〔前書き〕
このお話は「ガラスの仮面」320話321話をCatが都合良くパロディしたものです。
話の流れとしてはマヤへの想いを持て余す真澄に聖が彼の為にマヤと紫の薔薇の人として真澄を会わせるセッティングをします。
本編では途中で邪魔が入ってしまいますが・・・ふふふ。Cat版は・・・(ニヤリ)
ホテルマリーン―1―
その日、マヤは聖に連れられてホテルマリーンへと向かっていた。 思いがけぬ事に、彼女は紫の薔薇の人と会う事になった。 胸がドキドキと時めき、彼女の小さな体はもう張り裂けてしまいそうだった。 「・・・緊張していますか?」 運転席の聖が気遣うように話しかける。 「・・えっ・・はい」 体をビクっとさせ、彼女が告げる。 「・・・ふふふ。そんなに緊張しないで。誰もあなたをとって食べたりなんてしませんよ」 彼女を安心させるように穏やかな笑みを浮かべる。 「・・・きっと、上手くいきます。大丈夫」 聖はそう呟き、数日前に会った速水との会話を思い出した。 「あの方なら大丈夫です。紫の薔薇の人の正体があなたとわかっても、きっとその感謝は変わらないでしょう」 聖は彼を説得するように口を開いた。 「それから?それからどうなる?今までずっと気持ちを抑えてきたんだ。これ以上自分を抑えきれるか自信がない・・・!」 そう口にした彼は普段とは全く違い、まるで初めて恋を知ったような戸惑いを浮かべていた。 どれだけ、彼女の事を好きなのか、愛しているのか、彼の瞳を見ればわかる。 「おさえなければいいではありませんか」 聖の一言に彼は大きく瞳を見開いた。 「聖!!」 冷静沈着な彼が頬を赤め、まるで少年のような顔をする。 「素直にご自分の気持ちを話せばいいではありませんか。あなたの誠意ある愛が伝わらないわけはありません。 年の差など大した障害ではありませんよ。大丈夫、きっと上手くいきますよ」 そう、きっと上手く行く・・・。 聖は強く願った。 速水は朝から何も考えられなかった。思う事は唯一つ。 彼女に会ったら、何を言うべきか・・・。それだけだった。 胸が熱い。鼓動がいつもの倍の速さで打つ。 手には聖から受け取った鍵がしっかりと握られていた。 『301号室3階南角の海の見えるきれいな部屋です。あの方にもきっと気に入っていただけるでしょう。必要とあればお使い下さい。 長い一日となることでしょう。あなたにとっても、あの方にとっても』 聖の言葉が脳裏に過ぎる。 そう確かに、今日は長い一日になりそうだ。 速水は車中の窓から海を見つめた。 彼女の・・・マヤの、驚いた顔が浮かぶ。 思えば、初めて彼女に紫の薔薇を贈った時から、こんな日が来る事なんて想像もしなかった。 そして、自分がこれ程強く彼女に恋をする事も・・・。 「・・・あいつ、一体どんな顔をするんだろうな」 ホテルマリーンまでは後、30分程の道のりだった。 マヤは聖とともに、ホテルマリーン白百合の間に来ていた。 時計は4時5分前を指している。 秒針が進む毎に鼓動の音が大きくなる。 膝の上で握られている彼女の小さな手は震えていた。 そして・・・。 4時丁度、扉が開いた。 「よく、いらっしゃいました」 聖が彼に駆け寄り、話かける。 マヤの座っている位置からは彼の姿はまだ見えなかった。 「あぁ」 低いバリントンの声が聞こえる。 間違いなく・・・彼だ!!! 「さぁ、こちらへ。あなたをお待ちになっていますよ」 聖に案内され、彼はゆっくりとマヤが座るソファの方へと歩いた。 マヤは座ったまま、靴音を聞いていた。胸がドクドクと鼓動を打つ。顔中から火が出るように熱い。 彼の靴音が、彼女の真後ろで止まる。 背中に人の気配を感じる。 振り向けば、すぐそこにあの人がいる。恋焦がれた彼の姿が・・・。 「マヤさん、この方が紫の薔薇の人です」 聖の言葉に心臓が止まりそうになる。 体中が震え、金縛りにかかったように、すぐ後ろの彼を振り向く事ができない。 「・・・マヤさん?」 何の反応もしめさず、黙ったまま座る彼女に聖は不思議そうに声をかける。 速水には彼女が酷く緊張しているのがわかった。 「聖、彼女と二人だけにしてくれないか」 彼がそっと聖に耳打ちする。 「・・・かしこまりました。では、失礼します」 聖は彼に一礼をすると、部屋を後にした。 再びドアが閉まる音がし、聖が部屋を出たのが、背を向けたままのマヤにもわかった。 そして、二人きりの部屋には沈黙が広がる。 彼はゆっくりと彼女の後ろを歩き、窓の外を見つめた。 ここからでも海を見る事ができる。 窓ガラスには彼に背中を向けたままの彼女の姿が映っていた。 彼女に会ったのはつい先日だった。 東京湾でのクルージングを思い出す。 まだそんな日にちが経っている訳ではなかったのに、もう随分長い間彼女に会っていない気がした。 こんなにも心が彼女を恋しがっているなんて・・・。 どんなに自分がこの小さな少女を愛しているか、今更ながら彼は実感させられた。 「初めて私があなたの舞台を見たのは若草物語のベスでした」 思い切って彼女に話しかける。その瞬間、彼女の背中は小さく震えた。 「とても可憐だった。あなたは40度も熱を上げたのに、見事にベスを演じきった」 彼の言葉に彼女は静かに耳を傾けていた。 「私はすっかりあなたのファンになっていた。それから、あなたの舞台は見られるものは全て見た。"たけくらべ""ジーナと5つの青いつぼ""嵐が丘" "奇跡の人""真夏の夜の夢""ふたりの王女""忘れられた荒野"あなたはどの舞台でも輝いていた」 彼女の瞳に涙が浮かぶ。今までずっと彼が紫の薔薇の人だとは知らず、事あるごとに噛み付いていた。 厳しい言葉の下にある彼の優しさに気づかなかった。 「・・・だから、私はあなたに薔薇を贈り続けた」 肩に彼の温もりを感じる。大きな手が彼女の肩に触れていた。 「・・・しかし、私の正体を知ったら、あなたはきっと、私を許さないでしょう。だから、できる事ならこのまま振り向かないで下さい。 私の顔を見ないで欲しい・・・」 彼女の肩にそっと触れていた彼の手が離れる。それはまるで別れを意味してるいように。 もう二度と会う事はないと言っているように。 「今日はあなたとお会いする事ができて、心の整理をつける事ができました。ありがとう」 彼はそう告げ、彼女に背を向けると、ドアに向かって歩き始めた。 ここで、振り向かなければ、ここで言わなければ・・・彼は行ってしまう。 そんな思いが彼女の心に溢れる。 「・・・待って・・・待って下さい!!」 遠さがる靴音を聞きながら、彼女は思い切って口を開き、ソファから立ち上がった。 ドアの方を向くと、よく知る長身の大きな背中が視界に入る。 「・・・待って下さい。速水さん!!」 涙に濡れる声で、声をかける。 彼は驚いたように立ち止まった。 「私、あなたの事をもう、恨んでなんかいません。それどころか感謝しています。あなたはいつだって私を見ていてくれた。 私を支えてくれた。・・・だから、行かないで下さい!」 思わぬ彼女の言葉に彼は瞳を大きく見開いた。 「・・・マヤ・・・」 振り向き、紫の薔薇の人として初めて対面する。 大きな瞳から大粒の涙を流す彼女がいた。 頭で考えるよりも、体が勝手に動き、次の瞬間、速水は彼女を抱きしめた。 「・・・速水さん・・・速水さん・・・速水さん・・・」 彼の腕の中で彼女は泣きじゃくっていた。 そんな彼女の姿に愛しさが募る。 あぁ。ずっと、ずっと、この瞬間を俺は待っていたのかもしれない。 彼女をこうして抱きしめる事を・・・。 「・・・わかった。もう、何も言うな。わかったから」 頬に流れる彼女の涙を拭う。 「俺はどこにも行かない。ここにいるから。君の傍にいるから・・・」 速水は彼女を安心させるように耳元でそう囁いていた。 つづく |
【後書き】
ホテルマリーンについていろいろとパロディは書かれているので、他の作品と被っていそうですが・・・、まぁ、Catなりに書いてみました(笑)
未刊部分を久しぶりに読んだら、やっぱりこの場面が一番フラストレーションが溜まるんですよねぇぇぇ(笑)
という訳で、欲求不満解消のために余計なものは都合よく排除し、書いてみました(笑)この後も、もう少し書いてみるつもりです。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました♪
2002.6.1.
Cat