ガタン!と言う大きな物音がして、兄は目を覚ました。何事かと食卓に行ってみると、弟が、うつ伏せになって倒れていた。兄は急いで弟に駆け寄り、あお向けにして、声をかけた。
「お、おい、大丈夫か!?一体どうした!!」
「ん…うぅ…」
大丈夫、意識はあるみたいだ。兄はほっとして、いったん自分の身体を起こした。すると、テーブルの上に数枚の見なれない原稿が置いてある事に気がついた。
「ん?これは…まさかお前、夜通し書いてたのか?ったく、無理もほどほどに…」
そこで兄はふと、口を止めた。そう言えば、昨日は弟が何か文章を付け加えていた事に怒っただけで、次の展開の説明はしていない。だとすれば、この原稿は全て、弟の創作と言う事になる。兄は眉をひそめながら原稿を手に取り、険しい表情のまま、読み始めた。
「ん…ダメだ…やめて!」
突如弟が叫び、勢いよく起き上がると、原稿を兄の手から奪った。
「…お前。最近どうしたんだ?そりゃ一体、何なんだ?え?見せてみろ!」
「嫌だ!もう嫌だ!僕は、兄さんの筆のまま、一生を終える気はない!!」
キョトンとする兄。しかしすぐに厳しさを取り戻し、答える。
「今の今まで、お前を道具の様に扱ってきた覚えはない!自惚れかもしれないが、俺には創作力があると思っている。そして、お前に文才があるとも思ってる。本心からな。だとすれば、親のいない俺達が、二人で生活費を稼ぐのに、これほど効率がいい仕事はないだろう!?上手い具合に人気も出てきた。やっと、少しは贅沢が出来そうな、まとまった金が手に入るようになった。俺はな、今回の作品を仕上げたら、お前には好きな事をさせてやろうと思っていたんだ。俺もまた、創作以外の色々な仕事に手を出してみようと考えてた。もう大人なんだし、帰る場所さえありゃ、あとは各々好きに行動してもいい頃だ。だから、俺は…」
「うるさい!ワイン片手に人の頭を殴る人間の言う事なんて、誰が信じられるか!」
「それは悪かった!確かに、お前の文章表現は卓越してる。だからこそ、長い事お前に頼んできたんだ。でもな、お前、想像力の方はどうだ?お前はな、昔から一人で想像していると、極端な方向に突っ走る傾向があるんだよ。文章以外でも、普段の生活の中でもな。あまりに現実的だったり、かと思えば夢見がちだったり。とにかく不安定なんだ。それが、俺の一番の心配事でもあった。お前の素直な文章を、気に入る人間もいるだろう。だけどな、どうしても、一般向けじゃぁないんだ。生活が楽になるまで、お前の面倒を見る上でも、お前に好きに妄想させておくわけにはいかなかったんだよ」
「うるさい!うるさいうるさいうるさい!僕は、僕は世界を救うんだ!!」
「は?…お前、また何かおかしな物見たな!貸せ、その原稿を!」
「邪魔だ!邪魔なんだ!今までも、これからも!ずっと、ずっとずっと、ずっと!!」
「やめろ、お前、落ちつけ!や、やめろ!!」


―――――



アカは、自分の絵本に、こう書いていた。


「ある朝、人間の弟は、自分たちの原稿にいたずら書きがされているのを見つけます。それは、実は弟が寝ぼけて書いたものでした。しかし、弟がそれを消してしまおうとする様子はありません。なぜなら、いつもお兄さんが酔っ払って教えてくる、お話の先よりも、こっちの方が、面白くなりそうな気がしたからです。だから、お兄さんを説得してでも、このまま書き続けたいと感じたのでした。つまりは、今こそ自分の才能をお兄さんに見せつけるチャンスだ、そう思ったのです。

でも、きっとお兄さんは認めてくれません。お兄さんなんて大嫌いです。邪魔です。それに引き換え、弟は才能に満ち溢れています。このまま、お兄さんの筆として、一生涯過ごしていく訳にはいきません。だって、世界を救わなきゃならないんだもの!
仕方ないので、弟は、お兄さんを殺してしまいました」



―――――


銀色のフォークが胸に刺さり、兄は動くのを止めた。面倒臭そうに膝をつくと、そのまま倒れてしまった。弟は、両目と口が開かれたままの兄の頭を蹴飛ばし、背中にも、フォークを突き刺した。そして、滴り落ちる血を気にも止めず、重たい兄の身体を原稿と一緒に抱きかかえると、自分の部屋へと戻った。

「…まぁここまでは、君の書いた通りになったかもしれない。でも、これからはそうはいかない。さしずめ、君にはクロとか言うネズミに食われてもらおうと思うんだけど、どうかな?」

不敵な笑みを浮かべると、弟はペンを取った。


―――――



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