「エンゲージ:パラドックス」



「えー、好きな季節は初夏、食べ物はキュウリの叩き、動物はカラスアゲハ…」
それは結婚式で新郎が言うセリフじゃないわ
そう思ったけれど、口には出さなかった
彼がこんなにも真剣に考えているのをわざわざ邪魔することもない
…と思っていたら、彼の方がこちらを向いてきた

「そうか、これは違うのか…」
どうも私の目が語っていたらしい
目は口ほどにとはよく言ったものだ
「でも、君の特別相対性理論も、新婦のセリフとは思えないな」
驚いた
まさかこの目がそこまで語ってしまっていたとは…
そうか、やっぱり特別相対性理論は一般大衆向けではないか
彼にそう言われたらしょうがない
私も一緒になって悩むことにした

フラクタルとユピテル、どちらについて語ろうかと悩んでいたら、彼がこう言った
「僕は、エジソンがまだアルパと呼ばれていた頃のエピソードを幾つか語ったらいいんじゃないかと思うんだ」
そうか
エジソンがまだアルパと呼ばれていた頃のエピソードなら
ネタとしてもいいし、数もある
「友人に炭酸ガスを飲ませて空に浮かばせようとした、あれね?」
「いや、炎見たさに自分の家の納屋を燃やしてしまった、それでもいいんじゃないかな」
私たちの白熱したトマス=アルパ=エジソン議論は平行線を辿り、気がつけば当日を迎えていた

結局、彼は自分が中学卒業の際に書いた自分のプロフィールを音読し、私はアインシュタインロマンを、私の青春時代(彼との出会い)とかけて3時間の講義をした

とても幸せだったけれど、バイト先の店長が来た時にはさすがに冷や汗をかいた
教会に駆け込んでくるなり
「毎日僕に赤だしのみそ汁を作ってくれ!」
と叫んだのだ
何故か、彼に…
素直に頷いて、ついて行く彼も彼だけれど

そんなこんなで、私一人だけになった結婚式は、私が着物を着てバージンロードを歩いた事が原因となり、特定住宅区域間での宗教戦争を巻き起こす派目になってしまった
私は別にキリストが箸を上手く使えなくても恥じる事ではないと思うし、まして仏陀が十字架にかけられるのなんて見たくもない(だって天パだし)ので、とりあえず放っておいて、彼を探す旅に出ることにした

届いた絵葉書によると、彼は今、青森空港に着いた所らしい
青りんごがどうしても緑色に見えてしまう事に対し抗議に行くつもりらしい
そんなの無駄よ、と愚痴っていたら、強い風が吹き、葉書が宙を舞った
私の華奢な左手から放たれた葉書はとても優雅に踊っていたが、
私の華奢な右手になんなく捕らえられてしまった
見てなさい
あなたもきっとこういう風に、私に捕われてしまうのよ
そんなことを思いつつ決意に満ちた目で青森行きのタクシーを捜していたら、横断歩道の向こうに、彼が、いた

「君の華奢な右手に捕らえられるのが怖かったから、こうして舞い戻ってきたよ」
しまった、またこの目が物言ってしまったか
「でも、ホワイトホールの存在によってツングースカミステリーを解明したとしても、青森行きのタクシーは捕まらないと思うよ」
驚いた
まさかこの目がそこまで語ってしまっていたとは…
信号が青と称した緑になると、これが本当に堕落社会日本か、と疑念晴らせないくらいに、車が規律正しく停止した
私は彼に駆け寄った
彼は私に向かい、両手を広げた
私は涙目になりながらも、搾り出すようにこう言った


「あのコンビニの店長、にぼしのしぼりカスが大嫌いだったでしょ」
「ああ、君は何でもお見通しなんだな」




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