アカは、今日も熱心に文章を書き続ける。
最近、クロは寄って来ない。アカがもう物語を読んでくれない事を知っているからだ。
「これから、これからだ…。僕は勝ってみせる。彼が想像する、あらゆる事象を予測して、向こうよりも先に文章化するんだ。きっと、僕が今こうして彼を想像している事も、彼は想像しているだろう。だけど、僕はさらにその上を行く。何もかもを予測するんだ。彼を、人間の世界を、永遠に、ネズミの世界にある、一冊の絵本の中に閉じこめる。僕たちが、『本物』になるんだ」

背後で物音がしたかと思うと、突然、アカの首筋に何者かが噛み付いて来た。…クロだ。
「…ふん、こんな事、とっくに予測してたよ…」
アカは、いつのまにか原稿に書き加えられていた、今まさに自分が陥っている状況を表した挿絵を睨みつけると、最後の力を振り絞り、文章を訂正した。
「…『ここ』の僕は、君の絵本の登場人物だったかもしれない。だけど、それでも…世界を作るのは、僕なんだ」


―――――



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