WORLD_6


【柿】


知人からもらった柿が熟れてきた。
これは、誰に育てられた柿だろうか。


柿の木と、梨の木と、みかんの木を、みんなで育てることになった。
僕は柿を育てることにした。

一緒に柿を育てる人も、他の木を育てる人も、考え方は様々で、
自分の木だけに心血を注ぐ人もいれば、
他の木のことも心配する人もいるし、
あるいはこっそりさぼって街へ出かける人もいた。

僕は、柿も梨もみかんも好きだったので、全部について良い育て方を考えた。
けれどやがて、梨が一番性に合う気がしてきて、
梨のことばかりに目を向けがちになってしまった。
他の人から苦言を呈されることもあった。

僕自身、柿ももっとちゃんと育てないと、とは思っていた。
それでもつい梨に手がいって、育てる人に成り代わり育てた。
自分が一番梨に向いていると思っていた。

他の人の中にも、僕のように他の木に浮気する人はいた。
けれど、そういった人たちは、
そうは言っても自分の木をしっかり育てているように見えた。
僕だけは、宿り木そのものを代えてしまった気がした。

そうして、梨ができ、柿ができていく。
みかんはまだもう少し。

収穫された梨はとても良質だった。
ふと、梨を育てていた顔ぶれを見渡して気づくのは、
僕の他にも、ずいぶん梨に熱心な人は多くいたんだな、ということ。
もしかしたら、梨にとって、必ずしも僕は必要でなかったのかもしれない。
そう思うと、少し寂しくなった。

みかんは、柿の人も梨の人も目をかけて、大事に育てられているようだ。
決して良い土壌だとは言えないけれど、
これから美味しい黄色が実るように思えた。
みかんに深く関われなかったことは、残念ではあった。

柿は。
苦しい状態にあった。
元々育て方に詳しい人が少なく、僕も含め人数が減ってしまっていたので、
周囲の助けを受けながら、少しでも多くの実を成そうと努力していた。

もちろん、僕がそれを知ったのは最近のことではない。
どの木の様子もちゃんと見ていたから、徐々にそうなりつつあるのは気づいていた。
けれど、手を出さないでいた。

いずれ、その内、きっと、僕が、
柿を立派に育ててやるんだ、と、思っては、いた。

しかし実際には、いまさら柿を、という空気を僕自身が作り上げてしまっていた。

柿は、他の人の手を借りながら育っていった。
僕の考える育て方とは違う手法になっていっても、
もはや僕には、あまりに柿から離れすぎて、
あまりに他の柿を育てる人から離れすぎて、
どの手法が正しいのかわからなくなっていた。
だから余計に、何も言えなくなってしまった。
他の人が僕に求めているものも、大してないように思えてきた。


僕は梨を立派に育てた。
けれど、もしかしたら僕がいなくても立派に育った。

僕はみかんにはあまり関わらなかった。
けれど、もしかしたらもっと関わっていたらより良いものになった。

僕は柿から遠ざかった。
けれど、もしかしたら今より良いものを。
むしろ、今からだって、まだこれから。

待って。僕は柿から遠ざかった。けれど、
そもそも僕は必要とされていたか?

今の育て方で立派なものができるのであれば?

僕が追求した育て方をしていれば?

柿の望んでいたものは?


僕は梨を一生懸命に育てた。
本当に、一生懸命に。

だからこそ、柿が、
美味しくても、不味くても、
きっと後悔する。


後悔の実は、何をどれだけ一生懸命がんばっても、不思議と必ず立派に実る。
そうであるなら、どうせなら、質の高い後悔を収穫したい。
自分なりの一生懸命がもたらした結果を、噛み締めて、また種を植える。

知人からもらった柿を見て、そんなことを思う。




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