【洗面所】
いつからだろう、なんだか石鹸の減りが早い。
気づかない内に潔癖症になったんだろうか。
原因究明よりも、まず先に買い足しに行かなければならない。
【食品館】
アパートの階段を降り、道路を渡ると辿り着ける食品館。
大学近隣では最大のスーパーだけあって、今日も盛況だ。
入り口のたこ焼き屋を横目に店内へ。
石鹸は白いのを買う。
薬局で買うか、目の前の陳列棚から取るか。
薬局にはバイト中の知人がいる。ゼミが一緒で、友人未満。
棚から二つほど取ると、そのままレジへ持っていった。
【駐輪場】
道路をまたいで階段を目指す。
後ろから自転車の迫る音。俺の傍を横切ったのは、向かいの友人。
「おっつかれい」「うぃっす」
演劇サークル所属の和馬は、サークル活動で俺と同じくらい忙しい日々を送っている。
「また飯食いに行こうや」「オーケーオーケー」
2人とも苦笑い。もう社交辞令に近くなっている会話。
向かいに住んでて学科も学年も同じなのに、飯を食いに行ったのは一度だけだ。
【洗面所】
石鹸の袋を開ける。
小さくなってしまった前のやつを合体させて使う。
新しい石鹸のゴツゴツした感じはわりと好きだ。
こいつもいずれ角がとれ丸くなり、
ケース底の水切りの跡がついて、段々小さくなって、
やがて来る新入りに吸収され溶けてなくなるのだろう。
それは、大志を抱く新任教師が挫折し落ちぶれていく様に似ている。
多分6割くらいは似ている。
考え事ばかりしているから、減りが早いのかもしれない。
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