙村は何て応えたらいいのかわからなかった。

「・・・香に言われたんだ。男として好きだって・・・それもずっと前から・・・」
槙村は辛そうにその言葉を口にした。
槙村の言葉にさっきの悲しそうな香の顔が重なる。
「・・・なるほどな。で。おまえはどうする?」
「・・・どうするって・・・香は・・・妹だ。例え血が繋がらなかろうと・・・。俺にとっての大切な家族だ。それに俺には・・・」
「冴子がいる・・・か・・・」
槙村の最後の言葉を制すように僚が口にする。
「あぁ。そうだ」
「・・・やっと認めたな。冴子が好きだって」
僚は温かい笑みを浮べた。
照れたように槙村は視線を逸らした。

「・・・それより、今日香の働き先に行ったら、妙な話を聞いたんだ」
「妙な話?」
悪い予感がする。
「実は国連軍が中東のある国に戦争の調停の為に介入しているんだが、国連軍をただちに撤退させないと
ある秘書官を殺すと脅しがあったらしい」
「へぇぇ・・・そうなのか・・・」
ポ−カ−フェイスを作り何事もなく相槌を打つ。
「・・・そのある秘書官って言うのが・・・香かもしれないんだ」
槙村の瞳が不安そうに僚を捕らえる。
僚はたまらず、視線を逸らし、窓の外を見つめた。
「・・・そうか」
「僚、おまえに香のガ−ドを頼みたい」
悪い予感が当たる。
その言葉に何も言わず、窓に移る不安しそうな槙村を見る。

さて、どうしたものか・・・。

「僚、頼む。おまえしかいないんだ。依頼料なら払う」
いつもは冷静な槙村が感情を露にする。

「・・・悪いがその依頼は引き受けられない」
ゆっくりと槙村の方を向き、口にする。
信じられないといった表情で僚を見つめる。
「・・・どうしてだ!」
声を荒げ、僚に詰め寄る。
「それは・・・俺が・・・」

俺が暗殺者だから・・・。

「今、やっかいな依頼を引き受けていてな・・・。それだけで、手いっぱいなんだ。
おまえが妹をガ−ドすればいい。おまえの腕なら大丈夫だ。俺が保障するよ」
気休めを口にする。

「・・・そうか。わかった」
長い沈黙の後に諦めたように槙村が言う。





17

「兄、帰ったんですね」
槙村が去ると、香が僚の前に現れる。
「あぁ。たった今な・・・」
ソファ−に座り、ぼんやりとテレビを眺める。
「私の事黙っていてくれて、ありがとうございます」
「・・・明日からは嫌でも槙村と顔を合わせる事になるぞ。君が狙われている事を知ってしまったんだからな」
僚の言葉に不安そうな瞳を浮かべる。
「・・・そうですか・・・兄に知られてしまったんですか・・・」
「一つ、聞いていいか?どうして君が狙われる事になったんだ?」
「私が事務総長の信頼を受けている事と、ある国で私は事務総長の右腕として、戦争の調停を進めていたんです。
そして、それが後一歩で実現します。今、私が死ねば調停も白紙に戻ります」
そう語る香の瞳には悲しみが溢れていた。
「・・・なるほどな・・・」
「・・・今回、私たちが日本を訪れたのは日本にも協力してもらおうと思ったからです。5日後に日本政府との調印があります。
それまで、私は生きなければならない・・・。日本という後ろ盾ができれば彼らもそう簡単には手出しはできないはずですから・・・」
その瞳に宿る強い意志に引き込まれる。
彼女がどれほどの情熱を持ってその仕事をしてきたかを感じる。
「今日は疲れただろ・・・。部屋なら空いているから、好きな所で眠るといい」
彼女の命を奪う自分に強い罪悪感を覚える。
こんな思いをするなら聞かなければよかった・・・。
感情を殺して、仕事に徹するのが一番いい事はわかっている事なのに・・・。




18

午前3時。
サイレンサ−付の銃を手にして、彼女の部屋に入る。
部屋は暗く、香は深い眠りの中に入っていた。

今なら殺せる・・・。
彼女の瞳を見ずにすむ今なら・・・。

ベットの上に銃を向ける。
部屋中の空気が僚の出現とともに張り詰めたものへと変わり出す。
瞳を閉じ、感情を切り離す。
僚の瞳が殺し屋のものへと変わる。

そして・・・。

バン!

小さな音ともに、硝煙の香が部屋中に広がる。

「・・・プロとして失格だな」
壁にあいた小さな穴を見つめ呟く。
月明かりに照らされた彼女の穏やかそうな寝顔に触れる。
心の中がざわめき出す。
今まで感じた事のない気持ちが溢れ出す。

「・・・俺は一体・・・どうしたというんだ・・・」
自分の中の迷いを口にし、僚は彼女の部屋を出た。






19

「条件がある」
海原をいつもの公園に呼び出し、口を開く。
「条件?」
「あぁ。女をやったら、俺はこの仕事から手をひく」
「つまり、引退するという事か?」
「そうだ。引退する」
有無を言わせぬように鋭く海原を睨む。

「・・・いいだろう。おまえの引退を認めよう・・・。但し、女をやれたらだぞ」
海原の言葉に頷き、僚はベンチから立ち上がった。





20

「香、心配したぞ」
彼女のオフィスに現れた槙村が口にする。
「・・・アニキ」
「今日からおまえをガ−ドする事になった。おまえの上司にも話は通してある」
「・・・そう。わかったわ」
香は妹の表情から、国連職員としての表情を浮べる。
「宜しく、お願いします」
槙村に手を差し出す。
「あぁ。必ず、俺がおまえを守る」
香の手を強く握ると、強い決意を口にした。
香の知らない槙村の鋭い表情に胸がざわめていた。





21

「・・・槙村、こうしておまえと向き合うとはな」
スコ−プ越しに槙村を捕らえる。
「おまえとなら、楽しいゲ−ムになりそうだ」
そう呟き、トリガ−を弾く。

バンっ!!
銃声が響き渡る。


「香!!」
槙村はハッとし、彼女を押し倒す。
銃弾は僅かに槙村の肩を掠めた。

「アニキ・・・」
「伏せてろ!」
香にそう言うと銃を取り出し、槙村は銃弾が放たれた先を見つめる。
そして・・・。

バンッ!!

威嚇するように銃を撃つ・・・。


「・・・いい腕だぜ・・・槙村」
槙村の放った銃弾は僚の頬を微かに掠めた。
「・・・次のゲ−ムが楽しみだ」
口の端を僅かに上げ、僚はその場を後にした。






                            <assassin−4−>


















本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース