「何だ、これ…」
早朝、雨の音に目を覚ました弟は、机の上に置きっぱなしになっている原稿を覗き、そして自分の目を疑った。
…誰かが、原稿の続きを書き加えている。それもかなりの量だ。兄だろうか?いや違う、と弟は否定する。昨日兄はかなり酔っていて、あの後、すぐに倒れてしまった。寝ぼけて起きたとしても、わざわざこっちの部屋に入りまでして、文章を書くようなマネはしないだろう。そもそも兄は自分では文章を書かない。これまで作ってきた絵本の全ては、兄の原案を元に自分が書き上げた物だ。昨日少し怒鳴ったからと言って、急に自分が書き出すなどと言うようには、とても思えない。
弟は、あらためて原稿を見つめた。字体も、普段見る兄の字とはまるで違っている。間違いない、これを書いたのは兄ではない。だとすれば、誰が…?
「…僕、なのか…?」
いくら悩んだとしても、行き着く答えは一つしかない。深夜に町外れの一軒家に忍び込み、原稿にいたずらをして帰っていく盗っ人などいるはずがない。自分が無意識の内に書いていたとしか考えられないのだ。思えば、昨日、自分が勝手に付け加えた部分を消し忘れた辺りから、自分への違和感が、確かなものになってきている。そしてその後に見た、あの夢。…さらに、この文章。




―――――


アカと呼ばれるネズミは、新しい物語を書き始めました。
それは、人間の兄弟絵本作家のお話でした。


―――――


まだ雲の晴れない夕方、クロはお気に入りの湖畔で夕飯を取り終わり、寝床へと帰る途中だった。
「…ん?ありゃぁ…」
ふと、足を止める。視線の先には、アカがいた。いつもならとっくに帰っている時間なのに、どうやらまだ机に貼り付いているようだ。やれやれ、クロは少しため息をついた。放っておこうかとも思ったが、もしかしたら、物語が完成したのかもしれない、そう考えるといてもたってもおられず、次の瞬間には、クロは思わず声をかけていた。
「やぁ、アカ。まだブンゲイカツドウかい?よくくたびれないねぇ」
「やぁ、クロ。これから、これからだよ。僕の挑戦は」
今度はすぐに返事をしてくれたけど、やっぱり意味がわからないなぁ。それに、結局まだ話は出来ていないみたいだ。そう思うと、途端につまらなくなったクロは、さっさと帰って寝る事にした。アカは、帰っていくクロを少しだけ見て、また作業を再開した。今は物語を書く事が、楽しくてたまらなかった。確かに今までも楽しんで書いてはきたが、今回のそれとはまるで比較にならない。何故なら、今こうしてこの物語を書いていると言う事実そのものが、これまでずっと自分が追い求め続けていた答えであるかのような気がするからだ。

生きている証。
自分が特別である理由。


「この世界を、『本物』に、する」

全ては、この時の為だったんだ。アカはまた少し、笑った。


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